隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい

四乃森ゆいな

文字の大きさ
上 下
64 / 87
第七部

第62話「幼馴染は、僕とデートの約束をするらしい」

しおりを挟む
『きっと怖かったんだろうな。彼氏が受け入れてくれるのか。幼馴染以上に、自分のことを見てくれるのかが。──まるで、一之瀬みたいにな』

「…………………………」

 受け止められる意思が、あのときの僕には無くて……だから、僕は断った。

 だけどそれ以上に──あいつは、僕以上の負荷を追う覚悟を持って、僕に告白したのだと。

 ……酷い幼馴染だったよな。ごめん……今更謝ったって、何の足しにもならないけど。
 臆病で、ひ弱で。……あのとき、渚の言葉を押し切って「待ってほしい」と言えていたらと、後悔の渦が巻いている。

『どうだ? このヒロインと一之瀬、似てるだろ?』

「どういう主観だよ、それ……」

『簡単なことだ。今のお前の立場、それは、告白しようかしまいか悩みに悩んでいるヒロインにそっくりだ。そして同時に、勇気を出した一之瀬と瓜二つ。お前は、途中から脱線したヒロイン。いわゆる──サブヒロイン、ってとこだな』

「……………………」

 こいつが言いたいことはよくわかっている。
 あのときの渚と同等の気持ちはあっても、後1歩が踏み出せない。またあの頃に戻るかもしれないと……そうやって、からに籠もるサブポジだ。

『……晴。もう1回だけ訊く。──お前は、どうしたいんだ?』

「どうって……それは──」

『──断ったことが返事、なぁーんて。そんな、つい数分前までだったら言いそうだった言葉を今言う気じゃないだろうな?』

「……それは」

『それがお前の本心じゃねぇってことは、オレが十二分じゅうにぶんにわかってんだよ!』

 言い返す言葉も、反論出来るような言葉もなくて……、まさに図星を突かれた者のように、口から出まかせどころかありふれた言葉すら浮かばない。

 僕は思わず言葉を呑み込んだ。
 言い訳はしなくていい。そうやって、電話越しに背中を押されているような気分だった。

 ……本当にこいつは、渚の次に厄介な奴だ。初めて委員会で一緒になってから、全然印象が定まらなくて、困惑していた僕に──こいつは、自分から声をかけてくれた。

 嬉しいような、そうでもないような不思議な縁だ。
 けれど今は──そんな縁に、感謝したい気持ちでいっぱいだ。

「……わかってたんだ。わかってたんだ、本心じゃ……。あいつのことが好きなんだって、幼馴染以上に見てたんだってことぐらい。……あいつが堪らなく好きなんだ。あいつしか……多分この先、好きにならないと思う。──でも……」

 1歩を踏み出す恐怖。

 釣り合わない人間がどんな仕打ちを受けるのか……痛いほど知っている。
 それを知っている僕達だから──中々先には進めなくて、いつも手前で停車している。

 すると通話の向こう側から、ため息を吐く声が聞こえた。

『でもじゃねぇ。……お前らに、何があったかは知らないし無理には訊かねぇ。けど、これだけはよく覚えとけ。この世に、特定の誰かと釣り合う人間なんて星の数もいねぇんだよ。誰かしら、必ず欠けてる部分がある。それを受け入れる覚悟があるか無いか。──それだけなんだよ!』

「……っ、…………珍しく、カッコいいこと言うのな」

『おいこら! 珍しいは余計だろ!』

「それと……ありがとな」

 僕はまるで独り言のようにそう呟いた。

 誰にも聞こえない小さな声。だがそんな一言も、僕と同じようにスマホを耳元に当てているであろう透には……どんなに小さな声であろうとはっきりと聞こえる。
 数秒間、ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てていた向こう側からは、無言だけが返ってくる。

 しかしその後、ふっと小さく息を吐く声が聞こえた。

『……お前こそ、珍しいこと言うじゃねぇか』

「お互い様だな」

 そう言うと、僕は耳元からスマホを離し通話終了のボタンを押す。通話時間は約に20分間。更に、通話を終えようとするタイミングで『頑張れよ!』と、応援する声が届いた。

 ──本当、こっちの行動が筒抜けになっているんじゃないかと心配になるようなタイミングだ。

 あいつ……実は未来人なんじゃないか? と、そんな在り得ない非科学的なことまで妄想してしまうほど、あいつの鋭さは凄まじい。まぁそれは、恋愛ごとに関することだけだろうけど。

 僕はスマホを操作し、再び電話帳を開く。
 そしてそのまま、見慣れた番号に電話を掛けた。何コールか鳴り、その主は出た。

『……も、もしもし?』

「何で疑問形なんだ」

 掛けた相手は隣の家の幼馴染──一之瀬渚である。

 昼間、僕が露骨な態度で逃げてしまったこともあり少し空気が重い。今日だけでこんなにも重い経験をしたのは、今日が初めてだ。
 そんな影響からだろうか、電話越しの渚の言葉に若干の動揺を感じられた。

『だ、だって! ……昼間のことがあるから、電話掛かってきたとき、どうやって話せばいいのかとか、わからなくなっちゃって……』

「それで疑問形だったのか」

『そ、それもあるけど……。い、居心地悪くなるかもと思って、電話……しないでおこうかなと思ってた矢先に掛かってきたから。……ちょっと、恥ずかしくて』

 自己嫌悪に陥るにも程があると思うのだが……。

 けど、「もう話なんかしたくない」的なことを言われなくてよかった。そうなったら、せっかくあいつに押された心も再起不能になってただろうし。僕はその安心感から、そっと胸を撫で下ろした。

『そ、それで……どうしたの? こんな時間に電話なんて、珍しいね』

 あいつと言いこいつと言い、今日1日だけでここまで“珍しい”を連呼されるとは思ってもみなかったな……。

「……渚。明日、予定空いてるか?」

『えっ? 予定? ……特に何も無いと思うけど。どうかしたの?』

「そっか。だったら──明日、?」

 決意だけの意思。何を言うべきなのか、何も纏めきれていない頭の中。いつもクリアにしているはずの脳内が破裂しそうなほどの思考の量。

 ──そこから導いたのは、あのときの渚のような言葉を持てない僕が言える、最大の言葉だった。即ち、これは『デート』のお誘い……だったりするわけで……。

『……いいよ。今日のやり直し、って感じ?』

「……まぁ、そうだな」

 本当はそんなこと思ってもいなかったが、確かに今日のお出掛けは気分転換にしては気持ちがすっきりしていない。渚がそれでいいと思うなら、それでも構わない。

 幼馴染から始まった関係の変化とは、非常に難しいものだ。
 と、僕は約束の取り付けをしながらそんなことを考えていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

処理中です...