62 / 87
第七部
第60話「僕は、友達に自身の想いを暴露する」
しおりを挟む
◆凪宮 晴斗◆
『なるほど。つまりお前は真実を告げたくないあまりにその場で『嘘』をついてきたわけか。最低だな、お前』
まさかこいつに「最低だな」と罵られる日が来ようとは、思いもしなかったな……。
「何でそうなる。お前だって納得して今回の件に協力してくれたんだろうが」
『まぁ確かに。無駄な心配をかけたくないっていう、お前のその気遣いに賛同するか否かと問いただされたら協力するさ、親友だしな。でもねぇ~?』
「……何だ、その意味深は間は」
『……あのな、お前って人間はどこまで天然なんだよ! お前からの説明を聞いておおよそ状況はわかった。要するに、一之瀬はお前が隠し事をしていることを勘付いて、それを聞きたかったってことだろ? 別にオレはいいと思うけど? 話してやっても』
「……無理だ。このことは話さないって決めてる」
『決めてるもくそもねぇだろ。……じゃなきゃ、一之瀬から離れてくぞ』
「………………」
画面先から聞こえてくる透の正論に何も反論の余地は無かった。
電話越しから語られる透の言葉1つ1つが、全てを論破してしまっている以上、それは即ち──図星を突かれたのと同じことだ。
昼間の様子を見るに、渚は確かに何かを勘付いていた。
あの手紙にまで真相は辿り着いていないだろうが、それも時間の問題となってしまうだろう。
──だがそれでも、僕がやるべきことは変わらない。
ラブレターの件も、昨日の放課後にケリをつけた。これ以上この件にあいつを深入りさせる必要などどこにもない。だから周期が去るのを、ひたすら待てばいい。
と、これが僕の意見だった。
……だったのだが、本当にそれでいいのだろうか。今の透からの言葉もそうだが、あの渚の顔を見たら隠すことは正しい選択なのか……わからなくなってしまった。
余計な心配はさせたくない。
無駄な嫉妬は抱かせたくない。──だから、隠していたというのに……。
──何で、話してくれないの?
あのときの……今にも渚が崩れてしまいそうな、あんな辛そうな顔は紛れもなく僕が原因で作ってしまったものだ。
守ろうとしていた笑顔を、僕が自分のエゴで消してしまった……。
『ほらな? やっぱ言わなかったこと、後悔してるんじゃねぇか?』
「…………してない」
『ほぉ? そこまで意地を張るっていうなら、今の返事の間に出来た“空白”を説明してもらおうか? それも、オレが納得出来なきゃ即却下させてもらうような説明をな!』
「それ、どう考えたってお前の方に軍配上がりすぎてるだろ……」
仕組まれている。これは、透の挑発だ。
こいつはわかっている。だから敢えて、僕に『説明をしろ』なんて要求をしてきたんだ。
いくら嘘をつくのが上手い僕でも、このリア充を納得させるなんて巧みなスキルが、僕にあるわけがない。
それに……元々こいつには、僕の嘘は通用しない。常に周りに目を配り、他人のことを把握することが得意なこいつに挑むなんて──最初から、無謀なのだ。
「………………」
『おやおや。オレを納得させられるような説明、してくれないのかな。はーるーとー』
「……わかってるくせに。……負けでいいよ」
『やっぱり、か。……で? 正直お前は、一之瀬のことどう思ってんだよ』
「どう……って?」
『この鈍感製造マシンめ……!! ……いいか? 出来るだけ簡単に言うぞ? 普段お前らが互いを思ってやっていることの数々は、最早“幼馴染だから”っていうレベルじゃ片付かないんだよ! 単刀直入に言えば、お前らの言動はオレと美穂以上にイチャついてるようにしか見えねぇんだよ』
「はぁああ────っ!?」
僕は思わずベッドに転がっていた身体を起こした。
い、いきなり何言いだすんだよこいつ!! お前と佐倉さん、つまりリアルリア充よりイチャついてる、だと……!?
……というか、何でこんなに動揺してるんだ僕は。いつもだったら軽く受け流すか、冗談だろとか言って無視してるのに。
いつものように、嫌味気分で言われてるだけだというのに……何故かいつものように、受け流せない。それどころか妙に言葉が身に染みてくる。
この何とも言えない気持ちを抱いたまま、僕は透に先程の問いを返答することにした。
「ど、どうって。そりゃあ……幼馴染として──」
『だーかーらー! そんなありきたりな理由だけじゃ説明つかねぇんだって言ってんだろうがさっきから! いい加減自分の気持ちに素直になりやがれ!』
透の真っ直ぐで、透き取った大声。
耳の中で反芻するその声は呆れから出た言葉なのだとすぐに悟った。
……素直になる、か。
「……素直も何も──」
『ん、どうした?』
「……僕はお前じゃないから。お前みたいに、何でもすぐに言えるような関係じゃないんだ、あいつとは。離れた距離があるから……その分僕は、余計に気を遣う……」
『……っ!?』
「……どうしたんだよ、急に黙り込んで」
『え、あ、いや……。お前がオレにそんな弱音吐いたの、初めてだったからさ。少し驚いただけだ』
「失礼な奴だな、まったく……」
僕は再びベッドの上で横になる。
勢いよく倒れた影響でベッドの上に無造作に置かれたラノベが揺れる。
そんな僕と本を照らしてくれるのは、天井に取り付けられた1つの照明。そこから、今の僕には眩しすぎる光が放たれていた。額の腕を乗せ、照明が視界に入らぬよう目元を覆う。
まるで、いつも隣にいるあいつみたいで──。
『なるほど。つまりお前は真実を告げたくないあまりにその場で『嘘』をついてきたわけか。最低だな、お前』
まさかこいつに「最低だな」と罵られる日が来ようとは、思いもしなかったな……。
「何でそうなる。お前だって納得して今回の件に協力してくれたんだろうが」
『まぁ確かに。無駄な心配をかけたくないっていう、お前のその気遣いに賛同するか否かと問いただされたら協力するさ、親友だしな。でもねぇ~?』
「……何だ、その意味深は間は」
『……あのな、お前って人間はどこまで天然なんだよ! お前からの説明を聞いておおよそ状況はわかった。要するに、一之瀬はお前が隠し事をしていることを勘付いて、それを聞きたかったってことだろ? 別にオレはいいと思うけど? 話してやっても』
「……無理だ。このことは話さないって決めてる」
『決めてるもくそもねぇだろ。……じゃなきゃ、一之瀬から離れてくぞ』
「………………」
画面先から聞こえてくる透の正論に何も反論の余地は無かった。
電話越しから語られる透の言葉1つ1つが、全てを論破してしまっている以上、それは即ち──図星を突かれたのと同じことだ。
昼間の様子を見るに、渚は確かに何かを勘付いていた。
あの手紙にまで真相は辿り着いていないだろうが、それも時間の問題となってしまうだろう。
──だがそれでも、僕がやるべきことは変わらない。
ラブレターの件も、昨日の放課後にケリをつけた。これ以上この件にあいつを深入りさせる必要などどこにもない。だから周期が去るのを、ひたすら待てばいい。
と、これが僕の意見だった。
……だったのだが、本当にそれでいいのだろうか。今の透からの言葉もそうだが、あの渚の顔を見たら隠すことは正しい選択なのか……わからなくなってしまった。
余計な心配はさせたくない。
無駄な嫉妬は抱かせたくない。──だから、隠していたというのに……。
──何で、話してくれないの?
あのときの……今にも渚が崩れてしまいそうな、あんな辛そうな顔は紛れもなく僕が原因で作ってしまったものだ。
守ろうとしていた笑顔を、僕が自分のエゴで消してしまった……。
『ほらな? やっぱ言わなかったこと、後悔してるんじゃねぇか?』
「…………してない」
『ほぉ? そこまで意地を張るっていうなら、今の返事の間に出来た“空白”を説明してもらおうか? それも、オレが納得出来なきゃ即却下させてもらうような説明をな!』
「それ、どう考えたってお前の方に軍配上がりすぎてるだろ……」
仕組まれている。これは、透の挑発だ。
こいつはわかっている。だから敢えて、僕に『説明をしろ』なんて要求をしてきたんだ。
いくら嘘をつくのが上手い僕でも、このリア充を納得させるなんて巧みなスキルが、僕にあるわけがない。
それに……元々こいつには、僕の嘘は通用しない。常に周りに目を配り、他人のことを把握することが得意なこいつに挑むなんて──最初から、無謀なのだ。
「………………」
『おやおや。オレを納得させられるような説明、してくれないのかな。はーるーとー』
「……わかってるくせに。……負けでいいよ」
『やっぱり、か。……で? 正直お前は、一之瀬のことどう思ってんだよ』
「どう……って?」
『この鈍感製造マシンめ……!! ……いいか? 出来るだけ簡単に言うぞ? 普段お前らが互いを思ってやっていることの数々は、最早“幼馴染だから”っていうレベルじゃ片付かないんだよ! 単刀直入に言えば、お前らの言動はオレと美穂以上にイチャついてるようにしか見えねぇんだよ』
「はぁああ────っ!?」
僕は思わずベッドに転がっていた身体を起こした。
い、いきなり何言いだすんだよこいつ!! お前と佐倉さん、つまりリアルリア充よりイチャついてる、だと……!?
……というか、何でこんなに動揺してるんだ僕は。いつもだったら軽く受け流すか、冗談だろとか言って無視してるのに。
いつものように、嫌味気分で言われてるだけだというのに……何故かいつものように、受け流せない。それどころか妙に言葉が身に染みてくる。
この何とも言えない気持ちを抱いたまま、僕は透に先程の問いを返答することにした。
「ど、どうって。そりゃあ……幼馴染として──」
『だーかーらー! そんなありきたりな理由だけじゃ説明つかねぇんだって言ってんだろうがさっきから! いい加減自分の気持ちに素直になりやがれ!』
透の真っ直ぐで、透き取った大声。
耳の中で反芻するその声は呆れから出た言葉なのだとすぐに悟った。
……素直になる、か。
「……素直も何も──」
『ん、どうした?』
「……僕はお前じゃないから。お前みたいに、何でもすぐに言えるような関係じゃないんだ、あいつとは。離れた距離があるから……その分僕は、余計に気を遣う……」
『……っ!?』
「……どうしたんだよ、急に黙り込んで」
『え、あ、いや……。お前がオレにそんな弱音吐いたの、初めてだったからさ。少し驚いただけだ』
「失礼な奴だな、まったく……」
僕は再びベッドの上で横になる。
勢いよく倒れた影響でベッドの上に無造作に置かれたラノベが揺れる。
そんな僕と本を照らしてくれるのは、天井に取り付けられた1つの照明。そこから、今の僕には眩しすぎる光が放たれていた。額の腕を乗せ、照明が視界に入らぬよう目元を覆う。
まるで、いつも隣にいるあいつみたいで──。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説


隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?
久野真一
青春
2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。
同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。
社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、
実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。
それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。
「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。
僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。
亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。
あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。
そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。
そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。
夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。
とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。
これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。
そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる