隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい

四乃森ゆいな

文字の大きさ
上 下
56 / 87
第七部

第54話「幼馴染は、私に何か隠し事をしているらしい」

しおりを挟む
「おっと。そろそろ17時だね」

「……あれ? もうそんな時間?」

 教室の壁に掛けられた時計の指す時間は、夕方5時。
 休憩と名打っていたものの、気づいたら普通に佐倉さんと話し込んでしまっていた。

 でも──楽しかった。
 放課後の教室で、こんなにも話し込んだことなんて晴斗以外にいなかったっていうのもあるのかもしれない。けれど、佐倉さんと話した時間は、晴斗と過ごすときのような居心地の良さが垣間見えた。

「ほらね? 1人より2人の方が時間を有効に使えていいでしょ? 暇潰しって意味でもさ!」

「……そうだね」

 クスッと、苦笑する私。

「今更ながらなこと訊くけどさー。何で凪宮君のこと教室で待ってるの? 透も言ってたけど、今日って『読書会』なんでしょ? 私は読書って、あんま好きじゃないけど、渚ちゃんは違うでしょ? ここで待つより文芸部の部室で待ってた方がよくない?」

「……入れるもんなら入ってるんだけどね」

「何か理由でもあるの?」

「そ、その……く、クラスで読書しないのと、同じ理由で──」

「まーた世間体?」

「……お恥ずかしながら」

 私は教室で読書はしない。正確には、読みたい気持ちを抑えて周りと関わっているということ。趣味を満喫出来ないのはストレスでしかないが、それは致し方ないこと。

 別に『読書』という概念に抵抗があるわけじゃない。
 晴斗の前では堂々と本の話をしていられるし、家では普通に読んでるし。

 ──問題なのは、私の勇気の無さだと思う。

 好きな人には告白出来たくせに、肝心なところで必要な勇気が出てこない。……何も出来なかったらどうしようって。みたいに……何も、出来なかったらって思うと。
 ……自然と、口に出せないのだ。

「……何ていうかさ。渚ちゃんって変なところでシャイだよね」

「そう……なの?」

「間違いない! 私が“そう”って言ってるから間違いないのっ!」

「で、でも。あんまりそういう自覚ないんだけど……」

「──いや、お前は間違いなくシャイだと思うぞ」

 佐倉さんとちょっぴり真剣な話をしていた最中、不意に後ろの扉の方から声が聞こえた。
 背筋に悪寒が走った私は咄嗟の反射神経で佐倉さんにしがみついた。

 恐る恐る声がした方向へ視線を上げると──そこには、鞄を肩に掛け右手で髪を掻く見知った顔が立っていた。

「は、はる、と……?」

「人を幽霊を見たときみたいな顔で見るなよ、失礼な」

 ──し、心臓に悪いっ!! 私は心の中で地平線の彼方へ向かって叫んだ。ってか、全然気配とかしなかったんだけど!? 何、この子いつの間に忍者になったの!?

「……さっきまで楽しそうに話してたってのに、いきなり驚いて今は睨んでくるし。情緒不安定か、お前」

「誰のせいだと思ってるのよ! ……ってか、あれ? 部活は?」

 私はここでようやく晴斗がここにいる理由に観点が追いついた。
 確か今日は『読書会』のはず。いくら文化部だからと言ってさすがに5時に終わるのは早すぎると思うんだけど。

「終わった」

「見ればそれはわかるけど……早くない?」

「欠席者が多かったんだよ。それで、早めに部活も終わったってわけさ!」

 と、後ろから晴斗の説明を補足するように口を出してきたのは、藤崎君だった。

「いやぁ~。それにしても、さっきの驚きっぷりは見事だったな! 晴、お前人を驚かす才能あると思うぞ!」

「その才能の使い道はどこなんですかね」

 呆れた口調で物を言う晴斗を、藤崎君は「あっははは!」と高笑いしながら背中を叩いている。「いてぇ」と反発され、すぐに離れたけど。

「あ! それじゃあさ、一緒に帰らない? 私達もさっき勉強会終わったからさ!」

「……えっ?」

 休憩を挟むだけのつもりが話は飛躍し、終わるという最終地点に収着した。

 ……まぁ確かに、あのまま勉強会を続行したとしてもお互いに話し込んでしまうのは確実かも知れない。友達と勉強なんてしたことがないから、話の終え方なんて知る由もない。

 そんな考えをしていると、佐倉さんはキラキラと光沢を帯びた瞳で私を見据える。
 まるで『しっかりね!』と、謎のエールを贈られているかのように思ってしまった私はいつからテレパスの能力が使えるようになってしまったのか……。

 いや、多分、彼女が意図的に、わかりやすくそう読まさせているのかもしれないけど。
 しかし、そんな彼女の行為を無に帰すようにして──藤崎君は「悪い」と、たった一言だけを告げた。

「オレら、これからちっと野暮用があるんだわ。ってなわけだから、先帰っててくれ」

「え、そうなの? だったら私達も付き合うけど」

「い、いや、それだけは……」

 藤崎君は私の意見に片手を突き出し拒否してきた。

 ……何か怪しい。そう思うだけど物的証拠は無いけれど、直感がそう告げていた。
 何より、藤崎君があそこまでの拒絶をするっていうのも珍しい。

 すると今まで黙っているだけだった晴斗が、藤崎君の鞄を掴みぐいっと彼を自分の元へと引き寄せた。

「いって! もうちょっと丁寧に扱えよ!」

「はいはい」

「……晴斗?」

「渚、悪いがそういうことだ。この件は男子にしか無理なことなんだ。だから今日は、佐倉さんと一緒に帰ってくれないか?」

「…………わかった」

「悪いな。それじゃ、また明日」

 そう言って、藤崎君を引っ張りながら晴斗はそのまま教室を後にしていった。その間際に「じゃあな!」と藤崎君は手を振ってくれた。が、晴斗は振りからず、廊下の先を進んで行った。

 取り残された私達だが、このまま居ても仕方がないため荷物を纏めることにした。
 すると佐倉さんが「うぅ~ん」と唸り声を上げた。

「どうしたの?」

「……いや。なぁーんか怪しいよねぇ。尾行でもしてみる?」

「び、尾行!?」

「ま、この提案は最初から没決定だけどね」

「えっ?」

「だって、凪宮君の観察眼と洞察力は、透に自慢話みたいに聞かされてきたから、きっと尾行しても凪宮君にはすぐに気づかれる。特にこっちには──凪宮君のこととなると感情が露骨になるハンデがあるからねぇ」

「だ、誰のことよそれ……!!」

「さぁ。誰のことでしょうね~?」

 この少しだけ性根が意地悪なところ、やっぱり藤崎君とどこか似ている気がする。

 幼馴染って“きょうだい”のようにそういった部分なんかも似てくるものなんだろうか。佐倉さんと藤崎君を見ていると、不思議とそう思ってしまう。
 だとしたら、私と晴斗は全く似ていない。寧ろ真反対な性格だし。

「……まっ、今日のところは大人しく帰ろ。何かあればいつでも電話してきなね!」

「……うん」

 性格が似ていないのは百も承知。……だけど、あんなにも眼光が鋭くなっている晴斗を見たのは、産まれて初めてな気がする。

 読書をするときにも、勉強をするときでさえあんな顔、見たことないのに……。

 私は初めて見た幼馴染のあんな顔に、未だ驚きを隠せていなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

処理中です...