隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい

四乃森ゆいな

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第六部

第45話「幼馴染は、無意識に僕へ迫ってくる」

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「…………」

「…………」

 僕と渚はあれから結局直で僕の家へと入り、一緒に晩ご飯を食べた後、リビングにて読書会なるものを開いていた。……生徒はたった2人だがな。

 現在、午後8時過ぎ。
 隣の家に住んでいる最大のメリットとして、それは帰宅時間がたったの5秒だということだ。何て楽だろう。学校もそれぐらいの距離にあればいいのに。

 と、まぁ僕的主観はさておいて……そんなメリットがあるお陰で、渚は今も尚、本日買ったラノベを読んでいた。

 時折体勢はちょくちょく変えていたが、それでも乱れない制服と纏められた髪。
 卓越したそのバランスに、少し関心した僕である。

「う~~ん! 読み終わった~」

「そっか。で、ご感想は?」

「──面白かった! その一言に尽きます!」

「よろしい」

 もし彼女から「面白くない」という感想が飛び込んで来たら、すぐさま家から追い出してやろうかと思っていたが、その心配も杞憂だったようだ。
 ──ま、試し読みしてた時点で、察しは付いてたし、さすがに冗談だが。

「私、初めてだよ~! こんなに面白いと感じる文庫本……一般小説みたいに、挿絵だったりとかが無いのも、スゴくドキドキするんだけど。こっちは逆だったね。挿絵が入ることで、より面白さが増してる!」

「お前、漫画は読むけどこういうの読んだことないんだな」

「漫画は全年齢対象だよ? それでいて、文字だけじゃ表わせない立体感! あれが、漫画の良さだって思うんだ~」

「……そうか。でも、お前の部屋にある本棚の中に、一部えっちぃのが入ってたの、僕は知ってるけどな」

「余計なこと言わないでよぉ! 萌えは重要なんだよぉ~」

「何だそりゃ……」

 漫画で言えば、最近その手を扱う少女漫画とかも増えてたりってのを聞いたことがあるな。何だ? そんなに全年齢の対象が緩くなってるのか?

 僕は基本、ラノベ一筋。
 偶にWEBか何かで漫画を読むことはあるが、本棚にはあまり多く入っていない。
 文章力だけで広がる世界観……そういうのにハマれば、簡単には抜け出せない。

 渚は「うぅ~ん」と背伸びをする。
 長時間ぶっ通しで読んでたからな。肩が凝るのも無理ないか。

「私はそうだけど、晴斗はどうだったの?」

「僕?」

「そうだよ。私だけレビューするなんて不公平だよっ! はい、述べる!」

 手でマイクの形を作り、その手を僕に向けてくる。
 感想……ねぇ。そんなの、今回に限っては一言で済む。


 ──傑作に当たった。


 今回で第1巻目のラブコメを読んでいたのだが、思った以上の上玉で驚いている。それ以上も以下でもなかった。

 流行りの“なろう”からの新作だったのだが、これは期待してもいいと思う。青春ものや恋愛ものに限らず、王道というストーリーは一般的だ。だがそこに、作者の個性や主張したい『王道』があってこそ、ラブコメというのは面白い。

 ひと捻りもふた捻りもある作品は、絶対に人気が出る。個人的見解にはなってしまうが。

「なるほどねぇ。──ねぇねぇ!」

 すると、僕の話を聞き終えた渚が、僕の身体に腕を回してきた。

「お、おい……!」

「なぁに?」

「なにじゃない! 離れろって……っ!」

 そんな僕の説得とは裏腹に、彼女は徐々に腕を僕の身体に回していき、更にはぎゅっとしがみ付いてきた。

 ソファーの下で座ったままの僕に抵抗出来るすべはない。……それに、少しでも抵抗してしまうと、背中に当たる『何か』が動いてしまう。
 おそらくだが、これをやっている本人は意図してこんなことはしていない。こいつがそんな策士だったとしたら、僕はとっくの昔に溺れている。

「おい、あんま揺れると落ちるぞ」

「大丈夫だよ!」

 ──僕が大丈夫じゃないんだよっ!!

「……んで、何?」

「実はさ、その本貸してくれないかな~と、思って!」

「………………はい?」

 ……考えなしもここまで来ると大したものだ。

 まぁ書籍の貸し出しを基本しないことを知っている渚だから訊いてきたのかもしれないが……それにしたって、他にやり方は無かったのか! 普通にソファーに座り直すだけでもよかったのでは!?

「……ダメ?」

「……別にいいけど。でも、どこで読むんだよ」

「家に帰ってからでもいいけど。晴斗がいいって言ってくれるなら、またここで読みたいかな? いい?」

「拒否権を認めないって顔してるぞ……」

「無論!」

 ……有無を言わさないこの全力の肯定。幼馴染とは、どうしてこうも強いんだ?

 ちなみにだが、こいつは学校で読書はしない。否、出来ないの方か。

 有名人とは常に噂の中心にいるも同然。ちょっとした行動や発言、それから過去の行いなど。自らのパーソナルスペースに他人からの詮索力を抑えられずに、侵入を許してしまう。

 けど、大元の理由は──彼女の立場への影響を心配しているのだろう。
 容姿端麗、頭脳明晰の“学園一の美少女”と呼ばれる才女──それは、他人がご都合主義によって作り出してしまった、姿

 だがそれを否定することもなく受け入れているのは、彼女が自ら偽ることを望んだから。
 それによって、渚は“ぼっち”という本当の看板を下げずにいられる。
 僕みたいに“読書家ぼっち”という異名も付くことなく──。

 ……とはいえ、それは今までのあらまし。
 遡ればいくらだって弁解することも叶ったはずなのだ。
 でもそれをしなかった。それはきっと──

「……貸します。貸すからはよ退け」

「ケチなんだから」

 と、言いつつ退いてくれる渚である。
 やっぱ、逆らえないのはお互い様のようだ。
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