隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい

四乃森ゆいな

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第五部

第39話「私は、初めての友達とカフェに行く②」

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 私から離れ、ショーケースの前でケーキを選び始めた佐倉さんを見て私はほっと一息吐く。

 お店の中にそんなに人が居なくて助かった。
 でなきゃ今頃──変な百合ゆり展開になってた。私には好きな人がいるので、そんなこと絶対させないけど、人の考えって様々だから、ね?

「あ、そうだ! 連れてきた詫びだから、好きなの選んでね!」

「それは継続なの?」

「もちのろん! 分割払い禁止だから! これは私の意地なので異論は認めません!」

「え……えぇ」

 ショーケースの中に並べられた多種多様なケーキに目を配る。
 華やかな飾りつけをされたものから、シンプルなショートケーキに至るまでの数々に、つい小腹が鳴ってしまった。……うぅ、恥ずかしい。

 そうだ。せっかくだし、ここでお昼済ませようかな。

 時刻は12時を過ぎたばかり。
 こうして友達とカフェでお昼なんてするの、初めてで少し緊張する。晴斗はあまり外にいることがないし、寄り道をしても精々本屋だけ。私もそれで満足してたから、彼が悪いと一概には言えない。

 私はショートケーキを、佐倉さんはアップルパイを注文し、私は2人席の確保へと向かった。このお店はこじんまりとしていてとても落ち着く。それに、あまり人もいないし。今度、気が向きそうだったら晴斗誘ってみようかな?

 と、そんな物思いに耽っている中、佐倉さんは店長さんとカウンターでお喋りをしているようだった。
 コロコロと表情が変わる佐倉さんを見ていると、よっぽど仲がいいんだなと思う。

 昔から通ってるって言ってたけど、一体いつ頃から何だろう。
 私は2人席の1席に着き、彼女が戻ってくるまでの間、今読み進めている本を読むことにした。単行本だけど、意外とミステリー要素多めで気に入っている作品だ。

「お待たせーっと、本読んでたの?」

「え、えぇ」

「へぇー。渚ちゃんって本読むんだ。私の幼馴染とそっくり!」

「幼馴染がいるの?」

「うん。渚ちゃんのことも、そいつからよく聞いてたんだー」

「……そうなの」

 ちょっと怖くなってきた……。
 あんまり自意識過剰って思われたくないから敢えて濁すようにして返したけど、佐倉さんの幼馴染って、一体何者なの?

 測定のときにも言ってたけど、私のことをよく知ってるみたいだし。
 ……こう言っては難だけど、心当たりが多すぎて誰なのか検討がつかない。

「にしても意外。渚ちゃんが教室で本を読むところなんて、見たことなかったから」

「……本当は好きなの。本を読むことが」

「もしかして、他の女子達が無作為に話しかけてくるから中々読めないー、とか?」

「それもある、けど……」

「他にもあるの?」

 あると言えばある。だから私はその問いにコクリと軽く頷いた。

「……本を読んでると、どうしても意識が違う世界に行ってしまって、みんなの声とかを聞くことが出来なくなるの。だから、学校ではあまり読まないようにしてるの」

「そっか。でも、そこまで話に意識を向ける必要あるの?」

「そ、それは……」

 私は言葉を思わず飲み込む。

 ――意識は向けなきゃいけない。そうじゃなきゃ……私は、晴斗に迷惑をかける。

 けどあの頃のことを佐倉さんに説明することはしたくなかった。……知り合ったばかりの佐倉さんを、巻き込むことはしたくない。あれは──私と晴斗の問題だから。

「言いたくないか。まぁ、無理して言わせることもない……か」

 言葉が詰まった私のことを察してくれたのか、佐倉さんは肩を落とした。

「でも、勿体ないね。趣味なんでしょ?」

「ありがとう。でも大丈夫。家に帰ってからでも読めるから」

 読んでいたページに栞を挟んで、サッと鞄の中へと仕舞った。友達がいるのにわざわざ目の前で読むほど度畜生ではない。晴斗じゃないからね。

 私は一般的に、ライトノベルではなく一般小説を好んで読む。単行本なんかがそう。
 ミステリーものや、恋愛小説。後は時々だけど、か、かん、のう……とかも、時々、本っ当に時々! ……も、読んだりしている。

 でも私はその全てにおいて、意識を現実世界に留めておけない。その点は、おそらく晴斗と一緒だと思う。

 トップカーストの位置に点在する私とは違い、自称“根暗ぼっち”な彼は私みたいに気を使う必要もない。……こういうときだけ、スゴく羨ましいと思ってしまう。
 でもそれが、彼が望んで手に入れた場所。
 そしてここが、私が望んで君臨している場所だけど……不安定な場所でもある。

 でも、過去の自分に問いても仕方ない──過去はどうやっても変えられない。これが、私が選んで歩くことにした『道』なんだから。

「さ。こんな暗い話しててもしょうがないし、ケーキ食べましょ」

「それもいいけど──その前に、話してくれないかな?」

 私がケーキの皿に手を伸ばそうとしたとき、まるで小さな子どもからおもちゃを取り上げたように、ケーキを遠ざける佐倉さん。

 話……というと、私が体力測定のときに感じてしまった、佐倉さんへの劣等感のことだろうか。あれについては、あまり聞かないでほしいけど……。

「えっと、どういう話?」

「どういうって、決まってるじゃん! ほら、好きな小説の話! もっと聞かせてくれる?」

 ──正直、驚いた。大袈裟な表現もなく、純粋に。

 たった一言。
 趣味として、隠すようにしてきた『好きなこと』は、受け入れ難い一面がある。

 現代の高校生が読むものに限らず、小説は漫画と違って受け入れられない部分が多い本だし、それでもいいと思ってきた。

 受け入れられなくても……って。

 けれど佐倉さんは……私の周りを取り巻いていた冷たい空気を、ほんわりと暖かくしてくれた。

「えっ、えっと……どうして?」

「そんなに理由なきゃダメ? うーーん。強いて言うなら、渚ちゃんのことをもっと知りたいからかな」

 ……一緒だ。私と、一緒のこと思ってくれてたんだ。

「でも、そんなに面白い話とか出来ないと思うし……」

「──人の好きなことを否定する権利なんて、この世には無いと思うよ?」

「……っ!!」

「ま、近くに本好きがいるからってのもあるけど。好きなんでしょ、小説?」

「……うん」

「なら、その話をもう少し詳しく聞きたいって思うのは、友達だったら普通の反応だと思うけどなぁ~」

 ……そんなのこと、言われたことがなかった。
 昔、たった1度だけ、私の好きなことを話したことがあったけど……周りの人達は、まるで興味が無さそうだった。だから──辞めていたのに。

 佐倉さんは不思議そうに私を見ながら言った。

「さっきさ、周りを裏切らないように的なこと言ってたじゃん?」

「う、うん……」

「体力測定のときも思ったけど、周りを気にして自分の好きなことを打ち明けれないのは、もう渚ちゃんの短所だね。我慢のしすぎってよくないよ?」

「そ、そんなことは…………ない、でもない」

「どっちよ!」

 苦笑いを浮かべる佐倉さんは、微妙な反応を返す私に構わず続ける。

「渚ちゃんってさ、好きなことに一生懸命取り組んだことって、ある?」

「……どうしてそんなことを?」

「いやね。渚ちゃん見てるとさ、何て言うか……周りを気にしすぎて、本当の自分を表現しきれてないって感じがして。見てて少し危なっかしいし」

「ゔぅ……」

「……まぁ、いきなり変えろって言うのも無理な話だし、当面は私だけでもいいから自分をいつわる必要はないよ。でもそのためにはまず、もう少し物腰柔らかくしてほしいかな?」

「…………したことない」

「嘘をつけ! 嘘を!」

 佐倉さんはそう言うと、取り上げていたショートケーキを私の前に置く。

 素直にさせるための口実じゃなかったみたいに、佐倉さんは「食べよっか!」なんて、普通に言ってきた。

 ──でもお陰で、少しだけわかった気がする。
 佐倉さんの前なら、大丈夫だって。──私の、自分の話をしてもいいって。
 これはあくまでも『直感』だけれど。

「──今度」

「ん? 今度?」

「……今度、一緒にお昼食べてくれる?」

「……っ! もちろんだとも!」

 改めて思った。──私は初めて、本当の『友達』を作れたのだと。
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