39 / 87
第五部
第37話「私は、友達に頼りたいらしい」
しおりを挟む
「……ヤバいかも」
何がヤバいって……もう何か色々と!
1番は、こんなとんでもない運動神経の女子と組んでしまったことを悔やんでいる自分がいること。
晴斗と、幼馴染と肩を堂々と並べられるようになるには、私が晴斗と同じぐらいに完璧にならなきゃいけない。晴斗と同じ、とはいかなくとも、私なりの精一杯をぶつけようと努力してきたつもりだった。……この日のためだけに。
……でも、この結果を目の当たりにして、現実を押し付けられた気がした。
晴斗だけがこの世の全てじゃない。
上には上が、高みには壁がある──今まさに、私の目の前には、1枚の鉄壁が存在している。これを突破しなくちゃ、晴斗と肩を並べることなんて……夢のまた夢。
平均から少し伸ばしたような記録じゃダメ。
佐倉さんと同等の実力が、私には必要に思えた。
……だけどそんなご都合展開、夢見る空想上の世界じゃないんだから起きるはずもない。
神様が転生させてくれて……とか。
異世界に転移させられて脅威的な力をつけて帰ってきた……とか。
ファンタジー作品の読みすぎが心配されるようなご都合展開を、少なくとも、このときの私は少しだけ期待していたのかもしれない。
「──おーい!」
「…………えっ?」
「いや、え、はこっちの台詞なんだけど。どうしたの? さっきから意識が飛んでるような感じしてたけど。何か悩み事でもある?」
「い、いや……そういうわけじゃ……」
きっと佐倉さんは夢にも思っていない。
意識が飛んでる、のは言い過ぎだと思うけれど、それは──佐倉さんのことを『嫌だ』と感じてしまったから……なんて。
い、言えない……。
佐倉さんに悪気は一切無いと思うし、何よりそれは彼女の言動からも察せられる。
これは、私が勝手に抱く邪念。……本当、嫌な人だよね私って。
すると何かを考え込むようにして「うぅ~ん……」と彼女は唸り出す。
「……よくわからないけど、それって今大事なこと?」
「えっ……」
……もしかしてだけど、一緒に考えてくれてた?
何を悩んでいるのか、何を考えているのかすら言っていないのに、彼女は私の悩みを取り払おうとしてくれていたのだろうか?
もう……どんだけ過保護なのか。……いい人すぎる。逆に心配になってくるレベル。
「う、ううん」
首を横に振るしか選択肢は存在しなかった。
「そっか。なら、さっさとやっちゃいなよー!」
「……うん」
こんなにも親身になって相談に乗ってくれた人を……私は晴斗以外に知らない。
晴斗の妹──優衣ちゃんも結構相談乗ってくれることはあるけど、それはあくまで私の事情を知っているから。でも佐倉さんは……何も知らない。
何に焦りを募らせているのかも、自分が今──佐倉さんにライバル視をしていることも。
何も……知らないはずなのに──。
「……ふぅー」
私は壁に背中をくっ付け、ゆっくりと背中を倒してゆく。
「頑張れー!」と声を上げて応援してくれる佐倉さんは、必死すぎて息切れを起こしそうな顔をしている。取り組んでるの、私のはずなのに……こんなに、必死に応援してくれる。
──本当にいい友達を持ったな、私。
結果は平均より上だったものの46センチ。佐倉さんの結果には足元にも及ばなかった。……当然の結果、だね。
上ばかり見すぎてた。足元を掬われた気分だった。
……でも、今の私には、始める前までの憂鬱な気分は一切なくて──寧ろ清々しい。やりきった気分の方が勝っていた。
佐倉さんは私の結果を記入している中「頑張ったね!!」とお世辞でもない、本心からの笑顔を浮かべてそう言った。
……友達とは、こんなにも嬉しいものだったのだと。今、初めて理解した。
ヤバい……。これ、嬉しすぎる……っ!!
「さてと。じゃあ次は──」
「ねぇ、佐倉さん」
次の測定場所を探そうとしていた佐倉さんに、私は息を整えながら声をかける。
「ん? どうかしたの?」
「その……さっきのこと、何だけど」
「さっき? ……ああ! 何か悩んでるかーってやつ?」
「う、うん。えっと……そのことなんだけど」
「──ストップ!」
と、私が悩みを打ち明けようと開口した途端、佐倉さんは私を静止させた。
「え、えっと……」
「ごめんね。確かに、渚ちゃんのことについては知りたいこと多めだけど……そのことは、測定終わってからゆっくり聞くことにするよ!」
「……えっ?」
「だって、今は測定の方が大事でしょ? いい結果が残せなかったら後々後悔することになるし、私はそんなの嫌。だから、一旦そのことは忘れた方が、お互い気遅れしないで済むでしょ?」
佐倉さんの意見は尤もだった。
今するべきことは『打ち明ける』ことじゃない。『自分の記録を残す』ことだと思う。
でも私って、動揺したり悩み事を抱えてたりすると、こんなに普通の提案にすら感動する人だったけ……?
佐倉さんが言ったことは何も難しいことじゃない。
今していることは何か──それを考えればわかる話だったのに。……恥ずかしいっ!!
「……そう、だね。そうする」
「よし! あっ、何ならカフェにでも行こっか! この近くに昔から知ってる行きつけのお店があるんだー!」
「カ、カフェ?」
「うん。あ、もしかして寄り道禁止的なのある?」
「い、いや……そういうのはない、けど」
少し意外に思われただろうか、ちょっと疑問符を浮かべた顔をしてる。
クラストップカーストなんて大層な二つ名を持っている私だけれど、誰かと放課後に寄り道をするなんてことはしない。
そんな時間があるなら、晴斗との時間に当てたい。
たとえ彼の家で本を読む。それだけの時間だったとしても、私にとっては彼と同じ空間に居られる──そう実感出来る、唯一の時間だから。
「じゃあ、いいかな?」
佐倉さんはノリがいい。それは決して悪いことじゃない。そんなのより、クラスメイトとの会話に疎い私を引っ張ってくれる──本当に、スゴい長所だと思う。
「……うん。いいよ」
「はい! 決まりだね! そんじゃあ、さっさと残りのやっちゃおー!」
そう言った佐倉さんは更に勢いが増したらしく、運動神経を発揮し出したように私よりもいい好成績を残し続けた。
幸いなことに、私にも佐倉さんに勝てる唯一の競技があった。
それが、握力測定。……とは言っても、たった2つしか数字が違わなかったけど。
そしてあっという間に時間と体力は削られていき、女子の測定は終了した。
更衣室を出る頃には、入れ替わるようにして男子達が登校してきていた。その中に晴斗を見つけることは出来なかったけど、きっとまた手加減するんだろうなぁ。テストのときだけだ。彼が実力を出すのは。その話は──また別の話。
何がヤバいって……もう何か色々と!
1番は、こんなとんでもない運動神経の女子と組んでしまったことを悔やんでいる自分がいること。
晴斗と、幼馴染と肩を堂々と並べられるようになるには、私が晴斗と同じぐらいに完璧にならなきゃいけない。晴斗と同じ、とはいかなくとも、私なりの精一杯をぶつけようと努力してきたつもりだった。……この日のためだけに。
……でも、この結果を目の当たりにして、現実を押し付けられた気がした。
晴斗だけがこの世の全てじゃない。
上には上が、高みには壁がある──今まさに、私の目の前には、1枚の鉄壁が存在している。これを突破しなくちゃ、晴斗と肩を並べることなんて……夢のまた夢。
平均から少し伸ばしたような記録じゃダメ。
佐倉さんと同等の実力が、私には必要に思えた。
……だけどそんなご都合展開、夢見る空想上の世界じゃないんだから起きるはずもない。
神様が転生させてくれて……とか。
異世界に転移させられて脅威的な力をつけて帰ってきた……とか。
ファンタジー作品の読みすぎが心配されるようなご都合展開を、少なくとも、このときの私は少しだけ期待していたのかもしれない。
「──おーい!」
「…………えっ?」
「いや、え、はこっちの台詞なんだけど。どうしたの? さっきから意識が飛んでるような感じしてたけど。何か悩み事でもある?」
「い、いや……そういうわけじゃ……」
きっと佐倉さんは夢にも思っていない。
意識が飛んでる、のは言い過ぎだと思うけれど、それは──佐倉さんのことを『嫌だ』と感じてしまったから……なんて。
い、言えない……。
佐倉さんに悪気は一切無いと思うし、何よりそれは彼女の言動からも察せられる。
これは、私が勝手に抱く邪念。……本当、嫌な人だよね私って。
すると何かを考え込むようにして「うぅ~ん……」と彼女は唸り出す。
「……よくわからないけど、それって今大事なこと?」
「えっ……」
……もしかしてだけど、一緒に考えてくれてた?
何を悩んでいるのか、何を考えているのかすら言っていないのに、彼女は私の悩みを取り払おうとしてくれていたのだろうか?
もう……どんだけ過保護なのか。……いい人すぎる。逆に心配になってくるレベル。
「う、ううん」
首を横に振るしか選択肢は存在しなかった。
「そっか。なら、さっさとやっちゃいなよー!」
「……うん」
こんなにも親身になって相談に乗ってくれた人を……私は晴斗以外に知らない。
晴斗の妹──優衣ちゃんも結構相談乗ってくれることはあるけど、それはあくまで私の事情を知っているから。でも佐倉さんは……何も知らない。
何に焦りを募らせているのかも、自分が今──佐倉さんにライバル視をしていることも。
何も……知らないはずなのに──。
「……ふぅー」
私は壁に背中をくっ付け、ゆっくりと背中を倒してゆく。
「頑張れー!」と声を上げて応援してくれる佐倉さんは、必死すぎて息切れを起こしそうな顔をしている。取り組んでるの、私のはずなのに……こんなに、必死に応援してくれる。
──本当にいい友達を持ったな、私。
結果は平均より上だったものの46センチ。佐倉さんの結果には足元にも及ばなかった。……当然の結果、だね。
上ばかり見すぎてた。足元を掬われた気分だった。
……でも、今の私には、始める前までの憂鬱な気分は一切なくて──寧ろ清々しい。やりきった気分の方が勝っていた。
佐倉さんは私の結果を記入している中「頑張ったね!!」とお世辞でもない、本心からの笑顔を浮かべてそう言った。
……友達とは、こんなにも嬉しいものだったのだと。今、初めて理解した。
ヤバい……。これ、嬉しすぎる……っ!!
「さてと。じゃあ次は──」
「ねぇ、佐倉さん」
次の測定場所を探そうとしていた佐倉さんに、私は息を整えながら声をかける。
「ん? どうかしたの?」
「その……さっきのこと、何だけど」
「さっき? ……ああ! 何か悩んでるかーってやつ?」
「う、うん。えっと……そのことなんだけど」
「──ストップ!」
と、私が悩みを打ち明けようと開口した途端、佐倉さんは私を静止させた。
「え、えっと……」
「ごめんね。確かに、渚ちゃんのことについては知りたいこと多めだけど……そのことは、測定終わってからゆっくり聞くことにするよ!」
「……えっ?」
「だって、今は測定の方が大事でしょ? いい結果が残せなかったら後々後悔することになるし、私はそんなの嫌。だから、一旦そのことは忘れた方が、お互い気遅れしないで済むでしょ?」
佐倉さんの意見は尤もだった。
今するべきことは『打ち明ける』ことじゃない。『自分の記録を残す』ことだと思う。
でも私って、動揺したり悩み事を抱えてたりすると、こんなに普通の提案にすら感動する人だったけ……?
佐倉さんが言ったことは何も難しいことじゃない。
今していることは何か──それを考えればわかる話だったのに。……恥ずかしいっ!!
「……そう、だね。そうする」
「よし! あっ、何ならカフェにでも行こっか! この近くに昔から知ってる行きつけのお店があるんだー!」
「カ、カフェ?」
「うん。あ、もしかして寄り道禁止的なのある?」
「い、いや……そういうのはない、けど」
少し意外に思われただろうか、ちょっと疑問符を浮かべた顔をしてる。
クラストップカーストなんて大層な二つ名を持っている私だけれど、誰かと放課後に寄り道をするなんてことはしない。
そんな時間があるなら、晴斗との時間に当てたい。
たとえ彼の家で本を読む。それだけの時間だったとしても、私にとっては彼と同じ空間に居られる──そう実感出来る、唯一の時間だから。
「じゃあ、いいかな?」
佐倉さんはノリがいい。それは決して悪いことじゃない。そんなのより、クラスメイトとの会話に疎い私を引っ張ってくれる──本当に、スゴい長所だと思う。
「……うん。いいよ」
「はい! 決まりだね! そんじゃあ、さっさと残りのやっちゃおー!」
そう言った佐倉さんは更に勢いが増したらしく、運動神経を発揮し出したように私よりもいい好成績を残し続けた。
幸いなことに、私にも佐倉さんに勝てる唯一の競技があった。
それが、握力測定。……とは言っても、たった2つしか数字が違わなかったけど。
そしてあっという間に時間と体力は削られていき、女子の測定は終了した。
更衣室を出る頃には、入れ替わるようにして男子達が登校してきていた。その中に晴斗を見つけることは出来なかったけど、きっとまた手加減するんだろうなぁ。テストのときだけだ。彼が実力を出すのは。その話は──また別の話。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?
久野真一
青春
2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。
同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。
社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、
実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。
それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。
「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。
僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。
亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。
あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。
そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。
そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。
夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。
とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。
これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。
そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる