隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい

四乃森ゆいな

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第五部

第35話「私に、初めての友達が出来たらしい」

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「あ、そうだ! こうして会話出来てるしクラスメイトだし、堅苦しい呼び方は気に障るなぁ。これからは一之瀬さんじゃなくて“渚ちゃん”って呼んでもいい?」

「えっ……?」

「あっ! い、いきなりは馴れなれしかったかな? さっき初めて会話したばっかりなのに……」

「い、いや、そういうわけじゃなくて……その……。な、名前で呼ばれることに、あまり慣れてなくて……」

「えっ。でも、一之瀬さんの周りにいる人達はよく“渚”って呼んでるよね? あれは平気なの?」

「……あまり、気にしてなかった、から」

 確かにクラスメイトの中には、自然とそう呼ぶ人もいるけど、友達って概念でもなかったから気にすることもなくて……あまり考えてこなかった。

 けど、今は違う。
 やっと下の名前で呼んでくれるようになった幼馴染とか、親しくなれそうな佐倉さんに名前で呼ばれるのは……スゴく、嬉しく思える。この2つには、大きな差異がある。

 佐倉さんは少し意外そうな顔をしながら「そっか」と軽く頷いた。
 ここまでの短い中だったけど、佐倉さんには自然と……そう呼ばれてみたいと思える。

「……い、いきなりは難しい、けど。……私のことは、自由に呼んで、いいよ?」

「え、いいの? 緊張したりとかしない!?」

「さすがにそこまでじゃないから」

 ……何となく思ったことだけど。ひょっとしなくとも、佐倉さんって物凄く過保護?

「わかった! じゃあ、私は“渚ちゃん”って呼ぶね! 渚ちゃんは慣れるまで呼びやすいように呼んでいいから!」

「……わ、わかった」

「よし! じゃあ、残りの測定とか全部終わらせちゃおっか!」

 さっきまでも元気だったけど、見違えるほどに機嫌がいいように思える。私の名前を呼ぶ。それだけのことなのに、こんなに喜んでもらえるんだ。……スゴく嬉しい。

「あっ! ……私、自己紹介したっけ」

「……思い出したからいいよ。佐倉美穂みほさん、で合ってる?」

「うん! 改めまして、佐倉美穂です!」

「こちらこそ。一之瀬渚です、よろしくね」

 お互いに自己紹介も済み、私達は会話が弾み一緒に視力検査を済ませた。

 結果は2人とも去年と変わりはなく、良くも悪くもなってはいなかった。これに関しては心配してなかったけど……私からすれば深夜まで読書をする晴斗は、視力悪いと思う。

 残すところは体力測定のみ。
 体育館へと移動するため、私達はまたもや一緒に行動していた。
 佐倉さんって、運動とか出来るのかな。見たところ結構活発そうではあるけど。

「そういえば、渚ちゃんって運動とかは出来る方?」

「えっ? どうして?」

「だって、身体測定終わったし、次は体力測定なわけじゃん。お互い『パートナー』なんだし、パートナーの把握はしておかないとでしょ?」

「……っ、パートナー」

 佐倉さんが言ったことは、先日、私が晴斗に向かって零した愚痴だった。

「パートナーが欲しい」なんて……到底叶えられそうもない問題をよく自分で提示したなと思った。
 でも、諦めることはしなかった。
 たとえ1日でも、利害の一致があればいいと。そう、思っていたけれど──出会いとは、こんなにも巡り合うようなものなのだと考えもしなかった。

 ……そっか。
 私、佐倉さんと友達になれたんだ。

 それだけの、小学生でも簡単に出来る交友関係でも……どうして、こんなにも胸が熱いんだろう。……とっても、不思議な気分になった。

「うーん、どうだろう。みんなの実力とかあまり知らないから、自分がどれぐらいなのか把握しきれないけど……」

「難しいこと言うなぁ……」

「でも、中学では普通だったよ」

「じゃあ、苦手ではないってこと?」

「うん。苦手にしてる運動とかないけど、種目によってバラつきはあるかな」

「なるほど。そういうタイプかぁ~」

「そういう佐倉さんは?」

「私も普通かなぁ。好きってわけじゃあないし」

 よかった。もしここで「結構得意な方だよ~?」とか返ってきてたら、どうしよう……ってなるところだったな。
 どっかの誰かさんは、そんなこと考えず「面倒くさい」の一言で片づけそうな気がするけど。

「ま、体力測定なんて、みんな重く感じるものなんだから気軽にやってこ~。あー、苦労して進学校に入ったっていうのにここまで来て体力測定なんて、世の中厳しいね……」

 佐倉さんはガクッと肩を落とす。

 確かに一言で『進学校』と言ってもスポーツに力を入れるところと勉学に力を入れるところ。はたまた両方ってところがあるけど、ウチは基本的に学力重視。
 体力測定をやらなくても……っていう意見には賛同したい。

 それに……やりたくない理由の1つとして挙げるのが──『目』だ。

 運動神経は決して悪くはない。
 だからブーイングを受けることも軽蔑されることもない。そんな結果を残したことは、1度もない。

 ──ただ1つ、プレッシャーにはどう足掻あがいても勝てやしない。

 目というのはそういうこと。
 私には常に様々な目が向けられている。

 好奇心、恋愛感情、劣等感、侮蔑などなど……多種多様な目が常に私を見ている。
 言ってしまえば“注目されている”で片づくかも知れないが、一線を越えてしまえばそれは忽ち凶器へと変わる。

 つまり──いい結果を出さなければいけないということ。でないと、私に視線が集まらなくなってしまう。きっと晴斗は……本気でやらないだろうけど、一応ね。

 すると、先程まで項垂れていた佐倉さんが、後ろに結んだ髪を揺らしながら私の背中を「えいっ!」と勢いよく押した。

「ほらっ! さっさと行くよ!」

「え、えっ……と?」

 イマイチ状況が読み取れない私は、不覚にも情けない声を漏らす。
 だけどそれをまるで気にしないようにして、今度は私の右腕首を掴んできた。

「残りの測定、早いところ終わらせよ! 渚ちゃんと話したいこと山ほどあるんだから!」

「……話したいこと?」

「そう!」

 それって……いわゆるガールズトークってやつかな。
 同年代の子とそんな会話をしたことがないからか、佐倉さんのその一言がとても嬉しかった。

「そう、だね」

「よっしゃー! じゃあ行こう!」

 佐倉さんは非常にノリがいい。元気が有り余っているというか、爛漫らんまんな一面が非常に多いというか。だけどそれは──紛れもなく彼女の長所だ。

 私もクラスメイトとは話はするけれど積極的に話すことはしてこなかった。だって、興味が湧いてこなかったから。最近の流行とか、流行りのファッションとかも。

 けれど、佐倉さんに対してはそうは思わない。
 寧ろ好奇心の方が先立っている。
 他人にそこまで思わされるのは、初めてのことで、中々出来ることじゃないとも思った。それがたとえ、陽キャであったとしても。

 ……きっと佐倉さんとは、いい友達になれる気がする。

 彼女に引っ張られながらも、私は心の中でそう呟いた。
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