隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい

四乃森ゆいな

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第三部

第25話「幼馴染は、私のことを名前で呼ぶらしい①」

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 それから約1時間──いつもよりも長い晩ご飯の時間を過ごした。
 夕食後に出てきたフルーツケーキを見て、またもや優衣ちゃんが「やっぱどっか頭打ったんじゃないの!?」と、普段ならありえない兄らしい行動に困惑していた。

 頭をぶつけた可能性があるとすれば……行く途中の電車の中だろうか。
 でも、ハル君の記憶力がそこまで異次元ではないと確信していた私は、少しだけ優衣ちゃんに悪ノリする形でからかった。
 余計に怒られはしたものの、いつもより楽しいひと時を過ごせたと思う。

 そんな時間はいつまでも続くはずがなく、あっという間に時は流れた。私とハル君は後片付けを。本日の主役はいち早くお風呂へと入った。
 いつもであれば晩ご飯後は、部屋に真っ先に飛び込むって聞いてるけど、今日は早く寝るのかな。

「悪いな。片づけ手伝わせて」

「別にいいよ。私が好きでやってることだからね! それにここは、私にとっては第2の家族みたいなものだから!」

「それはそれでどうなんだ……?」

「さぁ~、どうなんだろうね」

 私とハル君で洗う側と拭く側に分かれている。つまり今、私はハル君と台所で隣同士に並んで立っていることになる。水と洗剤、スポンジを使って食器を洗う私と、その横で無表情・無関心でお皿を拭くハル君。

 ……何かこうやってると、家族みたいだなぁ。
 それに、さっきまで気にしていたことを吹っ切ったお陰か、さっきよりも落ち着いてハル君と“いつも通り”の会話が展開されている。

 いつも通りの……幼馴染らしい会話。
 そうだよ。たった1つ、それも呼び方ぐらいで嫉妬して……。ハル君にとっては、それが当たり前なはずなんだから。

 ──だから、これでいいんだよね。
 気にしたって……どうせこれはで、ハル君には単なる無理強いでしかない。そんな思いをしてまで呼んでもらう名前は……私にはない。

「案外、喜んでもらえるもんなんだな。ああいう、ちょっと子どもっぽいものでも」

「だから言ったじゃない。優衣ちゃんなら、何貰ったって喜ぶって!」

「だな。一之瀬の言う通りになった。ちょっと悔しい」

「何で張り合ってんのよ……。それに、最終的にプレゼントの中身を決めたの、ハル君じゃない。私は、単にアドバイスしただけだよ」

「そうかもだけど……礼ぐらい、言ったっていいだろ?」

「皮肉込めた礼だったけどね」

 ぷっと、私は軽く吹いた。
 するとハル君は、照れくさかったのか頬をピンク色に染めていた。純粋に礼出来ないとか、本当にハル君らしい。
 ありのままの……そんなハル君が、私は好き。

「……そういえばなんだけど」

「ん、なに?」

 皿洗いの最中だったために、ハル君に視線を合わすことなくそのまま聞くことにした。
 ハル君から疑問が出ること自体珍しい。そういう面倒くさいことには一切関わらない人だし、何かと頓着しないから、そういうのとは無縁だと思ってたな。
 少しの間を置いて、ハル君は言った。



「──お前さ。最近何かあったか?」



 一瞬──ハル君のその言葉に身体の神経が反応しビクついたが、何事も無かったようにすぐに手を動かした。

「…………。別に、何もないけど。どうしたの、急に」

「いや……お前ここ最近、ずっと僕と透の方見てたっぽいし、そのときの顔があんまり見たことないような顔だったから。何か、言いたいことでもあんのかな、と思って」

 …………見られてた?
 嘘……絶対バレないようにしてきたのに……っ!

 いや違う。──これは気づいてるんじゃない。疑ってるだけ。

 だったら……まだ、私の一方的なわがままで押し通るはず。私の一方的なわがままで、またハル君を縛るのは、絶対にダメ! の二の舞になる……。もう、ダメだってわかってるから。──だから!

「……別に。見てたのは確かだけど……本当に、何もなくて──」

「その顔で嘘を突き通すのは、さすがに無理があると思うけど?」

「えっ……?」

「今、お前──誰かに悩みを打ち明けたいって顔してるし。何かあるなら言え。大した協力は出来ないかもしんないけど、隠されると余計に腹立つから」

 ──どうして。
 ──ねぇ、どうして。

 どうしてハル君は……ただの幼馴染でしかないはずの私に、そんな真剣な目つきをしているの?

 ハル君の目はまるで八咫烏やたがらすのような鋭さと強烈さを併せ持った眼光を飛ばしているようだった。いつもだったら……そんな風に、聞かないくせに。いつもだったら……そんなに他人に深入りしないくせに。

 他人のことはどこまでも他人事。それが、緊急時か否かも判断出来るからこそ、ハル君は他人との距離を一定以上に詰め寄らない。

 中々信頼出来る友達も作らない。いや、違うな。作れないんだ。私のせいで──。

 ……だというのに。
 ハル君は、私から全てを聞くつもりでいるようだった。

 …………言ってもいいの? こんな、ただの一方的なわがままを。また、迷惑をかけることになるかもしれないのに……?

 今私はどんな顔をしているのだろうか──泣いてる? 困ってる? ……それとも、懇願するような顔をしてる?

 実際確かに、私は溜め込むことが苦手。いつまでも耐え続けるのが、とてつもなく嫌い。
 だけど今私は、彼から逃げようとしている? 何も言わず、逃げている?

 ……いいんだろうか。言っても。

 でも、いつもなら深入りしない彼が──こんな目をしていたら、もう引けない。どこにも逃げられない。そう、教えられているように思えた。

 私はそっと静かに口を開いた。

「…………して。……どうして。……何で……何で、藤崎君のこと──『透』って名前呼びするの……?」


 そして自然な形で──疑問が言葉として出てしまう。


「えっ、透? そりゃあ、あいつは友達だし……」

「……友達はよくて、幼馴染の私はダメなの?」

「一之瀬……?」

 不安や劣等感。醜い嫉妬、零れ出る本音。
 今、ハル君に言っていることは本音だけれど……私の中の、醜い部分でもある。

「嫌……嫌なのっ!! ハル君が藤崎君のことを『透』って名前呼びしてるのも、私だけ名前で呼んでくれないのも!! 私が……私自身をよごしていくのも、私だけが……『他人扱い』されてるって思うのも、全部……全部、嫌なの……!!」

 投げ出した言葉は、そのほとんどが最早八つ当たりだった。

 ──自分には訪れない、好きな人からの愛称という証。
 不安や劣等感、それらを今すぐにでも抹消したいはずなのに……本音で、本心で。そうやって認めてしまっている自分に腹が立つ。

 そして……心が優越感に飢えていると知ったときの、自分の独占欲の高さに失望した。

 ……どうして言っちゃったんだろう。
 ……どうして心理から消えてくれないのだろう。

 あまりにも自分が惨めで、掬い上がってくるものは全て醜い嫉妬が産んだ自己嫌悪──もう、隠すことにさえ疲れてしまった。枯れ果ててしまった。……私の、初めての叫び。
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