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第二部
第15話「幼馴染は、妹の策略にはまるらしい①」
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「……とりあえず着替えるか」
このまま裸でリビングに突っ立っているとまた一之瀬に何を言われても不思議じゃない。
それに、幼馴染と云えども相手は女子。
それぐらいの配慮をしてやらないと通報されるのはこっちだからな。
僕達“きょうだい”の部屋は2階にある。それぞれに部屋があるため、滅多なことがない限り部屋からは出てこない。
部屋へと続く扉を開けると、そこには──数え切れないほどの大量の本が山積みにされ、本棚にはこれ以上入らないほどラノベがぎっしりと詰まっている。
僕はこの通りのラノベオタクだし、妹はそもそも受験生なために部屋を出ないし、1番上の秀才様はそもそも家にいない。
……何だろう、この家系。結構悲惨な現状が飛び交っている気がする。
「はぁぁあ……。ダメだ、目眩がする……」
ため息を吐いた僕はそのままベッドへと背中から倒れる。
本棚に抽選で当たった直筆サイン入りの色紙などが入ったショーケース、それから所狭しと置いてある本の山……それは、本来寝るはずに使うベッドの上にさえも侵食されていた。……当事者は、僕なんだけど。
タンスから適当に寝間着を取り出して着替え、僕は再び横になった。
いつもであれば、着替え終えたら脱衣所に戻ってバスタオルを洗濯しなくてはいけないのだが、今日に限ってはそうもいかない。
何しろ、あの“学園一の美少女”が我が家のお風呂を利用しているのだから──。
うっかり脱衣所で出会ってしまっては言い逃れは不可能。いくら温厚な彼女でも、犯罪紛いのことをしでかした男を逃すわけがない。
そうなってしまっては運の尽き──僕は男子として在らぬ失態を犯すことになるのだ。
それだけは避けなくてはいけない……! 何があってもだ!
……だが、いつまでも湿ったタオルを放置していてはカビが生える。
考えては排除し、考えては薙ぎ払い……さっきからそれの繰り返し。
……我慢だ我慢。たった数十分の我慢だ。
一之瀬という幼馴染で『黒歴史』を作るなど冗談じゃない。
「……仕方ない。本でも読むか」
ベッドの上に散らかるラノベを手に取り、中から栞を取り出して読み始めた。
「…………………」
……静かだ。ものすごく、静かだ。
僕以外誰もこの部屋にいない。当たり前のはずのその事実に、何故か落ち着きを感じないのだ。……どうしてだ?
1人でいつもこの部屋にいる。
特別寂しいと感じたことはない。
……なのに、どうしてこうも落ち着かないのだろうか。
「はぁ……全然集中出来ん。……どうしたんだよ、僕」
いつもと変わらない日々を過ごしたはずだ。何の変わり映えもしない、ただいつもの、普通でありふれた休日を。
その瞬間──脳裏に浮かんだのは僕がよく知るあいつだけ──僕の幼馴染である『一之瀬渚』の存在だった。
……なるほど。そういうことか。
あいつは今日、1日中ウチに居たんだ。いつもよりも長く、いつもより身近に。
不甲斐なかった。
こんな、たった1人の幼馴染が居ただけで、こんなにも落ち着かなくなるなんて過去の僕からしたらありえないことだ。こんなの……僕には初めての感情だった。
本をパタン、と閉じてそのまま手から離す。
ベッドに完全に身を預け、このまま寝てしまいたいと思った。
そうすれば気持ちの整理がつくかもしれない。今僕は何を考え、何を思ったのか。それを考えたかったのだ。
一之瀬渚という、好きな幼馴染に対して感じた気持ちを整理するために──。
「……そっか。……そうだったんだ」
──ようやくわかった。
自分があいつに対しての気持ちも、どんな感情を抱いているのかも。
僕は……あいつが、一之瀬渚が……好きなんだ。
「……でも、あんま実感がないな」
だけど、整理はついても心の中の感情がはっきりとしなかった。
一之瀬に抱く気持ちは本物なのだろう。だが、果たしてこれが友情としての気持ちなのか、それともあいつと同じような気持ちなのか──僕にははっきりとわからない。
たとえ意識していたとしても、あいつを落とすことは男子を敵に回すということ。
……とてもじゃないが、あいつに「好きだ」と言える度胸ない。
それと、もう1つ理由がある。
一之瀬に僕の気持ちを伝えるための前提として、僕があいつを幼馴染以上に見ていなければ、それは友情としての『好き』と一緒ということだ。
だからまずは、はっきりさせる。
それまではあいつとは付き合えない。それも……僕の気持ちが変わらない限り──。
僕は天井へと手を伸ばす。
「……大空に向かって飛んでゆきたい」
「な、何やってんの……?」
すると、僕の部屋の扉が開き、そこから一之瀬が顔を覗かせた。
一之瀬は僕と違い、予め寝間着を持って行ったのだろう。普段は見ない彼女のパジャマ姿に、私服や制服とはまた違った可愛さがあると思った。
でも……心臓がうるさくなることはなかった。
「……別に。……少し、考え事してただけだ」
「考え事? ハル君にしては珍しいこと言うね。何かまずいことでも……というか、さっきのこと、まだ気にしてる? そ、その……あれは、私も悪かったし……」
髪を弄りながら一之瀬は僕に謝ってくる。
まだ完璧に乾ききっていないのか、彼女の髪から伝う雫がとても魅力的に見えた。
「いや、あれは不可抗力だから」
「……まぁそもそもとして、ハル君が、あ、あんな格好してくるからいけないんでしょ? 少しは社会性ってものを学んだ方がいいんじゃないの? あそこに私が居ること、知ってる風な口ぶりだったもの」
「……すみませんでした」
確かにリビングに彼女が居ることを、僕は知っていた。
勉強するだろうなと考えたとき、思い当たるのは妹の部屋かリビングのみだった。僕の部屋はご覧のとおりの有様だし、優衣は個人で勉強しているはず。
そうなると、もうリビングしか選択肢は残されていないというわけだ。
でも結局謝罪をするべきなのは僕なんだよな。すみませんでした。
……あれ? 今気づいた。何でこいつがここにいるんだ?
「お前、優衣の部屋で寝るんじゃなかったのか?」
「……っ!! ……そ、そう、だったんだけどぉ……──」
「何だ? はっきり言えよ」
「~~~っ、うぅぅ……!」
一之瀬は顔を真っ赤に染め上げ、まるで僕が彼女を言葉攻めしているかのようなシチュエーションになってしまった。全然、そんなことないけど。
すると……、
「──そこからは私からお話しよう!」
このまま裸でリビングに突っ立っているとまた一之瀬に何を言われても不思議じゃない。
それに、幼馴染と云えども相手は女子。
それぐらいの配慮をしてやらないと通報されるのはこっちだからな。
僕達“きょうだい”の部屋は2階にある。それぞれに部屋があるため、滅多なことがない限り部屋からは出てこない。
部屋へと続く扉を開けると、そこには──数え切れないほどの大量の本が山積みにされ、本棚にはこれ以上入らないほどラノベがぎっしりと詰まっている。
僕はこの通りのラノベオタクだし、妹はそもそも受験生なために部屋を出ないし、1番上の秀才様はそもそも家にいない。
……何だろう、この家系。結構悲惨な現状が飛び交っている気がする。
「はぁぁあ……。ダメだ、目眩がする……」
ため息を吐いた僕はそのままベッドへと背中から倒れる。
本棚に抽選で当たった直筆サイン入りの色紙などが入ったショーケース、それから所狭しと置いてある本の山……それは、本来寝るはずに使うベッドの上にさえも侵食されていた。……当事者は、僕なんだけど。
タンスから適当に寝間着を取り出して着替え、僕は再び横になった。
いつもであれば、着替え終えたら脱衣所に戻ってバスタオルを洗濯しなくてはいけないのだが、今日に限ってはそうもいかない。
何しろ、あの“学園一の美少女”が我が家のお風呂を利用しているのだから──。
うっかり脱衣所で出会ってしまっては言い逃れは不可能。いくら温厚な彼女でも、犯罪紛いのことをしでかした男を逃すわけがない。
そうなってしまっては運の尽き──僕は男子として在らぬ失態を犯すことになるのだ。
それだけは避けなくてはいけない……! 何があってもだ!
……だが、いつまでも湿ったタオルを放置していてはカビが生える。
考えては排除し、考えては薙ぎ払い……さっきからそれの繰り返し。
……我慢だ我慢。たった数十分の我慢だ。
一之瀬という幼馴染で『黒歴史』を作るなど冗談じゃない。
「……仕方ない。本でも読むか」
ベッドの上に散らかるラノベを手に取り、中から栞を取り出して読み始めた。
「…………………」
……静かだ。ものすごく、静かだ。
僕以外誰もこの部屋にいない。当たり前のはずのその事実に、何故か落ち着きを感じないのだ。……どうしてだ?
1人でいつもこの部屋にいる。
特別寂しいと感じたことはない。
……なのに、どうしてこうも落ち着かないのだろうか。
「はぁ……全然集中出来ん。……どうしたんだよ、僕」
いつもと変わらない日々を過ごしたはずだ。何の変わり映えもしない、ただいつもの、普通でありふれた休日を。
その瞬間──脳裏に浮かんだのは僕がよく知るあいつだけ──僕の幼馴染である『一之瀬渚』の存在だった。
……なるほど。そういうことか。
あいつは今日、1日中ウチに居たんだ。いつもよりも長く、いつもより身近に。
不甲斐なかった。
こんな、たった1人の幼馴染が居ただけで、こんなにも落ち着かなくなるなんて過去の僕からしたらありえないことだ。こんなの……僕には初めての感情だった。
本をパタン、と閉じてそのまま手から離す。
ベッドに完全に身を預け、このまま寝てしまいたいと思った。
そうすれば気持ちの整理がつくかもしれない。今僕は何を考え、何を思ったのか。それを考えたかったのだ。
一之瀬渚という、好きな幼馴染に対して感じた気持ちを整理するために──。
「……そっか。……そうだったんだ」
──ようやくわかった。
自分があいつに対しての気持ちも、どんな感情を抱いているのかも。
僕は……あいつが、一之瀬渚が……好きなんだ。
「……でも、あんま実感がないな」
だけど、整理はついても心の中の感情がはっきりとしなかった。
一之瀬に抱く気持ちは本物なのだろう。だが、果たしてこれが友情としての気持ちなのか、それともあいつと同じような気持ちなのか──僕にははっきりとわからない。
たとえ意識していたとしても、あいつを落とすことは男子を敵に回すということ。
……とてもじゃないが、あいつに「好きだ」と言える度胸ない。
それと、もう1つ理由がある。
一之瀬に僕の気持ちを伝えるための前提として、僕があいつを幼馴染以上に見ていなければ、それは友情としての『好き』と一緒ということだ。
だからまずは、はっきりさせる。
それまではあいつとは付き合えない。それも……僕の気持ちが変わらない限り──。
僕は天井へと手を伸ばす。
「……大空に向かって飛んでゆきたい」
「な、何やってんの……?」
すると、僕の部屋の扉が開き、そこから一之瀬が顔を覗かせた。
一之瀬は僕と違い、予め寝間着を持って行ったのだろう。普段は見ない彼女のパジャマ姿に、私服や制服とはまた違った可愛さがあると思った。
でも……心臓がうるさくなることはなかった。
「……別に。……少し、考え事してただけだ」
「考え事? ハル君にしては珍しいこと言うね。何かまずいことでも……というか、さっきのこと、まだ気にしてる? そ、その……あれは、私も悪かったし……」
髪を弄りながら一之瀬は僕に謝ってくる。
まだ完璧に乾ききっていないのか、彼女の髪から伝う雫がとても魅力的に見えた。
「いや、あれは不可抗力だから」
「……まぁそもそもとして、ハル君が、あ、あんな格好してくるからいけないんでしょ? 少しは社会性ってものを学んだ方がいいんじゃないの? あそこに私が居ること、知ってる風な口ぶりだったもの」
「……すみませんでした」
確かにリビングに彼女が居ることを、僕は知っていた。
勉強するだろうなと考えたとき、思い当たるのは妹の部屋かリビングのみだった。僕の部屋はご覧のとおりの有様だし、優衣は個人で勉強しているはず。
そうなると、もうリビングしか選択肢は残されていないというわけだ。
でも結局謝罪をするべきなのは僕なんだよな。すみませんでした。
……あれ? 今気づいた。何でこいつがここにいるんだ?
「お前、優衣の部屋で寝るんじゃなかったのか?」
「……っ!! ……そ、そう、だったんだけどぉ……──」
「何だ? はっきり言えよ」
「~~~っ、うぅぅ……!」
一之瀬は顔を真っ赤に染め上げ、まるで僕が彼女を言葉攻めしているかのようなシチュエーションになってしまった。全然、そんなことないけど。
すると……、
「──そこからは私からお話しよう!」
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