4 / 87
第一部
第3話「幼馴染は、男子の制服を着る」
しおりを挟む
昼休み。それは、午後の授業に向けての準備時間であるのと同時に、生徒や教師にとってのかけがえのない休息の時間。
僕は現在、入部して間もない文芸部の部室にて、例の呼び出し人──一之瀬渚を待っていた。
「……遅いな」
そうぼやかざるを得なかった。
現に呼び出しを喰らって既に20分以上が経過していたのだから。
なんて意地悪な女だろうか。自分から呼び出しておいて遅れるとは大層な重役出勤だこと。
しかしその間も僕は、時間を有効に使う。
無駄なことに労力を消費するほど僕の燃費は効率よく回っていない。
僕は彼女を待つ間、角川文庫のライトノベルを読んでいた。
本とお弁当だけ持っていくのはあまりにも惨めすぎる。鞄まで持参しているのはそのためだ。ぼっち確定だと思われたくないからな。
自分で自虐するのと相手に罵られるのとでは、また状況が違ってくる。
ラノベはいい。
気分転換という意味で読み始めたが、次第とそれだけの理由では枠に収められない“違う何か”が産まれてしまっていた、
僕には珍しい、好奇心というやつなのかもしれない。
一通り読み終え、再度時計へと視線を向けようとした瞬間、僕よりも小柄で茶髪にアイスブルーの瞳が良く似合う生徒が、扉を少々乱暴に開けて入ってきた。
「待たせちゃってごめん……。みんなの質問に答えてて、それで……」
「……別に。暇潰しも持ってきてたし」
暇潰し道具を見せびらかすようにした後、僕は再び読書を続ける。
程なくしてやって来た幼馴染──一之瀬渚は、僕の許可を待たずして部室に入り、僕の隣に三脚の椅子を置いた。
お昼を食べるのだろう。
持ってきた包みの中身が何か僕にはすぐにわかった。
……だが、一之瀬はその包みを開けるどころか、僕を“じーっと”睨みつけてきた。その近すぎる視線につい身体はビクッと反応する。
本当、コミュ力皆無な人に対してその視線は反則だと思う。
「……何だよ、ジロジロと見て」
「……いいえ」
一之瀬の声量がいつもより低めに感じられる。
……何だ? いつもより機嫌が斜めだな。
「どうしたんだよ。言いたいことがあるなら、言ってもいいぞ」
「……何でもない」
「何でもないでその視線の圧はおかしいだろ。お前らしくないぞ?」
「……逆に、ハル君から見て『いつもの私』ってどういう風に見えてるのよ」
「鬱陶しい奴」
「本人がいる前でよくそんなこと言えるわね!?」
「躊躇いがないって言って欲しいな。それに何を隠そう、僕が知っている一之瀬渚は本当の『一之瀬』だから隠しようがないだろ」
「~~~~~っ!! ……そ、そういうとこ、本当に容赦ないわね」
何故か視線を逸らしてしまった一之瀬。僕からの視点だと、加えて頬が真っ赤に染まっているのが伺えた。何で頬を染める。僕、今何か変なことでも言っただろうか?
「それより、お昼いいのか? もう1時過ぎてるが」
「……あっ! いっけなーい!」
この様子をみるに忘れてたな。持ってきた荷物を確認しろ今すぐに。
一之瀬は慌てた様子を見せつつも言動は冷静だった。お弁当の包みを開けると、そこから顔を覗かせたのは何度も見てきた、一之瀬の手作り弁当の姿だった。
サラダに揚げ物、それからふりかけの乗ったご飯。
バランスよく構成されたお弁当から漂う香ばしい香り。僕は立ち上がって窓を軽く開ける。
「ちょ、さ、寒い……。な、何で開けるの?」
「匂いが残る。それに寒いなら、もう少し着込んで来いよ」
「きょ、教室……なんだもの。仕方ないじゃない」
「……はぁぁあ。わかったよ。それじゃ、僕の上着でも着るか?」
現在の一之瀬の格好は、ジャケットは着ておらずブラウスとカーディガンを着ているだけ。春の陽気が出てきているとはいえ、まだ寒さは残っている。
こんなところで風邪を引かれても困るので、僕は自分の着ていた上着を一之瀬に差し出す。
瞬間、一之瀬はその場に固まった。
まるで──凍てついたかのように動かない。
表情すら固まってるとか、一体今どんな精神状態なわけ……? スゴく謎が残る。
──たかが上着1枚。
それにどんな価値を見出しているのか知らないが、さっさと着てくれないだろうか。
「……ほら、さっさと着ろ。僕はカーディガンじゃなくてセーターだからまだ平気だし」
「…………あ、ありがとう」
「……おう」
僕から視線を外したまま上着を受け取った一之瀬。一旦箸を置いて、僕の上着を大人しく羽織った。
……ふむ。さすが“学園一の美少女”と言われているだけのことはある。やはり完璧美少女は何を着ても似合うものだ。男子の上着は女子と若干デザインが異なるが、ほぼ誤差はないはずだ。
……それだというのに、一之瀬はまるで普段から着ているかのように、男子用の制服を完璧に着こなしてみせた。男装してもバレなさそう。
今の一之瀬はまるで──『イケてる男子高校生』って感じだ。
「な、何ジロジロ見てるの……?」
「いや。何というか……似合うなぁーと思って」
「なっ——!! ……そ、そんなに……似合う?」
「うん。まぁ、そこら辺にいる男子高校生よりも似合ってるだろうな、確実に」
すると、一之瀬は再び顔を背けた。
……あれ? 本音だけを言ったつもりが、また無意識のうちに何かしでかしたのか?
「………………………バカ」
ぼそっと、一之瀬は呟く。
しかし生憎と、僕には彼女が何を言ったのか聞こえなかった。
僕は現在、入部して間もない文芸部の部室にて、例の呼び出し人──一之瀬渚を待っていた。
「……遅いな」
そうぼやかざるを得なかった。
現に呼び出しを喰らって既に20分以上が経過していたのだから。
なんて意地悪な女だろうか。自分から呼び出しておいて遅れるとは大層な重役出勤だこと。
しかしその間も僕は、時間を有効に使う。
無駄なことに労力を消費するほど僕の燃費は効率よく回っていない。
僕は彼女を待つ間、角川文庫のライトノベルを読んでいた。
本とお弁当だけ持っていくのはあまりにも惨めすぎる。鞄まで持参しているのはそのためだ。ぼっち確定だと思われたくないからな。
自分で自虐するのと相手に罵られるのとでは、また状況が違ってくる。
ラノベはいい。
気分転換という意味で読み始めたが、次第とそれだけの理由では枠に収められない“違う何か”が産まれてしまっていた、
僕には珍しい、好奇心というやつなのかもしれない。
一通り読み終え、再度時計へと視線を向けようとした瞬間、僕よりも小柄で茶髪にアイスブルーの瞳が良く似合う生徒が、扉を少々乱暴に開けて入ってきた。
「待たせちゃってごめん……。みんなの質問に答えてて、それで……」
「……別に。暇潰しも持ってきてたし」
暇潰し道具を見せびらかすようにした後、僕は再び読書を続ける。
程なくしてやって来た幼馴染──一之瀬渚は、僕の許可を待たずして部室に入り、僕の隣に三脚の椅子を置いた。
お昼を食べるのだろう。
持ってきた包みの中身が何か僕にはすぐにわかった。
……だが、一之瀬はその包みを開けるどころか、僕を“じーっと”睨みつけてきた。その近すぎる視線につい身体はビクッと反応する。
本当、コミュ力皆無な人に対してその視線は反則だと思う。
「……何だよ、ジロジロと見て」
「……いいえ」
一之瀬の声量がいつもより低めに感じられる。
……何だ? いつもより機嫌が斜めだな。
「どうしたんだよ。言いたいことがあるなら、言ってもいいぞ」
「……何でもない」
「何でもないでその視線の圧はおかしいだろ。お前らしくないぞ?」
「……逆に、ハル君から見て『いつもの私』ってどういう風に見えてるのよ」
「鬱陶しい奴」
「本人がいる前でよくそんなこと言えるわね!?」
「躊躇いがないって言って欲しいな。それに何を隠そう、僕が知っている一之瀬渚は本当の『一之瀬』だから隠しようがないだろ」
「~~~~~っ!! ……そ、そういうとこ、本当に容赦ないわね」
何故か視線を逸らしてしまった一之瀬。僕からの視点だと、加えて頬が真っ赤に染まっているのが伺えた。何で頬を染める。僕、今何か変なことでも言っただろうか?
「それより、お昼いいのか? もう1時過ぎてるが」
「……あっ! いっけなーい!」
この様子をみるに忘れてたな。持ってきた荷物を確認しろ今すぐに。
一之瀬は慌てた様子を見せつつも言動は冷静だった。お弁当の包みを開けると、そこから顔を覗かせたのは何度も見てきた、一之瀬の手作り弁当の姿だった。
サラダに揚げ物、それからふりかけの乗ったご飯。
バランスよく構成されたお弁当から漂う香ばしい香り。僕は立ち上がって窓を軽く開ける。
「ちょ、さ、寒い……。な、何で開けるの?」
「匂いが残る。それに寒いなら、もう少し着込んで来いよ」
「きょ、教室……なんだもの。仕方ないじゃない」
「……はぁぁあ。わかったよ。それじゃ、僕の上着でも着るか?」
現在の一之瀬の格好は、ジャケットは着ておらずブラウスとカーディガンを着ているだけ。春の陽気が出てきているとはいえ、まだ寒さは残っている。
こんなところで風邪を引かれても困るので、僕は自分の着ていた上着を一之瀬に差し出す。
瞬間、一之瀬はその場に固まった。
まるで──凍てついたかのように動かない。
表情すら固まってるとか、一体今どんな精神状態なわけ……? スゴく謎が残る。
──たかが上着1枚。
それにどんな価値を見出しているのか知らないが、さっさと着てくれないだろうか。
「……ほら、さっさと着ろ。僕はカーディガンじゃなくてセーターだからまだ平気だし」
「…………あ、ありがとう」
「……おう」
僕から視線を外したまま上着を受け取った一之瀬。一旦箸を置いて、僕の上着を大人しく羽織った。
……ふむ。さすが“学園一の美少女”と言われているだけのことはある。やはり完璧美少女は何を着ても似合うものだ。男子の上着は女子と若干デザインが異なるが、ほぼ誤差はないはずだ。
……それだというのに、一之瀬はまるで普段から着ているかのように、男子用の制服を完璧に着こなしてみせた。男装してもバレなさそう。
今の一之瀬はまるで──『イケてる男子高校生』って感じだ。
「な、何ジロジロ見てるの……?」
「いや。何というか……似合うなぁーと思って」
「なっ——!! ……そ、そんなに……似合う?」
「うん。まぁ、そこら辺にいる男子高校生よりも似合ってるだろうな、確実に」
すると、一之瀬は再び顔を背けた。
……あれ? 本音だけを言ったつもりが、また無意識のうちに何かしでかしたのか?
「………………………バカ」
ぼそっと、一之瀬は呟く。
しかし生憎と、僕には彼女が何を言ったのか聞こえなかった。
1
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。
かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?
久野真一
青春
2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。
同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。
社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、
実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。
それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。
「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。
僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。
亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。
あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。
そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。
そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。
夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。
とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。
これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。
そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる