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第五部
第51話 たった1つだけ、女神様が貰いたいプレゼント
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僕は少しため息を吐くと上に着ていたブレザーを脱ぎ、ネクタイを少し緩め、カーディガンの裾を捲り上げて美桜の元へと歩み寄る。
こんなのは本当に面倒だ。
誰かに期待され、誰かに必要とされることに、もう嫌気が指す。あんなのは所詮まやかしだ。自分の思った方向へ向かうことが無ければ即座に切り捨て、そして破門にする。
痛いぐらいに知っている。──だから僕は、目立つことが嫌いなのだ。
誰かに注目されることも……。
誰かに良いように扱われることも……。
もう、散々だった。
であれば、助ける必要も皆無だったかもしれない。美桜もまた、僕を利用しているだけなのだから。……って、そう断言出来たら、本当に楽だったんだけどな。
美桜は振り払おうと必死に藻がき続ける。だが離すようなことはしてこないだろう。ああいう、真っ直ぐな一面を持つ人間を簡単に納得させるのは非常に困難だ。
あのままいけば、きっと告白だったりとか、既成事実だったりとかにも最悪なるんだろうが……生憎と幼馴染のそれを見逃せるほど、安い脳はしていない。
僕は美桜の手首を掴む元凶を逆に掴み、そのまま彼女から引き剥がすことに成功する。
「……っ!! みっ……い、和泉君」
美桜は僕の『名前』を呼ぼうとしていたが、咄嗟のことで頭が回っていなかったこともあったのだろう。すぐに状況を再確認し、今度は『名字』で名前を呼んだ。
「な、何だよ……! お前も、真城さんに断られた口かよ!」
「……だったら?」
僕は相手を煽るようにして言い返す。すれば当然、感情が昂っている相手なら尚更、この挑発に乗らないはずがない。
「退けよ! 真城さんにしっかりとして理由を話してもらわなきゃ気が済まないんだよっ!」
「それにしては、些か強引だったように見えたんだが? 真城さん、同意だったのか?」
「いいえ。無許可です」
即答だった。
僕が彼女のことを名字呼びにしたことに一切の躊躇もせずに、僕のことを真っ直ぐ見てくれる目は……もう、あっぱれとしか言いようがない。
「だそうだ。まぁ関わったついでだ。お前達の言い分を聞いてやってもいいが?」
「な、何を偉そうに……!」
確かに、先程まで外野同然だった見知らぬ男子が止めに入っても、不信感しか抱かないわな。
「お前も断られたならわかるだろ! 真城さんは、大した理由も言わずに俺達のプレゼントを受け取ってくれないんだ! 1つぐらい、受け取ってくれてもいいだろ!?」
「1つぐらい……ねぇ」
美桜がこの人達にどんな『理由』を話したのかは大体想像がつく。
おそらくだが──『誰からも受け取るつもりないので』とか例年同様のことを言ったに違いない。
だが居るんだよな。そんなことでって言って、納得出来ない熱心なファンが。
追尾もほどほどにしないと、廊下で会っても無視されることになるというのに。こいつの頭の良さは僕が一番理解してるからな。それぐらい予想出来る。
……さて、どうしたもんかなぁ。
本当の理由を話したところで更に逆ギレさせてしまいそうだし……さすがにそんなことになったら僕でも収拾出来ない。
ならば敢えて、乗ってみてもいいかもな。
「もしだ。もしお前の言う通り、真城さんが『誰かから』1つでもプレゼントを受け取れば、お前は納得するのか? 本当に誰彼構わず見捨てるような人じゃないって。そう考え直せるか?」
「な……なんで、そんなこと!」
「知ってるかな。大抵みんな、真城さんの理由にケチつけるんだよ。提示してくる内容は人それぞれだけどな。それで、どうする?」
「……わかった。なら、俺からのプレゼントを受け取ってくれ!」
おっと。そう来たか。てっきり違う奴が真っ先に渡すかと思っていたんだが。
長年付き合ってきた僕も、こんなに熱心に渡そうとしている人は見たことがないな。それだけ美桜に惚れているのか。あるいは尊敬しているのか。謎だけど。
けれど──結果なんてやる前から見えているのだが。
「ごめんなさい。あなたからのプレゼントは受け取れません」
これまた即答だった。
可哀想だとは思うが、こいつは信用出来る人間を目で拵えているだけなんだ。もし、お前が真正面から美桜に関わっていれば、受け取るぐらいはしたと思うけどな。
僕はその光景を見た後に、自席へと戻る。
その最中に美桜にプレゼントを渡そうという勇敢な戦士はいなかった。これで身に染みただろう。みなが思う真城美桜とは、ただの想像でしかないのだと。
「……けど、惚れるのはわかる。好きになれるのはわかるよ。たとえそんなでも、容姿端麗で才色兼備、スポーツ万能に文武両道。当てはまる熟語なんて数え切れないしな。その中でも似合いそうなのは、大和撫子かな」
「褒めてますか、それ?」
「褒めてる褒めてる。じゃあ、次は僕の番かな」
「……えっ?」
遠くからでも聞こえた、美桜の少し抜け出た声。
それは驚きと動揺。それらが入り混じったような、明らかな証拠だった。
僕は鞄から小さな袋を取り出して、美桜の元へ戻りそれを渡す。
……手がかかるのは日常だけだと思ってたけど、まさかここでもとは思ってなかった。
お陰で、美桜にとってはちょっと早い約束果たしが出来るのかな。
「……これ、って」
「日頃のお礼分」
「……誕生日の、とは言ってくれないんですね」
「それは後でだ。一応それもプレゼントだし……僕のだったら、どうだ?」
「……ありがとうございます。大切にします」
あっさりと受け取った。
そして、その光景を目の当たりにした男子達とクラスメイトは、愕然とした様子で僕達のことを見ていた。
「な、なななな、な……んで!?」
「……いいのですか?」
「何がだよ」
男子の方へに意見を向けてやれと思うが、一々確認してくるのは美桜らしい。前にもあったな、こんなやり取り。
「ここで私がプレゼントを本格的に受け取れば、あのときの約束を果たしてもらうことになりますよ?」
「『学校での僕を知りたい』んだろ。……もう、腹括った。仕方なくだけど」
「……っ!! 本当に……あなたって人は。つくづく、良いものをくれますね!」
美桜は笑顔のサインを送る。僕も了承した。これで、あのときの約束は実行される。
そう、同居し始めた初日の夜。
美桜は言っていた。──学校での僕のことを知りたいと。
けれど目立ちたくない僕は、昼休みからという仮置きの約束をしてその場を収めていた。
でも、もう無理かもと思った。
今後もこういう状況は出てくるだろうし、何より美桜が僕に向けてくる視線が怖いのなんのって……。
生半可な気持ちじゃない。
誰かに必要とされることに、まだ僕の中では渦を巻いているけれど、それもいつか解けるかもしれないし。何より、学校でのこいつも危ないって思っちゃったからな。
美桜はふぅーっと息を吐き、膝をつきながらこちらを見る男子達へと視線を向けた。
「──私は、他人より人を見るという目が優れています。ですから皆さんの目の奥にある下心がある感じ、非常に気に入りません」
「「「「なっ────!?」」」」
何でバレたって顔してるけれど、美桜は構わず話を続けた。
「なので私は、他人からプレゼントを受け取りません。そこだけは理解してください」
「じゃ、じゃあ! 何でそいつのだけ……!」
当然な疑問を美桜に提示する。
だが美桜は、僕の言葉を信用して『事実』を打ち明けた。
「──彼のことを、私は一番信用しています。それに、幼馴染なので信用して当たり前です」
「………………………………」
その長い沈黙の後、昼休みの騒がしい教室が、悲鳴と絶叫で浴びこるカーニバル状態となってしまった。
そしてそれを見ていた伊月は、腹を抱えて笑っていた。……そもそもの元凶、お前なんだけど。
こんなのは本当に面倒だ。
誰かに期待され、誰かに必要とされることに、もう嫌気が指す。あんなのは所詮まやかしだ。自分の思った方向へ向かうことが無ければ即座に切り捨て、そして破門にする。
痛いぐらいに知っている。──だから僕は、目立つことが嫌いなのだ。
誰かに注目されることも……。
誰かに良いように扱われることも……。
もう、散々だった。
であれば、助ける必要も皆無だったかもしれない。美桜もまた、僕を利用しているだけなのだから。……って、そう断言出来たら、本当に楽だったんだけどな。
美桜は振り払おうと必死に藻がき続ける。だが離すようなことはしてこないだろう。ああいう、真っ直ぐな一面を持つ人間を簡単に納得させるのは非常に困難だ。
あのままいけば、きっと告白だったりとか、既成事実だったりとかにも最悪なるんだろうが……生憎と幼馴染のそれを見逃せるほど、安い脳はしていない。
僕は美桜の手首を掴む元凶を逆に掴み、そのまま彼女から引き剥がすことに成功する。
「……っ!! みっ……い、和泉君」
美桜は僕の『名前』を呼ぼうとしていたが、咄嗟のことで頭が回っていなかったこともあったのだろう。すぐに状況を再確認し、今度は『名字』で名前を呼んだ。
「な、何だよ……! お前も、真城さんに断られた口かよ!」
「……だったら?」
僕は相手を煽るようにして言い返す。すれば当然、感情が昂っている相手なら尚更、この挑発に乗らないはずがない。
「退けよ! 真城さんにしっかりとして理由を話してもらわなきゃ気が済まないんだよっ!」
「それにしては、些か強引だったように見えたんだが? 真城さん、同意だったのか?」
「いいえ。無許可です」
即答だった。
僕が彼女のことを名字呼びにしたことに一切の躊躇もせずに、僕のことを真っ直ぐ見てくれる目は……もう、あっぱれとしか言いようがない。
「だそうだ。まぁ関わったついでだ。お前達の言い分を聞いてやってもいいが?」
「な、何を偉そうに……!」
確かに、先程まで外野同然だった見知らぬ男子が止めに入っても、不信感しか抱かないわな。
「お前も断られたならわかるだろ! 真城さんは、大した理由も言わずに俺達のプレゼントを受け取ってくれないんだ! 1つぐらい、受け取ってくれてもいいだろ!?」
「1つぐらい……ねぇ」
美桜がこの人達にどんな『理由』を話したのかは大体想像がつく。
おそらくだが──『誰からも受け取るつもりないので』とか例年同様のことを言ったに違いない。
だが居るんだよな。そんなことでって言って、納得出来ない熱心なファンが。
追尾もほどほどにしないと、廊下で会っても無視されることになるというのに。こいつの頭の良さは僕が一番理解してるからな。それぐらい予想出来る。
……さて、どうしたもんかなぁ。
本当の理由を話したところで更に逆ギレさせてしまいそうだし……さすがにそんなことになったら僕でも収拾出来ない。
ならば敢えて、乗ってみてもいいかもな。
「もしだ。もしお前の言う通り、真城さんが『誰かから』1つでもプレゼントを受け取れば、お前は納得するのか? 本当に誰彼構わず見捨てるような人じゃないって。そう考え直せるか?」
「な……なんで、そんなこと!」
「知ってるかな。大抵みんな、真城さんの理由にケチつけるんだよ。提示してくる内容は人それぞれだけどな。それで、どうする?」
「……わかった。なら、俺からのプレゼントを受け取ってくれ!」
おっと。そう来たか。てっきり違う奴が真っ先に渡すかと思っていたんだが。
長年付き合ってきた僕も、こんなに熱心に渡そうとしている人は見たことがないな。それだけ美桜に惚れているのか。あるいは尊敬しているのか。謎だけど。
けれど──結果なんてやる前から見えているのだが。
「ごめんなさい。あなたからのプレゼントは受け取れません」
これまた即答だった。
可哀想だとは思うが、こいつは信用出来る人間を目で拵えているだけなんだ。もし、お前が真正面から美桜に関わっていれば、受け取るぐらいはしたと思うけどな。
僕はその光景を見た後に、自席へと戻る。
その最中に美桜にプレゼントを渡そうという勇敢な戦士はいなかった。これで身に染みただろう。みなが思う真城美桜とは、ただの想像でしかないのだと。
「……けど、惚れるのはわかる。好きになれるのはわかるよ。たとえそんなでも、容姿端麗で才色兼備、スポーツ万能に文武両道。当てはまる熟語なんて数え切れないしな。その中でも似合いそうなのは、大和撫子かな」
「褒めてますか、それ?」
「褒めてる褒めてる。じゃあ、次は僕の番かな」
「……えっ?」
遠くからでも聞こえた、美桜の少し抜け出た声。
それは驚きと動揺。それらが入り混じったような、明らかな証拠だった。
僕は鞄から小さな袋を取り出して、美桜の元へ戻りそれを渡す。
……手がかかるのは日常だけだと思ってたけど、まさかここでもとは思ってなかった。
お陰で、美桜にとってはちょっと早い約束果たしが出来るのかな。
「……これ、って」
「日頃のお礼分」
「……誕生日の、とは言ってくれないんですね」
「それは後でだ。一応それもプレゼントだし……僕のだったら、どうだ?」
「……ありがとうございます。大切にします」
あっさりと受け取った。
そして、その光景を目の当たりにした男子達とクラスメイトは、愕然とした様子で僕達のことを見ていた。
「な、なななな、な……んで!?」
「……いいのですか?」
「何がだよ」
男子の方へに意見を向けてやれと思うが、一々確認してくるのは美桜らしい。前にもあったな、こんなやり取り。
「ここで私がプレゼントを本格的に受け取れば、あのときの約束を果たしてもらうことになりますよ?」
「『学校での僕を知りたい』んだろ。……もう、腹括った。仕方なくだけど」
「……っ!! 本当に……あなたって人は。つくづく、良いものをくれますね!」
美桜は笑顔のサインを送る。僕も了承した。これで、あのときの約束は実行される。
そう、同居し始めた初日の夜。
美桜は言っていた。──学校での僕のことを知りたいと。
けれど目立ちたくない僕は、昼休みからという仮置きの約束をしてその場を収めていた。
でも、もう無理かもと思った。
今後もこういう状況は出てくるだろうし、何より美桜が僕に向けてくる視線が怖いのなんのって……。
生半可な気持ちじゃない。
誰かに必要とされることに、まだ僕の中では渦を巻いているけれど、それもいつか解けるかもしれないし。何より、学校でのこいつも危ないって思っちゃったからな。
美桜はふぅーっと息を吐き、膝をつきながらこちらを見る男子達へと視線を向けた。
「──私は、他人より人を見るという目が優れています。ですから皆さんの目の奥にある下心がある感じ、非常に気に入りません」
「「「「なっ────!?」」」」
何でバレたって顔してるけれど、美桜は構わず話を続けた。
「なので私は、他人からプレゼントを受け取りません。そこだけは理解してください」
「じゃ、じゃあ! 何でそいつのだけ……!」
当然な疑問を美桜に提示する。
だが美桜は、僕の言葉を信用して『事実』を打ち明けた。
「──彼のことを、私は一番信用しています。それに、幼馴染なので信用して当たり前です」
「………………………………」
その長い沈黙の後、昼休みの騒がしい教室が、悲鳴と絶叫で浴びこるカーニバル状態となってしまった。
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