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第一部

第4話「女神様とぼっちの分担審議会」

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第4話 女神様とぼっちの分担審議会

「期限付きの同居だったら、いい。どうせここの家賃安いし、誰かが同居始めても居候とかで誤魔化せる……と、思う」

「本当、ですか? 私、ここに『同棲』してもいいんですか?」

「同棲じゃなくて『同居』だっての!」

 まずはこの2つの言葉の違いを説明した方がいいんじゃないのか?
 と、美桜の世間ずれに付き合っている最中、美桜は口を開いてこう言った。

「それと、家賃のことですが、私も払います。せっかく同棲出来るわけですから」

「同居な。けど、別に家出ぐらいで家賃を払わせるわけには……」

「心配はいりません。部屋に『湊君の家に家出します』と書き置きを残してきたので、暫くは帰らないことは承知するでしょうし。そうしたら、ここの家賃も払ってくれるかと思うので」

 ……バカだよな、コイツ。もう、バカとしか言えないんだけど。書き置き残してきたら家出の意味無くね? 今すぐ家に強制送還じゃん。

 すると、僕の困惑に反応したのか、美桜はクスッと嘲笑する。

「冗談です。さすがに家出の常識ぐらいはありますよ」

「家出に常識とか無いと思うんだけど」

 僕は呆れ気味に言った。

「ですが、最低限のこととして、家出するという根本的なことは知っています。どこに、とまでは言っていませんが」

 まぁそれぐらいは言っておくべきだろうな。

 僕は美桜とは9年も幼馴染をやってきてはいるが、実のところ、コイツの両親には1度も会ったことはない。
 家に行ってみたいと、何度も言ってみたが見事なまでに断られた。

 おそらく理由として、僕のことを気遣ってくれているのだろう。
 これと言った突発的な根拠があるわけではないけれど、美桜から聞く僅かな家庭環境の図を絵におこしてみると大体の察しはついた。

 美桜の両親は共に、稽古中の娘に厳しく、そして日常での娘には極端に甘い。

 ──即ち、親バカであることなど、すぐにわかった。

 しかしそうなってくると心配になってくるのが、友人関係についてだろうか。

 親ならば誰もが子どもの『学校生活』について気になるものだ。美桜はそこそこな生活は送っているものの、親に胸を張って堂々と言えるほどではない。それは美桜も理解しているし、何より近くで見てきた僕だからわかる。

 そして、そんな孤高な存在である娘に唯一出来た友達が……平凡な男子の、この僕だけ。
 それを両親が知ればどういう反応をするのか……想像しただけでも恐ろしい。きっと、2度と美桜の前には姿を見せることが出来ないほどに、ボコボコにされるんだろうなぁ……。(※これは和泉湊の妄想であり現実ではありません。)

 とまぁ、そういう可能性が両者(主に僕)に残っている以上、迂闊にはばらせない。
 美桜もそれは、重々理解しているらしい。
 自分の親がしそうなことだもんな……美桜になら、僕よりも恐ろしい可能性を閃くことが出来そうだな。末恐ろしい。

「……さて、私からの話はこれぐらいにしておきましょう」

「元々はお前の家出騒動のせいなんだが?」

「それも置いておきましょう」

 置いておくな。救助しろ。

「こうして、湊君のお家に居候させてもらうのです。それ相応のお礼をしなくては人間としての根本が許しません」

「はぁ……」

「そこで、です。私が、和泉家基湊君の家の家事を担当したいのですが、よろしいでしょうか?」

 まるで家政婦みたいな、一切直らないお嬢様口調は続き、さすがに指摘するのも疲れてきたので、今のところは大目に見るか。

 それよりも、家事担当か。確かに居候とはいえ、これから美桜はこの家に「ただいま」を言うようになる。それは自分の家と変わりないことと同じだ。
 本来なら居候とはいえ遠慮したいところだけど、美桜相手にそれは無理だろうな。本人様はやる気満々のようだし。

 丁度人数も2人なわけだし、分担しておくに越したことはないだろう。
 僕は彼女の提案に行使するように手を挙げて発言権を貰う。

「分担はわかった。その方が助かるし、共同生活なら基本だろうけど……さすがに、家事全般を美桜に押し付けるわけにはいかないよ」

「ふむ。それは、どうしてでしょうか?」

「……僕はまだ1人暮らしの経験は浅いけど、家事は一通り出来るし、別にお前1人に一任させておく理由がない。その証拠に、そのパスタは僕が作ったしな。……茹でただけだけど」

 僕は自分に不利になりそうな台詞を残して、発言を終わらせた。ってか、何この審議会。
 美桜は「ふむ」と軽く頷いて……、

「確かにそうですね。湊君の料理は美味しかったです。茹でただけですが」

「復唱しなくていい……」

「湊君が言ったんじゃないですか」

「いや、まぁ……そうなんですけどねぇ」

 そこはやはり、空気を読めない真城美桜の本性が出てしまったようだ。傷口を抉るなよ……。

 とはいえ、これは完全に僕自身が逃げる退路を自分自身で絶ってしまったことが原因だ。
 美桜だけが一概に悪いとは言えないので、ドローということにしておこう。

「は、話を戻そう。この話をしてたら、時間かかるかも知れないからさ」

「そうですか。では、改めて。湊君が1人暮らしをしている以上、一通りの家事が出来ることは承知しました。ですが、こう言っては難だと思いますが。──私の方が上手いです」

「遠慮もくそもないな、お前……。ってか、美味しそうにしてたじゃん!」

「美味しいのは確かです。そこは事実なので認めます。ですが、私の方が、このミートソーススパゲティをより美味しく出来ました。それもまた、事実です」

 せ、正論すぎて、否定すら出来ない……。

 中学の調理実習で美桜が作った和風料理を食べたことがあるが、家で食べているものが物足りなく感じるほどに強烈な美味しさがあった。
 それを知っているせいで、余計に反論しにくいな……。

 かと言って、これ以上この『分担審議会』を開いても意味をさない。
 ……平和的に解決する方法は、たった1つだな。

「……わかった。お前が家事をしたいならしてもいい。ただし、当番制だ!」

「当番制……ですか?」

「そう。あくまでこの家の家主(仮)だからな。家主が何もしないわけにもいかないだろう。かと言って、お前は絶対引き下がらないだろうし……。だったら、いっそのこと当番制にしちゃった方が万事解決になるだろうと思ってよ」

「……なるほど。当番制とは、盲点でした」

「自分でやりたがりだもんな、美桜は」

「……私の悪い癖です。ついつい、湊君だったら世話を焼きたがってしまって」

「えっ? 僕限定なの?」

 話す相手が僕以外いないから、わからないでもないけどさ……。

「はい」

 ……こうもきっぱりと肯定されると、否定しにくいし、益々計画から遠のいていく気がするのは、気のせいだろうか?
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