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第2章:若殿奮闘編
8話
しおりを挟むさて、ここでいくつかの話を駆け足でお送りします。
1547年、既報の通り、元春が吉川経世の養子となります。ちなみに例の婚姻話も無事にこぎつけ、順風満帆な夫婦生活をスタートさせました。
同じく1547年、神辺城の戦いが勃発。隆景くんはこの戦で初陣を果たし、しかも大活躍。援軍に来た陶くんから絶賛され、大内義隆名義の感状までGETします。
この人は本当に、調べれば調べるほどセンスの塊みたいな人で、隆元が卑屈になる気持ちもわかります。
ちょっと進んで1549年、元春・隆景の2人を伴い、元就が山口を訪問します。ちょうど二人とも元服を済ませたということもあり、義隆への顔見せをすることになったのです。
ちなみにこの時、隆元が隆景に宛てた手紙が現存しています。内容は「太守様とお風呂に入る時のマナー」「太守様とお寝んねする時のマナー」といったホモの指南書みたいな内容で、隆元くんの心配ぶりが伺えます(隆景はさぞウザかったことでしょうねえ)
さあ、そんな山口から物語は再開します。
-*-*-*-*-*-*-*-
「こちら、次男の元春、三男の隆景にございます」
元就は二人を連れ、義隆の部屋を訪れました。
義隆はチラチラと二人を見比べ、顔の良い方(隆景)をロックオンすると、
「隆景殿、今夜わしの寝所に参れ」
と、さっそくセッ●スのお誘いをしました。
隆景はこの時16歳。ちょうどいいですね。
ちなみにこの時代この辺の武将で「隆」の字が入っている武将は、みんな太守様の御手付きだったと言われております。毛利隆元、小早川隆景、陶隆房、弘中隆包、天野隆綱──。
なのでこの小説では意図的に「陶くん」「弘中くん」と名字呼びをしております。じゃないと、
『隆房は隆包に隆元について訊ねた』
みたいな、誰が誰やらわからない感じになってしまうのです。
そういう意味では、大内義隆の性への奔放さは、500年後のネット小説にまで影響を及ぼしているという……。
えー、話を戻します。
隆景が太守様のお誘いをスマートにお受けすると、話題はビジネスの方に移ります。
「つきましては、先だって弘中様経由でお話してあります通り、2つの小早川家を統一し、隆景をその当主とする件、太守様にもご承認いただきたく、」
「ああ、よい」
「ありがとうございます。あともう1点、元春の吉川家なのですが、」
「ああ、詳しく言わずとも良い。毛利殿の思う通りにされよ」
……元就は、面食らってしまいました。
話を進めやすいのは良いことですが、これが西国の盟主・大内義隆とはとても思えません。まるで脱け殻のようです。
そんな雰囲気を察してか、義隆は力ない声で
「……最近は、誰が敵で誰が味方か、ようわからんでな」
と呟きました。
「晴持を失ったあの戦、負けたのは陶のせいだと相楽に言われ、しかし今度は、相楽こそ奸臣であると陶に言われ、相楽は山口から消えてしもうた。教えてくれ毛利殿、わしは誰を信ずれば良い?」
元就は、同様を隠しつつ、しっかりとした口調で返答します。
「……恐れながら、一番に信ずるべきは己の声にございます。自分がこれと信じた道を進むこと。そうでないと、上の迷いはすぐ下に見透かされ、家中はバラバラになってしまいます」
その言葉に、
義隆はほろりと涙を流します。
「……そうであるな。お主の言う通りじゃ。これからも期待しておるぞ、毛利殿」
義隆は元就の手を取り、仏でも拝むように、頭を下げました。
貼り付けたような笑みで応対する元就でしたが、この時ひとつの確信を覚えます。
それは、
『大内家に未来はない』ということです──。
-*-*-*-*-*-*-*-
夜中、元就の宿泊している寺に客人が訪れました。
陶隆房です。
「率直に申し上げる。これからの大内はどこを目指すべきか、御指南いただきたい」
この頃、側近だった相楽さんは身の危険を感じ、九州まで逃亡していました。
そのため陶くんは政権の中枢に返り咲き、無気力な太守様に代わり、大内家の舵取りを任されておりました。
「恐れながら、狙うは博多にございます」
月山冨田城であれだけ迷惑かけておいて、どの面下げて……という気持ちはなくもなかったですが、元就は懇切丁寧に博多の重要性を説きました。
博多は西日本きっての貿易港であり、ここを抑えることはつまり、瀬戸内から大坂までの物流をほぼ手中に収めることと同義であったわけです。
が、懇切丁寧に説いたのにはワケがあります。
ひとつは、陶の目線が九州に向けば、毛利家に対する警戒が薄まるから。
もうひとつは『困っている人間に恩を売る』ことが、この世で一番高く付くからです。
そうとも知らず、陶くんは有り難そうに元就の話を聞きました。
えー、真面目な話が一段落すると、元春も交えての飲み会になりました。
隆景くんは太守様にお呼ばれされているので、この場にはおりません。
「なんだ、お主はフラれたか。俺と一緒だな」
この時、陶くんと元春はやけに仲良くなり、義兄弟の契りまで交わしています。
同じ武門の家柄ということもありますが、太守様に選ばれなかったという心の寂しさが、二人を結びつけたのかも知れません──。
-*-*-*-*-*-*-*-
さて、留守番の隆元はと言うと。
安芸に赴任している弘中くん、そして懐かしの天野くんを吉田郡山に呼んで、同窓会を開いておりました。
「お久しぶりです、毛利殿!」
隆元が山口を経ってから、もう10年が立っています。
天野くんとはその間、手紙のやり取りをしたり、月山冨田城攻めの陣中で会ったりはしていたものの、こうしてゆっくりと飲むのは久々でした。
「いやー、我々もすっかり大人ですねー」
「そういえば毛利殿、家督を継いだそうじゃないか。めでたい限りだ」
「事務仕事を押し付けられただけですよ。毎日書類に判子押して、帳簿を確認して、って感じで」
「そういえば弘中様、陶様とは連絡取ってるんですか?」
「仕事の話ばかりだ。いま山口は権力闘争が激化していてな、明日には謀反人になっておるかも知れん」
「どうなっちゃうんですかね、これからの大内は」
「ま、安芸を死守しているうちは大丈夫でしょ。そのためには父上に長生きしてもらわないとね」
と、楽しく飲んでいるところに、
国司さんが突如、手紙を持って参上しました。
「お取り込み中のところ失礼いたします。大殿(=元就)より、殿に文が届きましてございます」
殿だって。ひゅーひゅー。
みたいな軽いイジリの後、隆元は手紙を読むために中座しようとしました。が、
「えーと、多分皆さんで読まれた方が、盛り上がるかなと存じます」
「……お前中身見たな」
「すいません見ました」
と言うので、3人は盛り上がりながら手紙を開封しました。
するとそこには、
『隆元へ。お前に嫁を取ることにした。お相手は長門国守護代・内藤興盛様のご息女、あや殿である』
『吉田郡山にはあや殿を連れて戻る。戻り次第、祝言を挙げるので、国司に言って準備をさせるように』
と書いてありました。
「………ええええええええ!!」
隆元は、恐らく生まれてから一番大きな声を出しました。
終わりかけていた宴会は急遽続行し、夜が明けるまで飲み明かしましたとさ。
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