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第1章:山口青春編

4話

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 大内義隆という人は、ホモでショタコンでした。
 ですから、夜に呼び出すというのは、ソッチの相手をしなさいということに他ならないんですが、ただ今日の隆元の場合、ソッチでない可能性もあります。
 つまり、普通に怒られるだけ、という可能性です。

 ですから、隆元としても微妙な心持ちで『準備』にあたりました。

 「天野くん、君もお呼ばれしたことあるんだよね?」

 「ええ。こちらに来て数日後に」

 「何着ていった?」

 「最初に頂いた蔵物(プレゼント)の中に、お着物があったので、それを着ていきました。毛利殿にもありませんでしたか?」

 「あ、あったあった。でも……大丈夫かなあ」

 「下着だけ着ていくというのはどうでしょう? 事に及んだ時に『実は……』というのも、なかなか趣があるかと」

 「さすが、歌に詳しいだけあるね」

 ということで、下着はセクシー、でも上着は普通、という露出狂みたいな出で立ちで、隆元は太守様のお部屋に向かいました。

 -*-*-*-*-*-*-*-

 「毛利隆元、ただいま参上いたしました」

 「うむ、入るがよい」

 襖が開くと、姿勢を崩した格好で、大内義隆が鎮座しておりました。
 義隆は、隆元をじろじろと見つめると、開口一番、

 「……上着は」

 と言いました。

 「上着でございますか」

 「そうじゃ。蔵物に入れておいただろう、何故着てこぬのだ」

 なんだ、ただエッチするだけか。
 若干の安堵感を覚えつつ、隆元はなるべく表情を崩さぬよう、話を続けます。

 「……申し訳ございませぬ。てっきり、本日の講義の件で呼ばれたのかと」

 「まあ、その件もあるのじゃがな」

 えっ。
 隆元は思わず声を出してしまいました。

 その様子がおかしかったのか、義隆は笑いながら手招きをします。
 『近う寄れ』の合図です。
 隆元が言われるまま近付くと、義隆は後ろから隆元を抱き寄せ、しっとりと頬を寄せました。

 「……晴持から聞いたぞ。わしが間違えた、と言ったそうじゃな」

 「いえ、それはその、けして太守様を貶めるようなつもりでは、」

 「わかっておる。陶親子はどうも自信家なところがあるからな。鼻につく気持ちはわからんでもない」

 義隆は、近くにあった菓子をふたつ手に取ると、ひとつを自分に、もうひとつを隆元の口に運びました。
 そしてそのままの流れで、義隆の指が隆元の顎を伝います。

 「……兵が少なかった、という指摘は確かに一理ある。しかし、陶が『5000で足りる』と言ったところを『1万連れていけ』と言うのは、必ずしも得策ではないのじゃ」

 「そうなのですか」

 「自分の身に置き換えて考えてみよ。『自分は殿に信用されていない』と思わぬか?」

 「心配していただいてありがたいな、と思います」

 「ふふっ。まぁ、お主はそうかも知れんが、陶は違うのだ。『任せる』と言ってやらねば、ヤツの実力を引き出すことは出来ぬ。『自分は信用されている、自分は愛されている』という感覚は、誰にとっても大切なものじゃ」

 愛、という言葉に若干のホモホモしさを感じつつ、隆元はお菓子を噛んでみました。味わったことのない甘やかな風味が、口いっぱいに広がります。

 「しかし、さすがは毛利の倅。胆が座っておるのう。晴持にも見習ってほしいぐらいじゃ」

 「……私は、父には似ておりませぬ」

 「そんなことはあるまい、親は子に似るものよ。おっ、下着は着てきおったか」

 義隆の指はまるで蛇のように、隆元の着物の中へと入り込むと、少年の柔肌をついばみながら、その頭を真っ直ぐ下へと(自主規制)

 -*-*-*-*-*-*-*-

 一夜明け、隆元はそそくさと部屋を出ました。厳密にはまだ夜も明けきらぬ頃合いで、城の中は静まり返っております。
 ちなみに、隆元くんにとってはこれが『初めて』でございました。だもんで軽い夏風邪のような、妙な余韻に浸りながら、人気のない廊下をこそこそ歩いておったわけですが、

 不意に、ある人と出くわします。
 義隆の嫡子・晴持くんです。

 なんでこんなところに、なんでこんな時間に?
 と、疑問が言葉になる前に、晴持くんの口が開きます。

 「……許してほしい」

 晴持くん、ずいぶんと険しい顔をしております。

 「昨日の講義の件、本当は言いつける気などなかったのだ。ただ、父上があまりに辛く叱ってくるもので、つい言い返したくなって、その、」

 「あ、あの、何か勘違いされておられませんか? 太守様はけしてお怒りではありませんでしたよ」

 「……え、そうなのか?」

 お怒りだったら一晩たっぷり愛し合いませんよ──と言いかけて、隆元は口を紡ぎました。
 一方の晴持は、罪悪感から解放され、わかりやすく表情が緩んでおります。

 「うむ、なら良いのじゃ。待ち伏せのような真似をしてすまんかったな」

 軽やかに去っていく若様。
 その背中を見つめながら、隆元くんは思わずこう呟きます。

 「……太守様って、怒るんだ」

 つい今し方まで一緒にいた太守様は、優しくて、良い匂いがして、とってもテクニシャンでした。
 しかし太守様とて人の親。大事な子供だからこそ厳しくなってしまう……なんて親心は、この時の隆元くんにはまだわからないのでございました。
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