13 / 14
13:タイトルのネタが尽きてきた
しおりを挟む
「海斗くんはなんであんな所にいたの?」
水をたっぷり含んだ靴が、歩く度にチャプチャプ音をたてる。
「...おれの前世の侍があそこで死んだんだ。」
「そっか。」
「怖かった。」
「...そっか。」
「あのねおにーさん、おれの前世ね、食べ物に困って、村の人の家から食べ物盗って、追いかけられて...殺されちゃった。」
その声は、いつか姉に前世を自慢していた声ではない。失望に近いような、ため息混じりの声だった。
「カッコ悪い。侍のくせに。」
「...そっか。」
どう返すのが正解なのかわからなかった。
「だからおれもねえちゃん困らせて怒らせてばっかりなのかな。」
雨はいつしかやんでいた。
何回目かの坂を登ると、登山道の端が見えた。やったぜ。
「ねえ、おにーさん、なんで前世なんて思い出さなきゃいけないんだろうね。」
誰もが1度は思ったことだった。最初で、最大の疑問だ。
「そうだなあ...。」
僕は暫く考えた。
「例えばね、僕の前世が階段で転んだとするだろ?それを思い出して僕は階段を使う時気をつけようって思うんだ。」
「うん...?」
「でも、急いでる時とか、気が抜けてる時とか、そんなこと忘れてるんだ。だから階段で転んじゃう。何回も転んだよ。」
「それはおにーさんがどん臭いだけじゃない?」
耳が痛い。いや、確かにどん臭いけど。
「そうじゃなくて...。それでね、僕はその度に、あー前世でも同じことしてたから気をつけようとしてたのにまたやっちゃった、って思うんだ。」
「うん。」
「もしかしたら神様は、そう思わせるために僕達に前世の記憶を持たせたんじゃないかな。」
「どういうこと?」
「同じ過ちをしてしまうのはしょうがないことだよ、そりゃ人間だからね。でもね、それを後悔するとしないとでは全然違うと思うんだ。」
僕は前世のことを、暫く思い描いた。
「後悔することも大事だってことさ。もちろんそれだけじゃ駄目だけど。」
「...分かった、気がする...多分。」
僕の頬は自然と緩んでいた。
山を降りて、家から新しいタオルをとってきた。そして舞ちゃんを捜した。
交番の中で、びしょ濡れになって椅子に座っていた。
「海斗...!!!」
舞ちゃんは、海斗くんを見るなり駆け寄ってきた。姉弟は抱き合って声を上げて泣いていた。
良かった。
「佐藤さん...本当に...ありがとうございます...!」
「ははは、嬉しいね...舞ちゃんみたいな可愛い子にこんなに喜ばれるのなんて人生で1度あるかないか...はは...」
多分僕はこんなことをほざいたんだと思う。よく覚えていない。
「な、な何言ってるんですか!というか、えらくボロボロじゃないですか佐藤さ」
視界がいきなり真っ暗になって、膝から崩れ落ちた。
「まじかよ...。」
1回目は、交通事故。曇天を見上げて自嘲するように笑った。
「いつも逢いに来てくれてありがとう...。」
2回目は、餓死。排気口の下で、汚れた毛並みを整えた。
「愛してるよ。」
3回目は、通り魔。暗くなる視界の真ん中には最後まで泣きじゃくる恋人が映っていた。
「ごめん...ね...。」
4回目は、転落死。痛々しいほどの青空に、涙を残した。
「俺が守ってやるからな。」
5回目は、火事。その屈強な腕には小さな赤ん坊を抱き、自分の両親を思い描いた。
「わたしは世界一の幸せ者だよ。」
6回目は、老衰。たくさんの人を愛し、愛された。
7回目はまだだよ、と言われた気がした。
まだお前は生きなきゃいけないだろ?
水をたっぷり含んだ靴が、歩く度にチャプチャプ音をたてる。
「...おれの前世の侍があそこで死んだんだ。」
「そっか。」
「怖かった。」
「...そっか。」
「あのねおにーさん、おれの前世ね、食べ物に困って、村の人の家から食べ物盗って、追いかけられて...殺されちゃった。」
その声は、いつか姉に前世を自慢していた声ではない。失望に近いような、ため息混じりの声だった。
「カッコ悪い。侍のくせに。」
「...そっか。」
どう返すのが正解なのかわからなかった。
「だからおれもねえちゃん困らせて怒らせてばっかりなのかな。」
雨はいつしかやんでいた。
何回目かの坂を登ると、登山道の端が見えた。やったぜ。
「ねえ、おにーさん、なんで前世なんて思い出さなきゃいけないんだろうね。」
誰もが1度は思ったことだった。最初で、最大の疑問だ。
「そうだなあ...。」
僕は暫く考えた。
「例えばね、僕の前世が階段で転んだとするだろ?それを思い出して僕は階段を使う時気をつけようって思うんだ。」
「うん...?」
「でも、急いでる時とか、気が抜けてる時とか、そんなこと忘れてるんだ。だから階段で転んじゃう。何回も転んだよ。」
「それはおにーさんがどん臭いだけじゃない?」
耳が痛い。いや、確かにどん臭いけど。
「そうじゃなくて...。それでね、僕はその度に、あー前世でも同じことしてたから気をつけようとしてたのにまたやっちゃった、って思うんだ。」
「うん。」
「もしかしたら神様は、そう思わせるために僕達に前世の記憶を持たせたんじゃないかな。」
「どういうこと?」
「同じ過ちをしてしまうのはしょうがないことだよ、そりゃ人間だからね。でもね、それを後悔するとしないとでは全然違うと思うんだ。」
僕は前世のことを、暫く思い描いた。
「後悔することも大事だってことさ。もちろんそれだけじゃ駄目だけど。」
「...分かった、気がする...多分。」
僕の頬は自然と緩んでいた。
山を降りて、家から新しいタオルをとってきた。そして舞ちゃんを捜した。
交番の中で、びしょ濡れになって椅子に座っていた。
「海斗...!!!」
舞ちゃんは、海斗くんを見るなり駆け寄ってきた。姉弟は抱き合って声を上げて泣いていた。
良かった。
「佐藤さん...本当に...ありがとうございます...!」
「ははは、嬉しいね...舞ちゃんみたいな可愛い子にこんなに喜ばれるのなんて人生で1度あるかないか...はは...」
多分僕はこんなことをほざいたんだと思う。よく覚えていない。
「な、な何言ってるんですか!というか、えらくボロボロじゃないですか佐藤さ」
視界がいきなり真っ暗になって、膝から崩れ落ちた。
「まじかよ...。」
1回目は、交通事故。曇天を見上げて自嘲するように笑った。
「いつも逢いに来てくれてありがとう...。」
2回目は、餓死。排気口の下で、汚れた毛並みを整えた。
「愛してるよ。」
3回目は、通り魔。暗くなる視界の真ん中には最後まで泣きじゃくる恋人が映っていた。
「ごめん...ね...。」
4回目は、転落死。痛々しいほどの青空に、涙を残した。
「俺が守ってやるからな。」
5回目は、火事。その屈強な腕には小さな赤ん坊を抱き、自分の両親を思い描いた。
「わたしは世界一の幸せ者だよ。」
6回目は、老衰。たくさんの人を愛し、愛された。
7回目はまだだよ、と言われた気がした。
まだお前は生きなきゃいけないだろ?
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【10】はじまりの歌【完結】
ホズミロザスケ
ライト文芸
前作『【9】やりなおしの歌』の後日譚。
11月最後の大安の日。無事に婚姻届を提出した金田太介(カネダ タイスケ)と歌(ララ)。
晴れて夫婦になった二人の一日を軸に、太介はこれまでの人生を振り返っていく。
「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ10作目。(登場する人物が共通しています)。単品でも問題なく読んでいただけます。
※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
生意気な後輩が嫁になりたがっている
MiYu
ライト文芸
主人公、神門煉(みかどれん)は、バスケ部に所属している。今年入学してきた後輩女子こと、霧崎悠那(きりさきゆな)が煉に迫って来るどころか求婚してくる
坂の上の本屋
ihcikuYoK
ライト文芸
カクヨムのお題企画参加用に書いたものです。
短話連作ぽくなったのでまとめました。
♯KAC20231 タグ、お題「本屋」
坂の上の本屋には父がいる ⇒ 本屋になった父親と娘の話です。
♯KAC20232 タグ、お題「ぬいぐるみ」
坂の上の本屋にはバイトがいる ⇒ 本屋のバイトが知人親子とクリスマスに関わる話です。
♯KAC20233 タグ、お題「ぐちゃぐちゃ」
坂の上の本屋には常連客がいる ⇒ 本屋の常連客が、クラスメイトとその友人たちと本屋に行く話です。
♯KAC20234 タグ、お題「深夜の散歩で起きた出来事」
坂の上の本屋のバイトには友人がいる ⇒ 本屋のバイトとその友人が、サークル仲間とブラブラする話です。
♯KAC20235 タグ、お題「筋肉」
坂の上の本屋の常連客には友人がいる ⇒ 本屋の常連客とその友人があれこれ話している話です。
♯KAC20236 タグ、お題「アンラッキー7」
坂の上の本屋の娘は三軒隣にいる ⇒ 本屋の娘とその家族の話です。
♯KAC20237 タグ、お題「いいわけ」
坂の上の本屋の元妻は三軒隣にいる ⇒ 本屋の主人と元妻の話です。
エイプリルフールなので存在しない記憶の話しようぜ
黒い白クマ
ライト文芸
今日は4/1ですね(出オチ)
近年は大抵アイコンをリアルな白熊にすることで祭りを乗りきっていたんですが、たまには物書きらしいボケがしたいものです。
今年は何でボケようか考えてたんですけど、今ちょっとした困り事があって。そんで連鎖的に丁度一年前エイプリルフールに、同居してるトッモ達が面白いことをしていたことを思い出したんすね。なので、その話をちんたら書き連ねていこうかなと思います。ツイートでもいいかなーと思ったんすけど、多分話長くなるし区切りながら話したいので小説サイト使うことにしました。対よろ。
※2022年にカクヨムに投稿したものを再掲。なろう、pixivにも掲載。
【完結】のぞみと申します。願い事、聞かせてください
私雨
ライト文芸
ある日、中野美於(なかの みお)というOLが仕事をクビになった。
時間を持て余していて、彼女は高校の頃の友達を探しにいこうと決意した。
彼がメイド喫茶が好きだったということを思い出して、美於(みお)は秋葉原に行く。そこにたどり着くと、一つの店名が彼女の興味を引く。
「ゆめゐ喫茶に来てみませんか? うちのキチャを飲めば、あなたの願いを一つ叶えていただけます! どなたでも大歓迎です!」
そう促されて、美於(みお)はゆめゐ喫茶に行ってみる。しかし、希(のぞみ)というメイドに案内されると、突拍子もないことが起こった。
ーー希は車に轢き殺されたんだ。
その後、ゆめゐ喫茶の店長が希の死体に気づいた。泣きながら、美於(みお)にこう訴える。
「希の跡継ぎになってください」
恩返しに、美於(みお)の願いを叶えてくれるらしい……。
美於は名前を捨てて、希(のぞみ)と名乗る。
失恋した女子高生。
歌い続けたいけどチケットが売れなくなったアイドル。
そして、美於(みお)に会いたいサラリーマン。
その三人の願いが叶う物語。
それに、美於(みお)には大きな願い事があるーー
僕とコウ
三原みぱぱ
ライト文芸
大学時代の友人のコウとの思い出を大学入学から卒業、それからを僕の目線で語ろうと思う。
毎日が楽しかったあの頃を振り返る。
悲しいこともあったけどすべてが輝いていたように思える。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる