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11:カッコよくキメたいよね!
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「おにーさん?」
僕は反射的に身を起こした。
さっき、海斗くんの声が聞こえた気がしたが...幻聴だろうか。今の体調では有り得る。
そもそも、こんな崖下にいる訳が無い。
「海斗くん?」
周りを見渡す。
「どうしてここにいるの?」
今度ははっきり聞こえた。驚いたような口調だった。
濡れた地面に、海斗くんが座っていた。少し気が早い半袖だった。ツンツン髪は、濡れてぺったんこになっている。寒そうだ。
「こっちの台詞だよ...。」
回らない頭のまま立ち上がる。また世界が歪んだ。
僕は海斗くんの方へ歩み寄った。打った腰が鈍く痛む。
「おにーさん...本物?」
「本物だよ。」
頭を撫でてやった。
すると海斗くんの目から、みるみるうちに大粒の涙がこぼれだした。
大声で泣きながら、すがりつくように僕に抱きついてきた。海斗くんが泣く姿も初めて見た。なんだ年相応の男の子じゃないか。
「ありが..どう...!ごめんなさ...い....」
分かった...分かったんだがその...爪がめちゃくちゃ刺さってるんだ、海斗くん。
「大丈夫だよ海斗く...」
まずい。
僕は膝をついた。頭が割れそうだ。
「...どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。」
悪寒がする。身体中に鳥肌が立つのを感じた。
「うわっ!」
海斗くんが大きなつり目を見開いた。
「おにーさん、頭から血が出てる!」
なぜか海斗くんの方が泣きそうな顔をした。
僕は頭を打った覚えはない。
「枝とかで切れたのかな?そんなに痛くないから大丈夫だよ。」
むしろ、内部からの痛みの方が辛い。
僕は、わざとらしいほどに明るい表情をしてみせた。
「帰ろうか。」
海斗くんが首を横に振った。
小さく鼻をすすって、また目にじわっと涙が滲んでいる。
「...どうして?」
僕は海斗くんの膝に、赤い痕を見つけた。
痛々しく血が垂れている。
「ここに来る時に転んだ...おにーさんみたいにアクロバティックな落ち方はしなかったけど。」
「...。」
そんな言葉どこで覚えたんだ。
とにかく、ここでずっと居るのはまずい。もうすぐ夏だとはいえ、夜は冷える。ただでさえ僕達は雨に濡れている。
「おんぶするよ。乗って、海斗くん。」
屈むとまた世界が歪む。
大丈夫、こんな苦しさ、ホテルマンが火の中で赤ん坊を守った時に比べたらなんでもない、はずだ。
「いっ....」
思い切りぶつけた左腕を動かした瞬間、鋭い痛みが走る。折れてるかもしれない。
「やっぱりおれ歩く。」
「いや、僕に任せて。すぐにお姉ちゃんに会えるよ。」
僕は、転げ落ちてきた崖を見上げる。身長の3倍はある。打ちどころが悪かったらどうなっていたことか。ゾッとしたが、今も状況的にはあまり変わっていない。
その坂はまさに崖と言うにふさわしい急勾配であった。生えている木は、大きく曲がって空へ背伸びをしているようだ。見れば見るほど恐ろしい。今にも崩れ落ちてきそうだ。
「おにーさん...。」
駄目だ、小学生にまで気を遣わせちゃ。
僕は、崖の中でも比較的坂の急ではない所から登ることにした。見える範囲で回り道を探してみたが、どこもあまり変わらない。
「しっかり掴まっててね。」
首元に回された海斗くんの腕に力が入る。
深呼吸をして、足を踏み出した。
周りよりは急ではないとはいえ、手をつかないと立っていられない。中高の6年間、トロンボーンに息を吹き込み続けていただけの僕にはかなり厳しかった。
絶対に帰る。
僕は、崖の上を睨んだ。上を向いた拍子に、目に雨粒が入ったのですぐに下を向いた。
あっ待って、雨粒やめろおい。前が見えないだろ。カッコつけるんじゃなかった。
僕は反射的に身を起こした。
さっき、海斗くんの声が聞こえた気がしたが...幻聴だろうか。今の体調では有り得る。
そもそも、こんな崖下にいる訳が無い。
「海斗くん?」
周りを見渡す。
「どうしてここにいるの?」
今度ははっきり聞こえた。驚いたような口調だった。
濡れた地面に、海斗くんが座っていた。少し気が早い半袖だった。ツンツン髪は、濡れてぺったんこになっている。寒そうだ。
「こっちの台詞だよ...。」
回らない頭のまま立ち上がる。また世界が歪んだ。
僕は海斗くんの方へ歩み寄った。打った腰が鈍く痛む。
「おにーさん...本物?」
「本物だよ。」
頭を撫でてやった。
すると海斗くんの目から、みるみるうちに大粒の涙がこぼれだした。
大声で泣きながら、すがりつくように僕に抱きついてきた。海斗くんが泣く姿も初めて見た。なんだ年相応の男の子じゃないか。
「ありが..どう...!ごめんなさ...い....」
分かった...分かったんだがその...爪がめちゃくちゃ刺さってるんだ、海斗くん。
「大丈夫だよ海斗く...」
まずい。
僕は膝をついた。頭が割れそうだ。
「...どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。」
悪寒がする。身体中に鳥肌が立つのを感じた。
「うわっ!」
海斗くんが大きなつり目を見開いた。
「おにーさん、頭から血が出てる!」
なぜか海斗くんの方が泣きそうな顔をした。
僕は頭を打った覚えはない。
「枝とかで切れたのかな?そんなに痛くないから大丈夫だよ。」
むしろ、内部からの痛みの方が辛い。
僕は、わざとらしいほどに明るい表情をしてみせた。
「帰ろうか。」
海斗くんが首を横に振った。
小さく鼻をすすって、また目にじわっと涙が滲んでいる。
「...どうして?」
僕は海斗くんの膝に、赤い痕を見つけた。
痛々しく血が垂れている。
「ここに来る時に転んだ...おにーさんみたいにアクロバティックな落ち方はしなかったけど。」
「...。」
そんな言葉どこで覚えたんだ。
とにかく、ここでずっと居るのはまずい。もうすぐ夏だとはいえ、夜は冷える。ただでさえ僕達は雨に濡れている。
「おんぶするよ。乗って、海斗くん。」
屈むとまた世界が歪む。
大丈夫、こんな苦しさ、ホテルマンが火の中で赤ん坊を守った時に比べたらなんでもない、はずだ。
「いっ....」
思い切りぶつけた左腕を動かした瞬間、鋭い痛みが走る。折れてるかもしれない。
「やっぱりおれ歩く。」
「いや、僕に任せて。すぐにお姉ちゃんに会えるよ。」
僕は、転げ落ちてきた崖を見上げる。身長の3倍はある。打ちどころが悪かったらどうなっていたことか。ゾッとしたが、今も状況的にはあまり変わっていない。
その坂はまさに崖と言うにふさわしい急勾配であった。生えている木は、大きく曲がって空へ背伸びをしているようだ。見れば見るほど恐ろしい。今にも崩れ落ちてきそうだ。
「おにーさん...。」
駄目だ、小学生にまで気を遣わせちゃ。
僕は、崖の中でも比較的坂の急ではない所から登ることにした。見える範囲で回り道を探してみたが、どこもあまり変わらない。
「しっかり掴まっててね。」
首元に回された海斗くんの腕に力が入る。
深呼吸をして、足を踏み出した。
周りよりは急ではないとはいえ、手をつかないと立っていられない。中高の6年間、トロンボーンに息を吹き込み続けていただけの僕にはかなり厳しかった。
絶対に帰る。
僕は、崖の上を睨んだ。上を向いた拍子に、目に雨粒が入ったのですぐに下を向いた。
あっ待って、雨粒やめろおい。前が見えないだろ。カッコつけるんじゃなかった。
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