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8:夢の低気圧系男子デビュー
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その日は、雨だった。多分梅雨入りしたのだろう、ここのところずっと雨だ。気が滅入る。
寝相が悪いことに定評のある(推測)僕は、気づくと半裸状態だった。なんでちゃんとボタンを閉めたパジャマが脱げてるんだ。
今朝は、頭痛が特に酷かった。
テレビをぼーっと眺めながらお茶をすする。
『速報です』
先程まで「梅雨も楽しんじゃおう!!レイングッズ特集♪」をしていたニュース番組を流していたテレビから、アナウンサーの緊迫した声が聞こえてきた。
「怖いくらいイソスタ映えするレインコート」、ちょっと気になってたんだが。
画面が慌ただしく切り替わる。
『今日未明、T市で殺人未遂事件が発生しました。』
「...近くじゃん。」
周りに誰もいないのに、反射的に呟いた。
近くというか、僕が住んでいる市だ。
『現場から中継です。』
ブルーシートで囲まれた、小さな食堂が画面に大写しにされた。
「...近くじゃん。」
大学へ行く時に通る所だ。
『はい、こちら現場です。えー、今日未明、こちらで40代の男性が、何者かによって切りつけられました。えー、』
まあ、すぐ捕まるだろう。逃げ回れるほどこの市は広くないし、身を隠すにしても森しかない。いや、森は絶好の身の隠しどころなのか?
男性アナウンサーの声を聞き流しながら、窓の外を見る。雨はかなり強く降っていた。起きた時より強くなっている。
『犯人はまだ捕まっておらず、警察は捜査を進めています。』
頭が痛いのは、低気圧のせいなのだろうか。ついに僕も低気圧系男子デビューだろうか。
一日中頭痛と闘い...時に負け...いや、ほぼ負け...いや、全敗し、死にかけながら家に帰ってきた。
図書館で調べ物をしていたらいつもより帰りが遅くなった。
雨は降り続けている。日が暮れたのか、雨のせいなのか、空は真っ黒だった。
「おぅわ!!」
真っ暗な玄関前に、何か黒いものがぼうっと浮き上がってきた。
待ってくれ、僕は呪われるようなことはしていないぞ。梅雨の亡霊か?なんだ僕がジメジメしてるって言いたいのか?
...いや、違う。人だ。
玄関ライトが点灯した。僕のアパートの唯一文の明の産物っぽい、センサーライトだ。
僕の玄関先で、誰かが体育座りしている。
「佐藤、さん...」
「舞ちゃん!?」
制服姿だ。いつも制服だが、今日は様子が違う。屋根のある玄関前に、座っている周りに水溜りができるほど雨に濡れていた。
髪の毛から、水滴がポタリと落ちた。
「......白.......。」
「なんですか。」
なんでもない白のレースなんて見ていない。
「どうしたの、そんなにビショビショで。取り敢えずタオルでも」
舞ちゃんが僕を見上げる。目元に、泣き腫らしたあとが見えた。
「どうしよう佐藤さん...海斗が、帰ってこない...。」
「え」
「さっきまでずっと捜してたけど見つからないんです。」
時計を見ると、もう8時前だった。
「僕は上の方を捜してみるよ。」
「じゃあ私はもう一回コンビニの方まで捜してみます。」
雨は止む気配はなく、むしろ激しくなっていた。
「あっ待って!」
僕は震える手で鍵を回し、部屋へ土足のまま入った。
「今更だけど、傘とタオル。使って。」
この前傘を忘れて購買で買ったビニール傘が思わぬ所で役にたった。傘も忘れてみるものだ。
「...ありがとうございます。」
よりによって慌てて掴んだタオルは、ボロ雑巾のようだった。申し訳ない。
「じゃあ捜そう。」
寝相が悪いことに定評のある(推測)僕は、気づくと半裸状態だった。なんでちゃんとボタンを閉めたパジャマが脱げてるんだ。
今朝は、頭痛が特に酷かった。
テレビをぼーっと眺めながらお茶をすする。
『速報です』
先程まで「梅雨も楽しんじゃおう!!レイングッズ特集♪」をしていたニュース番組を流していたテレビから、アナウンサーの緊迫した声が聞こえてきた。
「怖いくらいイソスタ映えするレインコート」、ちょっと気になってたんだが。
画面が慌ただしく切り替わる。
『今日未明、T市で殺人未遂事件が発生しました。』
「...近くじゃん。」
周りに誰もいないのに、反射的に呟いた。
近くというか、僕が住んでいる市だ。
『現場から中継です。』
ブルーシートで囲まれた、小さな食堂が画面に大写しにされた。
「...近くじゃん。」
大学へ行く時に通る所だ。
『はい、こちら現場です。えー、今日未明、こちらで40代の男性が、何者かによって切りつけられました。えー、』
まあ、すぐ捕まるだろう。逃げ回れるほどこの市は広くないし、身を隠すにしても森しかない。いや、森は絶好の身の隠しどころなのか?
男性アナウンサーの声を聞き流しながら、窓の外を見る。雨はかなり強く降っていた。起きた時より強くなっている。
『犯人はまだ捕まっておらず、警察は捜査を進めています。』
頭が痛いのは、低気圧のせいなのだろうか。ついに僕も低気圧系男子デビューだろうか。
一日中頭痛と闘い...時に負け...いや、ほぼ負け...いや、全敗し、死にかけながら家に帰ってきた。
図書館で調べ物をしていたらいつもより帰りが遅くなった。
雨は降り続けている。日が暮れたのか、雨のせいなのか、空は真っ黒だった。
「おぅわ!!」
真っ暗な玄関前に、何か黒いものがぼうっと浮き上がってきた。
待ってくれ、僕は呪われるようなことはしていないぞ。梅雨の亡霊か?なんだ僕がジメジメしてるって言いたいのか?
...いや、違う。人だ。
玄関ライトが点灯した。僕のアパートの唯一文の明の産物っぽい、センサーライトだ。
僕の玄関先で、誰かが体育座りしている。
「佐藤、さん...」
「舞ちゃん!?」
制服姿だ。いつも制服だが、今日は様子が違う。屋根のある玄関前に、座っている周りに水溜りができるほど雨に濡れていた。
髪の毛から、水滴がポタリと落ちた。
「......白.......。」
「なんですか。」
なんでもない白のレースなんて見ていない。
「どうしたの、そんなにビショビショで。取り敢えずタオルでも」
舞ちゃんが僕を見上げる。目元に、泣き腫らしたあとが見えた。
「どうしよう佐藤さん...海斗が、帰ってこない...。」
「え」
「さっきまでずっと捜してたけど見つからないんです。」
時計を見ると、もう8時前だった。
「僕は上の方を捜してみるよ。」
「じゃあ私はもう一回コンビニの方まで捜してみます。」
雨は止む気配はなく、むしろ激しくなっていた。
「あっ待って!」
僕は震える手で鍵を回し、部屋へ土足のまま入った。
「今更だけど、傘とタオル。使って。」
この前傘を忘れて購買で買ったビニール傘が思わぬ所で役にたった。傘も忘れてみるものだ。
「...ありがとうございます。」
よりによって慌てて掴んだタオルは、ボロ雑巾のようだった。申し訳ない。
「じゃあ捜そう。」
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