《どうしても辛入ドーナツを食べたくない僕vsどうしても辛入ドーナツを食べさせたい友達》

三輪

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《どうしても辛入ドーナツを食べたくない僕vsどうしても辛入ドーナツを食べさせたい友達》

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僕はかれこれ勉強机に30分も向き合っていた。普段は勉強なんて死んでもしたくない僕がこんなにも長い間勉強机に向かっているのは家族のみんなにも異様な光景だったようで、母と妹に至ってはずっと半開きになったドアの隙間から僕を覗いている。バレバレである。

机の上には教科書とノートが並べられ、教科書の書き込みや様々な色のペンでまとめられたノートが努力を物語っている.....というわけでは残念ながらない。
しかめっ面をした僕の目には、9つの1口サイズのドーナツが並べられている。
貰いたての時はまだほのかに温かかったのだが、もうすっかり冷めてしまっている。


これは友達がくれたドーナツだ。
30分前、友達がわざわざ暑いなか僕の家まで持ってきてくれた。丁度小腹が空いていたころだし、気が利くじゃないか、などと呑気に考えながら受け取った。
そしてドーナツが僕の手に渡った直後、友達がC4顔負けの大爆弾を投下した。
「あっ、これ辛入ってるからね。」
その笑った顔は、見慣れた意地悪モードのそれであった。
こいつ、僕が昔「辛とかワサビとか、薬味類食べれないんだよねえー。」と何気なく言ったのをわざわざ覚えていたらしい。僕でもこいつにそれを言ったことを忘れかけていた。変な所で天才的な記憶力を発揮されても困る。
爆弾投下後、僕の乏しい表情筋は完全に活動を放棄した。無意識に手が震えていた。
友達は悪魔がいたらこんな感じだろうな、と思わせるような笑い声を残して帰っていった。


どうしようか。
絶対にこれあとで感想聞かれるよなあ...。
それで「食べてない」とでも言おうものなら光の速さで拳が飛んできて僕のみぞおちにクリティカルヒットするだろう。僕が腹を抱えて蹲る未来しか見えない。

それなら...「体調が悪くて食べられなかった」はどうだろう?
いや、駄目だ。体調不良くらいで許してくれるほど甘い世界ではない。同じく僕は腹を抱えて蹲るだろう。
でも「食べられなかった」作戦はいい線をいっているんじゃないか?
僕は食べたかった、すごく食べたかった、ドーナツ消費マシーンになりたかった、でもその強い意志に関係なく食べられなかった。そういうことを伝えたら、デコピンくらいで済むかもしれない。

体調不良が駄目だとすれば...
そうだ!ドーナツ側の事情にすればいい!!
「いやあ、あの後さ、お前がドーナツくれたのが嬉しすぎてど近所の川辺で見せびらかしながら食べようと思ったんだよ。そしたらおむすびころりんの原理で落ちちゃってさ!結局食べられなかったんだよねー。くっやしぃー!」
完璧だ。
イメージトレーニングを終えた僕はすぐに帽子を被り、部屋を飛び出た。母と妹はもう飽きたのか、覗いてはいなかった。

よし!!よし!!!!!
川辺についた僕は、もう勝った気でいた。あとはこれを川に投げ捨てるだけだ。
「うおりゃあああ!!!」
僕の熱い気持ちをのせたドーナツのパッケージは、綺麗な弧を描いて一直線に川へ落ちていった。
パッケージが川に落ちるまで見届けよう。
3:33、ドーナツ永眠.....


しかし僕はその水音を聞けなかった。

「............あれ?」

僕はなぜか、次の瞬間には勉強机の前に座っていた。
目の前にはドーナツのパッケージ。
どういうことだ?さっき川に捨てたはずじゃ...。
「えっ?」
なんで僕は部屋の中で帽子を被って靴を履いているんだろう。
そして...ドーナツがまだ温かい。
なんだ?!
僕は部屋を見まわす。
時計が目に入った。

3:00

僕のこだわりの電波時計は間違いなくその時間を指していた。
「え?あれ....?」
わけがわからない。
夢だったのか?
僕はもう一度同じことをしようと、パッケージを持ち上げた。
僕は驚きのあまり声も出なかった。

パッケージを除けた机の上に、ノートの切れ端が置いてあった。
そこには、紛れもなく友達の字で、
『川に投げようなんざ考えが甘いわ』と書かれていた。


休み明け、僕のみぞおちには、いつもの数倍重いパンチがめりこんだ。
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