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―そして現在に至る!
僕だって男の端くれだ。黙ってやられっぱなしにはされない。
先輩の弱みのひとつやふたつ、簡単に手に入れてみせる。
やられたらやりかえす、倍返しだ。執念のあまり髪質が七三分けになりそうだ。

先輩は、ピヨピヨという信号機の音声と共に歩き出した。僕は電信柱の陰から出て、雑踏に紛れる。
こういう先輩に限って何かとてつもない秘密を抱えているに違いない。枕が変わると寝られないとか、部屋にでかくて小汚い熊のぬいぐるみがあるとか、ピーマンが嫌いとか、気を抜くとめちゃくちゃ滑舌が悪いとか―全部僕じゃないか。
先輩が道を曲がったので、僕は曲がり角でしばらく立ち止まり、先輩の行方を目で追う。刑事ドラマの受け売りだ。
ギプスに松葉杖というスタイルは嫌というほど町の風景から浮いていて、とてつもなく見つけやすい。骨折ありがとう。
先輩は、また角を曲がった。その先は確か、商店街だ。
誰が使っているのか不思議になるほど賑わっていない。
いつ見ても開いていない店なんかもあるが、もうそれは店と言えるのだろうかといつも思う。営業する気はあるのだろうか。
なるほど、こんな所で剥き出しの水筒を落とせばジョニーごっこwith銃声モドキが捗るわけだ。
商店街に入ると、歩く人々の足音はぱったりと途絶え、スウェットをきたおじさんや、エプロンを着たままのおばあさんやらがポツポツと歩いているだけになった。尾行には不向きだ。
僕は先輩から更に距離をとり、錆び付いた電飾看板の後ろに隠れた。踏みつけた配線は、導線が剥き出しになっていた。危ない。
先輩は日光の熱がこもったアーケード街の中央を、堂々と進んでいく。カッション、カッションと一歩一歩音をたてながら。白んだアーケードが春の日差しを薄め、道がぼんやり照らされる。
その背中に、僕は何となく―何となくだけど、寂しいような気がした。ふと、「俺とお前は似ている」と言った先輩の顔が頭をよぎった。

『HeyHeyHey!!今日も元気に居酒屋かっちゃん!開店だぜぃ!!!』

心臓が止まるかと思った。
耳からゼロ距離で、電飾看板がいきなり喋りだした。
おい待て、黙れ!赤と黄色のド派手な点滅とかいらないから!
先輩がすっとこちらを振り返る素振りが見えた瞬間、僕はしゃがみこんで電飾看板の陰に身を潜めた。多分これだと普通に歩いていた方が目立たないと思う。
『さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!美味しいビィーーール!!』
もうお前黙れ!寄るな見るな!
僕は必死にスイッチを探した。
視界にそれらしきものが捉えられた0.02秒後には、居酒屋かっちゃんの電飾看板は静かになっていた。
僕は深くため息をつき、看板の横から顔を出す。先輩は背を向けていた。

尾行を続けよう―これからは絶対電飾看板には近寄らない。
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