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「体育祭の班わけしまーす。5人で1グループね。」
死刑宣告が下された。
だいたい、なんで体育祭で班わけが必要なのか。個人競技では駄目なのか。
両隣のクラスが静かに授業を進めている中、2-2はガタガタと賑やかに動き始めた。
僕の中の体育祭ではしゃげるピークは小3で終わっている。それからは下降の一途を辿っており、今では海底山脈が見えてくるかといった勢いである。
そもそも何なんだ体育祭って。僕にできるのはせいぜい眼鏡を破壊することぐらいだ。
体育祭で青春できるほど軽傷じゃないんだこちとら。僕は「生徒会競技:ボール運びリレー(ピン球)」で良いから放っておいてほしい。
クラス替えしたばかりだが、僕の周りには既に何かしらの壁を作られていた。現代日本の建築技術しゅごい。
―かといってここで寝たフリも限界がある。
僕は席を立ち、クラスメートの塊の端っこに陣取った。
しばらく「めんどくせえ」だの「昨日の番組が」だの「スタバ行こうぜ」だのひとしきり騒いだあと、結局決まらないとなって、あみだくじになった。最初からそうすればいいのだ。
「そういやひとり、救護室の係行かなきゃいけないんでしょ?」
「えーやだー」
僕は、委員長がルーズリーフに線を引く手元を人垣の向こうから見ていた。
「あれ?ひとり余るじゃん。」

ひとり余った。












いいさ、貧乏くじ引くのはいつも僕の役目だ。皆様どうぞ青春楽しんでください。
僕は血みどろになった男共の看護でもしておきますので。
ほら、あれだ...軍隊だって救護隊がなかったらヤバいわけで。そうだ僕は救護部隊なんだ、武器よさらば。
―いや待てよ、救護室ならテントがあるじゃないか。
テント万歳。熱中症知らず。
そう考えて現実逃避していたが、先輩はいとも簡単にその気分をぶち壊した。
「ぶっひゃひゃひゃ!!!」
僕は先輩の前髪をむしろうと、手を伸ばしかけた。鎮まれ僕の右手。
「お前もう神に愛されてるわ、才能!」
花見をしていた女子の皆様がちらっとこちらを見てあからさまに眉を顰めた。
「うるさいです。」
昼休み、僕は自然と2階渡り廊下に足を運ぶようになっていた。そして、決まってそこには先輩が我が物顔であぐらをかいていた。
右手には弁当箱、左手は文庫本。もっとも、文庫本は開きもしないまま教室に持ち帰ることになるが。
「俺はな、ギプスつけてても走れるってのに止められた。ずっとクソ暑い中見学だってよ。」
当たり前じゃないか。
まさか骨折してまで体育祭エンジョイしちゃうつもりだったのかこの人は。
「まあ頑張れ衛生兵。今からでもイタリア語勉強しときなヘミングウェイ。」
先輩がハッシュドポテトにかじりつく。美味そうだ。
「それ作者じゃないですか。」
「誰だっけ主人公。」
「忘れましたね。ほぼ一人称だったし...」
いや、なんでこの人が『武器よさらば』なんて知っているんだ。一般教養の範囲とは言え学校図書館でホコリ被ってるレベルだぞ。
「あぁ~体育祭してぇ~。」
先輩が頭の後ろに手を組んで、横に長い四角の空を見上げる。今日は気分を変えて、桜の見える方に座った。ヘミングウェイはもう終わりらしい。
無駄に先輩の謎が増えただけだった。
「代わりたいくらいですよ。」
「おっ、お前もバスケで足挫くか?おそろっちいぇーい。」
「やっぱいいです。」
先輩のハイタッチの手を払い、なんか変な汁に浸って濡れている卵焼きを箸で刺した。
何も考えずただただ風に流される雲を見て、なんだか無性に腹が立った。
生まれ変わったら雲にでもなりたい。
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