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第33話 修学課題~〈マークの森〉のオーク狩り~
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「ここがマークかぁ! 初めて来たけど、なかなか良い感じの街だねぇ! 綺麗なレンガ!」
サリュ領都マークは、昔ながらの中世ヨーロッパの街並みが維持されており、今いる駅近くの平民街はレンガ造りの建築で街並みが統一されていて、色合い豊かなレンガが目に楽しい街並みとなっている。ユエが騒ぐのも分かるというものだ。
「あー、生徒諸君、我々はひとまず予定している宿まで移動する。はぐれないよう列になって移動するので、4人1列でパーティで横になって隊列を組むように」
引率をする事になったらしいカサドール教官が、大声を張り上げて、全部で88人いるらしい学年の生徒たちに隊列を組ませ、宿へと誘導していく。
しばし隊列を組んでの移動が続いた後、我々はマークの中心街にある大きなホテルに到着した。
「今回の修学課題は、このホテルを貸し切りで拠点とさせてもらい、このホテルを起点にして各種活動を行ってもらう事になる。冒険者ギルドより融通してもらった課題なども、このホテルでリストが閲覧できるようになっているので、ここで方針を練るように」
俺たちは一通りホテルについて案内を受け、受けられる課題のリストを閲覧する事となった。
俺たち『Ⅴ組1班』は、マーク周辺の森での魔物退治の課題の一つを選ぶ事になった。
ちょうど森の中にある湖付近で、オークの群れが活発化しているので、これを間引いて欲しいとの事。
依頼ランクはFランクと、学園に入学したての学生が受ける課題としてはランクは他のGランク課題より一つ高いが、だからこそ高評価が期待できると踏んでの事だ。
実際問題、このパーティメンバーの実力であれば、危険はないだろう。ゲーム開始当初でも、シエルとルークはEランク相当の実力を持っている。アリーシャは秘密結社〈円環の唄〉の幹部である〈恋の秘密を唄う使徒〉であり、その実力はAランク相当であるため例外的存在と言えるが、まあ戦闘で困る事がない事だけは確かだ。
俺はアリーシャ、シエル、ルークたちをマークの街の百貨店、コバン百貨店へ案内し、装備に食料、冒険に必要な道具類、回復薬や地図などを買いそろえていく。
「サルヴァ。湖で泳ぎたいから水着も買おう」
シエルが自由過ぎる発言をしていたり、
「この百貨店、美味しそうなお菓子がありすぎてお財布が……」
アリーシャが高級菓子を買い過ぎて財政に負担がかかっていたりと、ヒロイン達が暴走する一幕もありつつ、なんとか買い物を終えた俺たちは、マーク近郊の森林地帯、〈マークの森〉と呼ばれるエリアに向かったのだった。
森の中は、鬱蒼と茂る木々が視界一杯に広がっていて、そこに細い林道が通っている地理となっている。俺たちは枯葉の乗った岩や土が覆う地面を踏みしめながら、依頼のあった森の湖付近まで移動していく。
――と、その途中、唐突に魔物の気配を感じた。
その直感はロセット師匠と3か月に渡って送った冒険者生活の経験が鋭敏に送り込んできたもので、俺は誰よりも早く、
「みんな、魔物だ」
と周囲に声をかけ、そのまま魔物の気配に向かって突撃する。
「リプレイスメント」
敵の魔物である緑色の毛皮を持った狼型のモンスター、グリーンウルフの背後の影に突如現れた俺は、そのまま〈氷と風の剣〉でグリーンウルフを背後からバッサリと斬り裂く。
そのまま魔物は消滅し、ドロップアイテムとして風の小魔石を落とす。
「お見事。サルヴァは危なげないね」
風の小魔石を拾ってからみんなの元へ戻ると、ルークから称賛された。
「サルヴァ、速い」
「あっという間でしたねー」
そんな会話を交わしながら道中に戻ると、やがて湖が見えてくる。
警戒レベルを引き上げながら湖の見えるほとりに行きつくと、湖の周りを進んだ先に、オークの集落らしき建物が点在しているのが目に入ってくる。
俺たちは湖の傍の草木に隠れながら、慎重にオークの集落へと向かった。
オークの集落に近づくと、付近を徘徊していたオークの1体が、やがてその嗅覚で俺たちの存在に気づいた素振りを見せる。
「ブモオオオオオオオッ!」
叫び声をあげ、敵襲を知らせたオークから少し遅れて、俺はリプレイスメントでオークの背後にワープし、素早くその首を切り裂き撃破する。
「気づかれた。ここからは戦争だ」
「うん」
俺の言葉にシエルが頷いたのを聞きながら、4人で隊列を組み、次々と現れるオークの群れに、対処していく。
ルークの剣がオークの胸を貫き、シエルの火属性魔法がオークの全身を焼き焦がす。アリーシャは見かけによらない洗練された動きで繰り出される細剣でオークの急所をサクサクと刺していき、何気に凄まじい撃破数を誇っているが、自然に静かに動いているので、ルークとシエルはその事に気づいていないようだ。
と、あらかたオークたちを討伐したところで、奥からオークの群れのボスと思しき、いままでと違う固体が現れる。
茶色の毛皮に猪の顔を持つ通常のオークとは異なり、そのオークは灰色の毛皮を持っていた。筋骨隆々とした肉体はより大きくなり、前世のボディビルの選手を彷彿とさせる。
――ハイオーク。
上位種であり、危険度Dランク相当の、強力なオーク種だ。
「ハイオークがいるなんて、聞いてない」
シエルが文句を呟いた通り、これは明らかに入学したての学生の領分を逸脱した敵であり、クエストの詳細からハイオークの報告が漏れていた事は、後程ギルドにしっかり文句を言わねばならないだろう。
とはいえ、出てきたからには、なんとか対処した方がいい。
幸い、今はアリーシャと俺がいる。
ハイオークがその手に持っているのは一振りの戦斧。俺はそんなハイオークに、素早くリプレイスメントで背後を取り、すぐには斧の届かない場所から、その首筋に斬りかかる。
と、ハイオークはぐるりとこちらを振り向きながら、斧を持っていない左手で首を護るような動きを見せ――驚くべき事に、俺の剣は、ハイオークの左腕の筋肉の表面しか切り裂く事が出来なかった。〈氷と風の剣〉が持つ凍結と裂傷のバッドステータスは入ったようだが、傷が浅いせいであまり有効な効果は発揮していないらしい。
「――こいつ、強い……!」
素早くいったん後退し、その瞬間、ハイオークの戦斧の強撃がたった今まで俺がいた位置を襲う。
強さで言えば、以前盗賊団の討伐の際に戦ったギースとかいう首領くらいはあるか? いや、それよりさらに強いかもしれない。
これはシエルとルークには荷が重いだろう。
「シエル、ルーク、近づくな! アリーシャ! 援護を頼む!」
緊急事態ゆえ、体裁には構わずアリーシャのみに援護を頼む。
「はい」
アリーシャは、その美しい紫色の瞳をキラキラと木漏れ日から差す光で輝かせながら、静かな足取りでハイオークの背後へと走り、手に持った細剣から、その強烈な戦技が放たれる。
「インパルス」
戦属性レベルが少なくとも4にまで到達している事を示すその強撃魔法の篭もった突きは、アリーシャの高すぎるほどに高い肉体スペックもあり、気づいてガードに回ったオークの左腕をまるごと吹き飛ばしながらオークの左肩に大穴を開けた。
間違いなくこれでも手加減はしているが、隠しきれないアリーシャのスペックの高さに、シエルとルークが目を見開いて驚いたのが横目に見えた。
俺はアリーシャが作ってくれたチャンスを生かすべく、アリーシャの攻撃に意識を持っていかれたハイオークの死角に再びリプレイスメントで潜りこみ、影から出てきながらその脚へとさらなる強撃を加える。
「インパルス!」
ハイオークは攻撃を受けて苦しい体勢ではこの一撃を避けきる事は出来ず、ハイオークの固い筋肉に満ちた右脚が、真っ二つに切り裂かれる。
「ブモオオオオオオオッ……!」
ハイオークの怒りと苦痛の篭もった悲鳴が響き渡り、ハイオークは狂乱状態に陥る。
俺とアリーシャはいったん距離を取り、
「魔法で嬲り殺しにするぞ!」
今覚えている中で一番強力な魔法で、遠距離から移動力を失ったハイオークを傷つけていく。
「カオスカッター!」
「……メガホーリーブレイズ」
小声で魔法名を呟いたアリーシャが見せた火と光の混合属性魔法は、光属性レベル6、火属性レベル6に到達していないと使えない、明らかに学生の魔法としてはインフレした代物だったが、そもそも俺たち学生が知らない魔法であるため、使ってもいいと判断したのだろう。
俺のカオスカッターがハイオークの腹部に深い切り傷を負わせ、動きが弱ったところに、アリーシャの強烈な光と炎のビームがハイオークに直撃する。
光と炎が消えた時、ハイオークの姿はすでにそこに無く、消滅してドロップアイテムの土属性の中魔石が落ちていたのだった。
「勝てたなんて……すごい……」
ルークが驚き感嘆したように呟きを漏らしたのが、戦闘の終わりを知らせる合図となった。
「サルヴァもすごいけど、アリーシャもすごい。能ある鷹は、爪を隠す?」
「わたしはたまたまですよ。サルヴァさんが良い感じにダメージを与えてくれたので、なんとか動けました」
アリーシャが謙遜しているが、流石にシエルとルークもそれが真実ではない事は見抜いている気がした。
アリーシャのポテンシャルは、底が知れない。
レベル6の強烈な大魔法を使っても息一つ乱さない魔力量に、ハイオークの左腕を一撃で吹き飛ばす強力な細剣技。
さらに彼女は、本来の一番の得意技である〈恋の秘密を唄う使徒〉の本領、〈恋魔法〉を一切使用していないのだ。
彼女が敵に回る展開にならないといいなぁ、なんて思うが、仮にもし原作通りにアリーシャがルークに片思いしたままルークが死ぬなんてことになってしまったら、その原因となる悪役サルヴァなんて彼女の最大の憎しみの対象になるといってもいいだろう。
俺は間違ってもそんな展開にはならないとは思っているが、既に想定外の事が起き過ぎている現状では、どんな物語展開になるのか予想がつかなくなってきているのが正直なところだ。
原作で起きたイベントの数々が、どのように変質しながら俺たちを襲うのか、よく考えて行動しないといけないな、と思いながら、俺はみんなと森の中の湖を後にしたのだった。
サリュ領都マークは、昔ながらの中世ヨーロッパの街並みが維持されており、今いる駅近くの平民街はレンガ造りの建築で街並みが統一されていて、色合い豊かなレンガが目に楽しい街並みとなっている。ユエが騒ぐのも分かるというものだ。
「あー、生徒諸君、我々はひとまず予定している宿まで移動する。はぐれないよう列になって移動するので、4人1列でパーティで横になって隊列を組むように」
引率をする事になったらしいカサドール教官が、大声を張り上げて、全部で88人いるらしい学年の生徒たちに隊列を組ませ、宿へと誘導していく。
しばし隊列を組んでの移動が続いた後、我々はマークの中心街にある大きなホテルに到着した。
「今回の修学課題は、このホテルを貸し切りで拠点とさせてもらい、このホテルを起点にして各種活動を行ってもらう事になる。冒険者ギルドより融通してもらった課題なども、このホテルでリストが閲覧できるようになっているので、ここで方針を練るように」
俺たちは一通りホテルについて案内を受け、受けられる課題のリストを閲覧する事となった。
俺たち『Ⅴ組1班』は、マーク周辺の森での魔物退治の課題の一つを選ぶ事になった。
ちょうど森の中にある湖付近で、オークの群れが活発化しているので、これを間引いて欲しいとの事。
依頼ランクはFランクと、学園に入学したての学生が受ける課題としてはランクは他のGランク課題より一つ高いが、だからこそ高評価が期待できると踏んでの事だ。
実際問題、このパーティメンバーの実力であれば、危険はないだろう。ゲーム開始当初でも、シエルとルークはEランク相当の実力を持っている。アリーシャは秘密結社〈円環の唄〉の幹部である〈恋の秘密を唄う使徒〉であり、その実力はAランク相当であるため例外的存在と言えるが、まあ戦闘で困る事がない事だけは確かだ。
俺はアリーシャ、シエル、ルークたちをマークの街の百貨店、コバン百貨店へ案内し、装備に食料、冒険に必要な道具類、回復薬や地図などを買いそろえていく。
「サルヴァ。湖で泳ぎたいから水着も買おう」
シエルが自由過ぎる発言をしていたり、
「この百貨店、美味しそうなお菓子がありすぎてお財布が……」
アリーシャが高級菓子を買い過ぎて財政に負担がかかっていたりと、ヒロイン達が暴走する一幕もありつつ、なんとか買い物を終えた俺たちは、マーク近郊の森林地帯、〈マークの森〉と呼ばれるエリアに向かったのだった。
森の中は、鬱蒼と茂る木々が視界一杯に広がっていて、そこに細い林道が通っている地理となっている。俺たちは枯葉の乗った岩や土が覆う地面を踏みしめながら、依頼のあった森の湖付近まで移動していく。
――と、その途中、唐突に魔物の気配を感じた。
その直感はロセット師匠と3か月に渡って送った冒険者生活の経験が鋭敏に送り込んできたもので、俺は誰よりも早く、
「みんな、魔物だ」
と周囲に声をかけ、そのまま魔物の気配に向かって突撃する。
「リプレイスメント」
敵の魔物である緑色の毛皮を持った狼型のモンスター、グリーンウルフの背後の影に突如現れた俺は、そのまま〈氷と風の剣〉でグリーンウルフを背後からバッサリと斬り裂く。
そのまま魔物は消滅し、ドロップアイテムとして風の小魔石を落とす。
「お見事。サルヴァは危なげないね」
風の小魔石を拾ってからみんなの元へ戻ると、ルークから称賛された。
「サルヴァ、速い」
「あっという間でしたねー」
そんな会話を交わしながら道中に戻ると、やがて湖が見えてくる。
警戒レベルを引き上げながら湖の見えるほとりに行きつくと、湖の周りを進んだ先に、オークの集落らしき建物が点在しているのが目に入ってくる。
俺たちは湖の傍の草木に隠れながら、慎重にオークの集落へと向かった。
オークの集落に近づくと、付近を徘徊していたオークの1体が、やがてその嗅覚で俺たちの存在に気づいた素振りを見せる。
「ブモオオオオオオオッ!」
叫び声をあげ、敵襲を知らせたオークから少し遅れて、俺はリプレイスメントでオークの背後にワープし、素早くその首を切り裂き撃破する。
「気づかれた。ここからは戦争だ」
「うん」
俺の言葉にシエルが頷いたのを聞きながら、4人で隊列を組み、次々と現れるオークの群れに、対処していく。
ルークの剣がオークの胸を貫き、シエルの火属性魔法がオークの全身を焼き焦がす。アリーシャは見かけによらない洗練された動きで繰り出される細剣でオークの急所をサクサクと刺していき、何気に凄まじい撃破数を誇っているが、自然に静かに動いているので、ルークとシエルはその事に気づいていないようだ。
と、あらかたオークたちを討伐したところで、奥からオークの群れのボスと思しき、いままでと違う固体が現れる。
茶色の毛皮に猪の顔を持つ通常のオークとは異なり、そのオークは灰色の毛皮を持っていた。筋骨隆々とした肉体はより大きくなり、前世のボディビルの選手を彷彿とさせる。
――ハイオーク。
上位種であり、危険度Dランク相当の、強力なオーク種だ。
「ハイオークがいるなんて、聞いてない」
シエルが文句を呟いた通り、これは明らかに入学したての学生の領分を逸脱した敵であり、クエストの詳細からハイオークの報告が漏れていた事は、後程ギルドにしっかり文句を言わねばならないだろう。
とはいえ、出てきたからには、なんとか対処した方がいい。
幸い、今はアリーシャと俺がいる。
ハイオークがその手に持っているのは一振りの戦斧。俺はそんなハイオークに、素早くリプレイスメントで背後を取り、すぐには斧の届かない場所から、その首筋に斬りかかる。
と、ハイオークはぐるりとこちらを振り向きながら、斧を持っていない左手で首を護るような動きを見せ――驚くべき事に、俺の剣は、ハイオークの左腕の筋肉の表面しか切り裂く事が出来なかった。〈氷と風の剣〉が持つ凍結と裂傷のバッドステータスは入ったようだが、傷が浅いせいであまり有効な効果は発揮していないらしい。
「――こいつ、強い……!」
素早くいったん後退し、その瞬間、ハイオークの戦斧の強撃がたった今まで俺がいた位置を襲う。
強さで言えば、以前盗賊団の討伐の際に戦ったギースとかいう首領くらいはあるか? いや、それよりさらに強いかもしれない。
これはシエルとルークには荷が重いだろう。
「シエル、ルーク、近づくな! アリーシャ! 援護を頼む!」
緊急事態ゆえ、体裁には構わずアリーシャのみに援護を頼む。
「はい」
アリーシャは、その美しい紫色の瞳をキラキラと木漏れ日から差す光で輝かせながら、静かな足取りでハイオークの背後へと走り、手に持った細剣から、その強烈な戦技が放たれる。
「インパルス」
戦属性レベルが少なくとも4にまで到達している事を示すその強撃魔法の篭もった突きは、アリーシャの高すぎるほどに高い肉体スペックもあり、気づいてガードに回ったオークの左腕をまるごと吹き飛ばしながらオークの左肩に大穴を開けた。
間違いなくこれでも手加減はしているが、隠しきれないアリーシャのスペックの高さに、シエルとルークが目を見開いて驚いたのが横目に見えた。
俺はアリーシャが作ってくれたチャンスを生かすべく、アリーシャの攻撃に意識を持っていかれたハイオークの死角に再びリプレイスメントで潜りこみ、影から出てきながらその脚へとさらなる強撃を加える。
「インパルス!」
ハイオークは攻撃を受けて苦しい体勢ではこの一撃を避けきる事は出来ず、ハイオークの固い筋肉に満ちた右脚が、真っ二つに切り裂かれる。
「ブモオオオオオオオッ……!」
ハイオークの怒りと苦痛の篭もった悲鳴が響き渡り、ハイオークは狂乱状態に陥る。
俺とアリーシャはいったん距離を取り、
「魔法で嬲り殺しにするぞ!」
今覚えている中で一番強力な魔法で、遠距離から移動力を失ったハイオークを傷つけていく。
「カオスカッター!」
「……メガホーリーブレイズ」
小声で魔法名を呟いたアリーシャが見せた火と光の混合属性魔法は、光属性レベル6、火属性レベル6に到達していないと使えない、明らかに学生の魔法としてはインフレした代物だったが、そもそも俺たち学生が知らない魔法であるため、使ってもいいと判断したのだろう。
俺のカオスカッターがハイオークの腹部に深い切り傷を負わせ、動きが弱ったところに、アリーシャの強烈な光と炎のビームがハイオークに直撃する。
光と炎が消えた時、ハイオークの姿はすでにそこに無く、消滅してドロップアイテムの土属性の中魔石が落ちていたのだった。
「勝てたなんて……すごい……」
ルークが驚き感嘆したように呟きを漏らしたのが、戦闘の終わりを知らせる合図となった。
「サルヴァもすごいけど、アリーシャもすごい。能ある鷹は、爪を隠す?」
「わたしはたまたまですよ。サルヴァさんが良い感じにダメージを与えてくれたので、なんとか動けました」
アリーシャが謙遜しているが、流石にシエルとルークもそれが真実ではない事は見抜いている気がした。
アリーシャのポテンシャルは、底が知れない。
レベル6の強烈な大魔法を使っても息一つ乱さない魔力量に、ハイオークの左腕を一撃で吹き飛ばす強力な細剣技。
さらに彼女は、本来の一番の得意技である〈恋の秘密を唄う使徒〉の本領、〈恋魔法〉を一切使用していないのだ。
彼女が敵に回る展開にならないといいなぁ、なんて思うが、仮にもし原作通りにアリーシャがルークに片思いしたままルークが死ぬなんてことになってしまったら、その原因となる悪役サルヴァなんて彼女の最大の憎しみの対象になるといってもいいだろう。
俺は間違ってもそんな展開にはならないとは思っているが、既に想定外の事が起き過ぎている現状では、どんな物語展開になるのか予想がつかなくなってきているのが正直なところだ。
原作で起きたイベントの数々が、どのように変質しながら俺たちを襲うのか、よく考えて行動しないといけないな、と思いながら、俺はみんなと森の中の湖を後にしたのだった。
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