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第28話 聖女リーチェのご褒美?
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気づけば辺りはすっかり夜闇に包まれていた。
街灯が点々と大通りを照らしている中、仕事を終えた労働者や冒険者が飲みに繰り出そうとあちこちを歩き回っている。
そんな光景を横目に見ながら、早く自分も仲間入りするべく、ひとまずは高台にある大修道院を目指す。
階段を登り、丘の頂上に辿り着くと、壮麗な大修道院の景色が眼前に広がっていた。
煌びやかな十属性の天使が描かれたステンドグラスを眺めながら、聖書に描かれた女神デウスを擬人化した女神の絵が描かれた大扉を通ると、煌びやかに教会美術が描かれた豪華絢爛な廊下が左右と奥に続いている。
その曲がり角の中央に、まるで俺の行動を全て見ていたかのように、聖女リーチェが待ち構えていた。
「やっほーお兄ちゃん! 元気そうで何よりだよっ!」
聖女はぶんぶんと手を振って、俺を歓迎する様子を見せる。
俺の方は、色々な意味でまったく歓迎したくない相手ではあるが、それを態度に出すわけにもいかないので、ひとまず穏当に言葉を返す。
「……まあ色々言いたい事はありますが、ここでは何なので、どこか部屋に案内してもらってもいいですか?」
「はいはーい! お任せあれ、だよ!」
そういうと、聖女は通路を右に向かって歩き出す。
こっちは確か……
階段を登って2階の一番奥に進んだ部屋に案内されて、俺は聖女が自らの私室に俺を招待していると悟った。
「ついたよ! 入って入って!」
重厚な高級木材の扉を開けると、そこに広がっていたのは、随分少女趣味な寝室兼執務室だった。
右奥には天蓋付きのベッドがヴェールに包まれて隠されており、左奥に執務机、その手前に応接用テーブルと白色のソファーが置かれ、右手前から左手前にかけては毛足の長い桃色のカーペットが敷かれている。カーペットを挟んだ壁には、場違いな巨大魔導モニターが4枚映っており、執務机や応接用のソファーから眺められるようになっていた。今はモニターは真っ黒になって沈黙している。
「あ、靴は脱いでね! スリッパつかって!」
そこは私室という事なのか、入り口で靴をスリッパに履き替えるように言われ、俺は大人しくブーツを脱いで可愛らしい兎の刺繍の入ったスリッパに履き替える。
「うんうん! 可愛い可愛い!」
俺のスリッパ姿にご満悦といった様子のリーチェを放置して、俺は右側のソファーに座ると、さっさと用件を言え、とばかりにリーチェに視線を送る。
「あはは、そんな怖い顔してもおサルさんが可愛く怒ってるみたいにしか見えないよ! なんでお兄ちゃんは怒ってるのかなぁ? あれあれ~?」
「……聖女リーチェ。俺は今回のあなたの依頼については、何を言っていいのか正直掴みかねているところがあります」
「うんうん、そうだよね。でも、どうして?」
聖女の言葉は、本質をついているようでもあり、あくまで誤魔化しているかのようでもあった。
やはりこの聖女はくせ者だ。
それもとんでもないくせ者である。
俺がどこまで秘密結社の事について勘づいているのかも、この分ではおおむね把握しているだろう。
だが、それを前提に動くと、墓穴を掘って一発アウトという事にもなりかねない。
難しい舵取りが要求されていた。
「今回の依頼、少なくとも表の依頼ではないですよね?」
「そうだね? でもそれは当たり前だよね?」
「……師匠、ロセット・ジェリが、ずいぶん変わった格好をしていました」
「へぇ、そうだったんだねぇー。あの子はコスプレ趣味があるから、とかかなぁ?」
「……そんな趣味があるなんて聞いた事ないですよ」
俺は埒が明かないと思ったので、ここらで踏み込んだ質問をしてみることにする。
「聖女リーチェ。あなたは表の顔である聖女以外に、何か裏の顔を持っているのではないですか? それは、おそらく師匠も同じだ」
「……ふふっ」
聖女はそこでにこっと微笑むと、なぜか立ち上がり、軽い足取りで俺の座るソファーの隣の席に座りなおす。
甘い桃のような香りが漂い、きわめて美しい少女であるリーチェの腰や腕が俺の身体に密着してくる。結果、なんだかいけない事をしたくなってしまうような、そんな気分に陥ってしまう。
「サルヴァお兄ちゃん、かわいっ! かわいいなぁ!」
リーチェは、どこか興奮した様子で、動けずにいる俺の方を向く。すると、驚くべき俊敏さで俺の頭に手を当てて、よしよし、とするように撫ではじめてしまった。
「よしよし。よしよーし。お兄ちゃん、いい子いい子。今日は頑張って、偉かったでちゅねー」
髪の毛の流れに沿って梳くように撫でられるその手つきは、なんだかとても心地よく、微睡みそうになってしまうようなもので、俺は思わず幸福感のようなものを感じてしまう。
だが誤魔化されてはいけない。
今俺は、まさに死地にあると言ってもいい。
秘密結社の存在を半ば示唆するような発言をしたまま、その返答は宙づりになっているのだから。
俺は、聖女の手を離すように肩を掴むと、距離をぐっと離して、こう話を切り出す。
「……聖女リーチェ。いや、この際リーチェと呼ばせてもらう……キミは、悪人か?」
美しい少女の赤色の瞳をまっすぐに見つけて、真剣に問いかける。
演技の篭もった発言ではあるが、これは本気の問いかけでもある。
なにせ、俺が遊んだ第五作序盤までの時点でも、この聖女リーチェの目的は、多くが謎に包まれていたのだから。
俺が知っているのは、この聖女が、女神デウスの力、およびそれを持つシエルに絡んで暗躍しようとしていた事。
勇者の証であるエクスペンダントを、原作ではルークに、今回の転生した世界では俺サルヴァに、渡した事。
そして、今回なぜか本来隠すべき秘密結社の仕事を、わざわざ俺に手伝わせてきた事。しかもロセット師匠と一緒にだ。
これらの事から分かる事としては、少なくない割合で、この聖女は遊んでいる可能性がある。
なにせ、秘密結社の活動を手伝わせる事に関しては、流石に意味が分からないくらい聖女側にメリットがない。
これは、俺で遊んでいる、あるいは俺の何かを試している、とみてよさそうである。
いずれにせよ、なぜか俺サルヴァ・サリュが、この聖女リーチェにとって、それなりに重要な位置を占めているらしいことがここから推察できる。
どうやってこれをうまく聞き出すか。
そんな事を考えながら、リーチェのきょとんとした表情を見つめていると――
「お兄ちゃんは賢いねぇ! そんな事まで分かっちゃってるんだ! すごいすごい!」
リーチェは頬を紅潮させて、何かを喜ぶように笑顔でいっぱいになって、俺の頭をまたもよしよしとする。
「え? え? 何を言って……」
「お兄ちゃんが考えてる通り、わたしにとって、お兄ちゃんはとっても大切なんだよ?」
聖女リーチェの純粋無垢な笑みが、どこか妖しい色気のようなものを帯びていく。
「〈円環の理〉の目的っていうのも確かにあるんだけど、わたしの本当の目的は、また違うんだよねぇ」
聖女の赤色の瞳に、桃色の紋章が浮かび、俺を陶然とさせるような魅了の輝きを放ちだす。
「お兄ちゃん、そこのベッドで、二人でお話しようか? 二人のこれからにとって、大切な事♡ ご褒美の時間だよぉ♡」
頭がぼーっとして、はちきれそうなほど欲望が膨らんで、もうどうしようもない、と思ったその時だった。
胸元に入れていたエクスペンダントが、突如輝きを放つ。
それに合わせて、俺の〈魅了〉状態異常がすーっと解けていく。
一気に思考が明晰になった様子を見て取ったリーチェは、ちょっぴりつまらなそうに唇を尖らせた。
「ふぅーん、本当にそのペンダントに選ばれてるんだねーお兄ちゃんは。おもしろーい、でもつまんなーい!」
そんな矛盾したような発言をしているリーチェは、今のやりとりがあたかも存在し無かったかのように、俺のふとももの上に寝っ転がるような体勢になって、甘えだした。
「わたしもロセちゃんみたいに、お兄ちゃんに絵本読んで欲しいなー!」
「師匠はまだしも、リーチェにそれをする度胸はないですよ」
「そっかー、好感度ってやつが足りないのかなー?」
リーチェは「あれれー?」なんていいながら、不思議そうな顔で俺の顔をふとももの上から見上げている。上目遣いは破壊的に可愛いな、と思いながらも、目の前の少女がいかに危険な存在か思い返して、なんとか理性を保つ。
「……それで、今日はどこまで話してくれるんですか?」
俺はふとももの上のリーチェの瞳をじっと見つめて、そう問いかける。
「うーん? そうだなぁ……やっぱ内緒!」
リーチェはそう言って突然猫のように身体を跳ねあがらせると、ソファーの上でバウンドしてから勢いよく立ち上がる。
「今日のあれこれはお兄ちゃんへの宿題とします!」
そういって、リーチェは可愛くウインクしてみせる。
「という事で、そろそろこわーい師匠も到着するから、お外に出してあげるね」
といったが最後、ぱちんと指を鳴らした音が聞こえたかと思うと、俺は突然大修道院の外に放り出されて、尻もちをついていた。丁寧にスリッパは脱がされており、近くにブーツが落ちている。すごい精度の空属性魔法だ。
と、ブーツの近くに依頼達成報酬の金貨袋が落ちていた。
ブーツを履き、金貨袋を拾い上げると、その中にメッセージカードのようなものが入っている事に気づく。
「わるーい女の妨害に負けずに、恋を叶えてね」
可愛らしい少女の丸文字で書かれたその言葉に、ますます混乱が深まるのを感じながら、俺はメッセージカードを袋の中に隠すと、階段を上がってきた師匠と合流して、ひとまず評判のいいレストランに繰り出したのだった。
街灯が点々と大通りを照らしている中、仕事を終えた労働者や冒険者が飲みに繰り出そうとあちこちを歩き回っている。
そんな光景を横目に見ながら、早く自分も仲間入りするべく、ひとまずは高台にある大修道院を目指す。
階段を登り、丘の頂上に辿り着くと、壮麗な大修道院の景色が眼前に広がっていた。
煌びやかな十属性の天使が描かれたステンドグラスを眺めながら、聖書に描かれた女神デウスを擬人化した女神の絵が描かれた大扉を通ると、煌びやかに教会美術が描かれた豪華絢爛な廊下が左右と奥に続いている。
その曲がり角の中央に、まるで俺の行動を全て見ていたかのように、聖女リーチェが待ち構えていた。
「やっほーお兄ちゃん! 元気そうで何よりだよっ!」
聖女はぶんぶんと手を振って、俺を歓迎する様子を見せる。
俺の方は、色々な意味でまったく歓迎したくない相手ではあるが、それを態度に出すわけにもいかないので、ひとまず穏当に言葉を返す。
「……まあ色々言いたい事はありますが、ここでは何なので、どこか部屋に案内してもらってもいいですか?」
「はいはーい! お任せあれ、だよ!」
そういうと、聖女は通路を右に向かって歩き出す。
こっちは確か……
階段を登って2階の一番奥に進んだ部屋に案内されて、俺は聖女が自らの私室に俺を招待していると悟った。
「ついたよ! 入って入って!」
重厚な高級木材の扉を開けると、そこに広がっていたのは、随分少女趣味な寝室兼執務室だった。
右奥には天蓋付きのベッドがヴェールに包まれて隠されており、左奥に執務机、その手前に応接用テーブルと白色のソファーが置かれ、右手前から左手前にかけては毛足の長い桃色のカーペットが敷かれている。カーペットを挟んだ壁には、場違いな巨大魔導モニターが4枚映っており、執務机や応接用のソファーから眺められるようになっていた。今はモニターは真っ黒になって沈黙している。
「あ、靴は脱いでね! スリッパつかって!」
そこは私室という事なのか、入り口で靴をスリッパに履き替えるように言われ、俺は大人しくブーツを脱いで可愛らしい兎の刺繍の入ったスリッパに履き替える。
「うんうん! 可愛い可愛い!」
俺のスリッパ姿にご満悦といった様子のリーチェを放置して、俺は右側のソファーに座ると、さっさと用件を言え、とばかりにリーチェに視線を送る。
「あはは、そんな怖い顔してもおサルさんが可愛く怒ってるみたいにしか見えないよ! なんでお兄ちゃんは怒ってるのかなぁ? あれあれ~?」
「……聖女リーチェ。俺は今回のあなたの依頼については、何を言っていいのか正直掴みかねているところがあります」
「うんうん、そうだよね。でも、どうして?」
聖女の言葉は、本質をついているようでもあり、あくまで誤魔化しているかのようでもあった。
やはりこの聖女はくせ者だ。
それもとんでもないくせ者である。
俺がどこまで秘密結社の事について勘づいているのかも、この分ではおおむね把握しているだろう。
だが、それを前提に動くと、墓穴を掘って一発アウトという事にもなりかねない。
難しい舵取りが要求されていた。
「今回の依頼、少なくとも表の依頼ではないですよね?」
「そうだね? でもそれは当たり前だよね?」
「……師匠、ロセット・ジェリが、ずいぶん変わった格好をしていました」
「へぇ、そうだったんだねぇー。あの子はコスプレ趣味があるから、とかかなぁ?」
「……そんな趣味があるなんて聞いた事ないですよ」
俺は埒が明かないと思ったので、ここらで踏み込んだ質問をしてみることにする。
「聖女リーチェ。あなたは表の顔である聖女以外に、何か裏の顔を持っているのではないですか? それは、おそらく師匠も同じだ」
「……ふふっ」
聖女はそこでにこっと微笑むと、なぜか立ち上がり、軽い足取りで俺の座るソファーの隣の席に座りなおす。
甘い桃のような香りが漂い、きわめて美しい少女であるリーチェの腰や腕が俺の身体に密着してくる。結果、なんだかいけない事をしたくなってしまうような、そんな気分に陥ってしまう。
「サルヴァお兄ちゃん、かわいっ! かわいいなぁ!」
リーチェは、どこか興奮した様子で、動けずにいる俺の方を向く。すると、驚くべき俊敏さで俺の頭に手を当てて、よしよし、とするように撫ではじめてしまった。
「よしよし。よしよーし。お兄ちゃん、いい子いい子。今日は頑張って、偉かったでちゅねー」
髪の毛の流れに沿って梳くように撫でられるその手つきは、なんだかとても心地よく、微睡みそうになってしまうようなもので、俺は思わず幸福感のようなものを感じてしまう。
だが誤魔化されてはいけない。
今俺は、まさに死地にあると言ってもいい。
秘密結社の存在を半ば示唆するような発言をしたまま、その返答は宙づりになっているのだから。
俺は、聖女の手を離すように肩を掴むと、距離をぐっと離して、こう話を切り出す。
「……聖女リーチェ。いや、この際リーチェと呼ばせてもらう……キミは、悪人か?」
美しい少女の赤色の瞳をまっすぐに見つけて、真剣に問いかける。
演技の篭もった発言ではあるが、これは本気の問いかけでもある。
なにせ、俺が遊んだ第五作序盤までの時点でも、この聖女リーチェの目的は、多くが謎に包まれていたのだから。
俺が知っているのは、この聖女が、女神デウスの力、およびそれを持つシエルに絡んで暗躍しようとしていた事。
勇者の証であるエクスペンダントを、原作ではルークに、今回の転生した世界では俺サルヴァに、渡した事。
そして、今回なぜか本来隠すべき秘密結社の仕事を、わざわざ俺に手伝わせてきた事。しかもロセット師匠と一緒にだ。
これらの事から分かる事としては、少なくない割合で、この聖女は遊んでいる可能性がある。
なにせ、秘密結社の活動を手伝わせる事に関しては、流石に意味が分からないくらい聖女側にメリットがない。
これは、俺で遊んでいる、あるいは俺の何かを試している、とみてよさそうである。
いずれにせよ、なぜか俺サルヴァ・サリュが、この聖女リーチェにとって、それなりに重要な位置を占めているらしいことがここから推察できる。
どうやってこれをうまく聞き出すか。
そんな事を考えながら、リーチェのきょとんとした表情を見つめていると――
「お兄ちゃんは賢いねぇ! そんな事まで分かっちゃってるんだ! すごいすごい!」
リーチェは頬を紅潮させて、何かを喜ぶように笑顔でいっぱいになって、俺の頭をまたもよしよしとする。
「え? え? 何を言って……」
「お兄ちゃんが考えてる通り、わたしにとって、お兄ちゃんはとっても大切なんだよ?」
聖女リーチェの純粋無垢な笑みが、どこか妖しい色気のようなものを帯びていく。
「〈円環の理〉の目的っていうのも確かにあるんだけど、わたしの本当の目的は、また違うんだよねぇ」
聖女の赤色の瞳に、桃色の紋章が浮かび、俺を陶然とさせるような魅了の輝きを放ちだす。
「お兄ちゃん、そこのベッドで、二人でお話しようか? 二人のこれからにとって、大切な事♡ ご褒美の時間だよぉ♡」
頭がぼーっとして、はちきれそうなほど欲望が膨らんで、もうどうしようもない、と思ったその時だった。
胸元に入れていたエクスペンダントが、突如輝きを放つ。
それに合わせて、俺の〈魅了〉状態異常がすーっと解けていく。
一気に思考が明晰になった様子を見て取ったリーチェは、ちょっぴりつまらなそうに唇を尖らせた。
「ふぅーん、本当にそのペンダントに選ばれてるんだねーお兄ちゃんは。おもしろーい、でもつまんなーい!」
そんな矛盾したような発言をしているリーチェは、今のやりとりがあたかも存在し無かったかのように、俺のふとももの上に寝っ転がるような体勢になって、甘えだした。
「わたしもロセちゃんみたいに、お兄ちゃんに絵本読んで欲しいなー!」
「師匠はまだしも、リーチェにそれをする度胸はないですよ」
「そっかー、好感度ってやつが足りないのかなー?」
リーチェは「あれれー?」なんていいながら、不思議そうな顔で俺の顔をふとももの上から見上げている。上目遣いは破壊的に可愛いな、と思いながらも、目の前の少女がいかに危険な存在か思い返して、なんとか理性を保つ。
「……それで、今日はどこまで話してくれるんですか?」
俺はふとももの上のリーチェの瞳をじっと見つめて、そう問いかける。
「うーん? そうだなぁ……やっぱ内緒!」
リーチェはそう言って突然猫のように身体を跳ねあがらせると、ソファーの上でバウンドしてから勢いよく立ち上がる。
「今日のあれこれはお兄ちゃんへの宿題とします!」
そういって、リーチェは可愛くウインクしてみせる。
「という事で、そろそろこわーい師匠も到着するから、お外に出してあげるね」
といったが最後、ぱちんと指を鳴らした音が聞こえたかと思うと、俺は突然大修道院の外に放り出されて、尻もちをついていた。丁寧にスリッパは脱がされており、近くにブーツが落ちている。すごい精度の空属性魔法だ。
と、ブーツの近くに依頼達成報酬の金貨袋が落ちていた。
ブーツを履き、金貨袋を拾い上げると、その中にメッセージカードのようなものが入っている事に気づく。
「わるーい女の妨害に負けずに、恋を叶えてね」
可愛らしい少女の丸文字で書かれたその言葉に、ますます混乱が深まるのを感じながら、俺はメッセージカードを袋の中に隠すと、階段を上がってきた師匠と合流して、ひとまず評判のいいレストランに繰り出したのだった。
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