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第27話 聖女からの闇依頼
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授業初日は、4時限目の座学、生存術概論なる授業を何事もなく終えて、1日が終了となった。
その翌日からの2連休で、俺は聖女から依頼があった通り、領都マークに向かう事になっている。
前回列車に乗った時はロセット師匠と一緒だったが、今回は現地で聖女指名の冒険者と待ち合わせする事になっている。
果たしてどんな冒険者と一緒になるのか、期待半分不安半分の心持ちになりながら、俺は車窓から田園風景を眺めるのだった。
王都オーベリアからいくつかの領地を通過して国の西端まで辿り着く頃には、時間は午後の昼下がりとなっていた。
列車内で昼食を済ませていた俺は、冒険者との待ち合わせ場所である、大修道院の裏手にある司祭像に向かった。
と、そこにいたのは、銀色の仮面を被った怪しい雰囲気の少女だった。
ツインテールに結ばれた緑色の髪にとんがり帽子を被り、顔には銀仮面をつけた小柄な少女。
その雰囲気は、どこかで見覚えがあるような……
というかこの漆黒に緑炎が織り交ぜられたドレスのような衣装も、非常に見覚えがある。
どう見ても、〈円環の理〉幹部の一人が身につけていたものだったような……
というか、〈火の秘密を唄う使徒〉ロセット・ジェリの衣装そのもののような……
「え、師匠!?」
俺は思わず師匠に話しかけてしまう。
「え、サルヴァ!? なぜこんなところに……」
師匠はずいぶん目を丸くして驚いているようだったが、それから遅れて、「って、まさか……」と何かに気づいたような様子を見せる。
「サルヴァ、最近リーチェ・ストライトに依頼を受けましたか?」
「え、ええ……まさかリーチェが言っていたパートナーの冒険者というのは……」
「な、な、な、なんてバカな事を! あのクソ聖女、次会ったら燃やし尽くしてやります!!!」
師匠はすっかり冷静さを失っている様子で、自分の恰好が普段と違う事にも思い至っていないようである。
「ところで師匠、その変わったファッションは、いったい……?」
俺は後々の恐怖を今のうちに解消しておくべく、先手を打って恰好に突っ込んでおく。
「え、え、えー、その、えっと、これは……」
師匠はひどく混乱した様子で、一瞬フリーズしてしまっていたが――
「……身分を隠す必要がある特殊な仕事の時は、この格好をする事にしています。サルヴァも後ほど変装してもらうので、そのつもりでいてください。とりあえず変装用の衣装を買いに行きましょう」
流石に俺に秘密結社の幹部である事が悟られるとまずいと思っているのか、師匠は必死な誤魔化しでなんとか場を収めようとする。
「は、はぁ……ちなみに、聖女リーチェから詳しい依頼内容も聞いていないのですが、一体どのような仕事なのでしょうか……?」
「……コロスコロスコロスコロスコロス」
師匠がリーチェ・ストライトへの殺意で壊れたロボットのようになっているのを眺めながら、俺は果たしてこの仕事を生きて帰る事ができるのか、色々な意味で心配になるのであった。
だって、どう見てもこれ、表の仕事じゃないよな……
明らかに秘密結社案件の片棒を担がされようとしている。
「と、とりあえず、仕事内容の全貌はわたしが把握していますので、サルヴァは私の指示に従い、必要なものを買い集めてください。その間にわたしが関係各所と交渉してきますので」
そうして俺の仕事内容は、焦りながらも方策を考えたらしい師匠の手で「お使いクエスト」に無理やり変貌したのだった。
*****
師匠に渡された空属性魔法で作られた魔道具「アイテムボックス」は、A級冒険者でもないと持てないような超高級な代物である。
それが鞄に入っているというだけでも小心者な俺はドキドキとしてしまうが、師匠に言われた集める物資の内容はもっとドキドキしてしまうようなものだった。
お使いの内容は、最初に変装用の衣装を買って変装してから、スリープマイコニドの胞子、束縛魔法の篭もった高級ロープ、巨大な鉄塊2つ、金属加工魔道具、幻影投影魔道具の購入をするというものだった。それに伴い、なかなかすさまじい額の現金を手渡される。
変装用の衣装は、師匠を見習って仮面を購入し、服装は魔法使い風の黒いローブを身にまとう事にした。
スリープマイコニドの胞子と束縛魔法の篭もった高級ロープは、街外れの寂れた小屋に存在する裏アイテム屋なる聞いた事もない店で買う事になった。
店主は仮面で顔を隠した怪しげな老婆で、犯罪臭マックスだったが、金を見せるとちゃんと買い物ができた。
鉄塊は、鉄鋼所に行って指定のサイズを2つ購入し、アイテムボックスに入れる。
入れてみると鉄塊の重さがほぼ無くなっており、アイテムボックスはただでさえ高級な代物なのに、このボックスは通常よりさらに凄いものなのではないかという疑いが芽生えるが、考えなかった事にする。
その後魔道具屋に行き、金属加工の魔道具と幻影投影の魔道具を購入した。どちらも目玉が飛び出るほど高いものだったが、渡された現金が非常に多かったため、余裕を持ってお使いを終える事が出来た。
それらを持って、裏路地の一角にある安宿の一室で、ロセット師匠と合流する。
その宿は、安宿な割にはやたらと広い敷地を持っていて、にもかかわらず客が一人もいない異質な宿になっていた。客がいないのは、表に閉店と書かれているからだが、中は非常に綺麗に保たれた金属製のドームのようになっていて、広大な空間が確保されていた。
「サルヴァ。これから、とある好事家にプレゼントするため、大修道院にあるセインベルのレプリカを作成します。わたしが加工命令文を計算し高温の炎を出すので、サルヴァは金属加工魔道具にわたしが示す情報を打ち込んで、炎を使って加工してください」
「は、はぁ……」
戸惑いながらも、俺はこれがどのような仕事であったのかを、ようやく理解していた。
これは要は、1週間後に迫る最初の『修学課題』、サリュ領都マークで起こる一連の事件の準備にあたるものだろう。
以前原作の説明をしたときは端折ってしまったが、実は、デウス序盤で主人公たちが取り戻したセインベルは、レプリカである事が後に判明するというくだりがある。
実際には本物のセインベルは秘密結社の手に渡ってしまっており、そのセインベルを古代遺跡で鳴らす事によって、女神の力を持つメインヒロイン、シエルの力を覚醒させる、という一幕が第一作のクライマックスに存在しているのである。
秘密結社〈円環の理〉の真の目的は、俺が遊んでいた第5作の序盤までの時点でも謎に包まれていたが、それがどうやらシエルが持つ『女神デウス』の力と関係しているらしいことは、様々なイベントからほぼ明らかになっている。
ここで俺が行っている事は、好事家、つまりは聖女リーチェのためにこのレプリカを作り、〈風の秘密を唄う使徒〉が本物のセインベルを盗み出した後に、この秘密拠点でセインベルをすり替え、その後偽物のセインベルを大修道院に戻すという茶番の流れを作るための悪事であると見て、間違いはないだろう。
幸か不幸か、修行で散々一緒に時間を過ごした俺とロセットのチームワークは抜群に良く、数時間ほどでセインベルのレプリカを造り上げる事が出来た。
「幻影投影魔法で、本物のセインベルの表面の模様や経年劣化などを再現します。これはわたしがやるので、サルヴァ、あなたは任務完了の報告を大修道院の聖女リーチェにしておいてください」
「あの、スリープマイコニドの胞子とあの高級ロープはどこで使うのでしょうか?」
「……あなたが知る必要はありません」
「……はい」
いろいろと闇しかなさそうなので、あまり質問するのは良くないかもしれない。
「では、俺はそろそろ大修道院に向かいますね」
自然に見える範囲で会話を終わらせ、俺は大修道院に向かう事にした。
それにしても……
聖女リーチェにとっての、秘密結社の片棒をあえて俺に担がせるメリットとは一体なんなのだろう。
あの聖女兼秘密結社幹部〈天の秘密を唄う使徒〉については、存在全てが謎といってもいいくらいに意味が分からない行動が多すぎて、俺の心労は溜まるばかりである。
「……これが終わったら、報酬で美味しいご飯でも食べよう」
あまりストレスばかり貯めていると良くない。適度にストレスを発散しないとな、なんて考えながら、俺は秘密拠点を出て、大修道院への道を歩いていくのだった。
その翌日からの2連休で、俺は聖女から依頼があった通り、領都マークに向かう事になっている。
前回列車に乗った時はロセット師匠と一緒だったが、今回は現地で聖女指名の冒険者と待ち合わせする事になっている。
果たしてどんな冒険者と一緒になるのか、期待半分不安半分の心持ちになりながら、俺は車窓から田園風景を眺めるのだった。
王都オーベリアからいくつかの領地を通過して国の西端まで辿り着く頃には、時間は午後の昼下がりとなっていた。
列車内で昼食を済ませていた俺は、冒険者との待ち合わせ場所である、大修道院の裏手にある司祭像に向かった。
と、そこにいたのは、銀色の仮面を被った怪しい雰囲気の少女だった。
ツインテールに結ばれた緑色の髪にとんがり帽子を被り、顔には銀仮面をつけた小柄な少女。
その雰囲気は、どこかで見覚えがあるような……
というかこの漆黒に緑炎が織り交ぜられたドレスのような衣装も、非常に見覚えがある。
どう見ても、〈円環の理〉幹部の一人が身につけていたものだったような……
というか、〈火の秘密を唄う使徒〉ロセット・ジェリの衣装そのもののような……
「え、師匠!?」
俺は思わず師匠に話しかけてしまう。
「え、サルヴァ!? なぜこんなところに……」
師匠はずいぶん目を丸くして驚いているようだったが、それから遅れて、「って、まさか……」と何かに気づいたような様子を見せる。
「サルヴァ、最近リーチェ・ストライトに依頼を受けましたか?」
「え、ええ……まさかリーチェが言っていたパートナーの冒険者というのは……」
「な、な、な、なんてバカな事を! あのクソ聖女、次会ったら燃やし尽くしてやります!!!」
師匠はすっかり冷静さを失っている様子で、自分の恰好が普段と違う事にも思い至っていないようである。
「ところで師匠、その変わったファッションは、いったい……?」
俺は後々の恐怖を今のうちに解消しておくべく、先手を打って恰好に突っ込んでおく。
「え、え、えー、その、えっと、これは……」
師匠はひどく混乱した様子で、一瞬フリーズしてしまっていたが――
「……身分を隠す必要がある特殊な仕事の時は、この格好をする事にしています。サルヴァも後ほど変装してもらうので、そのつもりでいてください。とりあえず変装用の衣装を買いに行きましょう」
流石に俺に秘密結社の幹部である事が悟られるとまずいと思っているのか、師匠は必死な誤魔化しでなんとか場を収めようとする。
「は、はぁ……ちなみに、聖女リーチェから詳しい依頼内容も聞いていないのですが、一体どのような仕事なのでしょうか……?」
「……コロスコロスコロスコロスコロス」
師匠がリーチェ・ストライトへの殺意で壊れたロボットのようになっているのを眺めながら、俺は果たしてこの仕事を生きて帰る事ができるのか、色々な意味で心配になるのであった。
だって、どう見てもこれ、表の仕事じゃないよな……
明らかに秘密結社案件の片棒を担がされようとしている。
「と、とりあえず、仕事内容の全貌はわたしが把握していますので、サルヴァは私の指示に従い、必要なものを買い集めてください。その間にわたしが関係各所と交渉してきますので」
そうして俺の仕事内容は、焦りながらも方策を考えたらしい師匠の手で「お使いクエスト」に無理やり変貌したのだった。
*****
師匠に渡された空属性魔法で作られた魔道具「アイテムボックス」は、A級冒険者でもないと持てないような超高級な代物である。
それが鞄に入っているというだけでも小心者な俺はドキドキとしてしまうが、師匠に言われた集める物資の内容はもっとドキドキしてしまうようなものだった。
お使いの内容は、最初に変装用の衣装を買って変装してから、スリープマイコニドの胞子、束縛魔法の篭もった高級ロープ、巨大な鉄塊2つ、金属加工魔道具、幻影投影魔道具の購入をするというものだった。それに伴い、なかなかすさまじい額の現金を手渡される。
変装用の衣装は、師匠を見習って仮面を購入し、服装は魔法使い風の黒いローブを身にまとう事にした。
スリープマイコニドの胞子と束縛魔法の篭もった高級ロープは、街外れの寂れた小屋に存在する裏アイテム屋なる聞いた事もない店で買う事になった。
店主は仮面で顔を隠した怪しげな老婆で、犯罪臭マックスだったが、金を見せるとちゃんと買い物ができた。
鉄塊は、鉄鋼所に行って指定のサイズを2つ購入し、アイテムボックスに入れる。
入れてみると鉄塊の重さがほぼ無くなっており、アイテムボックスはただでさえ高級な代物なのに、このボックスは通常よりさらに凄いものなのではないかという疑いが芽生えるが、考えなかった事にする。
その後魔道具屋に行き、金属加工の魔道具と幻影投影の魔道具を購入した。どちらも目玉が飛び出るほど高いものだったが、渡された現金が非常に多かったため、余裕を持ってお使いを終える事が出来た。
それらを持って、裏路地の一角にある安宿の一室で、ロセット師匠と合流する。
その宿は、安宿な割にはやたらと広い敷地を持っていて、にもかかわらず客が一人もいない異質な宿になっていた。客がいないのは、表に閉店と書かれているからだが、中は非常に綺麗に保たれた金属製のドームのようになっていて、広大な空間が確保されていた。
「サルヴァ。これから、とある好事家にプレゼントするため、大修道院にあるセインベルのレプリカを作成します。わたしが加工命令文を計算し高温の炎を出すので、サルヴァは金属加工魔道具にわたしが示す情報を打ち込んで、炎を使って加工してください」
「は、はぁ……」
戸惑いながらも、俺はこれがどのような仕事であったのかを、ようやく理解していた。
これは要は、1週間後に迫る最初の『修学課題』、サリュ領都マークで起こる一連の事件の準備にあたるものだろう。
以前原作の説明をしたときは端折ってしまったが、実は、デウス序盤で主人公たちが取り戻したセインベルは、レプリカである事が後に判明するというくだりがある。
実際には本物のセインベルは秘密結社の手に渡ってしまっており、そのセインベルを古代遺跡で鳴らす事によって、女神の力を持つメインヒロイン、シエルの力を覚醒させる、という一幕が第一作のクライマックスに存在しているのである。
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ここで俺が行っている事は、好事家、つまりは聖女リーチェのためにこのレプリカを作り、〈風の秘密を唄う使徒〉が本物のセインベルを盗み出した後に、この秘密拠点でセインベルをすり替え、その後偽物のセインベルを大修道院に戻すという茶番の流れを作るための悪事であると見て、間違いはないだろう。
幸か不幸か、修行で散々一緒に時間を過ごした俺とロセットのチームワークは抜群に良く、数時間ほどでセインベルのレプリカを造り上げる事が出来た。
「幻影投影魔法で、本物のセインベルの表面の模様や経年劣化などを再現します。これはわたしがやるので、サルヴァ、あなたは任務完了の報告を大修道院の聖女リーチェにしておいてください」
「あの、スリープマイコニドの胞子とあの高級ロープはどこで使うのでしょうか?」
「……あなたが知る必要はありません」
「……はい」
いろいろと闇しかなさそうなので、あまり質問するのは良くないかもしれない。
「では、俺はそろそろ大修道院に向かいますね」
自然に見える範囲で会話を終わらせ、俺は大修道院に向かう事にした。
それにしても……
聖女リーチェにとっての、秘密結社の片棒をあえて俺に担がせるメリットとは一体なんなのだろう。
あの聖女兼秘密結社幹部〈天の秘密を唄う使徒〉については、存在全てが謎といってもいいくらいに意味が分からない行動が多すぎて、俺の心労は溜まるばかりである。
「……これが終わったら、報酬で美味しいご飯でも食べよう」
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