19 / 37
第19話 アリーシャとの出会い~冒険者学園入学試験にて~
しおりを挟む
デウスの世界観において、王立オーベリア冒険者学園は、この世界における冒険者学園の中でも御三家と呼ばれる名門学園である。
他に、ガノール帝国と白龍共和国が御三家とされる冒険者学園を領土に持っているが、この二国に比して国力が小さいのに、最も世界中から才能が集まる王立オーベリア冒険者学園は、教育分野において「最優」と名高い。
そんなオーベリア冒険者学園だが、入学難易度の厳しさも世界最高峰と言われている。
筆記試験は、問題こそオーソドックスながらも数問しか落とす事を許されないハイレベルな戦いとなっているし、冒険者としての実力を測る生存術と戦闘術の試験は、すでにプロの冒険者としてやっていける程度は当然と見做されているような難易度である。
それもそのはず、オーベリア冒険者学園のモットーは『世界を護るA級冒険者を一人でも多く輩出する』事である。
学生として入学する時点でG級やF級程度の力を持っている事は、その高き目標からすれば当たり前なのだ。
上位陣ともなれば、E級の資格を持つ入学者もチラホラといるような世界である。
プロとして何の問題もなく生計を立て家族を養っていけるようなランク帯が、E級である。
そうした若くして優秀な人材が一学生として高みを目指すのが、オーベリア冒険者学園という場所なのである。
さて、そんな入学試験に今挑んでいる俺、サルヴァ・サリュは、ここ3ヶ月の「地獄の冒険者ツアーwithロセット師匠」の結果、D級の資格を保有するに至っていた。
今年の入学希望者でD級以上に到達している者は、他にいないらしい。
午前の筆記試験の後、午後の生存術の試験に挑んだ俺は、敷地内にある山の中行われた探索試験を首席で合格した。
地図を手に、指定のチェックポイントを回りながら、薬草の採取やモンスターの狩猟などを行う4時間ほどの試験内容だったが、正直に言えば普段やっていたクエストより難易度が低すぎて逆に戸惑った。
いかに師匠が今までハードワークをこなさせていたかを如実に表していると言える。
今俺は、18時より演習場で行われる戦闘試験を控え、しばし学内のカフェテリアで休憩を取っていた。
「おい、あれ、サルヴァ・サリュだぜ。あのコーネリア伯の舞踏会でろくに踊れもしなかったっていう……」
「セリス候の娘の誕生日会で、セリス候のメイドに無礼な態度を取ってセリス候が激怒したとも聞いたわ。よくもそんな奴がこの名門の入学試験に来たものよね……」
受験生たちに与えられた2時間休憩、漏れ聞こえてくる彼らの会話から分かった事は、この悪役貴族、サルヴァ・サリュの世間での評判は、デフォルトで最悪だという事だった。
貴族の世界は狭い。
様々なパーティなどで幼い頃から交流を重ねてきた彼らの人脈においては、悪評というのは極めて迅速に広まっていく。
努力もせず、傍若無人で、愚かな人格をしていたサルヴァは、既に相当量のレッテルを張られているようであった。
そんな会話が遠くから聞こえてくるのを聞きながら、俺は一人、紅茶を飲みながらクッキーを食べる。
もぐもぐ。クッキー美味いな。流石は名門学園、シェフも一流である。
そんな呑気な感想を抱きながら、周囲の敵意を受け流していると、一人の少女が、なにやら俺の所まで近づいてきた。
横目に見えたその恰好は、貴族家出身の子供が多い周囲の中では浮いた平民の町娘らしきもので、短い丈のスカートから伸びた太ももが目を惹いた。
「美味しそうなお菓子ですね。おひとついただけますか?」
その物言いは、かなり傍若無人。初対面でクッキーをねだる根性に敬意を表して、ご尊顔でも拝んでやりますか、と少女のいる右側を振り向いたとき――
――思わず俺はクッキーを右手から取り落としてしまっていた。
少女があまりに、あまりに魅力的だったからだ。
まるで氷のような薄い水色の髪は、艶々とした輝きを放ちながら腰元まで伸ばされ、町娘らしい自由闊達な跳ね方をしている。
そして、その顔――
――ドクン。
その顔を見た瞬間、心臓が大きく跳ねて暴れまわる。
自分の頬が熱くなって、おそらくは顔全体が赤くなってしまっているのを感じる。
あまりにもあまりな美少女だった。
その瞳も、鼻も、頬も、唇も、すべてが完璧なバランスで、神の被造物として存在していると感じられた。
優し気な雰囲気の目元は、何を言ってもすべて受け入れてくれそうな包容力を感じさせる。
だがその瞳は、深遠に奥深い輝きを放つ濃い紫色の瞳で、その神秘性が、少女がただ優しいだけの少女ではなく、もっと何か危険で魔性的な存在である事を示しているかのようだった。
そんな少女は、俺が座るソファーの横に何も了承を取らず腰掛けると、俺の返事を待たずクッキーを手に取って、もぐもぐと食べ始める。
「美味しいです」
そんな勝手な感想を述べる美しき桜色の唇に吸い込まれて行くクッキーすら、なぜかとても艶めかしく感じられてしまい、自分の本能が少女を求めてしまう。
一言でいうなら、異常に色っぽい少女だった。
とても15や16歳とは思えない色香を放つ少女は、町娘のはだけた上着から胸の谷間を覗かせながら、こちらを向いてこくりと首をかしげてみせる。
全てが俺のドストライクだった。
可愛い。可愛すぎる。こんな天使みたいな子がいていいのか――
しばし見惚れてしまっていた俺は、しばらく遅れてこの少女が『デウス』におけるキーキャラクターである事に気づく。
少女の名前は、アリーシャ・アーレア。
『デウス』シリーズにおける主人公の学園時代の仲間キャラであり、絶世の美少女でありながら、主人公に報われない片思いをしながらヒロインシエルと主人公が仲を深めていくのを悲しく見つめている、悲劇のヒロインキャラクターである。
しかしその正体は、秘密結社〈円環の理〉の幹部、〈恋の秘密を唄う使徒〉アリーシャであり――
俺がプレイしていない第六作において、サルヴァと主人公亡き後、主人公を滅ぼした女神の力ごと世界を滅ぼす、ある意味ではバッドエンドの主因ともいえる少女である――
そんな少女は、そのままスタっと立つと、
「クッキー、ありがとうございました。またください」
と言ってすたすたその場を去っていく。
俺を遠巻きに観察していた悪意たちは、唖然とした表情で少女の振る舞いを見つめていたようだった。
後に残された俺、サルヴァ・サリュは――
「す、好きかもしれない――」
アリーシャに一目惚れしていた。
少女が〈恋の秘密を唄う使徒〉、つまりは魅了の力を操る使徒である事である事を知っていても、全く抗えなかったし、抗う気にもならなかった。
アリーシャ・アーレア、恐るべし……
他に、ガノール帝国と白龍共和国が御三家とされる冒険者学園を領土に持っているが、この二国に比して国力が小さいのに、最も世界中から才能が集まる王立オーベリア冒険者学園は、教育分野において「最優」と名高い。
そんなオーベリア冒険者学園だが、入学難易度の厳しさも世界最高峰と言われている。
筆記試験は、問題こそオーソドックスながらも数問しか落とす事を許されないハイレベルな戦いとなっているし、冒険者としての実力を測る生存術と戦闘術の試験は、すでにプロの冒険者としてやっていける程度は当然と見做されているような難易度である。
それもそのはず、オーベリア冒険者学園のモットーは『世界を護るA級冒険者を一人でも多く輩出する』事である。
学生として入学する時点でG級やF級程度の力を持っている事は、その高き目標からすれば当たり前なのだ。
上位陣ともなれば、E級の資格を持つ入学者もチラホラといるような世界である。
プロとして何の問題もなく生計を立て家族を養っていけるようなランク帯が、E級である。
そうした若くして優秀な人材が一学生として高みを目指すのが、オーベリア冒険者学園という場所なのである。
さて、そんな入学試験に今挑んでいる俺、サルヴァ・サリュは、ここ3ヶ月の「地獄の冒険者ツアーwithロセット師匠」の結果、D級の資格を保有するに至っていた。
今年の入学希望者でD級以上に到達している者は、他にいないらしい。
午前の筆記試験の後、午後の生存術の試験に挑んだ俺は、敷地内にある山の中行われた探索試験を首席で合格した。
地図を手に、指定のチェックポイントを回りながら、薬草の採取やモンスターの狩猟などを行う4時間ほどの試験内容だったが、正直に言えば普段やっていたクエストより難易度が低すぎて逆に戸惑った。
いかに師匠が今までハードワークをこなさせていたかを如実に表していると言える。
今俺は、18時より演習場で行われる戦闘試験を控え、しばし学内のカフェテリアで休憩を取っていた。
「おい、あれ、サルヴァ・サリュだぜ。あのコーネリア伯の舞踏会でろくに踊れもしなかったっていう……」
「セリス候の娘の誕生日会で、セリス候のメイドに無礼な態度を取ってセリス候が激怒したとも聞いたわ。よくもそんな奴がこの名門の入学試験に来たものよね……」
受験生たちに与えられた2時間休憩、漏れ聞こえてくる彼らの会話から分かった事は、この悪役貴族、サルヴァ・サリュの世間での評判は、デフォルトで最悪だという事だった。
貴族の世界は狭い。
様々なパーティなどで幼い頃から交流を重ねてきた彼らの人脈においては、悪評というのは極めて迅速に広まっていく。
努力もせず、傍若無人で、愚かな人格をしていたサルヴァは、既に相当量のレッテルを張られているようであった。
そんな会話が遠くから聞こえてくるのを聞きながら、俺は一人、紅茶を飲みながらクッキーを食べる。
もぐもぐ。クッキー美味いな。流石は名門学園、シェフも一流である。
そんな呑気な感想を抱きながら、周囲の敵意を受け流していると、一人の少女が、なにやら俺の所まで近づいてきた。
横目に見えたその恰好は、貴族家出身の子供が多い周囲の中では浮いた平民の町娘らしきもので、短い丈のスカートから伸びた太ももが目を惹いた。
「美味しそうなお菓子ですね。おひとついただけますか?」
その物言いは、かなり傍若無人。初対面でクッキーをねだる根性に敬意を表して、ご尊顔でも拝んでやりますか、と少女のいる右側を振り向いたとき――
――思わず俺はクッキーを右手から取り落としてしまっていた。
少女があまりに、あまりに魅力的だったからだ。
まるで氷のような薄い水色の髪は、艶々とした輝きを放ちながら腰元まで伸ばされ、町娘らしい自由闊達な跳ね方をしている。
そして、その顔――
――ドクン。
その顔を見た瞬間、心臓が大きく跳ねて暴れまわる。
自分の頬が熱くなって、おそらくは顔全体が赤くなってしまっているのを感じる。
あまりにもあまりな美少女だった。
その瞳も、鼻も、頬も、唇も、すべてが完璧なバランスで、神の被造物として存在していると感じられた。
優し気な雰囲気の目元は、何を言ってもすべて受け入れてくれそうな包容力を感じさせる。
だがその瞳は、深遠に奥深い輝きを放つ濃い紫色の瞳で、その神秘性が、少女がただ優しいだけの少女ではなく、もっと何か危険で魔性的な存在である事を示しているかのようだった。
そんな少女は、俺が座るソファーの横に何も了承を取らず腰掛けると、俺の返事を待たずクッキーを手に取って、もぐもぐと食べ始める。
「美味しいです」
そんな勝手な感想を述べる美しき桜色の唇に吸い込まれて行くクッキーすら、なぜかとても艶めかしく感じられてしまい、自分の本能が少女を求めてしまう。
一言でいうなら、異常に色っぽい少女だった。
とても15や16歳とは思えない色香を放つ少女は、町娘のはだけた上着から胸の谷間を覗かせながら、こちらを向いてこくりと首をかしげてみせる。
全てが俺のドストライクだった。
可愛い。可愛すぎる。こんな天使みたいな子がいていいのか――
しばし見惚れてしまっていた俺は、しばらく遅れてこの少女が『デウス』におけるキーキャラクターである事に気づく。
少女の名前は、アリーシャ・アーレア。
『デウス』シリーズにおける主人公の学園時代の仲間キャラであり、絶世の美少女でありながら、主人公に報われない片思いをしながらヒロインシエルと主人公が仲を深めていくのを悲しく見つめている、悲劇のヒロインキャラクターである。
しかしその正体は、秘密結社〈円環の理〉の幹部、〈恋の秘密を唄う使徒〉アリーシャであり――
俺がプレイしていない第六作において、サルヴァと主人公亡き後、主人公を滅ぼした女神の力ごと世界を滅ぼす、ある意味ではバッドエンドの主因ともいえる少女である――
そんな少女は、そのままスタっと立つと、
「クッキー、ありがとうございました。またください」
と言ってすたすたその場を去っていく。
俺を遠巻きに観察していた悪意たちは、唖然とした表情で少女の振る舞いを見つめていたようだった。
後に残された俺、サルヴァ・サリュは――
「す、好きかもしれない――」
アリーシャに一目惚れしていた。
少女が〈恋の秘密を唄う使徒〉、つまりは魅了の力を操る使徒である事である事を知っていても、全く抗えなかったし、抗う気にもならなかった。
アリーシャ・アーレア、恐るべし……
11
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』


貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる