The Outer Myth :Ⅰ ~目覚めの少女と嘆きの神~

とちのとき

文字の大きさ
上 下
66 / 81
第12章 結びて断ちて

54話

しおりを挟む
 翌日も、傑はイナホに頼まれた機器を作りながら手塚に、
 「中継器設置の時には、何人か貸してもらえないか?」
 「ああ、もちろんだ。では、別動隊として半分。残りはあの子らと作戦に加わればいいか?」
 「そうだな、非常に危険だがお願いする。僕は出来る限り、これらを広範囲に設置したい」

 指示を出す傑を、少し離れた所から心配そうに見つめるツグミ。それを気にかけたイナホは、
 「ツグミちゃん?大丈夫?」
 「ええ、ただ心配なのです。今の父さんは、何かに囚われてるというか・・・・。このまま、また会えなくなるのではないかと」
 「大丈夫だよ。きっと上手くいくよ。ツグミちゃんが私の母さん達の危機を救ってくれたように、今度は私が助けるからさ。まぁ、ツグミちゃんみたいに格好良くいかないかもしれないけど」
 「ふ、無茶をされては困ります。ありがとう、イナホ」
 そんな二人の元へ、避難者の子供が少し警戒しながらやって来た。その男の子はツグミを見上げると、
 「お、お姉ちゃん機械なんだろ?」
 「ええ、そうです」
 「おとーちゃん言ってた、勝手に動く機械は、みんな悪さするって。人を殺すって」
 イナホが安心させようと、
 「このツグミちゃんはそんな事ないよ?私たちの友達なんだ」
 男の子は下を向いて、
 「うん、わかってるんだ。昨日、ここを守ろうと戦ってるの見たから。それでも、おとーちゃん・・・・」
 ツグミはしゃがんで目線の高さを合わせると、
 「喧嘩をしてしまったのですね?」
 「機械のお姉ちゃん、心が読めるのかよ!すげー。ぼく、おとーちゃんに弱虫って・・・。おかーちゃん死んだのも、おとーちゃんが弱虫だからって・・・。そしたら、そしたら・・・」
 「では、一緒に謝りに行きましょう。あなたが居ない事を、とても心配しているはずです。・・・イナホも一緒によろしいですか?」
 イナホが頷くと、三人は手を繋いで話をしながら親元へと向かった。

 廃墟を利用した隠れ家で、大人の姿が見えると、男の子は手を離した。父親と思われる男は、
 「栄太、こっちに来なさい。何もされてないか?ん?」
 その言動にイナホは少しムスっとするが、ツグミは男の子に、
 「約束しましたね?一人で言えますか?」
 「うん・・・。おとーちゃん、弱虫だなんて言って、ごめんなさい・・・。おかーちゃんのことも・・・。でも、ぼく、確かめたかったんだ」
 父親は声を上げる、
 「そんな事を言って、父ちゃんの言った通りだったらどうする!?」
 「だって、見たでしょ?このお姉ちゃんたち、戦ってるの。今だってほら」
 ツグミは二人に割って入る様にして、男の子に語り掛ける。
 「栄太、あなたのお父様が言っている事は、間違ってはいません。でもそれは、弱さではないのです。その用心深さがあったからこそ、今のあなたがある」
 「だったら、おかーちゃんは・・・・!」
 「あなたの様に勇気ある行動も素晴らしい事です。しかし、勇敢な事、それだけが強さではないのです。一人の人間に出来る事は限られています。そんな時、誰しも、何かを選ばなければなりません。いつか、お父様の選択を感謝し、誇れる日が来ます。・・・今はまだ、少し難しかったかもしれませんね」
 男の子の父親は、気づくと涙を零していた。そして我が子を抱きしめると、
 「父ちゃんも悪かった。もっとお前の話を聞くようにするからな」
 彼はそのままツグミを見ると、
 「俺はこの先も、人工知能を信用する事は出来ないかもしれない。ただ・・・、息子を送り届けてくれた事、感謝する」
 ツグミは黙って一礼すると、
 「イナホ、もう行きましょう」
 「うん。・・・ツグミちゃんって、いいお母さんになりそうだよね。ふふ」
 「そうでしょうか」
 「そうだよ」


 それから数時間が経ち、夜を迎えた。皆の協力もあり、傑は装置を完成させた様だった。須佐之男すさのお月詠つくよみの立つ社の前に、皆が呼び集められると手塚は、
 「準備は整った。では、改めて作戦を伝える。秋津の戦士たちと共に、敵本拠地を叩く本隊と、尾上氏指示の元、天照大御神様の回復装置設置を行う別動隊。この二つに分かれて行動する」
 傑は、
 「まず、僕ら別動隊についてだ。僕らは本隊とは反対の方向。西の山々に、この装置を設置する。映像を広範囲に伝えるための適切なポイントは、既に割り出してある。出来る限り、敵との遭遇は避けられればいいが」
 再び手塚が、
 「そして本隊の方だ。ここから東、茨城の旧学園都市にあるとされる敵拠点。こちらはどのような状況になるかわからない。おそらく、激しい戦闘が想定される。我々に出来る事と言えば、通常兵器を引き受け、彼女たちが戦闘に集中できるようにサポートしてやる事ぐらいだ」
 須佐之男はイナホ達の眼を見ると、
 「俺は姉上を守るためここを離れられない。この命運、お前達に託したぜ」
 頷くイナホ達に、須佐之男と同じ形の剣を腰に下げた月詠が、
 「代わりに私が同行する。敵地は無人であると聞いた。ならば、私の力も振るえよう」
 イナホは、
 「月詠様の力って・・・・?それに、その剣」
 「ふ、時期にわかる。これは天羽々斬の影打ちだ。私に剣が扱えぬと思っていたか?こやつの姉であるぞ?」
 不敵に笑う月詠たちの会話を、傑が抵抗軍の皆に伝える。それを聞いた隊員たちは士気が上がった反応を見せたのだった。
 そして、手塚の作戦実行の号令に合わせ、皆は声を上げた。出発を前に傑はツグミに、
 「じゃあ、ツグミ達も気をつけて。必ずまた会おう」
 「はい。父さん・・・・、やはり神器を扱える者を付けた方が・・・・」
 「そっちの戦力を削るわけにはいかない。大丈夫だ、無茶はしないよ。・・・ん?ツグミのお客さんじゃないか?」
 ツグミが振り返ると、そこには昼間の男の子があの父親と共に居たのだった。ツグミは男の子の前にしゃがむと、
 「仲直りはできましたか?」
 「うん。お姉ちゃんたち、悪い奴ら倒しに行くって聞いたから。どうしてもって言って来たんだ」
 「そうでしたか。私たちも、仲直りしに行ってきます」
 「倒すんじゃないの?」
 「ええ。力による解決は、どちらかが完全に居なくなるまで続きます。仲直り出来れば、それが一番良いと思いませんか?」
 「でも僕、おかーちゃんを殺した奴ら許せないよ」
 「そうですね。敵を許し、前を向いて生きるのは、とても勇気が要ると思います。でもどうか、考える事を諦めないでください。諦めた時、その時はまた、暴力が誰かの悲しみを生むのです」
 「悲しいのはもう嫌だな。・・・負けたりしないよね?また、お話したい」
 「戻ったらまた、お話しましょう。それまで、栄太も元気でいてください。約束です」
 ツグミは小指を差し出すと、男の子と指切りを交わした。傑やイナホ達はそれを微笑ましく見つめる。
 男の子は父親の所に戻り、出発を見送ろうとしていた。それに対し、少し寂しそうにするイナホは、
 「あ、あれ?私もいっぱいお喋りしたのにな・・・」
 そんな彼女に百花が、
 「子供にはわかるんだって。特に男の子には。ツグツグの溢れ出る母性、的な?」
 「ぐぬぬ・・・」
 そこに月詠も、
 「諦めろ。あの手の娘は、歳を問わず、無垢なる男には魔性だ」
 「そ、そう言えば坤も・・・」
 「ふ、既にしてやられたのか?・・・さて、準備だけでもしておくか」
 月詠は月を見上げながら、何やら指をパチンと鳴らした。不思議そうにそれを見るイナホと百花。そこに手塚の声が、
 「よし、行こうか」
 そうしてイナホ達と傑たちは、須佐之男に見送られながら歩み始めた。小さな手も、彼女たちの姿が見えなくなるまで振られていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~

硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚 多くの人々があやかしの血を引く現代。 猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。 けれどある日、雅に縁談が舞い込む。 お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。 絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが…… 「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」 妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。 しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

多重世界の旅人/多重世界の旅人シリーズII

りゅう
SF
 とある別世界の日本でごく普通の生活をしていたリュウは、ある日突然何の予告もなく違う世界へ飛ばされてしまった。  そこは、今までいた世界とは少し違う世界だった。  戸惑いつつも、その世界で出会った人たちと協力して元居た世界に戻ろうとするのだが……。 表紙イラスト:AIアニメジェネレーターにて生成。 https://perchance.org/ai-anime-generator

「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀

さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。 畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。 日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。 しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。 鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。 温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。 彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。 一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。 アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。 ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。 やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。 両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は? これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。 完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...