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第11章 新たな力
51話
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イナホ達が社に戻ってくると、作業小屋の下で少彦名と傑が、どことなく影を落としつつ話し込んでいるのが見えた。二人はイナホ達に気付くと話を中断した様だった。少彦名は何事も無かったように、
「おぉ、男衆も無事じゃったか。少し疲れは取れたかの?」
渋い顔をする男子達の横で、香南芽は手荷物から原石を取り出し少彦名に差し出す。
「色々ありましたけど、癒されました。それより、これ、見て下さいよ!」
「これは、上質な水晶ではないか!まさか・・・」
「あの温泉の底にたっぷりと」
「おお、良かった良かった。これで事を進められるわい」
傑も控えめに笑顔を見せると、
「良かったな。さて、次はと・・・・」
少し淡白に作業に戻る傑にツグミは、
「父さん、何かありましたか?」
「いや、少し作業が遅れていてね」
「そうですか。しかし、少し休まれた方が」
「ああ、でも、もう少し集中力が続くうちに進めておきたい。悪いがツグミ、手を貸してくれ」
「はい、それは良いのですが・・・・」
少し心配そうに傑を見るツグミ。イナホもそれを察して、
「あの、私たちにも何か出来る事はありますか?」
「そうだな・・・。少彦名に手を貸してやってくれ。ああそれと、神器を使った戦術を話し合ってもらいたい。というのも、ツグミからもらったデータを見ていて、君達の戦い方で少し気になる事があった」
「気になる事、ですか?」
「君達の持つ三種の神器には、個人の装備ごとに決められた相互作用がある。例えば、イナホ君がツグミの秋ノ御太刀を借りて振るえば、それはツグミの八咫射弩に力が蓄えられる、といった具合にね」
「あ、それってつまり、ずっとツグミちゃんに後ろから支援してもらえる、とか?」
「そうだ、話が早い。ただ、八咫射弩を誰かに貸し与えた場合だけど、八咫射弩の変形機能などは、夢繕勾玉を介しているみたいだから、基本的には通常射撃に限定されると思うけどね。僕は戦闘のプロではないから、あまり多くの事は言えないが、状況や得意分野、役割に応じて装備の貸し借りをする事で、立ち回りを変えられるかもしれない」
それを聞いていた斐瀬里も納得した様子で、
「確かにそうですね。神器の細かい性能については未知数というか、私達もあまり時間を確保できないまま日本に来たので、戦術も正直ぶっつけ本番の部分が多いというか・・・」
傑は頷くと、
「まぁ、粗削りな部分は仕方がない。僕らはそれを補うための手助けをするだけだ。詳しい強化内容については後で話すよ。神器は機械的、電気的に動作している部分と、量子技術や霊的な何かの複雑な組み合わせだ。まだどうなるか正直わからない」
少彦名も鉱石を不思議な力で加工しながら、
「そうじゃの。異界の神が作った代物に手を加えるとは何とも複雑じゃ。設計に携わったものがおるといっても、そう簡単にはいかん。それに急ごしらえの設備でどこまで出来るか」
傑は横目で少彦名を見ながら、
「今回は気が変わったからと言って、途中で姿を消さないでくれよ?」
「国の明暗がかかっているときに、わしとてそんなに薄情ではないわい!」
そんなイナホ達のやり取りを、社の陰から見つめる者が居た。そこに月詠がやって来る。しかし、その者は決して闇から出ようとせず、
「ご報告を。陛下は彼の山中にて御健在。大御神様への神事を今も慣行中」
「姉上を延命させてくれている事、感謝している」
「は。それから海の外の者達からの知らせでは、大陸からの火の雨が一週間後との事」
「その件は多くの者に知らせよ。この期に及んで人の手で犠牲が増えるなどあってはならない」
「承知。・・・・ところで月詠様、あの者たちが?」
「ああ。流石、耳が早い。鴉天狗よ、お前にはどう見える?」
「大御神様がお決めになられたのであれば、異存はありません」
「ふ、八咫烏としての総意を訊いているのではない。あの者らに歳も近く、人間であるお前にはどう見えるか気になってな」
「異国・・・、いえ、異世界の若者たちが、どの程度の精神性なのかはわかりませんが、正直、武器が少し扱えるだけの、素人の寄せ集めかと」
「ふ、ははは。これは面白い賭けになったな。秋津の子らが打ち勝った時、お前はどうする?」
「・・・・裸踊りでもしましょう」
「それなら姉上もあの時のように喜ぶかもしれぬな」
「つ、月詠様は?」
「この賭けに負ければ、私はお前に支払う事は出来ぬ」
「な!?そんなの・・・、嫌です・・・・」
「ならば、こちらの賭けに乗れ。そして生き延びよ。国の再建には王が必要だ。再び我々、影の力が必要になる時が来る。務めを果たせ」
「は。では、これにて」
イナホ達が交代で警護しながら、夜通し傑たちの作業は進んでいた。そして夜が明けようとしたとき、物々しい一団が近づいてくるのが見えた。イナホはそれに気づくと、
「みんな!銃を持った人たちがこっちに!」
その声に仮眠をしていた皆も飛び起きて、ぞろぞろと表に出た。近づいてくる一団の中の男が、
「すまない、少し休める場所と出来れば物資を・・・・」
そう言いかけた途端、彼は声を荒げた。
「おい、見ろ!尾上のアンドロイドだ!あの開発者もいるぞ!!」
次の瞬間、彼らは一斉にツグミと傑に銃口を向けた。イナホ達は二人を守る様に立ちはだかり、彼らと銃を向け合うのだった。
「おぉ、男衆も無事じゃったか。少し疲れは取れたかの?」
渋い顔をする男子達の横で、香南芽は手荷物から原石を取り出し少彦名に差し出す。
「色々ありましたけど、癒されました。それより、これ、見て下さいよ!」
「これは、上質な水晶ではないか!まさか・・・」
「あの温泉の底にたっぷりと」
「おお、良かった良かった。これで事を進められるわい」
傑も控えめに笑顔を見せると、
「良かったな。さて、次はと・・・・」
少し淡白に作業に戻る傑にツグミは、
「父さん、何かありましたか?」
「いや、少し作業が遅れていてね」
「そうですか。しかし、少し休まれた方が」
「ああ、でも、もう少し集中力が続くうちに進めておきたい。悪いがツグミ、手を貸してくれ」
「はい、それは良いのですが・・・・」
少し心配そうに傑を見るツグミ。イナホもそれを察して、
「あの、私たちにも何か出来る事はありますか?」
「そうだな・・・。少彦名に手を貸してやってくれ。ああそれと、神器を使った戦術を話し合ってもらいたい。というのも、ツグミからもらったデータを見ていて、君達の戦い方で少し気になる事があった」
「気になる事、ですか?」
「君達の持つ三種の神器には、個人の装備ごとに決められた相互作用がある。例えば、イナホ君がツグミの秋ノ御太刀を借りて振るえば、それはツグミの八咫射弩に力が蓄えられる、といった具合にね」
「あ、それってつまり、ずっとツグミちゃんに後ろから支援してもらえる、とか?」
「そうだ、話が早い。ただ、八咫射弩を誰かに貸し与えた場合だけど、八咫射弩の変形機能などは、夢繕勾玉を介しているみたいだから、基本的には通常射撃に限定されると思うけどね。僕は戦闘のプロではないから、あまり多くの事は言えないが、状況や得意分野、役割に応じて装備の貸し借りをする事で、立ち回りを変えられるかもしれない」
それを聞いていた斐瀬里も納得した様子で、
「確かにそうですね。神器の細かい性能については未知数というか、私達もあまり時間を確保できないまま日本に来たので、戦術も正直ぶっつけ本番の部分が多いというか・・・」
傑は頷くと、
「まぁ、粗削りな部分は仕方がない。僕らはそれを補うための手助けをするだけだ。詳しい強化内容については後で話すよ。神器は機械的、電気的に動作している部分と、量子技術や霊的な何かの複雑な組み合わせだ。まだどうなるか正直わからない」
少彦名も鉱石を不思議な力で加工しながら、
「そうじゃの。異界の神が作った代物に手を加えるとは何とも複雑じゃ。設計に携わったものがおるといっても、そう簡単にはいかん。それに急ごしらえの設備でどこまで出来るか」
傑は横目で少彦名を見ながら、
「今回は気が変わったからと言って、途中で姿を消さないでくれよ?」
「国の明暗がかかっているときに、わしとてそんなに薄情ではないわい!」
そんなイナホ達のやり取りを、社の陰から見つめる者が居た。そこに月詠がやって来る。しかし、その者は決して闇から出ようとせず、
「ご報告を。陛下は彼の山中にて御健在。大御神様への神事を今も慣行中」
「姉上を延命させてくれている事、感謝している」
「は。それから海の外の者達からの知らせでは、大陸からの火の雨が一週間後との事」
「その件は多くの者に知らせよ。この期に及んで人の手で犠牲が増えるなどあってはならない」
「承知。・・・・ところで月詠様、あの者たちが?」
「ああ。流石、耳が早い。鴉天狗よ、お前にはどう見える?」
「大御神様がお決めになられたのであれば、異存はありません」
「ふ、八咫烏としての総意を訊いているのではない。あの者らに歳も近く、人間であるお前にはどう見えるか気になってな」
「異国・・・、いえ、異世界の若者たちが、どの程度の精神性なのかはわかりませんが、正直、武器が少し扱えるだけの、素人の寄せ集めかと」
「ふ、ははは。これは面白い賭けになったな。秋津の子らが打ち勝った時、お前はどうする?」
「・・・・裸踊りでもしましょう」
「それなら姉上もあの時のように喜ぶかもしれぬな」
「つ、月詠様は?」
「この賭けに負ければ、私はお前に支払う事は出来ぬ」
「な!?そんなの・・・、嫌です・・・・」
「ならば、こちらの賭けに乗れ。そして生き延びよ。国の再建には王が必要だ。再び我々、影の力が必要になる時が来る。務めを果たせ」
「は。では、これにて」
イナホ達が交代で警護しながら、夜通し傑たちの作業は進んでいた。そして夜が明けようとしたとき、物々しい一団が近づいてくるのが見えた。イナホはそれに気づくと、
「みんな!銃を持った人たちがこっちに!」
その声に仮眠をしていた皆も飛び起きて、ぞろぞろと表に出た。近づいてくる一団の中の男が、
「すまない、少し休める場所と出来れば物資を・・・・」
そう言いかけた途端、彼は声を荒げた。
「おい、見ろ!尾上のアンドロイドだ!あの開発者もいるぞ!!」
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