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第6章 因果

30話

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 学校に戻ると、厳しい叱責を受けるものだと全員が覚悟するが、意外にも柔らかな態度で佐江崎教官たちが出迎える。
 「豊受小隊長さんから全て聞いている。みんな無事で良かった!」
 普段は強面の教官が皆を抱き寄せ、おかえりと言う。拍子抜けした一同は医務室へ連れて行かれた。

 いつもと違い、班の全員が揃っていない事に、寂しさと嫌な想像が浮かんでしまったイナホ。教官に肩の手当を受けながら、
 「ねえ、今日はみんな無事に済んだけど、もしそうじゃなかったら、私、みんなを・・・・」
 気遣うように斐瀬里ひせりは笑顔を浮かべ、
 「豊受さん、皆も自分の意志で選んだことだよ?そんな事言わないで?」
 香南芽かなめも、 
 「そうだよ、イナホ。私らを見くびるんじゃない!自分たちの決断を人のせいにするほど、弱くないぞっ?」
 消毒液を手に持った慶介は、
 「ははは、そうだね。百花ちゃんのお姉さんの事は心配だけど、みんな無事だったんだ」
 司も首の切り傷の手当てを受けながら、
 「そうだよ、もし何かあったとしても、誰もイナホさんの事は恨まないよ。僕こそ、人質に取られて足ひっぱっちゃって。なにより、先陣を切って戦ってくれたイナホさんの気持ちは、みんなに伝わってると思うよ?」
 イナホは皆の顔を見て、
 「みんな・・・」
と、頷いてみせた。
 二人の治療を終えると佐江崎教官は、
 「君達の処分内容については、後で話す。事情は十分加味するが、重大な違反があったのは事実だ。ま、今日の所はゆっくり休め。反省文に書く事を、夢の中で考えておくといい」
 そう笑顔を見せ、皆を見送った。

 医務室を出て宿舎へ戻る途中、今になって緊張の糸が切れたのか、イナホはその場でぺたんと座り泣き始めた。それを囲むように、他の四人もしゃがみ込む。斐瀬里はイナホの手を取り、
 「豊受さんも怖かったんだね」
 慶介もイナホを見て、
 「僕もやっと膝の震えが治まってきたところだよ。初戦がS級相手だったんだ、無理も無いよ。でもゲームだったら、僕らいきなり超絶レベルアップ?」
 その言葉に香南芽が、
 「あっはは、そうだね。レベルはどうだか知らないけど、こんな経験出来ないし。悠じゃなくても、武勇伝くらいは語りたくなるかもね」
 司は少し恥ずかしそうに、
 「僕もカッコ良く、クバンダ倒しておきたかったな・・・・」
 イナホは顔をくしゃくしゃにして、気持ちを吐露する。
 「みんなを失うかもしれないってことが、思ってたよりもずっと怖くて・・・!」
 香南芽はイナホの頭に手をやり、
 「あんたは強いよ。イナホが居なかったら、私ら、あの場に立っていられなかったと思う。イナホの勇気がしっかり私らを守ってくれたんだよ」
 皆も優しく頷き、イナホが落ち着くのを待った。

 その後、各々が部屋に戻ると、皆の携帯端末に百花から姉の容体が安定したとのメッセージが届く。それを見て安堵したのか、イナホ達にどっと疲れが押し寄せ、すぐに眠りに落ちた。

 イナホ達の昨夜の騒動の件は、数日の自宅謹慎と反省文という軽い処分で済んだが、それにより合宿も途中離脱となった。
 イナホは肩に負った傷の包帯を変えながらニュースを見ていると、クバンダ事件の関係者が次々と逮捕される報道が流れる。
 「元近衛隊大隊長、鬼窪 充夫容疑者宅に家宅捜索が入ります。現在、鬼窪容疑者は病院で――――」
 研究所の関係者、近衛隊の造反組、一部の政治家や企業の重役。盗聴により薄々は分かっていたものの、大きな波紋が広がるのを、実際に目の当たりにし驚く。
 同時に悠が心配になり、返信する余裕など当分ないだろうと思いつつも、短いメッセージを打った。
 「悠の帰る場所、私たちは守るから」

 悠の携帯端末に皆からのメッセージ通知が表示される。彼はそれを目にするが、捜査協力のため、捜査員に携帯端末を手渡した。まだ家の中が慌ただしい中、父との今後の関係の在り方を考えていた。


 夏休み最終日も過ぎ、まだ自宅謹慎中のイナホ。メイアが大量の雑務を終えて家に戻ってきた。すると早々にイナホを何処かへ誘い、車を出す。

 二人が着いたのはとある墓地だった。メイアが足を止めたその前には、豊受三月、その名が刻まれた質素な墓石が建っていた。
 「三月、全部終わったよ・・・・」
 そう墓石の前で膝を付き、祈りを捧げるメイア。イナホもその隣で手を合わせる。
 イナホが先に立ち上がると、母の震える肩が目に入った。虚勢が解けたかのように、隠す様子もなく、その場で声を上げて泣き続けている。悲しみを露にする母の姿を、イナホは初めて見たのだった。
 ただただその背中に無言で寄り添っていると、メイアは首から下げたペンダントを徐に外した。涙で濡れたそれをイナホへと手渡しながら、
 「三月の、唯一の写真だ・・・・」
 イナホはそれを開くと、初めて目にするが、どこか懐かしさを覚える笑顔の女性がそこには写っていた。メイアが涙を拭い、赤い目蓋でイナホを見ながら笑みを浮かべた。
 「最近ほんと・・・、似てきたな・・・」
 そう言うと再び頬に涙が伝っていた。
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