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第4章 絆と縁
16話
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始業式から一週間が過ぎ、どことなく寂しい雰囲気が生徒達に伝染していた。それもあってか、結果、三分の一ほどのクラスメイトがコース変更を希望し、教室から去っていった。
湿っぽい雰囲気を引きずる中、今日から戦闘実習が始まる。
2クラスある近衛候補生コースの生徒達が、屋外の演習場に集合する。すると、佐江崎教官は班分けをすることを告げ、説明を始めた。
「この先、近衛隊に進む者は、各部隊に配属され、実戦となれば仲間にその命を預ける事になる。仲が悪かろうと、能力が劣っていようと、班全員で生き残る術を見つけなければならない。よって今から決定する班の編成は、卒業するその時まで、維持される。クバンダを前にして、自分一人だけで生き残れると考えているやつがいるなら、今ここで考えを改めろ。では、班を発表する」
その意図に周囲がざわつく中、イナホは黙って固唾を飲んでいた。
まず最初の班が発表された。仲のいい者同士だったのか、楽しそうな声が聞こえて来る。
続いて次が発表されると、そこに犬猿の仲でも居たのか、ピリピリとした空気がこちらまで届いた。他のメンバーも困惑している様だった。
続いて次の班が発表される。
「次!第三班。鬼窪 悠、鞍橋 慶介、木櫛 斐瀬里、豊受 イナホ、長ケ洲 司、日舘 香南芽、八幡 つぐみ、杜 百花。以上だ」
呼ばれた面々が集まろうとしていると、周囲からヒソヒソ声がイナホの耳に入る。
「なぁ、あの班」
「ああ、近衛特務隊の大隊長の息子と、実力ナンバーワンって言われてる、白い死神の娘だろ?」
母の実力こそ想像に容易いが、白い死神という通り名で呼ばれている事を、イナホはこの時初めて知った。通り名が付くのは誇りに思ったが、母が死神と呼ばれる事に、少し複雑な気分を覚えた。
次の班が発表されている最中、イナホは班の皆に軽く挨拶しようとした。すると、強気な感じが見た目にも分かる男子生徒の悠は、食い気味に横柄な態度で先手を取った。
「お前が、あの白い死神の娘か。せいぜい足を引っ張ってくれるなよ?」
威圧され、言葉に詰まったイナホ。どう返そうか考えていると、そこに、性格も見た目も派手好きそうな、百花が割って入ってきた。
「はぁ?アンタ、マジ態度悪くない?大隊長の息子かなんか知らないけどさ、アンタこそ、恥かかないよう気を付けなよー?」
何故かイナホへの挑発を受け止めた百花。悠は明らかに怪訝な顔になると、
「お前みたいな底辺に興味はない」
そんなことを言われ、ヒートアップして言い返そうとする百花に、今度はイナホが割って入った。
「む・・・・、この豊受イナホ、中の下をナメないでいただきたい」
妙な間が開くと、おろおろと見守っていた斐瀬里はクスクスと笑い始めた。それをきっかけに、百花も釣られ、
「ぷっ。アタシもバカだけど、アンタ何それ?ウケる」
悠は興が覚めたのか、顔を背けて言い放つ。
「ふん!まぁ、どうでもいいが、この班での指揮は俺が執る。実力から言って妥当だろう」
百花は頭の後ろに腕を組んで、
「て、隊長様が言ってるけど、みんなはー?」
その呼びかけに斐瀬里とツグミは、
「わ、私は別にいいよ?」
「問題ありません」
健康的な小麦肌とショートヘアが印象的な女子生徒、香南芽は少し挑発的な口調で悠を見た。
「構わないよ。その手腕、見せてもらおうじゃん」
端で話していた男子二人もこっちを向く。大柄だが柔和な感じの慶介は、
「僕はちゃんと投票した方が良いと思うけど、みんなが良いって言ってるならそれで」
結んだ長髪を靡かせた、中性的で大人し気な司も、
「あ、うん・・・」
とだけ、返事をした。
イナホは、顔を背けたままの悠に、返事は返ってこないだろうと思いながらも、悪気なく伝える。
「そういうことだから、頑張ってね。隊長さん」
そう言うと、悠の眉がピクリと僅かに動いた。
湿っぽい雰囲気を引きずる中、今日から戦闘実習が始まる。
2クラスある近衛候補生コースの生徒達が、屋外の演習場に集合する。すると、佐江崎教官は班分けをすることを告げ、説明を始めた。
「この先、近衛隊に進む者は、各部隊に配属され、実戦となれば仲間にその命を預ける事になる。仲が悪かろうと、能力が劣っていようと、班全員で生き残る術を見つけなければならない。よって今から決定する班の編成は、卒業するその時まで、維持される。クバンダを前にして、自分一人だけで生き残れると考えているやつがいるなら、今ここで考えを改めろ。では、班を発表する」
その意図に周囲がざわつく中、イナホは黙って固唾を飲んでいた。
まず最初の班が発表された。仲のいい者同士だったのか、楽しそうな声が聞こえて来る。
続いて次が発表されると、そこに犬猿の仲でも居たのか、ピリピリとした空気がこちらまで届いた。他のメンバーも困惑している様だった。
続いて次の班が発表される。
「次!第三班。鬼窪 悠、鞍橋 慶介、木櫛 斐瀬里、豊受 イナホ、長ケ洲 司、日舘 香南芽、八幡 つぐみ、杜 百花。以上だ」
呼ばれた面々が集まろうとしていると、周囲からヒソヒソ声がイナホの耳に入る。
「なぁ、あの班」
「ああ、近衛特務隊の大隊長の息子と、実力ナンバーワンって言われてる、白い死神の娘だろ?」
母の実力こそ想像に容易いが、白い死神という通り名で呼ばれている事を、イナホはこの時初めて知った。通り名が付くのは誇りに思ったが、母が死神と呼ばれる事に、少し複雑な気分を覚えた。
次の班が発表されている最中、イナホは班の皆に軽く挨拶しようとした。すると、強気な感じが見た目にも分かる男子生徒の悠は、食い気味に横柄な態度で先手を取った。
「お前が、あの白い死神の娘か。せいぜい足を引っ張ってくれるなよ?」
威圧され、言葉に詰まったイナホ。どう返そうか考えていると、そこに、性格も見た目も派手好きそうな、百花が割って入ってきた。
「はぁ?アンタ、マジ態度悪くない?大隊長の息子かなんか知らないけどさ、アンタこそ、恥かかないよう気を付けなよー?」
何故かイナホへの挑発を受け止めた百花。悠は明らかに怪訝な顔になると、
「お前みたいな底辺に興味はない」
そんなことを言われ、ヒートアップして言い返そうとする百花に、今度はイナホが割って入った。
「む・・・・、この豊受イナホ、中の下をナメないでいただきたい」
妙な間が開くと、おろおろと見守っていた斐瀬里はクスクスと笑い始めた。それをきっかけに、百花も釣られ、
「ぷっ。アタシもバカだけど、アンタ何それ?ウケる」
悠は興が覚めたのか、顔を背けて言い放つ。
「ふん!まぁ、どうでもいいが、この班での指揮は俺が執る。実力から言って妥当だろう」
百花は頭の後ろに腕を組んで、
「て、隊長様が言ってるけど、みんなはー?」
その呼びかけに斐瀬里とツグミは、
「わ、私は別にいいよ?」
「問題ありません」
健康的な小麦肌とショートヘアが印象的な女子生徒、香南芽は少し挑発的な口調で悠を見た。
「構わないよ。その手腕、見せてもらおうじゃん」
端で話していた男子二人もこっちを向く。大柄だが柔和な感じの慶介は、
「僕はちゃんと投票した方が良いと思うけど、みんなが良いって言ってるならそれで」
結んだ長髪を靡かせた、中性的で大人し気な司も、
「あ、うん・・・」
とだけ、返事をした。
イナホは、顔を背けたままの悠に、返事は返ってこないだろうと思いながらも、悪気なく伝える。
「そういうことだから、頑張ってね。隊長さん」
そう言うと、悠の眉がピクリと僅かに動いた。
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