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第2章 ツグミという少女

8話 (挿絵あり)

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 帰宅を告げるイナホとハジメに続き、礼儀正しく挨拶をするツグミを、祖母は割烹着を脱ぎながら出迎える。
 「あなたがツグミちゃんね、今夕飯が出来上がったところなの。さあ上がって、遠慮せず自分の家だと思って頂戴ね」
 「お世話になります、お婆様」
 「ふふ、これからは家族なのだから、ヤンネでいいわ。三人とも、手を洗ったらご飯にしましょう」

 歓迎の夜とあってか、いつもより品数の多い食卓を四人で囲んだ。食事の挨拶が済むと、祖父母はお酒を酌み交わし、イナホに続いて、ツグミもいなり寿司に箸を伸ばした。そして一口頬張ると、



 「・・・なるほど、これがいなり寿司。おいしい・・・。甘辛く、酸味のある穀物の中に、少し刺激的な風味も感じます」
 「刻んだ山ワサビの茎が入ってるのが、婆ちゃんが作るいなり寿司の特徴なんだ」
 「この風味、どこか懐かしい・・・」
 「秋津国の文化って、ニホンからの影響受けてるから、ツグミちゃんもどこかで食べてたのかもね」
 「そうなのでしょうか。記憶も無いのに、この様な感覚は不思議です」
 食事を進めながらイナホ達は、学校での出来事や母のことなど、色々な話をツグミに話した。食事を終えると祖母は、メイアが使っていた部屋を使うよう、ツグミに勧める。

 イナホに案内され部屋にやってくると、ツグミは残された沢山の書物を見て、
 「イナホ、ここに在る書物は、私が閲覧しても問題ありませんか?」
 「大丈夫だよ。私には難しくてサッパリだけど」
 本に目をやるツグミの後ろで、イナホは母のベッドに腰かける。先ほど、祖父母の前では話せなかった、母の過去の研究を追っている事と、ツグミを最初に発見した夜の事を打ち明けた。

 「そうだったのですね。不本意ながら、お二人を驚かせてしまったのは申し訳ありませんでした。ところで、そのお母様のしていたという、研究の調査ですが、私にも手伝わせていただけないでしょうか?私の処理能力なら、今晩中には、ここに在る書物の内容は理解できるはずですので、何かお役に立てるかと」
 イナホは勢い良く立ち上がり歓喜する。
 「本当に!?それは心強いよー!」
 ぴょんと再びベッドに飛び乗ると、枕を抱えて横になり、暫くツグミの様子を見守っていた。すると、いつの間にか眠りに落ちていた。


 カーテンの隙間から漏れる、朝焼けの光でイナホは目を覚ますと、体には布団が掛けられていた事に気付く。傍らにはツグミが眠っている。自室に戻ろうと、ツグミを起こさないようそっと立ち上がる。すると、机にあるメモ帳にツグミからの走り書きがあった。
 『イナホへ。自然光で充電しますので、カーテンは開けておいていただけると助かります。』
 それを読み、ゆっくりカーテンを開くと自室へと戻った。

 まだ朝早かったので、もう少し寝ようとしたとき、坤からのメッセージが届いた。
 『おはよう。例のものが完成したから、今日会えるか?』
 事の進展を期待して、会う約束をする。

 眠気が失せたので、朝の身支度をしようと、洗面所に向かう。その途中、ツグミも目を覚ましたのか、部屋から丁度出てきた。
 「おはよう。昨日は先に寝ちゃってゴメンね。あと、お布団かけてくれてありがと」
 「おはようございます、イナホ。お気になさらず」

 二人で身支度をしながら、次の調査計画を実行する事を、イナホは教える。ツグミも同行する事になり、待ち合わせの時間が迫ったので、出掛ける事を祖父母に告げると、二人で家を出た。


 発信機のマーカーで示された住所から、少し離れた公園に坤に呼び出され、やってきた二人。先に着いていた坤は、何かの機械を手にし、動作チェックに夢中な様だった。
 それを見たイナホは、悪戯な笑みを浮かべて「坤のヤツ、驚くぞー。」と呟き、歩み寄る。
 「おはよう、坤。なんだかずっと、肩が重くて・・・・」
 「ん?おはよ。まさか、憑りつかれたとか・・・、うわぁー!!あ、あのときの!?イ、イナホに憑りついたのか!?どうか安らかに眠って下さいっ」
 「あはははは!ごめん、ごめん。ツグミちゃんの事、言ってなかったね。あの後ね・・・」
 その後の経緯とツグミの事を説明すると、ようやく坤は落ち着きを取り戻した。

 「そうだったのか。もっと早く教えてくれよ!しかし驚いたなぁ、やっぱ、どっからどう見ても人間だし」
 「よろしくお願いします、坤」
 挨拶をするツグミに見つめられ、坤が少し照れたのをイナホは見逃さず、彼の脇腹をツンツンして茶化した。
 「ツグミちゃん、美人だもんねー」
 「やめろっ、おまっ!今日のは、繊細な操作が要求されるんだから、手元狂ったらどうするんだ!」
 「ふふ、はいはい。で、それ何なの?」
 坤はその機械を持ち上げ、少し自慢げに見せた。
 「極限まで静音化したドローンだよ。こいつで盗聴器を目標の家の壁に取り付ける。そうすれば、室内まで筒抜けになった音声を携帯端末で記録できるって算段だ」
 ツグミは話を聞きながら、機械一式をよく観察している。
 「実に器用なものです。そのほとんどを、再利用品でここまで仕上げるとは」
 イナホはその言葉に共感しながら坤に、
 「ホント、昔からこういう事は尊敬するよ」
 「だけって言うなよ。じゃ、早速やるぞ」


 ドローンが空高く舞い上がり、少し遠ざかると、坤は手元のコントローラーのモニターに集中する。固唾を飲んで見守ること数分、一ヶ所目の設置が完了したと告げられる。続けて残りの場所も設置を行っているようだ。
 その間、イナホは携帯端末で、坤から受け取ったアプリを起動し、受信状況を確認する。
 「おお!ほんとに良く聞こえる。これならいけるかも」
 ふと何か思いついたそぶりを見せたツグミは、その携帯端末を借りたいと申し出た。
 「長時間監視し続けるのも大変かと思い、分子生物学や研究所に関する言葉を確認したときのみ、自動でピックアップし、記録が残るプログラムを追加しています」
 「さすが!ツグミちゃん!お二人とも有能だねぇ」
 まだコントローラーに向かい、集中している坤が呟く。
 「イナホも、もう少し勉強頑張ればなぁ・・・」
 それを聞き、イナホは口を尖らせながら、
 「もう!研究所に乗り込んで、発信機を取り付けた私の勇気を、少しは買ってよー」
 「ははは!まぁ、確かに、その行動力は褒めてもいいかもな。・・・・よし!これで全部だ」
 暫くするとドローンが戻ってきた。誰かに見られて感づかれるといけないと、三人は早々にその場から撤収した。
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