4 / 81
第1章 胎動
1話 (挿絵あり)
しおりを挟む
朝もやの中、街外れの道を初老の男性が軽トラックを走らせている。その傍らの助手席で、制服姿の少女は少しくせのかかった涼し気な銀髪を、具合の悪い窓から吹き込むまだ冷たい隙間風に靡かせながら、高校1年目の冬の終わりを感じていた。車内のカーラジオからは雑音交じりの経済ニュースが流れている。
「小塚メタライトは設備拡充に伴い、近衛特務隊が扱う主装備の原材料である、生成の難しかった合金の量産体制が整ったとし、一時株価が高騰しました。続いて秋津国の林業に関する情報です。山間部を中心に幾つかの地域で被害を出し続けているクバンダの影響を受け、木材高騰が続いている問題で、中央議会はこの事態を・・・・」
車窓に映る田園風景を眺めながら、少女はハンドルを握る祖父に今流れている話題を振る。
「うちも郊外だからちょっと心配だよね」
「幸い、この辺りでクバンダ被害はまだ聞かんが、地区によっては街を囲む防壁建設の話もあるらしいしなぁ」
「母さん大丈夫かな・・・・」
と、心配そうに彼女が呟くと車内の会話が途切れてしまう。
この少女達が暮らす秋津国は、現代日本とよく似た景色が広がる。四季を有してはいるものの、厳しい季節は無く、穏やかな気候が人々を包む。日本とは文化などが少々異なる発展を遂げていて、似て非なるものがある。特に都心部では木々の緑と交わるビルや、都市の中央を走る清流など、豊かな自然と科学技術がうまく融合し、随所にその特徴が見られる。
暫く走ると軽トラックは柵で囲われた土地の前に停車した。二人は車を降り、施錠された門を少女の祖父は解錠する。第二霞み池と書かれた少し傾いた看板を横目に中に入ると、辺りを見渡しながら祖父は自分の腰をポンと叩いた。
「さ、今日も朝仕事してからだ。さっさと済ませるぞ、イナホ」
「うん、重いものは任せてよ」
「年寄り扱いされるにはまだ早いぞ?しかし最近は漂流物がやけに多いな。見慣れない金属も増えたから手袋忘れずにな」
不可思議な桃色の靄が溜まった窪地。その周辺にちらほらと大小様々な物が落ちている。古びた本やチラシ、それから焼け焦げ捻じれた金属片や、何かの機械のパーツまで。それらの中には日本語が書かれている物もあるようだった。
孫娘と祖父は話をしながら、拾った物を手押し車に乗せていく。
「ねぇ、爺ちゃんは珍しい漂流物見つけても、ちょっとくらい持ち帰えろうかなとか思わないの?」
「馬鹿を言うんじゃない。この秋津国の技術革新やニホンを知るのに関わるものなんだぞ?何せ、回収を委託されてる身だ。ちゃんと御上に届けているよ」
「真面目だね、爺ちゃんは。しっかしいつ来ても不思議な場所だよね、霞み池って。靄から物が出てくるなんてさ。これに飛び込んでも、元の位置に戻されるだけでどこにも行けないのに。ニホンってどんな世界なんだろ?」
「さぁな、神様たちもよく知らないんだ。そう簡単に行けるような場所じゃないんだろうさ。さて、これでここは最後だ、学校まで送るぞ」
池を一周し二人は門の前まで戻ってくると、回収物をトラックの荷台に積んで縄で括り、その場を後にする。
暫しトラックを走らせると、イナホの通う学校に着いた。校門前で車を降りたイナホは朗らかな笑顔で運転席へ振り返る。
「ありがと。じゃ、もう一ヶ所も頑張ってね爺ちゃん!」
少女が手を振ると、聴き馴染んだエンジン音が遠ざかっていった。
「小塚メタライトは設備拡充に伴い、近衛特務隊が扱う主装備の原材料である、生成の難しかった合金の量産体制が整ったとし、一時株価が高騰しました。続いて秋津国の林業に関する情報です。山間部を中心に幾つかの地域で被害を出し続けているクバンダの影響を受け、木材高騰が続いている問題で、中央議会はこの事態を・・・・」
車窓に映る田園風景を眺めながら、少女はハンドルを握る祖父に今流れている話題を振る。
「うちも郊外だからちょっと心配だよね」
「幸い、この辺りでクバンダ被害はまだ聞かんが、地区によっては街を囲む防壁建設の話もあるらしいしなぁ」
「母さん大丈夫かな・・・・」
と、心配そうに彼女が呟くと車内の会話が途切れてしまう。
この少女達が暮らす秋津国は、現代日本とよく似た景色が広がる。四季を有してはいるものの、厳しい季節は無く、穏やかな気候が人々を包む。日本とは文化などが少々異なる発展を遂げていて、似て非なるものがある。特に都心部では木々の緑と交わるビルや、都市の中央を走る清流など、豊かな自然と科学技術がうまく融合し、随所にその特徴が見られる。
暫く走ると軽トラックは柵で囲われた土地の前に停車した。二人は車を降り、施錠された門を少女の祖父は解錠する。第二霞み池と書かれた少し傾いた看板を横目に中に入ると、辺りを見渡しながら祖父は自分の腰をポンと叩いた。
「さ、今日も朝仕事してからだ。さっさと済ませるぞ、イナホ」
「うん、重いものは任せてよ」
「年寄り扱いされるにはまだ早いぞ?しかし最近は漂流物がやけに多いな。見慣れない金属も増えたから手袋忘れずにな」
不可思議な桃色の靄が溜まった窪地。その周辺にちらほらと大小様々な物が落ちている。古びた本やチラシ、それから焼け焦げ捻じれた金属片や、何かの機械のパーツまで。それらの中には日本語が書かれている物もあるようだった。
孫娘と祖父は話をしながら、拾った物を手押し車に乗せていく。
「ねぇ、爺ちゃんは珍しい漂流物見つけても、ちょっとくらい持ち帰えろうかなとか思わないの?」
「馬鹿を言うんじゃない。この秋津国の技術革新やニホンを知るのに関わるものなんだぞ?何せ、回収を委託されてる身だ。ちゃんと御上に届けているよ」
「真面目だね、爺ちゃんは。しっかしいつ来ても不思議な場所だよね、霞み池って。靄から物が出てくるなんてさ。これに飛び込んでも、元の位置に戻されるだけでどこにも行けないのに。ニホンってどんな世界なんだろ?」
「さぁな、神様たちもよく知らないんだ。そう簡単に行けるような場所じゃないんだろうさ。さて、これでここは最後だ、学校まで送るぞ」
池を一周し二人は門の前まで戻ってくると、回収物をトラックの荷台に積んで縄で括り、その場を後にする。
暫しトラックを走らせると、イナホの通う学校に着いた。校門前で車を降りたイナホは朗らかな笑顔で運転席へ振り返る。
「ありがと。じゃ、もう一ヶ所も頑張ってね爺ちゃん!」
少女が手を振ると、聴き馴染んだエンジン音が遠ざかっていった。
11
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~
硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚
多くの人々があやかしの血を引く現代。
猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。
けれどある日、雅に縁談が舞い込む。
お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。
絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが……
「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」
妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。
しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。


海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
多重世界の旅人/多重世界の旅人シリーズII
りゅう
SF
とある別世界の日本でごく普通の生活をしていたリュウは、ある日突然何の予告もなく違う世界へ飛ばされてしまった。
そこは、今までいた世界とは少し違う世界だった。
戸惑いつつも、その世界で出会った人たちと協力して元居た世界に戻ろうとするのだが……。
表紙イラスト:AIアニメジェネレーターにて生成。
https://perchance.org/ai-anime-generator
「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀
さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。
畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。
日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。
しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。
鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。
温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。
彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。
一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。
アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。
ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。
やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。
両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は?
これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。
完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

シーフードミックス
黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。
以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。
ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。
内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる