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13話 ロメオとリエッタ2

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「ロメオの元カノって可愛いのかな?」
「まだ元カノではないだろう」
「あぁそっか」

 僕はジェドと共に市街を歩いていた。ロメオからの依頼として、彼の彼女が浮気をしているか否か調査することになったのだが、ユリコは沼に浸かったようにベッドの上から動こうとせず、僕ら2人で行うこととなった。

 ウサギ狩りではユリコに頼りっきりなため文句は言えない。それにユリコの容姿は良くも悪くも人目を惹く。かと言ってジェドも探偵ごっこに向いているとは言えない見た目なのだが、髪色は黒く服装も落ち着いているのでユリコと比べるといくらかましだ。

 ロメオの話を聞くに、彼の彼女とは仕立て屋で働くリエッタという気立ての良い女性だという。気立ての良い女性は浮気なんてしないと思うけど。

 僕らは見たことないから近くまで一緒に来て教えてくれと頼んだところ、「万が一、俺がリエッタと別の男との逢瀬を目撃してしまった場合、お前らは責任とれるのか?」と真剣な顔で言うので、僕とジェドの2人で件の仕立て屋に訪れることになったのだ。

「金髪でスタイルが良いから見ればすぐにわかるとか言ってたけど」
「あれじゃないか?」

 ジェドが示す先には、剣を腰に下げた冒険者風の男と談笑する女性がいた。金髪を肩甲骨辺りまで伸ばしており、毛先が少し巻かれている。身長は高いようには見えず、モデルのような体形ではないのだが、なにより胸が大きい。30~40m程離れた距離で見ると彼女の胸の部分だけ空間が歪んでいるようにすら見えた。

「空間を捻じ曲げるような魔法ってある?」
「何だ 急に」
「ちょっと気になって」
「基本体系には無いが、空間に作用する固有魔法は希少だが存在するぞ」

 なるほど、つまりあの爆乳は彼女が魔法によって空間を捻じれさせ、錯覚させているという可能性はあるわけだ。

 ここで僕に衝撃が走った。僕がこの異世界に来た理由は何だったか。ユリコの話を思い出す。時空を操る『時の魔女』によって、僕はこの地に呼び出された可能性が高いのだ。そう、おっぱい付近の時空を捻じ曲げ、爆乳だと錯覚させ僕を誘惑する彼女。そういうこと。彼女は『時の魔女』だ。

「鼻の下が伸びているがどうかしたのか?」
「伸びてないよ」
「伸びているから言ったのだが・・・」

 僕は鼻の下を縮め、規格外のアニメ乳を目にしたことで混乱していた頭を沈めてとりなす。

「金髪だしあの娘がそうかな」
「だろうな」

 店頭で冒険者風の男と会話を続ける彼女へ不審がられないように近づく。彼女の顔はまつ毛はくりんと上向きで目鼻立ちがくっきりとしており、厚く艶やかな下唇が妖艶さを演出していた。簡潔に言えば、美人であった。そして遠目からではバグにしか見えなかったおっぱいも、決して空間が歪んでいたわけではなくナチュラルな巨乳であった。つまり彼女は時空を操る魔法なんて使っていないし、もちろん時の魔女などではないだろう。スイカ入れてる?

「可愛い人だな」
「うん」

 ジェドが僕に小声で言う。ユリコもジェドも綺麗だが、彼女には綺麗よりも可愛いという言葉の方が合っている。浮気されたとはいえ、あの面倒でろくでもなさそうな男がこんな子とお付き合いしてたとは。

「お客さんと楽しそうに話してるね」
「そうだな。すごく良い娘そうじゃないか。浮気もロメオの勘違いだろう。」
「うーん。確かに思い込みの激しそうな奴ではあったけど。」

 かと言って報酬もかかった仕事ではあるので、見た目や雰囲気で判断するわけにもいかない。僕らからは笑顔で男性と話す彼女の顔しか見えず、雑踏のおかげで会話は聞こえなかったため更に近づいた。

「ハットとか絶対似合うよ~」
「またそんなこと言って買わせるんだろぉ?」
「違うよぉ ホントに似合うって~」

 位置関係上男の顔は見えていなかったが、彼女と話す彼はあご髭の似合う精悍な顔つきをしていた。確かにハット似合いそう。っていうか男前には何でも似合う。

 目じりを下げた人懐っこい笑顔で接客をする彼女には小動物のような愛らしさがあった。ただ彼女らに近寄ってみたのはいいが、ここからどうすればいいのかわからない。完全にノープランだった。

「浮気してるかどうかなんてどうすればわかるの?」
「そんなの私に聞かれても困る。何か考えがあるんじゃないのか?」

 ダメもとでジェドに小声で相談したもののダメだったので、僕らはもじもじと何をするわけでもなくリエッタと客の会話を盗み聞き続けていた。

「もうやだぁ すぐそんなこと言う~」
「リエッタが可愛いからさ」
「褒めても何にも出ないよっ」
「可愛い反応が見られるじゃないか」
「もうっまたそうやって///」

 リエッタは男と甘ったるい声で会話を続ける。服屋の接客も大変だなぁ。

「あの男と随分話し込んでいるな」
「常連なのかもね」
「仲が良すぎるような気もするが」

 訝しむジェドの言葉に、そう言われてみればそんな気がしないでもない。少なくとも僕は異世界に来る前にアパレルショップであんなサービスを受けた記憶はない。似合いますよ~と乾いた笑顔で購入を促されるくらいだ。しかしそれはそれで十分なサービスであり、リエッタの接客が仕立て屋のそれとしては過剰すぎるのだ。

 すると僕らが小さく話し込む間に、彼はリエッタの腕を引いて物陰へと隠れ、視認が出来なくなっていた。

 あっ!嫌な予感がする!

「ちょっとお店ではやめて・・んっ・・・」

 漏れ聞こえたリエッタの吐息。覗いて確認するまでもなかった。

「2人は何をしているんだ・・・?」
「チューでしょ・・・」

 なるほどね~店員と客の関係ではなかったか~。

 調査方法とか完全にノープランだったから、すぐに黒だとわかってよかった~。

「なんでチューしてるんだ・・・?」
「そういうことでしょ・・・」

 リエッタの吐息はまだ聞こえていた。


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