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8話 ポンコツなのに

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「オオツキ!ちゃんと見ているんだぞ」
「うん 見てるよ」

 ジェドは立ち上がりふんすふんすと鼻息を荒くしながらウサギを探し始める。別に見ていたいわけじゃないが見てろと言われたので僕は眺めていた。

 しかしそんな簡単に捕まえられるものではない。僕はプライドをかなぐり捨てて持久戦を挑んだにもかかわらず一羽も捕まえることはできなかったのだ。あんなに鼻息が荒いと気付かれぬうちになんてことも難しいだろう。

「見つけた ほら」

 ジェドは気付かれないようにウィスパーで指をさす。

「うん 頑張って」
「あぁ」

 僕もささやき声でエールを送った。彼女はゆっくりと歩み寄るが彼女の動きに連動してガサガサと草木は揺れる。この音が鳴ってしまうから早々に気付かれてしまい、僕は何度も逃げられた。

 ジェドがターゲットに絞った茂みの奥に見えるウサギも耳をぴくっと動かし気付いたようで、首をくるりと向けて歩み寄るジェドを視認した。ように見えただけだが。きっと直に逃げ出すだろう。

 しかし僕の経験による予想は外れ、彼女はウサギとの距離を着実につめて手が届きそうな距離まで来ていた。ウサギは気付いていない様子ではなく、彼女に顔を向けてもはや見つめあってるようにすら思える。そして遂には「何かくれんの?」とばかりに迫る彼女の指先に自ら鼻先を近付ていた。

 ジェドはその子を両手で抱え上げた。

「オオツキ!見てたか!」

 ジェドは抱えたまま僕のもとへ戻ってきた。

「見てたよ・・」

 お前もふれあい動物園法を使うのか・・僕が追うと脱兎の如くなのになんで・・・?ウサギも顔面で判断してんの?

「それでここからどうすればいいんだ?」

 ジェドは両の腕の中で大人しくしているウサギの頭を撫でながら聞いてきた。僕は捕まえられたことがないからしたことないけれど、昨日もらったユリコのアドバイス通りに答えた。

「首をきゅって絞めるとか」
「・・・私がそんなことできると思っているのか?」
「覚悟決めたとか言ってたじゃん」
「できるできないは別だが?」

 別だが?

「その剣使えば?こう スパッと」
「私にできると思っているのか?」
「じゃあ何ができるんだよ」

「何ができるんだろうな・・・」

 あれ、こいつダメな子なの・・・?

「とりあえず大事そうに抱えるのやめない?愛着わいたらやりにくいと思うし」
「あぁ・・・」
「やめなって」
「・・・」
「ねぇ聞いてる?」
「・・・」

 すでにわいちゃってるなぁ・・・。ジェドは抱いたまま何も言わなくなってしまった。

「じゃあ殺す殺さない一回忘れよ。一旦その子逃がして、ちょっと休憩挟もう?」
「・・・そうだな」

 ジェドはゆっくりとウサギを下すと、駆け出して逃げることもなくトコトコと茂みに消えていった。僕らはまだ何も成し遂げていないしさっき休憩してきたばかりなのだがこのままじゃ埒が明かない。

「すまない・・・私はどうしようもない女だ・・・」

 木陰に入るとジェドは膝を抱えてふさぎ込んでしまった。

「そんなことないって。僕は捕まえることすらできないんだからジェドは十分すごいよ!」
「捕まえられるからなんだ・・・その先にいけないんだから意味がない・・・」

 めんどくさ・・・もうこのまま放って帰りたいんだけど・・・。正直とんでもないお荷物を持ってきてしまった気分だが今更嘆いたってどうにもならない。このまま面倒な女モードでいられたらたまらないので気分を変えなくては。

「ジェドはどんな魔法が使えるの?」
「・・・色々だ」

 彼女は膝に埋めた顔を少し覗かせて答える。

「色々できるなんていいなぁ。僕は全然できないからさ」
「たくさん勉強して練習もしたからな」
「例えば何ができるの?」
「基本体系はだいたいできるな」
「それってすごくない?」
「なかなかいないだろうな」

 ふふんっと得意げな顔で少し機嫌が戻りつつあるようだ。

「ただ私は魔力が少なくてな。派手なことはできないんだ」
「いやいや、十分すごいよ!」

 基本体系とやらが何かわからないし、魔法を使う者としてそれがどの程度優れているのか知らないけど、とりあえずよいしょしておいた。



「私からも聞いていいだろうか。言いたくなければ答えなくていい。」

 少しの間の後、彼女は伏し目がちに聞く。

 いいよと了承すると彼女は僕の左手に目をやり言葉を続けた。

「オオツキの手が左右で違うのは その ユリコと関係しているのだろうか」

 ユリコが隻腕なのは一目瞭然だが、しばらく一緒にいたことで僕の手の違和感にも気付いたのか。そしてそれは僕の手としてはあまりに綺麗で女性的だったから、片腕しかないユリコと結びついたのだろう。

「うん。ユリコが貸してくれてるんだ」
「貸すとは?」

 ユリコと初めて話した時のことを思い出す。僕も最初は何言ってるかわからなかった。

「本当は僕が左腕を無くして大けがしたんだけど、ユリコが大変そうだからって自分の腕を移植してくれたんだ」

 全てを説明するのは難しかったけれど僕は正直に話した。ジェドは思っていたよりも無能だけれど、意味もなく言いふらすような人じゃない。

「教えてくれてありがとう。オオツキにとってユリコは恩人なんだな」
「うん」

 僕は両手を見比べた。何度見ても彼女に借りている左手は白く美しくて、僕の右手は粗野でくすんでいる。

「感謝してるけど、左手がこんなに綺麗だと右手がより汚くみえるよね」

 僕は両の掌をジェドに見せて、自嘲気味に笑った。

「そんなことはない。」

 ジェドは僕の手に両手を重ね、優しく握る。

「ユリコの手と君の手、どちらも私は好きだよ。」

 なにこれぇ・・さっきまでめんどくさい女でしかなかったのにぃ・・・なにこれぇ・・・。

 好き・・・///

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