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プロローグ
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とある恒星系のとある惑星に属するとある移民衛星における日常の話
今日も空からゴミが降る。
惑星アデルの衛星ダスト。
惑星アデル自体は惑星の核以外の部分の大半が水素を主成分とした巨大なガス惑星であり、惑星上の大気はあらゆる物質を引き裂かんばかりの速度で荒れ狂っている、とても生物が生存できる環境にない。
しかし、惑星アデルの起動上を公転する14ある衛星には距離によりかなり減衰した太陽光と、その太陽光を惑星が反射した輻射熱の絶妙なバランスにより、水が液体として存在できる環境の星が4つある。
その衛星の中で最も惑星アデルに近いため、惑星からの輻射熱によって地表温度が生存可能な範囲をギリギリ超えない程度、という過酷な環境の衛星ダスト。
他の生存可能な衛星と比して水分の含有率が低い乾燥した衛星で、赤い地面が延々と続く岩と砂の星だ。
仮に体毛の少ない人族がこの衛星で何の保護もなしに生活した場合、常に皮膚がひび割れを起こし、摂取量を制限された水分では足りずに衰弱して死んでいくこととなる。
それでも、先行させた無人探査船の情報では、この恒星系には他に居住可能惑星や衛星はなかったとは言え、移民先を求めてこの恒星系にたどり着いた32隻の移民船団にとって、最低限とはいえ生物が生存可能な条件を満たしている衛星を放置することはできなかった。
最終的には移民段の指導者たちの合議により、その環境でも耐えうる獣族の入植地とした。
衛星の中で最も居住に適した環境だった「母星」を第一とし、環境の良い順に第四衛星までを居住衛星と定め、それ以外の衛星は資源採集のための拠点と一次加工をするための自動工場を設置して管理下においた。
資源惑星からの物資輸送は極力コストを小さくするため、母星の公転軌道上に向けてマスドライバーで射出、母星の孫衛星がマスキャッチャーとして資源を回収、起動エレベーターを使って地上に送り出している。
ただし、本来であれば母星で受け取った資源は第二~第四衛星にも分配する必要があり、分配しても全く問題ない量を採取していたが、ある時期を境にほとんどすべてを母星で消費する超大量消費を基本とする経済が発展。
第二・第三衛星については資源衛星から採取した資源の分配がなくとも、自星での採取・生産で人口の生活を賄える程度の生産力があったため、次第に母星との交流も少なくなり独自の文化を構築してゆき大きな問題にはならなかったが、問題は第四衛星である。
水分含有量の少ない衛星であるため、基本的に水資源は可能な限り全て循環させているものの、空気中に蒸発することを完全に避けることはできず、定期的に水資源の供給を必要としていた。
また、水資源が少なく、フードプロセッサーに入れるための有機物を自星で賄うことができないため、そちらも循環させているものの定期的な補充も必要であった。
簡潔にいうと水と食料の供給がなければ生きていけない星なのだ。
母星もさすがに餓死されるのは気分がよくなかったのか最低限の物資は転送していたが、ある時、諮問機関が施政者に対してこう提言した。
「有機物が必要なら消費後の廃棄物を送れば処理に必要なコストも削減できて一石二鳥である」と。
住民の消費に対する欲望は加速度的に増大しているうえ、資源をリサイクルしたような物品を忌避する風潮が一般的な考え方となっており、採取した資源は全て母星で消費すべきだという世論も後押ししてその提言は行政機関によってブラッシュアップして実行された。
そして送り出され始める大量の廃棄物。
当初は第四衛星の施政者も抗議したが返答すら得られず、最終的には泣き寝入りすることとなった。
母星から送り出される廃棄物の量は第四衛星側のマスキャッチャーの処理能力をはるかに超えており、処理しきれなくなった廃棄物のコンテナが孫衛星軌道上にどんどん残留してゆく。
そしてそれがあるとき飽和して定期的に地上に降り注ぎはじめ、地上に廃棄物の山を作り始めた。
簿星の住人たちはこれを施しだと思っている。
そして、確かに第四衛星の住人はその廃棄物がなければ命をつなぐことができないのは事実なのだ。
マスキャッチャーの損壊により衛星軌道上に廃棄物コンテナが溜まる速度は加速、それらのコンテナはアステロイドベルトを形成して、定期的に地上に降り積もる今の状態が誕生した。
この星の住人の内、食い詰めた者たちの生業は降り積もった廃棄物の選別・運搬だ。
まず最初に分子分解・加工機械の修理に必要な部品が混入していないか選別する。
なぜならそれらの機器が動かなくなるということは、即ち、この星の住人すべてが生命を維持する手段を失うことを意味するからだ。
次に必要なものは、この星系も含んだ連合国で生活するために必要なターミナルを人体にインプラントするために必要な精密機器等の維持管理のための電子機器。
母星からほぼ見放されているとはいえ、この星で使用されている機械類や行政サービスには必ずターミナルが必要なため、これから生まれてくる子供のためにも維持管理は必須となる。
そしてそれらの資材を発掘・運搬するための車両や重機、その部品が3番目となる。
廃棄物は分解機によって組成から破壊して有機マテリアル、無機マテリアル、エネルギー、水資源に分割する。
なお、破壊した廃棄物からできた有機マテリアルのラインはそのまま加工機に直結していて、有機物は栄養素や加工機と分解機を動かすためのエネルギーに、無機物は衣服の資材や建材、重機の大型部品等に組み替えられる。
文字通り、この星の住民は「母星」が排出したごみの山でごみを漁り、ごみを食って生きている。
今日も空からゴミが降る。
惑星アデルの衛星ダスト。
惑星アデル自体は惑星の核以外の部分の大半が水素を主成分とした巨大なガス惑星であり、惑星上の大気はあらゆる物質を引き裂かんばかりの速度で荒れ狂っている、とても生物が生存できる環境にない。
しかし、惑星アデルの起動上を公転する14ある衛星には距離によりかなり減衰した太陽光と、その太陽光を惑星が反射した輻射熱の絶妙なバランスにより、水が液体として存在できる環境の星が4つある。
その衛星の中で最も惑星アデルに近いため、惑星からの輻射熱によって地表温度が生存可能な範囲をギリギリ超えない程度、という過酷な環境の衛星ダスト。
他の生存可能な衛星と比して水分の含有率が低い乾燥した衛星で、赤い地面が延々と続く岩と砂の星だ。
仮に体毛の少ない人族がこの衛星で何の保護もなしに生活した場合、常に皮膚がひび割れを起こし、摂取量を制限された水分では足りずに衰弱して死んでいくこととなる。
それでも、先行させた無人探査船の情報では、この恒星系には他に居住可能惑星や衛星はなかったとは言え、移民先を求めてこの恒星系にたどり着いた32隻の移民船団にとって、最低限とはいえ生物が生存可能な条件を満たしている衛星を放置することはできなかった。
最終的には移民段の指導者たちの合議により、その環境でも耐えうる獣族の入植地とした。
衛星の中で最も居住に適した環境だった「母星」を第一とし、環境の良い順に第四衛星までを居住衛星と定め、それ以外の衛星は資源採集のための拠点と一次加工をするための自動工場を設置して管理下においた。
資源惑星からの物資輸送は極力コストを小さくするため、母星の公転軌道上に向けてマスドライバーで射出、母星の孫衛星がマスキャッチャーとして資源を回収、起動エレベーターを使って地上に送り出している。
ただし、本来であれば母星で受け取った資源は第二~第四衛星にも分配する必要があり、分配しても全く問題ない量を採取していたが、ある時期を境にほとんどすべてを母星で消費する超大量消費を基本とする経済が発展。
第二・第三衛星については資源衛星から採取した資源の分配がなくとも、自星での採取・生産で人口の生活を賄える程度の生産力があったため、次第に母星との交流も少なくなり独自の文化を構築してゆき大きな問題にはならなかったが、問題は第四衛星である。
水分含有量の少ない衛星であるため、基本的に水資源は可能な限り全て循環させているものの、空気中に蒸発することを完全に避けることはできず、定期的に水資源の供給を必要としていた。
また、水資源が少なく、フードプロセッサーに入れるための有機物を自星で賄うことができないため、そちらも循環させているものの定期的な補充も必要であった。
簡潔にいうと水と食料の供給がなければ生きていけない星なのだ。
母星もさすがに餓死されるのは気分がよくなかったのか最低限の物資は転送していたが、ある時、諮問機関が施政者に対してこう提言した。
「有機物が必要なら消費後の廃棄物を送れば処理に必要なコストも削減できて一石二鳥である」と。
住民の消費に対する欲望は加速度的に増大しているうえ、資源をリサイクルしたような物品を忌避する風潮が一般的な考え方となっており、採取した資源は全て母星で消費すべきだという世論も後押ししてその提言は行政機関によってブラッシュアップして実行された。
そして送り出され始める大量の廃棄物。
当初は第四衛星の施政者も抗議したが返答すら得られず、最終的には泣き寝入りすることとなった。
母星から送り出される廃棄物の量は第四衛星側のマスキャッチャーの処理能力をはるかに超えており、処理しきれなくなった廃棄物のコンテナが孫衛星軌道上にどんどん残留してゆく。
そしてそれがあるとき飽和して定期的に地上に降り注ぎはじめ、地上に廃棄物の山を作り始めた。
簿星の住人たちはこれを施しだと思っている。
そして、確かに第四衛星の住人はその廃棄物がなければ命をつなぐことができないのは事実なのだ。
マスキャッチャーの損壊により衛星軌道上に廃棄物コンテナが溜まる速度は加速、それらのコンテナはアステロイドベルトを形成して、定期的に地上に降り積もる今の状態が誕生した。
この星の住人の内、食い詰めた者たちの生業は降り積もった廃棄物の選別・運搬だ。
まず最初に分子分解・加工機械の修理に必要な部品が混入していないか選別する。
なぜならそれらの機器が動かなくなるということは、即ち、この星の住人すべてが生命を維持する手段を失うことを意味するからだ。
次に必要なものは、この星系も含んだ連合国で生活するために必要なターミナルを人体にインプラントするために必要な精密機器等の維持管理のための電子機器。
母星からほぼ見放されているとはいえ、この星で使用されている機械類や行政サービスには必ずターミナルが必要なため、これから生まれてくる子供のためにも維持管理は必須となる。
そしてそれらの資材を発掘・運搬するための車両や重機、その部品が3番目となる。
廃棄物は分解機によって組成から破壊して有機マテリアル、無機マテリアル、エネルギー、水資源に分割する。
なお、破壊した廃棄物からできた有機マテリアルのラインはそのまま加工機に直結していて、有機物は栄養素や加工機と分解機を動かすためのエネルギーに、無機物は衣服の資材や建材、重機の大型部品等に組み替えられる。
文字通り、この星の住民は「母星」が排出したごみの山でごみを漁り、ごみを食って生きている。
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