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魔法のような
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「あぁー、ねむ~!」
窓の外で、最後まで生き残った桜の花びらがチラホラと散っている。
「なんで春ってこんなに眠いんだろう…
ね、密香!」
「透子、昨日もそれ言ってたよ」
怒涛の四月も後半に差し掛かり、少しずつクラスでの自分が安定してきた。透子と私もお互いを呼び捨てで呼び合うほどにまで、仲が深まってきた。
「あ、密香ちゃーん、次現文だよ!」
「福田先生来るよー!」
透子と窓ぎわで談笑していると、近くにいた沢木こころと芦田麻子も入ってきた。この二人も最近一緒にいる、いわゆる「イツメン」ってやつ。
こころは入学当時からスカート丈がやたら短くてイケイケ系に見えてたから、正直仲良くなれる気はしてなかったけど、ノリが明るくて面白い。反対に麻子は真っ黒なお下げ髪に眼鏡っていう、典型的な静かな子ってイメージだった。だけどこちらも、話してみたら優しい上にノリが合う。
やっぱり先入観を持たずにまずは接してみるって、凄く大事だ。
「え、マジか!現文とか最高じゃん!」
「密香ホントに福田先生の授業好きだもんねぇ…」
透子が半ば呆れたような目で見てくる。
「だって、面白いんだもん。」
ガラッ。そう言ったタイミングで、福田先生がドアを開けて入ってきた。私達もそれに合わせて自分の席に戻ってゆく。
「それそろみんな現代文の授業にも慣れてきたと思うけど、今日から始める小説からグッと難しくなるからなー。」
福田先生はいたずらっ子のような目で笑った。
「うわー、小説とか俺めちゃくちゃ苦手だわ~」
男子達が呟いている。
私はむしろウキウキした。さっきも透子たちに言われたように、現代文の授業は大好きでたまらないのだ。
いや、言い方が違う。“福田先生の現代文の授業”が、大好きでたまらないのだ。
元から国語は得意教科だったけど、福田先生の授業は中学までとは比べものにならないくらい、面白さで溢れた授業なんだから。
「今日から始めるのは、かの有名な芥川龍之介の名作中の名作、「羅生門」でーす」
カッカッカッカッ。教室に、福田先生のチョークの音が静かに響く。
そう、まずはここが凄いところ。私達一年三組は動物園レベルでうるさいと有名なのに、福田先生の授業となると、先生は一言も注意しないうちに静かになる。それは怒られるのが怖いとか、そんな理由じゃない。ただみんな、福田先生の話は自然と聞いてしまうのだ。
「じゃあまずは俺が読んでいくから、みんなはそれを聴きながら大体の内容の理解してくれ」
ピクンと私の背筋が伸びる。
「ある日の暮れ方のことであるーー」
教室を歩きながら、先生が本文を次々と読んでゆく。
あぁ、なんて低くて落ち着いた、いい声なんだろう…。私はいつもながら、うっとりとして聴き入ってしまう。今まで聞いたことのあるCDの声よりも、断然に福田先生の声は素敵だ。
思わず教科書から目を離して、福田先生の後ろ姿を追ってしまう。
綺麗な後ろ姿だなぁ…。
「ちょっと、どこ見てんの密香」
斜め後ろから、透子が小声で読んできて私はハッとした。
「あっ、ほんとだ」
ダメじゃないか、自分!
集中集中!!
心はなんだか浮き足立っていた。
(引用 芥川龍之介 「羅生門)」
窓の外で、最後まで生き残った桜の花びらがチラホラと散っている。
「なんで春ってこんなに眠いんだろう…
ね、密香!」
「透子、昨日もそれ言ってたよ」
怒涛の四月も後半に差し掛かり、少しずつクラスでの自分が安定してきた。透子と私もお互いを呼び捨てで呼び合うほどにまで、仲が深まってきた。
「あ、密香ちゃーん、次現文だよ!」
「福田先生来るよー!」
透子と窓ぎわで談笑していると、近くにいた沢木こころと芦田麻子も入ってきた。この二人も最近一緒にいる、いわゆる「イツメン」ってやつ。
こころは入学当時からスカート丈がやたら短くてイケイケ系に見えてたから、正直仲良くなれる気はしてなかったけど、ノリが明るくて面白い。反対に麻子は真っ黒なお下げ髪に眼鏡っていう、典型的な静かな子ってイメージだった。だけどこちらも、話してみたら優しい上にノリが合う。
やっぱり先入観を持たずにまずは接してみるって、凄く大事だ。
「え、マジか!現文とか最高じゃん!」
「密香ホントに福田先生の授業好きだもんねぇ…」
透子が半ば呆れたような目で見てくる。
「だって、面白いんだもん。」
ガラッ。そう言ったタイミングで、福田先生がドアを開けて入ってきた。私達もそれに合わせて自分の席に戻ってゆく。
「それそろみんな現代文の授業にも慣れてきたと思うけど、今日から始める小説からグッと難しくなるからなー。」
福田先生はいたずらっ子のような目で笑った。
「うわー、小説とか俺めちゃくちゃ苦手だわ~」
男子達が呟いている。
私はむしろウキウキした。さっきも透子たちに言われたように、現代文の授業は大好きでたまらないのだ。
いや、言い方が違う。“福田先生の現代文の授業”が、大好きでたまらないのだ。
元から国語は得意教科だったけど、福田先生の授業は中学までとは比べものにならないくらい、面白さで溢れた授業なんだから。
「今日から始めるのは、かの有名な芥川龍之介の名作中の名作、「羅生門」でーす」
カッカッカッカッ。教室に、福田先生のチョークの音が静かに響く。
そう、まずはここが凄いところ。私達一年三組は動物園レベルでうるさいと有名なのに、福田先生の授業となると、先生は一言も注意しないうちに静かになる。それは怒られるのが怖いとか、そんな理由じゃない。ただみんな、福田先生の話は自然と聞いてしまうのだ。
「じゃあまずは俺が読んでいくから、みんなはそれを聴きながら大体の内容の理解してくれ」
ピクンと私の背筋が伸びる。
「ある日の暮れ方のことであるーー」
教室を歩きながら、先生が本文を次々と読んでゆく。
あぁ、なんて低くて落ち着いた、いい声なんだろう…。私はいつもながら、うっとりとして聴き入ってしまう。今まで聞いたことのあるCDの声よりも、断然に福田先生の声は素敵だ。
思わず教科書から目を離して、福田先生の後ろ姿を追ってしまう。
綺麗な後ろ姿だなぁ…。
「ちょっと、どこ見てんの密香」
斜め後ろから、透子が小声で読んできて私はハッとした。
「あっ、ほんとだ」
ダメじゃないか、自分!
集中集中!!
心はなんだか浮き足立っていた。
(引用 芥川龍之介 「羅生門)」
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