不手際な愛、してる

木の実

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京子さん

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「それにしても、あなたにこんなに仲のいい部下さんたちがいるなんてねぇ」
カチャンカチャン。キッチンから食器の擦れ合う音が聞こえてくる。
「平内部長は本当に信頼があって、人気者なんですよ!ね、部長!」
「え?あ、ああ」
細長いテーブルを囲んで、山寺くんがあの人に笑いかける。
「さっきからどうしたの、あなた?ボーッとしてるみたいだけど、大丈夫?」
「部長、風邪でもひいたんじゃないですか?」
「い、いや、大丈夫だよ」
あの人のお酒を持つ手が軽くフラついている。
全く、男というのはどうしてこんなにも分かりやすい生き物なんだろう。動揺が手に取るように分かってしまう。
「部長いつも、私たち部下のこともたくさん気にかけてくれてますから、疲れるのも当然ですよね」
私はあえてその動揺に拍車をかけさせるように、数馬に話しかけた。
「はは、ありがとう、村松さん」
数馬は私を直接見ることなくお礼を返してくる。
「あら、ずいぶん評判いいのね、あなた」
数馬の結婚相手である“京子さん”は、私が想像していたよりもずっと平々凡々な“主婦”だった。
  あれだけ私がいるのにこの“京子さん”を優先するんだから、もっと美人で、絵に描いたような出来た妻を想像していたのに、どこにでもいそうで、家だってどこにでもありそうな一階建ての一軒家だ。
 だからこそ、余計に訳が分からなくなってきた。
  あんなダサい緑のエプロン着て、洗い物で手もただれて、化粧で若作りして、長い黒髪からは何本か白髪も覗いていて。
  訳が分からない。私でいいのに。私の方が、よっぽどちゃんとしてる。ちゃんとしてて、若くて、身なりも綺麗で、仕事もキチンとして…。
「何がいけないの?」
ポツリと口から突いて出た言葉は、淡いビールで塞がれていった。
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