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初任務

道中

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ドンドン、とドアを叩く音が聞こえた。
「おい、蒼!もう、6時45分だぞ!開けろ!」
再び部屋の外でサンダーが、扉を叩き出した。
蒼は背伸びをし、ベッドから出ると、寝ぼけながらも扉を開けた。
扉を開けると、すでに着替えてバッグも着用しているサンダーとランツェの姿があった。
「今何時だ?」
「もう6時45分だ。昨日、ランツェが言ってたこと覚えているのか。7時には、ここを出るって」
サンダーがそう言うと、蒼は、はっとすると部屋の扉をバンと閉めた。
「やばいやばい!まずは、着替えないと」
扉の外では、蒼が走り回る音や焦ってハンガー(木製の)を落とす音やらが4,5分聞こえ続けた。サンダーとランツェは近所迷惑(別室の人たちの)になってないかな、と思いながらも待ち続けた。
再び扉が開くと、キッチリ和服を着て、髪の毛も整えられた準備万端の蒼が出てきた。
「準備完了!(部屋は少し散らかっちゃったけど、帰ってからでいいか)」
「それじゃ、行くよ、蒼!もう、馬車の準備も整ってるからね。」
協会の外に出ると、一台の馬車が準備されてあった。馬車の荷台部分には、白い屋根もついている。
馬車の荷台には、5日分の食料と寝巻き3人分などがきちんと置かれてあり、座れる場所までも確保されてある。
「どう?かなり整えられた馬車でしょ!私が頑張って貯めた任務費用で中古で買ったのを(馬も前の持ち主からの引き継ぎである)修理したのよ。」
「すごいと思うな。・・早速出発しようか」
サンダーは、ヒョイッと馬車の後ろに飛び乗った。蒼は、それに続いて、荷台によじ登った。
「まあ、私以外が操縦してもいいんだけどね。」
「えっ。なら私が操縦してみたいな!」
サンダーがそう言うと、ランツェは、操縦席から飛び降りて、
「どうぞ!私、今まで荷台からの景色見たことなかったから」
、と言った。
「いいのか!」
サンダーは、さっそうと荷台から操縦席に乗り移った。
「サンダー、できるの?」
蒼が心配そうに操縦席を覗き込んだ。
「大丈夫だ!一応、馬上経験はある!」
サンダーはそう言い、手綱を握り、ウェーブさせた。
すると、馬車がゆっくりと動き出した。
「そのままのペースで。サンダー」
ランツェは安心したのか、荷台に寝っ転がりだした。屋根がついているので、結構涼しい。
「そういえば、目的地まで何日かかるの。この食料を見る限り、一日じゃ着かないと思うけど」
「片道2日だよ。だから、早めに起きてもらったけど、今寝ててもいいよ。」
「そう、なら遠慮なく」
そう言うと、蒼も横になった。
「もう寝ちゃったみたいね。」
「蒼は、いつも寝るのが早いんだ。眠たいと特にな。」
サンダーは、楽しそうに馬車を操縦している。

その5分後・・
もう少しで王城の門に着きそうであった。門の前に付くと、騎士が一礼をして、門を開けてくれた。
「ありがとね」
ランツェは、騎士に手を振った。
「こんな簡単に通していいのか?」
「総合学校のトップ10、もしくは、協会で名を売っている者だけの特権みたいなものなんだよね。」
ランツェは、少し得意げにドヤ顔をしている。
「ランツェって、総合学校で一番だったんでしょ。すごいな」
「いやー。7割方は、運だよ。私に宿っているものが、強かっただけだよ」
「へぇー、何を宿しているので?」
サンダーがそう聞くと、ランツェの顔が少しだけうつむいた。そして、再び話し始めるまで、5秒ほどの間があった。
「・・吸血鬼ヴァンパイアだよ・・」
ランツェは、少し小さな声でそう答えた。
「・・ごめん。聞いちゃまずかったかな」
「そんなことないよ。そういえば、あと45分ほど移動した先にキャンプ自由地があるから、そこでご飯にしようよ」
ランツェは話を切り替えると、笑顔でそう言った。

それから、しばらくの間(約30分)会話は無く、風の音や鳥の声などだけが聞こえる時間が続いた。ランツェは、荷台にもたれながら、目をつむっている。
王都の門を出た先には、大きな街はほとんど見えず、草原や山などの緑が沢山だった。
「このテネレ王都以外には、大きな街は無いのか?」
「少なくとも、国内には王都レベルの都市はないよ。あとは、小規模の集落や街があるくらいかな。あとは・・」
ランツェの話によると、テネレの他にも4つの大国と4,5個の小国があるらしい。他の4つもテネレ並、またはそれ以上の街が存在しているみたいだ。
「なるほどな・・」
「サンダーと蒼は、こことは違う場所から来たんでしょ。ヴィトン先生が言ってた。」
サンダーは、荷台の方に振り向いて頷いた。
「他の国に入ると、とても面倒くさいことだらけなんだよ。そこで役立つのが側近の権力って訳なんだよ。二人は、中々に強さを秘めていそうだし。そういう理由も含めた上で、ヴィトン先生は、推薦したのかもね」
「そうか・・。私なんか全然だぞ。」
「そんなことないって。模擬戦の時のスピードなんか、凄かったよ。余裕で私超えだよ」
ランツェにそう言われたサンダーは、少し嬉しそうに顔を隠した。
「あっ!もうそろそろ自由地に着きそうだね。蒼を起こすね」
「あっ。蒼は寝起きはいいが、少し揺らしたくらいじゃ起きない。着いたら、私が起こす!」
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