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第一章 憧れのタワマン
2 一夜の過ちが
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それから二週間、譲と美緒の生活は順風満帆だった。
タワーマンションの住民たちはみんな親切な人ばかりで、近所づきあいも円滑だった。
ふたりが仕事に行くにも、前の住居よりずっと便利だ。
駅前だけに、周囲に必要なインフラや店は大方ある。
ここに越してきて良かった。心からそう思えた。
だが三週間目の土曜日、状況を一変させる事態が起きてしまう。
その日、譲はひとりで留守番をしていた。
美緒は、最近親しくなったマンションの奥様たちのお誘いで、一泊二日の温泉小旅行に出ている。
広い我が家にひとりでいると、なんだか寂しいものだ。
「夕飯は外食にするか……。近所のスーパーで弁当でも……」
久々のひとりでの夕飯をどうするか考えていた時だった。
その時、スマホが鳴った。番号は、隣の奥様である絵美香のものだった。
『もしもし、譲さん? 美緒さん泊まりだって聞いたけど、夕飯どうするの?』
「いえ、ちょうどどうしようか考えてたところでして……」
『実は、今日明人が急な打ち合わせで、さっき泊まりになりそうだって電話があったのよ……。もうご飯作っちゃったのに……』
「ええ? それは大変ですね」
深刻そうな隣家の妻の声に、青年は自分のことのように思えてしまう。
作った料理が無駄になるほど悲しいことはない。
『それでなんだけど……。よければうちで食べないかしら? 運悪く足の速いメニューなのよ』
「いいんですか……? じゃあ、これからお邪魔します」
かくして、譲は美人なセレブ奥様のお相伴にあずかることとなるのだった。
北条家の食卓に並んだメニューは生ガキやカツオのたたきなど、確かに保存が利かないものばかりだった。
こんな日に明人が遅くなるなど、運の悪いことだ。
「うん、うまいです。やっぱり絵美香さんすごいなあ……。美人で仕事できる上に、料理までこんなに上手だなんて」
ついそんな言葉が譲の口を突いて出る。お世辞でもなんでもなく、本当にそれくらいうまかったのだ。
「ふふふ……。おだててもなにも出ないわよ。ささ、もう一杯いかが?」
「いただきます」
絵美香が注いでくれる日本酒を、ありがたく頂く。
魚介類に良く合う辛口だった。譲は普段あまり飲まないが、今日はつい酒が進んでしまう。
(美人にお酌してもらうとうまいって……本当だな……)
隣家の嫁の整った美貌を見ながら酒を空け、そんなことを思う。
夫である明人よりひとつ上の三十三歳。
歳がいった感じなどまるでなく、肌も髪も美しい。むしろ、若い女には決してない色気と落ち着いた雰囲気をまとう。
なにより、背中が大きく開いてスカートのサイドにスリットが入ったワンピースが妖艶すぎる。豊かで形のいい胸の膨らみも、視線を誘う。
二十五歳の若者には刺激が強かった。
「譲さん。目がちょっとえっちなんだけど?」
「あ……すみません……」
慌てて絵美香の妖しげな胸元から目線を逸らす。
「冗談よ。私みたいなおばさんでも、譲さん的にはありなんだ?」
「おばさんだなんてとんでもない! 絵美香さんはとっても素敵ですよ!」
譲は大声で即答していた。
酒が入っていたこともある。露骨な褒め言葉が自然に出ていた。
「ありがとう。お世辞でもうれしいわ」
「俺はお世辞は言いませんよ。女のことに関してはとくに。絵美香さんはきれいで……すごくいい女です」
その言葉に、三十三歳の人妻の目が熱っぽい光を帯びる。
「本当に……?」
「ええ。本当です」
テーブルの横に腰掛けた絵美香が身体を乗り出す。
互いに見つめ合う。
それがいけなかった。
「ずいぶんご無沙汰なんですね! 大洪水ですよ!」
「あんっ……! だめえっ……!♡ そんなこと……言わないで……!」
気がつけば譲は、絵美香とセックスをしていた。
よりにもよって、普段は夫と愛し合っているであろう夫婦の寝室で彼女を抱いていた。
隣家の嫁はバックから犬の交尾のように交わって、狂ったように甘い声を上げる。
(ああ……絵美香さん……。色っぽくて……すごく気持ちいい……)
酒の勢いもあったろう。譲は人妻を抱く素晴らしさに酔っていた。
愛する妻のことも、今は忘れてしまっていた。
絵美香の美しさと素晴らしさ、そして人の嫁とセックスする背徳感に支配されていた。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい。気をつけて」
月曜の朝。譲は出勤する美緒の顔をまともに見られなかった。
自分は嫁を裏切ってしまった。酒に酔った勢いで、よりによって隣家の妻と不倫してしまったのだ。
(忘れよう……一夜の過ちだ……。それが絵美香さんのためでもある……)
そう自分に言い訳していたときだった。玄関のチャイムが鳴る。
「明人さん……!?」
『やあ、ちょっといいか? 相談したいことがあるんだ』
今一番会うのが気まずい人物が、モニターに映っていた。
(でも……変に避けると怪しまれるかも……)
そう思った譲は明人を家に入れることにする。
まだ、なんとか逃げ切れるかも知れないと思っていたのだ。
だが、甘かったとすぐに気づく。
「これを……説明して欲しいんだが……」
「ああ……!?」
明人が差し出したスマホを見て、心臓が口から飛び出そうになる。
そこには、北条家の寝室で獣のように交わる自分と絵美香の姿が映っていたからだ。
タワーマンションの住民たちはみんな親切な人ばかりで、近所づきあいも円滑だった。
ふたりが仕事に行くにも、前の住居よりずっと便利だ。
駅前だけに、周囲に必要なインフラや店は大方ある。
ここに越してきて良かった。心からそう思えた。
だが三週間目の土曜日、状況を一変させる事態が起きてしまう。
その日、譲はひとりで留守番をしていた。
美緒は、最近親しくなったマンションの奥様たちのお誘いで、一泊二日の温泉小旅行に出ている。
広い我が家にひとりでいると、なんだか寂しいものだ。
「夕飯は外食にするか……。近所のスーパーで弁当でも……」
久々のひとりでの夕飯をどうするか考えていた時だった。
その時、スマホが鳴った。番号は、隣の奥様である絵美香のものだった。
『もしもし、譲さん? 美緒さん泊まりだって聞いたけど、夕飯どうするの?』
「いえ、ちょうどどうしようか考えてたところでして……」
『実は、今日明人が急な打ち合わせで、さっき泊まりになりそうだって電話があったのよ……。もうご飯作っちゃったのに……』
「ええ? それは大変ですね」
深刻そうな隣家の妻の声に、青年は自分のことのように思えてしまう。
作った料理が無駄になるほど悲しいことはない。
『それでなんだけど……。よければうちで食べないかしら? 運悪く足の速いメニューなのよ』
「いいんですか……? じゃあ、これからお邪魔します」
かくして、譲は美人なセレブ奥様のお相伴にあずかることとなるのだった。
北条家の食卓に並んだメニューは生ガキやカツオのたたきなど、確かに保存が利かないものばかりだった。
こんな日に明人が遅くなるなど、運の悪いことだ。
「うん、うまいです。やっぱり絵美香さんすごいなあ……。美人で仕事できる上に、料理までこんなに上手だなんて」
ついそんな言葉が譲の口を突いて出る。お世辞でもなんでもなく、本当にそれくらいうまかったのだ。
「ふふふ……。おだててもなにも出ないわよ。ささ、もう一杯いかが?」
「いただきます」
絵美香が注いでくれる日本酒を、ありがたく頂く。
魚介類に良く合う辛口だった。譲は普段あまり飲まないが、今日はつい酒が進んでしまう。
(美人にお酌してもらうとうまいって……本当だな……)
隣家の嫁の整った美貌を見ながら酒を空け、そんなことを思う。
夫である明人よりひとつ上の三十三歳。
歳がいった感じなどまるでなく、肌も髪も美しい。むしろ、若い女には決してない色気と落ち着いた雰囲気をまとう。
なにより、背中が大きく開いてスカートのサイドにスリットが入ったワンピースが妖艶すぎる。豊かで形のいい胸の膨らみも、視線を誘う。
二十五歳の若者には刺激が強かった。
「譲さん。目がちょっとえっちなんだけど?」
「あ……すみません……」
慌てて絵美香の妖しげな胸元から目線を逸らす。
「冗談よ。私みたいなおばさんでも、譲さん的にはありなんだ?」
「おばさんだなんてとんでもない! 絵美香さんはとっても素敵ですよ!」
譲は大声で即答していた。
酒が入っていたこともある。露骨な褒め言葉が自然に出ていた。
「ありがとう。お世辞でもうれしいわ」
「俺はお世辞は言いませんよ。女のことに関してはとくに。絵美香さんはきれいで……すごくいい女です」
その言葉に、三十三歳の人妻の目が熱っぽい光を帯びる。
「本当に……?」
「ええ。本当です」
テーブルの横に腰掛けた絵美香が身体を乗り出す。
互いに見つめ合う。
それがいけなかった。
「ずいぶんご無沙汰なんですね! 大洪水ですよ!」
「あんっ……! だめえっ……!♡ そんなこと……言わないで……!」
気がつけば譲は、絵美香とセックスをしていた。
よりにもよって、普段は夫と愛し合っているであろう夫婦の寝室で彼女を抱いていた。
隣家の嫁はバックから犬の交尾のように交わって、狂ったように甘い声を上げる。
(ああ……絵美香さん……。色っぽくて……すごく気持ちいい……)
酒の勢いもあったろう。譲は人妻を抱く素晴らしさに酔っていた。
愛する妻のことも、今は忘れてしまっていた。
絵美香の美しさと素晴らしさ、そして人の嫁とセックスする背徳感に支配されていた。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい。気をつけて」
月曜の朝。譲は出勤する美緒の顔をまともに見られなかった。
自分は嫁を裏切ってしまった。酒に酔った勢いで、よりによって隣家の妻と不倫してしまったのだ。
(忘れよう……一夜の過ちだ……。それが絵美香さんのためでもある……)
そう自分に言い訳していたときだった。玄関のチャイムが鳴る。
「明人さん……!?」
『やあ、ちょっといいか? 相談したいことがあるんだ』
今一番会うのが気まずい人物が、モニターに映っていた。
(でも……変に避けると怪しまれるかも……)
そう思った譲は明人を家に入れることにする。
まだ、なんとか逃げ切れるかも知れないと思っていたのだ。
だが、甘かったとすぐに気づく。
「これを……説明して欲しいんだが……」
「ああ……!?」
明人が差し出したスマホを見て、心臓が口から飛び出そうになる。
そこには、北条家の寝室で獣のように交わる自分と絵美香の姿が映っていたからだ。
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