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エピローグ

女体化元男子たちとの日常

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「さてと。そろそろ時間だな」
 司は学校敷地内の礼拝堂へと向かっていた。少女たちが誕生日祝いをしてくれるということだ。
『時間厳守。遅くても早すぎてもダメ』
 岬にそう釘を刺された。時計を何度も確認し、呼び出された時間きっかりに礼拝堂のドアをノックする。
「入っていいよ」
 聞き慣れたきれいな声がする。岬のものだ。
「失礼する」
 一応声をかけて礼拝堂のドアをくぐった司は、そこにあった光景に言葉を失う。
「ハッピーバースデイ! 司おめでとう!」
 大輪の花のような笑顔でそう言った岬は、純白のウエディングドレスに身を包んでいた。スカートが二重になっていて、アウターはシースルーでインナーは短い。長身で脚が長い彼女によく似合っている。
「つかさっちー。おめ! お祝いするよー!」
 命もまた、純白のドレスをまとっている。各所にギャルっぽいアレンジが施されているのが、また彼女の魅力を引き出している。
「お誕生日おめでとうございますー。司さんー」
 いつもの調子で祝いを述べた優輝のドレスは、赤ちゃんのようにかわいい、フリルの多いデザインだ。甘えんぼ袖があざとい。
「市原君、誕生日おめでとう」
 いつものポーカーフェイスで言う圭だが、こころなしかうれしそうに見える。彼女のドレスはシンプルにまとまったすっきりしたデザインだ。実直な人格の圭らしい。
「誕生日おめでとさん! めでたいねえ」
 いつもの豪放な笑顔で祝う連。白いドレスは胸の谷間が強調され、スカートは前の中央で分かれて、ふとももがまぶしい。黒ギャルの美しい肌と、凶悪にマッチしている。
「みんなありがとう。すごくきれいだよ……。でも……どうしてウエディングドレスなの……?」
 少年は少女たちの美貌に見とれながらも、頭の上に「?」マークを浮かべる。
「それはもちろん。プレゼントは俺たちってことだよ」
 岬がほおを染めながら答える。最近どんどん色っぽくかわいくなっていく気がする。
「あたしら決めたんだしー。みんなでつかさっちと結婚するんだってー」
 そう言った命の表情に、冗談の色はなかった。
「また司さんが感染してわかりましたからー。人間いつなにがあるかわからないとー」
 いつものゆるふわな口調だが、優輝は真剣だった。
「け……結婚……?」
 司は間抜けに応答してしまう。
 そりゃあ、少女たちは魅力的でかわいいと思ってきた。元は男だったなど、さして気にもならない。むしろ性や快楽に積極的なのは好みだった。
 デート、セックス、そして結婚。そうしたいと思ってきた。
 だが、それがよもや今日だとは思いも寄らなかった。まして、五人全員と?
「問題ないでしょう? 今この国では多夫多妻婚も合法だしね」
 圭がさらりと言う。理屈はそうだが、そういう問題なのか?
「腹括れよ市原。こんなきれいな女の子たちが結婚してやるって言うんだからよ」
 後は司が覚悟を決めるだけ。連は要するにそう言っていた。
「それは……うれしいけど……。うれしいけど……」
 司はまだ踏ん切れずにいた。こんな素敵な花嫁さんを、五人一緒に迎えられる。あまりに贅沢すぎてためらってしまう。
 五人全員と所帯を持ち、いずれ子供も生まれるだろう。その責任の重さを想像すると、ついヘタレてしまうのだ。
 だが、少女たちにとって結婚は既に決定事項のようだった。
「キミがいてくれたから……女の自分を好きになれた気がするんだ……。そして、司のことが好きな自分が好きだよ。だから、司のものになりたい……」
 と岬。
「恋するのって素敵だけど、とっても大変……。でも……つかさっちを好きになって毎日がドキドキだしー……。大好きだよー」
 と命。
「私にはもう司さんしかいないんですー。必要だって言ってくれた時から……。優輝の全部は司さんのものですよー」
 と優輝。
「あなた素敵だし男らしいとは思うけど……。いろいろ抜けてて危なっかしいのよね……。わたしが見ていてあげないとね。ずっと……」
 と圭。
「感じるんだ……。オレはもう、男に戻れない。お前に心を女にされたからさ……。だから……責任持ってオレの嫁になれよな」
 と連。
 少女たちの言葉に、司は不思議なくらい幸せで、勇気が沸いてくる気分だった。
 人間、いつどうなるか、いつ死ぬかもわからない。
 母の病気、転校、入寮、女体化した元男の少女たちとの生活、そして、自身の二度の性別転換。
 今まで、なんの根拠もなく信じていた。
 女体化元男子たちとの日常。ちょっと、というかかなりアレだが、楽しくて充実していた毎日。それが、ずっと無条件で続くものだと。
 だが違った。
 日常は脆い。簡単に崩れ、失われる。三度の感染で、それを痛感した。
 やりたいことは早くやれ。そういう啓示だろう。
 なら、余計なことを考えず踏み出し、走り出すべき。
 少年はそう断じ、少女たちに微笑んだ。
 これがゴールではない。むしろ新たなスタートだ。少年と、女体化した元男子の少女たちの物語はまだまだ続く。
 だが、それはまた別の講釈だ。

                                  了
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