50 / 51
エピローグ
終息の後
しおりを挟む
「あれ、東金一佐?」
「やあ、元気そうでなによりだ」
ようやく退院して復学一日目。司に意外な人物が尋ねてきた。
東金葵一等陸佐が、母性溢れる笑みを浮かべて教室の入り口に立っていた。陸自の制服は、学校の中ではとても目立つ。
「今日はどうなされたので?」
「いや、君津医療担当……保険の先生に用事でな。ついでに寄ったんだ。今日、誕生日だと思い出してな。おめでとう」
そう言った美魔女の幹部自衛官が、きれいに包装された小さな包みを差し出す。
「ありがとうございます」
司は笑顔で礼を述べる。
東金がほおを染めて笑うと、なんだがうれしい。なんだかんだで、彼女もまた少年にとっては大事な人だった。
「なるほど。要するに、かわいい年下の男の子に言い寄ろうとして、土壇場で怖じ気づいたと……」
「な……なにを言ってる……。君から書類を受け取るついでに寄っただけだ」
保健室。生暖かい笑みを浮かべてコーヒーを差し出す君津。意地悪な言い方に、東金が真っ赤になりながら応答する。
妙な気分だった。
政府と自治体に相談もなく、(少なくとも表向き)二回独断で「白雪姫方式」を試みた。互いにクビを覚悟していた。が、下された処分は停職と減給止まりだった。
結果は手段を必ずしも正当化しないが、ふたりと少女たちの行動がなければどうなっていたことか。
結果論だが、東金と君津は二度パンデミックから国を、多くの人間を救った。重い罰を与えるのは忍びなかったというところか。
それよりは、ふたりの功績を持ち上げて政府、自衛隊の手柄と主張する。その方が得策という考えは、理解できた。
「照れなさんな。美容院行ったでしょ? 化粧もいつもより気合いが入って、きれいだし。いいじゃないですか。あなたも肌馬候補でしょう? 生理はまだ順調みたいだし、この国では多夫多妻婚も認められている。子供が生まれたら国が補助してくれる。なにも問題ないでしょ?」
「よせよ。息子みたいな年の男の子と結婚して、しかも子供まで孕んだなんて言ったら……娘に親子の縁を切られちまうよ……」
余人がいないのをいいことに、ふたりは気安く機密事項の話をする。
彼女たちが国家から任された「国益」。
市原司がこの町に招かれたもうひとつの理由。それは、フレアウイルス肺炎に対する免疫体の子供の父親になること。つまり種馬としてだ。
彼と、フレアウイルスに耐性を持つ女との間であれば、男の子が生まれ、しかも女体化することはない。生まれつきウイルスにも免疫を持っている。
セクストランス症候群による人口の偏りを調整しつつ、少子化対策を行う。そのプロジェクトは厚労省と自治体の指示の元、継続中だった。
ただし、司にも彼に思いを寄せる少女たちにも秘密だ。自分の子供を愛せない親はあまたいる。子供を作ることが義務だと思っていては、正しく新しい命を宿して育てることができなくなるかも知れないからだ。
「どうですかね。案外お嬢さん、弟か妹ができると喜ぶかも?」
「よせってば。そういえば、私の記憶が正しければ君も肌馬候補だったんじゃ?」
「いえいえ。実は……女房とよりを戻せそうなんですよ。私が女体化してからすれ違って、うまく意思疎通できずにいましたが……。ちゃんと話し合ってみるものですね」
混ぜ返された言葉に、君津が照れくさそうに微笑む。
「そうか。それは良かった」
東金も釣られて笑顔になる。
フレアウイルス肺炎にセクストランス症候群。いろいろ大変だが、起きたことは事実として受け入れなければならない。
そして、女体化した自分とうまく付き合うことを考えられれば、そして女になった自身を好きになることができれば、そんなに悪くない。
互いに元は男であった身として、そう思えるのだ。
「やあ、元気そうでなによりだ」
ようやく退院して復学一日目。司に意外な人物が尋ねてきた。
東金葵一等陸佐が、母性溢れる笑みを浮かべて教室の入り口に立っていた。陸自の制服は、学校の中ではとても目立つ。
「今日はどうなされたので?」
「いや、君津医療担当……保険の先生に用事でな。ついでに寄ったんだ。今日、誕生日だと思い出してな。おめでとう」
そう言った美魔女の幹部自衛官が、きれいに包装された小さな包みを差し出す。
「ありがとうございます」
司は笑顔で礼を述べる。
東金がほおを染めて笑うと、なんだがうれしい。なんだかんだで、彼女もまた少年にとっては大事な人だった。
「なるほど。要するに、かわいい年下の男の子に言い寄ろうとして、土壇場で怖じ気づいたと……」
「な……なにを言ってる……。君から書類を受け取るついでに寄っただけだ」
保健室。生暖かい笑みを浮かべてコーヒーを差し出す君津。意地悪な言い方に、東金が真っ赤になりながら応答する。
妙な気分だった。
政府と自治体に相談もなく、(少なくとも表向き)二回独断で「白雪姫方式」を試みた。互いにクビを覚悟していた。が、下された処分は停職と減給止まりだった。
結果は手段を必ずしも正当化しないが、ふたりと少女たちの行動がなければどうなっていたことか。
結果論だが、東金と君津は二度パンデミックから国を、多くの人間を救った。重い罰を与えるのは忍びなかったというところか。
それよりは、ふたりの功績を持ち上げて政府、自衛隊の手柄と主張する。その方が得策という考えは、理解できた。
「照れなさんな。美容院行ったでしょ? 化粧もいつもより気合いが入って、きれいだし。いいじゃないですか。あなたも肌馬候補でしょう? 生理はまだ順調みたいだし、この国では多夫多妻婚も認められている。子供が生まれたら国が補助してくれる。なにも問題ないでしょ?」
「よせよ。息子みたいな年の男の子と結婚して、しかも子供まで孕んだなんて言ったら……娘に親子の縁を切られちまうよ……」
余人がいないのをいいことに、ふたりは気安く機密事項の話をする。
彼女たちが国家から任された「国益」。
市原司がこの町に招かれたもうひとつの理由。それは、フレアウイルス肺炎に対する免疫体の子供の父親になること。つまり種馬としてだ。
彼と、フレアウイルスに耐性を持つ女との間であれば、男の子が生まれ、しかも女体化することはない。生まれつきウイルスにも免疫を持っている。
セクストランス症候群による人口の偏りを調整しつつ、少子化対策を行う。そのプロジェクトは厚労省と自治体の指示の元、継続中だった。
ただし、司にも彼に思いを寄せる少女たちにも秘密だ。自分の子供を愛せない親はあまたいる。子供を作ることが義務だと思っていては、正しく新しい命を宿して育てることができなくなるかも知れないからだ。
「どうですかね。案外お嬢さん、弟か妹ができると喜ぶかも?」
「よせってば。そういえば、私の記憶が正しければ君も肌馬候補だったんじゃ?」
「いえいえ。実は……女房とよりを戻せそうなんですよ。私が女体化してからすれ違って、うまく意思疎通できずにいましたが……。ちゃんと話し合ってみるものですね」
混ぜ返された言葉に、君津が照れくさそうに微笑む。
「そうか。それは良かった」
東金も釣られて笑顔になる。
フレアウイルス肺炎にセクストランス症候群。いろいろ大変だが、起きたことは事実として受け入れなければならない。
そして、女体化した自分とうまく付き合うことを考えられれば、そして女になった自身を好きになることができれば、そんなに悪くない。
互いに元は男であった身として、そう思えるのだ。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
君は今日から美少女だ
藤
恋愛
高校一年生の恵也は友人たちと過ごす時間がずっと続くと思っていた。しかし日常は一瞬にして恵也の考えもしない形で変わることになった。女性になってしまった恵也は戸惑いながらもそのまま過ごすと覚悟を決める。しかしその覚悟の裏で友人たちの今までにない側面が見えてきて……
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる