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第五章 白雪姫の目覚め
07 少女たちは諦めない
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「公務執行妨害、強盗、感染隔離法違反、建造物侵入、そして……銃刀法違反……」
自衛官に偽装した圭が、ぼやきながら二曹のホルスターから9mm拳銃を奪い取る。マガジンを抜いてスライドを何度か引き、動作を確認する。
「重犯罪者の仲間入りってわけだねー。良くて停学、鑑別所。悪けりゃ退学処分に少年刑務所……かな?」
同じように自衛官に化けた命が相手をしつつ、二曹の肩から89式小銃のスリングを抜く。小銃は手に取ると、見た目より重かった。
「覚悟の上でのこったろ。まあ、後戻りしたいなら止めねえぜ」
自嘲気味に笑った連は、ふたりの自衛官の持ち物を漁る。目当てのカードキーはすぐに見つかった。取りあえず第一関門は突破だ。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
岬は意識のない自衛官ふたりをガムテープで拘束し、人目につかない施設の裏手に運んでいく。ビニールシートを被せてしまえば、ぱっと見には人とはわからない。
防犯カメラはあらかじめ電源を切った。自分たちの行動が記録される危険はない。
「連さんこそ、いいんですねー?」
まだ今なら引き返せる、と優輝が言外に付け加える。
「未練ねえっちゃうそになるな……。でもよ、あいつが死んじまうよりはましさ」
そう答えた連の声に、迷いはなかった。
そもそも、こんな暴力的なやり方をしてまで隔離施設に侵入しなければならなかった理由。それは、少女たちの申し出が感染対策本部に却下されたからだった。
司が発症して隔離施設に収容された後、岬たちは対策本部に直談判に行った。
自分たちを救ってくれた時のように、司に口移しで抗体を注入する。いわゆる「白雪姫方式」を試したいと申し出た。五人の内の誰かの抗体が、司を治せるかも知れないと。
だが、本部長の東金一等陸佐の反応はかんばしくなかった。
『君たちを治療したときとは状況が違うんだ。君ら五人の抗体が、新しいウイルスに有効な保証はない。意味もなく発症者を増やすだけに終わるリスクは冒せない』
彼女が言うには、少なくとも司が持っている抗体が前回パンデミックを起こしたタイプのウイルスに有効なのは証明されていた。だが、今回司が発症したウイルスに岬たちの抗体が有効かどうかは、まだわかっていない。
今急いで「白雪姫方式」を行うわけにはいかないのだと言う。
そして、機密事項につき他言無用と前置きした上で付け加えた。
『フレアウイルス肺炎に複数回感染すると、リバースが起こりにくくなる。現在わかっているところでは、三回発症した人間で元の性別に戻れた例はない』
フレアウイルス肺炎に感染するたびに、セクストランス症候群が固定される確率は高くなる。後悔しても遅い。そういうことだった。
まだ男に戻りたがっている連にとっては、重大な問題だった。
それ以前に、自分たちも感染して発症したらと想像すると、やはり怖い。
少女たちは寮の自室でずいぶん悩んだ。が、最終的には五人とも決意した。司をこのまま死なせることはできない。
少しでも可能性があるなら、試してみたいと。
通販で買った陸自の迷彩服を着て自衛官に化け、隔離施設への侵入を試みたのだ。
自衛官に偽装した圭が、ぼやきながら二曹のホルスターから9mm拳銃を奪い取る。マガジンを抜いてスライドを何度か引き、動作を確認する。
「重犯罪者の仲間入りってわけだねー。良くて停学、鑑別所。悪けりゃ退学処分に少年刑務所……かな?」
同じように自衛官に化けた命が相手をしつつ、二曹の肩から89式小銃のスリングを抜く。小銃は手に取ると、見た目より重かった。
「覚悟の上でのこったろ。まあ、後戻りしたいなら止めねえぜ」
自嘲気味に笑った連は、ふたりの自衛官の持ち物を漁る。目当てのカードキーはすぐに見つかった。取りあえず第一関門は突破だ。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
岬は意識のない自衛官ふたりをガムテープで拘束し、人目につかない施設の裏手に運んでいく。ビニールシートを被せてしまえば、ぱっと見には人とはわからない。
防犯カメラはあらかじめ電源を切った。自分たちの行動が記録される危険はない。
「連さんこそ、いいんですねー?」
まだ今なら引き返せる、と優輝が言外に付け加える。
「未練ねえっちゃうそになるな……。でもよ、あいつが死んじまうよりはましさ」
そう答えた連の声に、迷いはなかった。
そもそも、こんな暴力的なやり方をしてまで隔離施設に侵入しなければならなかった理由。それは、少女たちの申し出が感染対策本部に却下されたからだった。
司が発症して隔離施設に収容された後、岬たちは対策本部に直談判に行った。
自分たちを救ってくれた時のように、司に口移しで抗体を注入する。いわゆる「白雪姫方式」を試したいと申し出た。五人の内の誰かの抗体が、司を治せるかも知れないと。
だが、本部長の東金一等陸佐の反応はかんばしくなかった。
『君たちを治療したときとは状況が違うんだ。君ら五人の抗体が、新しいウイルスに有効な保証はない。意味もなく発症者を増やすだけに終わるリスクは冒せない』
彼女が言うには、少なくとも司が持っている抗体が前回パンデミックを起こしたタイプのウイルスに有効なのは証明されていた。だが、今回司が発症したウイルスに岬たちの抗体が有効かどうかは、まだわかっていない。
今急いで「白雪姫方式」を行うわけにはいかないのだと言う。
そして、機密事項につき他言無用と前置きした上で付け加えた。
『フレアウイルス肺炎に複数回感染すると、リバースが起こりにくくなる。現在わかっているところでは、三回発症した人間で元の性別に戻れた例はない』
フレアウイルス肺炎に感染するたびに、セクストランス症候群が固定される確率は高くなる。後悔しても遅い。そういうことだった。
まだ男に戻りたがっている連にとっては、重大な問題だった。
それ以前に、自分たちも感染して発症したらと想像すると、やはり怖い。
少女たちは寮の自室でずいぶん悩んだ。が、最終的には五人とも決意した。司をこのまま死なせることはできない。
少しでも可能性があるなら、試してみたいと。
通販で買った陸自の迷彩服を着て自衛官に化け、隔離施設への侵入を試みたのだ。
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