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第四章 感染爆発再び

05 隔離された場所へ

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「通してくれ! 東金一佐が、隔離施設の視察に来られた!」
 体格のいい女性の一等陸尉が、大きな声で警衛に告げる。
「はっ! お気をつけ下さい! 感染はかなり重篤です!」
 防護服を身につけた一団が、ゾロゾロとエアテントに入って行く。その中には、変装した司もいる。完全な違法行為だ。隔離区画に入る、いかなる根拠も権限もないのだ。
「ごほっ! ごほごほっ! 苦しい……」
「誰か……誰か……お薬を……」
「息が……できない……。お母さん……助けて……」
 中は、さながら地獄だった。
 ひっきりなしに誰かが咳き込む声が聞こえる。司はさすがに怖くなる。だが、すぐに自分を奮い立たせる。
 女の子たちを救うために、なんでもすると決めた。今怖じ気づいたら、自分は男をやめるしかない。
「ここだ」
 ひとつの隔離区画で、東金が足を止める。
 一宮岬。佐倉圭。酒々井連。八千代優輝。大多喜命。
 目当ての名前は同じ部屋の表札に書かれている。同じ寮で発症したのだから、一緒に隔離しておくのが合理的なのだろう。
 長身ボーイッシュな少女、岬が横たわるベッドに近づく。
「岬、俺がわかるか?」
「けほけほ……! え……司……?」
 防護服のゴーグルをのぞき込んだ岬が、驚いた様子になる。
 意を決した司は、防護服のフードを外しにかかる。
「なにを……? ごほっ……司……だめだ……!」
 衰弱している身体で、岬は必死に制止しようとする。だが、少年にためらいはない。
 フードとゴーグルを外し、笑顔を向ける。
「うん……? おいそこ! なにをやってる!? 正気か!?」
 こちらに気づいた看護師が慌てふためく。事情を知らなければ、仰天ものの暴挙だったろう。
「いいんだ! 私が責任を持つ!」
 東金が大声で被せる。
 看護師が渋々引き下がる。美魔女な一佐の、人望の勝利だった。
「岬。すぐ助けてやる。絶対治るから。ちょっとごめんな」
 司は笑顔で、少女に顔を近づけていく。
「司……。んんん……」
 岬が涙を流しながら、キスを受け入れる。涙はうれしさのものか悲しみのものか、司にはわからなかった。
 あまりほめられない行為とは思いながらも、唾液を口いっぱい吐き出し岬の口に流しこでいく。
「また、後でな」
 そう言って、岬のそばを離れる。
 次は命だった。ギャルな少女は、すでに意識を保つことさえしんどいらしい。
「セックス……させてくれるんだろ……? 約束守れよな……」
 そう言って深く唇を重ね、唾液を流し込む。
 今度は優輝のそばに立つ。
「俺には優輝が必要だ。俺を置いて行くなよな……」
 すでに呼吸器無しでは息さえままならない。ゆるふわ系少女は信じられないほど苦しそうだった。深くキスをする。少しでも安心できればいいと。
 その隣は圭だった。
「市原……くん……どうして……?」
「佐倉を助けるためだ。いいから任せろ……」
 圭は、唇を重ねられても目立った反応を示さなかった。それほど弱っているらしい。
 最後は連だった。見るからに顔色が悪く、このままでは危険なのがわかる。
「戻ってこい酒々井……。また、ふたりで古本屋を漁ろう……。ゲームでやられっぱなしのまま終わりは嫌だぜ……」
 聞こえていない様子の連にキスし、唾液を送り込む。
「すんだか?」
「はい」
 神妙な様子の東金に、司はできるだけ明るく答える。
「祈りますか、市原君?」
「祈りなんか必要ないでしょ。ただ、信じるだけです」
 まだ保身を諦め切れない様子の君津に、微笑んで応じる。
「君を隔離しなければならない。いいな?」
「もちろんです。行きましょう」
 司は東金に連れられ、エアテントの別の区画を目指す。
(これで良かったんだよな)
 結果がどうあろうと後悔はない。自分はやりたいようにやった。やるべきと思ったことを。少年は、不思議と充実した気分だった。
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