女体化元男子たちとの日常 学園唯一の男子生徒になったけど

ブラックウォーター

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第四章 感染爆発再び

02 感染の恐怖は狂気に変わる

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 駐屯地に運ばれた司は、「新型フレアウイルス肺炎感染対策本部」と書かれた会議室に案内される。
 そこに待っていたのは、妙齢の女性幹部自衛官だった。四十前後だろうか。貫禄はあるが、若々しく年を感じさせない美人だ。美魔女とはこういう人のことだろう。
 制服の胸の徽章は医官のものだ。医師資格を持っているのだろう。
「よく来てくれた。市原司君、私は感染対策本部長、東金葵一等陸佐だ」
 そう言って手が差し出される。司はためらう。自分も感染しているかも知れない。
「大丈夫だ。君は新型フレアウイルス肺炎には免疫体だからね」
 東金が改めて手を差し出す。司は素直に握手に応じる。
「俺は隔離されるのではないので?」
「そうではない。隔離ではなく保護だ。君をさらおうとしたようなやつらからな」
 そう言った美人の一佐は、気さくに紅茶を煎れて勧めてくる。
「あいつらは一体なんなんです?」
 司はなぜ自分がさらわれそうになるのか、説明が欲しかった。
「まあ……これを見てもらった方が早いかな……」
 そう言って東金は、ノートパソコンを操作する。群衆が集まり、なにごとか騒いでいる映像が呼び出される。自衛官と警察官らが、必死で押し戻している。
「なんですこりゃ?」
 一瞬、司は映画のワンシーンかと思った。だが、映像の荒さやピントがめまぐるしく変化する様子から、リアルタイム映像だと察する。
「どこからか情報が漏れた。この町に新型フレアウイルス肺炎の免疫体の人間が存在しているとな。それに尾びれがついて、町の誰かの血液があれば治療できるといううわさになって拡散しているんだ。周辺の町の住民たちが、その人間を引き渡せと騒いでる。封鎖をくぐり抜けて町に侵入したやつもいる。今捜索中だ」
 なるほど。と司は納得する。さきほどの偽自衛官たちは、根拠のない希望にすがったというわけだ。確信はないが、自分をさらって血液を採取すれば助かるかも知れないと。
「感染は、この町の中だけじゃないんですか?」
「同時多発的に起きているが、ここと周辺のいくつかの自治体だけだ。なんとか封鎖と隔離は成功した。これからが大変だがな……」
 東金がため息と一緒に本音を吐露する。
 わかる話だ。ここと周辺の住民たちは、感染区画に閉じ込められたのだ。フレアウイルス肺炎の感染力と毒性を考えれば、パニックになってもおかしくない。
 パソコンの映像の中で封鎖を破ろうとしている群衆は、必死を通り越して狂気に近い表情を浮かべている。
『免疫体を引き渡せー! 俺たちを殺す気かー!』
『息子が感染してるのよお! お願いです! 息子を助けて!』
『お前ら公務員だろ! 僕たちを守る義務があるんじゃないのか!』
『汚いぞ! 自分たちだけ助かる気か!?』
 マイクから聞こえてくる群衆たちの声は、完全に理性をなくしたものだった。仕事もきちんと持っているし、家に帰れば家族もあるだろう者たち。
 だが、彼らは到底正常な人間には見えなかった。
「虫のいいことを……。人を汚いものでも見るような目で見て、聞くに堪えない言葉を浴びせておいて……。この町の住人が出入りしたから店がつぶれた、なんて風評を拡散したやつまでいる……。それを……自分たちが危なくなったらこれか。恥知らずども」
 横で見ていた君津が、彼女らしからぬ辛辣さで毒づく。
 司にも気持ちはわかった。自分も感染者ということで理不尽な差別を受けた経験はある。まして、セクストランス症候群で女体化した人たちは、差別とセクハラの二重苦にさらされた可能性もある。
 特にこの町の周辺の自治体の住民はひどい。ネットでいわれのない誹謗中傷を流すのはまだかわいい方。この町の子供とは遊ぶなと自分の子供に吹き込む親までいる有様だ。
 そんなやつらが、今はこの町に、自分たちに図々しくも救いを求めている。
 人に散々悪意を向けておいて、自分や家族が危うくなったら助けてもらう権利があると思っている。群衆はそういうやつらだ。確かに恥知らずにもほどがある。
「君津医療担当。君も公務員だろう。彼らの税金で食っていることを忘れるな。私情でものを言うのはよせ」
「失礼しました」
 君津が素直に応答する。
 だんだん話が見えてきた。君津がハンドガンを持っていたのは、先ほどの偽自衛官たちのようなやつらに対処するためだろう。
 単なる医療公務員ではなく、格闘技や射撃の訓練も受けている。必要に応じて護衛や警察活動を行う権限もあるというわけだ。
 東金と顔見知りらしいことからして、同僚、あるいは仕事仲間と推測される。封鎖や隔離に関する権限もあるのかもしれない。
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