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第三章 芽生える思い

04 乙女心の目覚め

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「つかさっちー。こっち来てコーヒー一緒しよ? あったまるよー」
 コーヒーをふたり分煎れて、ベッドの自分のとなりをパンパンと叩く。
「ああ……いただこうかな……」
 司はためらいながらも、命のとなりに腰を下ろす。
 しばらく、ふたりは無言でコーヒーを味わう。
「ねえ……つかさっち……。セックスしよ……?」
 頃合いを見て、命はストレートに切り出す。
「え……?」
 そう反応した司の顔には、驚きと同時に期待の色がある。彼も男だということだ。
「前に……つかさっちならセックスさせてあげてもいいって言ったじゃん……? なんかさ……雨宿りだけのつもりだったけど……つかさっちがそばにいると変なスイッチ入っちゃって……がまんできないよ……」
 嘘ではなかった。司と互いにバスローブ姿でとなり合っている。それだけで無性にドキドキして、女の芯が男を求めていた。
 下腹部に血が集まり、熱くなっていく。花びらがジンワリと開いて、潤っていくのを感じる。
「命……本当にいいのか……?」
「うん……つかさっちだからだよ……。誰にでもこういうことするわけじゃないし……」
 そう言って、軽く唇を突き出して瞳を閉じる。
 その気になった司の息づかいが近づいて来る。
「ん……」
 軽く触れ合うだけのキス。なのに、すごく満たされて幸せだった。
「暗くして……」
「わかった……」
 枕元のパネルを操作して、照明を消す。
 司が命の美しい身体を引き寄せて触れる。男らしい、大きく熱い手が心地いい。
 少女はポーッとして気持ちいいままに、男を受け入れようとしていた。
 が……。
(え……? なにこれ……すごくでかくて熱い……。それに固い……! 待って……ちょっと待って……!)
 司が命の手を自分の股間に導く。暗くてよく見えないが手の中に感じる感触は、ものすごく大きく熱く、グロテスクだった。
 男だったころ、自分のものを触った感触とはまるで違う。
 淫らな心地よさに支配されていた頭が、一気に冷静になる。
 恥ずかしい。大きすぎる。怖い。絶対痛い。
 命は完全にパニックになっていた。
 自分が女として初心者なのを痛感する。生まれつきの女なら、幼児期、思春期を経て男との距離感を構築していくのだろう。その過程で異性への耐性も身につく。
 だが、自分にはそれがなかった。女としてあまりに未熟だった。猛り狂ったものの感触だけで、頭の中がグルグルと回ってどうしていいかまるでわからなくなる。
 自分から誘っておきながら、これからセックスをするという事実がどうしようもなく怖くなる。
「あん……!」
 司に優しく押し倒され、バスローブの前をはだけられる。
(やだ……待って……お願い待ってってば……)
 緊張と混乱で声が出ない。頭が沸騰してしまい、なにも考えられない。
 司の指が秘部に触れると、ついに糸が切れる。ブレーカーが落ちるように、命の意識は途切れていた。
…………………………………………………………………………………………………………
「あれ……あたし……どうしちゃったの……?」
 命はベッドの上で目を覚ます。
「気がついたか……」
 司が心配そうに自分を見ている。
(あたし確か恥ずかしくて怖くなって気絶して……まさか……?)
 慌てて自分の股間に手をやる。混乱しきっていて記憶がはっきりしないが、すでにセックスした後か。切磋にそう思ったのだ。
「安心していいよ。してないから」
 優しい声で司が言う。
(つかさっち……もう……優しすぎるんだから……)
 胸がキュンとすると同時に、申し訳なくなる。
 こちらから誘っておきながら行為に及ぶ前に気絶して、勃起して辛いだろう司を放置してしまった。そんな自分に全く怒っていない。それが彼だ。
「ごめんつかさっち……。あたしから誘っておいて……こんな……」
「命、気にしなくていいって。女の子が怖がってるのに、無理矢理するなんてことしたくねえからさ」
 司が微笑む。
(つかさっち……ああ……好き……。大好き……)
 愛おしい気持ちが、胸の奥からあふれ出てくる。先ほどまでの恥ずかしさと怖さは、すっかり霧散していた。
「つかさっち……抱きしめて……思い切り強く……」
「わかった……」
 立ち上がった少女の身体を、司は強く抱きしめる。命も応じて思い切り抱き返す。
「キス……するね……」
「うん……」
 今度は命の方から唇を重ねる。始めは触れるだけ。やがて深く。
(え……? なにこれ……? すごく気持ちよくて幸せ……)
 少女は戸惑う。舌同士が絡み合い、歯列を、粘膜をなめ合うたびに自分は、心地よい階段を一歩一歩上っていく。
(だめ……気持ちいい……! だめっ……だめっ……!)
 頭の中が白く弾け、命はキスで絶頂を迎えていた。
(すごかった……キスでイかされちゃったあ……)
 心地よいパルスが少女の全身を駆け巡っている。雲の上にいるようだった。
 その時だった。
 司のスマホが鳴り始める。延長料金がつかないようアラームを設定していたらしい。
「あ……時間か……雨も上がったな……」
「うん……。そうだね……」
 チェックアウトの時間だった。自分が気絶している間に三時間が経っていた。
(もったいないことしたな……。今度はちゃんとセックスできそうだったのに……)
 名残惜しい気持ちのまま、命は司についてホテルを出た。空がすっかり晴れているのに、ギャルで純真な少女の心は晴れなかった。

 その後日談。寮の男湯。
「つかさっち……!? き……きゃあああーーっ! 見ないで見ないでええーーっ!」
 いつも通りこっそり男湯に潜入していた命は、司が入ってきたことに思わず黄色い悲鳴を上げてしまう。当然騒ぎになり、後で平謝りすることになる。
(ムダ毛処理する前だったし……あたしお尻大きいから……恥ずかしいよ……)
 今まで一緒に入浴しても平気だったのに、今は司の視線がものすごく恥ずかしかった。これまでは男友達感覚でできていたことが、男女を意識するとだめになっていた。
 司を異性としてみると、自分の中の女の感性が抑えられなかった。
(これが好きになるってこと……? ハードル高い……。恥ずかしい……)
 女に覚醒し心が乙女になってしまった命は、司の顔をまともに見られなかった。
 少女が愛しい男をきちんと愛せるようになるには、まだ時間が必要だった。
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