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05 エピローグ

母になった妻たちの集合写真

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 話は8ヶ月ほど飛ぶ。
 摂津、兵庫の湊。
 『これより、DDG-179新生“ながと”の就役式を執り行います』
 拡声器によるアナウンスが流れると同時に、音楽隊の演奏が始まり、満場の拍手が鳴り響く。
 海に浮かぶ巨大な城という様相の護衛艦に、自衛隊旗を掲げた霧島たち白い制服をまとったクルーたちが乗り込んでいく。
 艦名は“ながと”。
 毛利家と自衛隊の新たなアイギスの盾だった。
 
 前部機関室に被弾して航行が困難となった“ながと”と、兵装とレーダー類を破壊され戦闘不能の“みらい”。
 霧島たちが選択したのは、にこいちで航行と戦闘が可能な艦を作ることだった。
 “ながと”から撤去したレーダーやアンテナ類、そして各種の兵装を“みらい”に移植していく。
 幸いにして輸送艦“おおすみ”がかなり力のあるクレーンを装備していた。これによって、重いレーダー類も滞りなく移植することができたのだった。
 すり合わせには苦労したが、“みらい”はイージス艦としての機能を取り戻すのだった。
 兵装はVLS以外は全て“ながと”のものに交換される。
 これによって、被害妄想と揶揄されていたかつての“みらい”の過剰に武装した姿から、かなりすっきりした印象になった。
 主砲は5インチ砲に交換され、カタログスペックはかなり低下したが、軽量化と重心の低下を実現した。
 後部ヘリ格納庫上の兵装は、オフセットするとレーダーの邪魔になるため、格納庫中央に配置される。後部VLSの前方にSEARAM、後方に20ミリCIWSというレイアウトだ。
 ヘリ格納庫はそれなりの機能を備えていたが、中央が隔壁とVLSで仕切られているため大型のヘリは運用できず、この点では性能は低下していると言えた。
 VLSにはまだミサイルが多数残っていた。“ながと”のミサイルをほとんど使い切っていたクルーたちにとってこれは福音だった。
 特に、対空ミサイルより対艦ミサイルであるVL-JSMを多めに持っていたのはありがたいことだった。こちらでは後者の方が重要度が高いだろうから。
 まあ、大阪湾の戦いで撃ってきたミサイルの数と残弾の計算が合わず、どう数えても残弾が多かったのは深く考えたら負けだろう。
 生まれ変わった“みらい”は“ながと”と名を改められ、改めて就役することとなったのだった。
 
 「感無量だな。こんなに早く艦長になれるなんて」
 「責任重大ですよ。霧島優馬“一等海佐”殿」
 浮かれ気味の霧島を、米村がたしなめる。
 霧島の肩には一等海佐の階級章が光っていた。同じように、米村の肩にも三等海佐の真新しい階級章がついている。
 (梅沢一佐たちは無事に帰れただろうか?)
 霧島はそんなことを思っていた。
 霧島が一等海佐の階級章をつけている理由がそれだった。

 “ながと”の再就役が間近という時になって、それは起こった。
 瀬戸内海に突然原因不明の低気圧が発生したのだ。
 偵察のために飛ばしたドローンは、跡形もなく消息を絶っていた。墜落しても信号だけは送るように設計されているにも関わらずだ。
 21世紀に帰れるかも知れない。
 その状況を前にして、自衛隊員たちの意見は2つに割れた。
 帰れるということと、帰るべきか、帰っていいのか、なにより帰りたいかは全く別の問題だった。
 自衛隊員の中には、こちらで結婚して子供もいる者たちがひとりならずいたからだ。
 最終的に出された結論は、それぞれの意思に任せるというものだった。
 帰りたい者は帰る。そうでないものは、二度とチャンスがないことを覚悟の上で残留する。
 隊司令だった梅沢一佐は、彼自身の責任においてそう宣言した。
 残留希望者は、なんと全体の6割以上に登った。
 加えて、まだまだ天下泰平の世を作るのは道半ば。自衛隊の力は依然として必要になるという意見が多数だった。
 そこで、帰還希望者は、兵装を外されパーツ艦として残されていた旧“ながと”に乗って帰ることになったのだ。
 他の艦や装備は残していくことが決まったのだ。
 だが、ここで問題が発生する。
 帰還を選択したものは、年長の妻帯者が中心だった。
 それはどういうことになるかというと、上級の幹部はほとんどいなくなってしまうということだった。
 だが、残留を希望する以上そこはやむなしと判断される。
 とりあえずの措置として、尉官ばかりとなってしまった幹部たちに臨時任官による昇進が行われる。
 霧島が部内選抜の臨時措置という形で一等海佐となり、艦長兼隊司令を拝命することとなったのだった。
 「これからは、君がリーダーだ。しっかりな」
 そう言って霧島に一等海佐の階級章を渡した後、梅沢は旧“ながと”の指揮を執り、低気圧へと向かっていった。
 旧“ながと”の通信とレーダー反応は低気圧の中心に入ったところで消失する。
 おそらく、21世紀へ帰ったのだろう。
 そして、おそらく低気圧は二度と発生することはない。
 霧島たち残留組は、少しの寂しさを覚えながらも、この世界、この時代の人間として生きていく決意を新たにしたのだった。
 
 「じゃあ、写真撮りますね。笑って。チーズ」
 就役式から2日後、新生“ながと”の一般開放が行われていた。
 こういう地道な努力の積み重ねが、国民との距離を縮める。国民に自衛隊に対する理解を得るのには重要だった。
 自衛隊の象徴と見られている護衛艦を見学できるとあって、摂津だけでなく遠方からも客が訪れているようだった。
 よく見れば、烏丸光広ら京都の公家たちまでいる。
 みなこぞって、“ながと”をバックに写真に写りたがっている。
 「妊娠組集合ー!せっかくだから集合写真撮るよー!」
 隆元の呼びかけで、前部甲板VLSの後方に設けられた椅子と台に、女性たちが集まっていく。
 全員、すっかりお腹が大きくなり、マタニティドレスを着ている。
 「それにしてもすごいよね。みんな一斉に妊娠するなんて」
 隆元が大きくなったお腹をさすりながら言う。
 「本当に。いやあ、これだけ妊婦が並んでると壮観だねえ」
 重そうなお腹をかばいながら、元春が相手をする。
 「自分以外の赤ちゃんも、なんだか生まれるのが楽しみです」
 隆景が梅味の強烈に酸っぱい飴を舐めながら言う。妊婦用に最近発売されたものだ。
 「何人身ごもっても、不思議ですごく幸せな気分ですね」
 フリルの多い少女趣味なマタニティドレスが意外に似合っている元就が笑顔になる。
 「この子の父親は艦長でとてつもなく強い一軍の大将か。名誉なことよね」
 大きなお腹をぺたぺたと触りながら、大内義隆が幸せそうに微笑む。
 「本当に、英雄の赤ちゃんを産むことができるなんて、とても光栄です」
 冷泉隆豊がマタニティドレスの胸元を調整しながら応じる。
 「あ…今蹴りました。ふふ…元気な赤ちゃんです」
 陶晴賢は、妊娠しても美貌は衰えない、どころかむしろ色気がましてさらに美しくなった感さえある。
 「それにしても、本当にこの全員を妊娠させるなんて。さすが英雄です」
 すっかり丸いお腹が目立つようになった大友宗麟がいたずらっぽく笑う。
 「まあ、わたくしたちの夫ですもの。これくらいの甲斐性と力はむしろ当然でしょう」
 宗麟ほどではないが、大きくなったお腹が目に付く立花道雪が苦笑しつつ答える。
 「なんだか不思議な感じだな。母親になることなど想像したこともなかったのだが」
 高橋紹運は未だに戸惑い気味だった。お腹が大きくなって、やっと母になることを実感しつつある。
 「姉上、母親というのは責任重大です。お互い、生まれたら頑張りましょう」
 立花宗茂は、義姉よりしっかりしていた。妊娠が判明したのが先だったからかも知れない。
 「幸せね~。四姉妹そろって孕ませてもらえるなんて~」
 島津義久が満面の笑みで大きなお腹を撫でる。
 「なんだか…赤ちゃんができてさらに旦那様を大好きになっちゃったかも…」
 同じように大きくなったお腹を撫でながら、島津義久が頬を染める。
 「いいのではないですか?子供が生まれたとたんそちらに愛情が移って旦那を放置では、妻失格です」
 四姉妹では最初に妊娠した島津歳久は、冷静に言いながらもどこか幸せそうだった。
 「楽しみだねー。みんな一緒にお母さんになるんだよねー」
 島津家久は、お腹がすっかり大きくなってもハイテンションだった。
 「なんだか夢みたいです。僕のお腹に勇馬殿の赤ちゃんがいる…」
 妊娠して体が女体化したまま固定された長宗我部元親が幸せそうに顔を緩ませる。
 霧島は、なんと16人の妻を一度に妊娠させたのだ。
 妻たちは霧島の子供を孕める日を心待ちにしていたから、妊娠が確認されると肩を抱き合って喜んだ。
 「いやー。英雄たるものこうでなくてはねー。
 まあ、16人もまとめて妊娠させるとは想定外だったけど」
 毛利家の長男、輝元が呆れと感慨が入り混じった様子で言う。
 「そう言う輝元も、嫁さんおめでただって?」
 白い制服姿の霧島が応じる。
 「はい。3ヶ月だそうです。ま、僕には妻は1人で十分ですね」
 輝元はそう言って、傍らに居る栗山三佐と笑い合う。九州での戦い以降二人は付き合っていて、最近結婚したのだ。
 「勇馬殿。
 私たちにも是非子を孕ませて欲しいのだが…」
 瞳にハートマークを浮かべた織田信長が恥ずかしそうにそう言う。
 ホレキメ薬の効果が切れても、決して愛欲という甘い夢から覚めることはない。
 隆元たちは妊娠したのに、自分たちがまだというのは悔しいのだ。
 「もちろん、あなた方にも俺の子を産んでもらうとも」
 霧島は不敵に微笑む。
 そういう計画なのだ。日本中の女性大名や武将に子を産ませる。
 自衛隊の長である霧島の血を主だった大名家に入れることで影響力を確保する。
 なにより、生まれてくる子供は毛利、自衛隊と各家のかすがいとしても、人質としても非常に有効なはずだった。
 自衛隊は毛利家を支援して、関東、東北に駒を進めつつある。
 降伏したり生け捕った女性武将には、ツボ療法と暗示を施すか、ホレキメ薬を飲ませる。
 霧島を愛さずにはいられなくなった女性たちは、もはや毛利に逆らうなど思いもよらないこと。霧島に愛してもらうためならなんでもするようになっていった。
 まあ、決してヤリ捨てはしないのが信条の霧島の下半身の負担は増えるばかりと言えたが。
 「さすがは征夷大将軍殿。
 そうこなくっちゃね」
 隆元がそう言って素敵な笑顔を霧島に向ける。
 「お…おう…もちろんさ…」
 まだ実感がわかない霧島が歯切れ悪く返答する。
 そう、霧島は征夷大将軍の宣下を朝廷から受けたのだ。
 てっきり毛利の当主である隆元だと思っていたのだが、“人は最も強いものに従う”という理屈から言えば必然でもあった。
 それが国を安定させ、天下泰平を実現するならばと、霧島は受けることとしたのだ。
 まあ、無能ではないものの、政務や軍事に積極的でない隆元によって丸投げされてきた感もあったが。
 何はともあれ、引き受けた以上は励まなくてはならない。
 艦長兼隊司令に加えて、征夷大将軍まで掛け持ちするのは一苦労が予想されたが、これも試練と心得ていた。
 (俺も梅沢一佐のようになる必要があるか)
 霧島はかつての上官を思い出していた。
 基本的には部下を信頼して任せ、重要なことにのみ自ら裁可を下す。そして、全ての責任は自分にあると心得る。
 それこそがナンバーワンの理想の姿と思えた。
 梅沢の真似をするわけではないが、彼のようにならなければならない。
 霧島は決意を新たにした。
 
 「じゃあ、撮りますよー。みなさん笑ってー」
 第一分隊の二曹がカメラを構えながら呼びかける。
 前は椅子にかけ、後ろは台に上がる形で2列に並んだ16人の妊婦が一斉に素敵な笑顔になる。
 荘厳で美しく、どこか色気のある光景だった。
 抜けるような青い空から降り注ぐ日差しが、彼女たちを美しく見せていたのだった。

 了
 
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