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04 畿内への道編
鳥取城の消失 姫若子と入浴
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01
毛利勢は畿内への道を粛々と進み始めた。
道筋としては羽柴秀吉の中国攻めのちょうど反対となる。
中国地方東部から畿内西部にかけては、戦国大名として力を持って国を治めることのできるものがいなかった。
それだけに、なんとか宇喜多家の下で固まっているのは備前くらい。
後は完全に分裂状態という有様だった。
山名や赤松、一色といった旧守護大名勢力は当然のように力がない。
土豪や地侍、国人といった独立勢力がそれぞれの地域を実効支配していた。
ゆえに、毛利と自衛隊の戦い方も過激なものにならざるを得なかった。
理屈の通じないものは力で制圧するしかない。それが戦国の道理だったのだ。
「りゅう弾砲、攻撃開始だ」
「だんちゃーく、今!」
155ミリりゅう弾が、鳥取城に容赦なく降り注ぐ。
こちらで現地調達した資材でこしらえた砲弾だが、充分に実用に耐えられるようだ。
りゅう弾の炸裂で、城は機能を喪失するにとどまらず、原型さえ止めないほどに破壊されていく。
「民間人が避難している場所はわかっているな。そこには当てるなよ」
特科の指揮官である二尉が念を押す。
欺瞞、自己満足、アリバイ行為であろうとも、民間人に極力犠牲を出さない努力は必要だ。
籠城する城に、ヘリから拡声器で降伏を呼びかけたのもその一環だ。
それでも降伏に応じなかった相手に対して、もはや容赦はできない。
自衛隊員たちにためらいはなかった。
すでに周辺は制圧されている。
後は鳥取城から軍事拠点としての機能を剥奪し、待機している島津義弘と立花宗茂の軍勢に攻めさせるのみ。
「義弘様、宗茂様、攻撃開始願います」
『了解だよ』
『心得ました』
島津と立花の旗を掲げた軍勢が城に攻めかかる。
入念な準備射撃で城も人もがたがたの鳥取城はひとたまりもなかった。
史実では“鳥取の飢え殺し”と呼ばれる籠城戦の果てに決した戦いは、三日にして決着がついたのだった。
「これが神や鬼ではなく、人のなしたことだというんだから…」
「そこは同感。私たち、とんでもない相手と戦ってたんですね…」
無残に破壊され尽くした鳥取城を散策しながら、黒髪セミロングの美女と、黒髪姫カットの美少女が顔を引きつらせながら言葉を交わす。
陸自のりゅう弾の砲撃は、字義通り全てを破壊し尽くしていた。
きれいに吹っ飛んだ建物は土台さえ残っておらず、そこが兵舎だったのか厩舎だったのか、あるいは倉庫で会ったのかさえ判別できない。
ただ巨大なクレーターがいくつもあるだけだった。
「義弘様、宗茂様!陸自の司令部より入電です!」
大きな無線機を背中に背負った陸自の士長が大声で呼びかけてくる。
「行こうか」
「ええ」
義弘と宗茂は駆け寄ってくる士長から無線のマイクを受け取る。
自衛隊主体の戦いはとにかく速さを重視している。
陣立てを行ってから戦いを始めるのになれている武将たちは、息をつく暇もない状態だった。
ともあれ、京に上るなら早いに越したことはない。
義弘と宗茂は、後の処理を経済に通じている大内義隆と、内政が得意な島津歳久に任せることにする。
武勇に優れる二人には、次の戦場に向かうことが仕事だったのだ。
毛利勢の硬軟使い分けの策は、この後見事な効果を発揮することとなる。
抵抗すれば肉片さえ残らずに吹き飛ばされるが、降伏して臣従することを約すれば手荒なことはしない。
鳥取城の無残な敗北と蹂躙の結果は、毛利の間諜によって噂として流布される。
これから後、土豪や国人たちは抵抗することなく毛利に下るようになるのである。
さて、こちらは讃岐の国。
「鉄の鳥が来たぞお!」
「あんなのに勝てるわけないが!逃げろ!」
「待て!逃げるな、持ち場を守れ!」
髙橋紹運および鍋島直茂の軍勢の攻勢には抵抗していた在地の小領主の勢力は、海自のSH-60KやAW-101が城の上空に姿を現すとたちまち腰砕けとなった。
今まで頑強に抵抗していた兵たちも、戦意を失って逃げていく。
ヘリが現れた時点で敗北は決しているのがわかっているからだ。
田舎の小領主の首など取る価値もないとばかりに、城の本丸にヘルファイア対戦車ミサイルや、50口径重機関銃の攻撃が浴びせられる。
指揮系統を喪失した軍団は烏合の衆に成り下がる。
AW-101からヘリボーンによって海自の隊員たちが降下してくると、もはや戦いは決していた。
無駄死にはごめんだと、在地の兵たちは我先に降伏したのだった。
「降伏した兵たちは一カ所に集めろ。
写真を撮っておけよ。今回だけは許してやる手はずだからな。
そのあとは直茂殿にお任せしよう」
ヘリボーン部隊の指揮官を務める霧島は無線に呼びかける。
インド洋で海賊対策に従事した経験があるとはいえ、海自の隊員たちはしょせんカッパだ。陸に上がってできることは限られている。
捕虜の扱いなどは、こちらの優秀な武将に丸投げしてしまうのが最善の策だった。
「やっぱり我々にはしんどいですね。小銃を長時間持って行動するのはきついです」
「ま、いい運動にはなるでしょ。艦内にいてもやることがないしね」
ナルゲンボトルから水分を補給しながらぼやく分隊長の一曹に、霧島が相手をする。
陸自の主力が中国地方の制圧に出張っているため、優先度の低い戦線である四国は毛利勢の別働隊と海自が担当せざるを得なかったのだ。
瀬戸内海の水軍は、海自の艦艇が姿を現すと我先に降伏した。
船の規模からしてかなわない。強者にしっぽをふりながら生きることになったとしても、命あっての物種だと分別を働かせたのだ。
ついでに、海に生きるものにとっては情報が命だ。船戦をするにしても商売や漁業をするにしても、情報戦に勝利せずに成功は覚束ない。
自衛隊の九州での戦いの噂はとっくに耳に入っていた。
早々に勝てないと悟っていたのだ。
「その点、田舎侍は始末に負えんな。
今回は早めに降伏してきたから良かったが…」
問題だったのが、田舎者で情弱な土豪や在地領主たちだった。
もともと村社会であり、うち向きな考え方しかしないものだから、毛利勢と自衛隊がどんなものか知らないし知ろうともしない。
「自分たちの土地をよそ者に荒らさせるわけにはいかない」
「よそ者に媚びへつらって生きるのはごめんだ」
という安易な精神論や根性論、そして敵に対する無知から、彼我の戦力差も考えずに抵抗する者が後を絶たないのだ。
戦闘が始まれば、勝てないのを悟って降伏する者もいたが、しつこく抵抗する者もいる。
最初の段階で降伏しなかった勢力は、見せしめも兼ねて皆殺しにするのがこの時代のルールだ。
ずるずると抵抗した挙げ句、「勝てないのがわかったので降伏します」は通らない。
他に示しがつかないからだ。
ともあれ、自衛隊員たちにとっては、自業自得だろうと皆殺しというのはできれば避けたい事態だった。
「助けてくれ」「降伏する」
と平伏する者たちに銃弾を浴びせなければならないのは気持ちのいいものではない。
命を助けられるならそれに越したことはないのだ。
「治部卿殿」
「おお、宮内少どのか」
霧島は声をかけられて振り向く。
そこにいたのは、はっとするような美貌を持つ少年だった。
土佐大名長宗我部家当主、長宗我部元親だ。宮内少は彼の官名である。
黒く絹のような長い髪も、白くきめ細かい肌も、整った顔立ちも、男にしておくにはもったいない。
その容姿と雰囲気から、ついたあだ名が“姫若子”。
誰しもが納得する二つ名だった。
「申し訳ありません。また戦闘が始まる前の降伏勧告に失敗してしまいました」
「いや、元親殿の責任ではない。
四国の独立勢力は頑迷なやつが多いですからね」
自衛隊は、長宗我部家が土佐を統一するための支援を行う見返りに、四国の各勢力への降伏勧告を依頼したのだ。
よそ者に対しては頑なになっても、同じ四国の住人のいうことなら聞く可能性があると読んでのことだった。
「いえ、これでは土佐一国を安堵して頂いたことに報いていることになりません。
さらに励みますので、ご指導ご鞭撻のほどを」
「承知しました」
生真面目で一生懸命な人物だな。と霧島は思う。
元親は長宗我部家では家臣たちにたいそう慕われているというのもむべなるかな。
霧島は、ぜひ元親を応援してやりたいと思うのだった。
きっとそれも才能なのだろう。他人に応援してやりたいと思ってもらう。それは何者にも代えがたい素晴らしいもの。元親の美点なのだ。
「あー生き返る」
陸自から借用した野外入浴施設の中。
霧島は大きな浴槽の中で思いきり手足を伸ばしていた。
野戦でも風呂には入れるのは、高温多湿な環境で生きている日本人にはとてもありがたい。
「自衛隊は労力と技術をつぎ込むところがおかしい」
などと揶揄されるが、そういう人間は、日本で風呂に入れないのがどれだけ辛いか知らないのだろう。
一日働いた後は、風呂は正に命の洗濯だ。
風呂に入ったかどうかで、よく眠れるか、体力がどの程度回復しているかが全く違うのだ。
「あの…失礼します…」
「!?」
霧島は、風呂場に入ってきた色白であまりに色っぽい人物に絶句する。
「ああ…元親殿か…」
あまりに白く美しい裸は一瞬女かと思ったが、良く見れば肩幅はそれなりに広いし、胸の膨らみはない。
(しかし、ほんとうにきれいなんだよな)
身体を洗い始める元親を見て、霧島は本気でそう思う。
ここまで美しいと、男か女かなど些末な問題に思えてしまう。
(そっちの趣味はないと思ってたが…。
この時代では男色はとくに禁忌ではないわけだしな…。
…て俺は何を考えてるんだ?)
危うく思考が不思議な小道に入りそうになるのを踏みとどまる。
「どうかしましたか?」
「い…いや、なんでもない…」
身体を洗ってこちらに向き直り、湯船に入った元親にはやっぱり“ついている”。
だが、これだけ美しい容姿をしていると、そんなことも気にならなくなるから不思議だった。
「しかし、じえいたいって本当にすごいですね。
屋外で湯が使える移動式の施設を作るなんて」
「気に入ってもらえたかな?
垢だらけになった元親殿なんて誰も見たくないだろうからね。
せっかくきれいなんだし」
霧島の冗談交じりの返答に、元親が顔を赤くする。
「もう…おだてても何も出ませんよ」
「俺はお世辞は言わんよ」
そんなやりとりをしながら、二人はまったりと過ごす。が…。
「は…?
あの…お先に失礼します!」
「あれ、もう上がるの?」
元親は慌てたように風呂場から出て行く。
正に烏の行水というところか。
が、霧島にはその慌て方が気になった。
「あれ?」
ついでに、霧島はもう一つ違和感を覚える。
(元親の尻、あんなに丸かったか?)
先ほど見た元親の後ろ姿は、柔和そうではあるものの、男特有の引き締まった尻をしていたはずだった。
が、今の更衣室に向かう元親の尻は丸く、女の尻のように見えた。
「どういうことなの?」
霧島は頭に?マークを浮かべ続けた。
結局、そんな違和感は霧島はすぐに忘れてしまう。
が、その後すぐに、その違和感の正体を知ることとなる。
それがまた一騒動の発端となるとは、この時誰も予測していなかったのである。
毛利勢は畿内への道を粛々と進み始めた。
道筋としては羽柴秀吉の中国攻めのちょうど反対となる。
中国地方東部から畿内西部にかけては、戦国大名として力を持って国を治めることのできるものがいなかった。
それだけに、なんとか宇喜多家の下で固まっているのは備前くらい。
後は完全に分裂状態という有様だった。
山名や赤松、一色といった旧守護大名勢力は当然のように力がない。
土豪や地侍、国人といった独立勢力がそれぞれの地域を実効支配していた。
ゆえに、毛利と自衛隊の戦い方も過激なものにならざるを得なかった。
理屈の通じないものは力で制圧するしかない。それが戦国の道理だったのだ。
「りゅう弾砲、攻撃開始だ」
「だんちゃーく、今!」
155ミリりゅう弾が、鳥取城に容赦なく降り注ぐ。
こちらで現地調達した資材でこしらえた砲弾だが、充分に実用に耐えられるようだ。
りゅう弾の炸裂で、城は機能を喪失するにとどまらず、原型さえ止めないほどに破壊されていく。
「民間人が避難している場所はわかっているな。そこには当てるなよ」
特科の指揮官である二尉が念を押す。
欺瞞、自己満足、アリバイ行為であろうとも、民間人に極力犠牲を出さない努力は必要だ。
籠城する城に、ヘリから拡声器で降伏を呼びかけたのもその一環だ。
それでも降伏に応じなかった相手に対して、もはや容赦はできない。
自衛隊員たちにためらいはなかった。
すでに周辺は制圧されている。
後は鳥取城から軍事拠点としての機能を剥奪し、待機している島津義弘と立花宗茂の軍勢に攻めさせるのみ。
「義弘様、宗茂様、攻撃開始願います」
『了解だよ』
『心得ました』
島津と立花の旗を掲げた軍勢が城に攻めかかる。
入念な準備射撃で城も人もがたがたの鳥取城はひとたまりもなかった。
史実では“鳥取の飢え殺し”と呼ばれる籠城戦の果てに決した戦いは、三日にして決着がついたのだった。
「これが神や鬼ではなく、人のなしたことだというんだから…」
「そこは同感。私たち、とんでもない相手と戦ってたんですね…」
無残に破壊され尽くした鳥取城を散策しながら、黒髪セミロングの美女と、黒髪姫カットの美少女が顔を引きつらせながら言葉を交わす。
陸自のりゅう弾の砲撃は、字義通り全てを破壊し尽くしていた。
きれいに吹っ飛んだ建物は土台さえ残っておらず、そこが兵舎だったのか厩舎だったのか、あるいは倉庫で会ったのかさえ判別できない。
ただ巨大なクレーターがいくつもあるだけだった。
「義弘様、宗茂様!陸自の司令部より入電です!」
大きな無線機を背中に背負った陸自の士長が大声で呼びかけてくる。
「行こうか」
「ええ」
義弘と宗茂は駆け寄ってくる士長から無線のマイクを受け取る。
自衛隊主体の戦いはとにかく速さを重視している。
陣立てを行ってから戦いを始めるのになれている武将たちは、息をつく暇もない状態だった。
ともあれ、京に上るなら早いに越したことはない。
義弘と宗茂は、後の処理を経済に通じている大内義隆と、内政が得意な島津歳久に任せることにする。
武勇に優れる二人には、次の戦場に向かうことが仕事だったのだ。
毛利勢の硬軟使い分けの策は、この後見事な効果を発揮することとなる。
抵抗すれば肉片さえ残らずに吹き飛ばされるが、降伏して臣従することを約すれば手荒なことはしない。
鳥取城の無残な敗北と蹂躙の結果は、毛利の間諜によって噂として流布される。
これから後、土豪や国人たちは抵抗することなく毛利に下るようになるのである。
さて、こちらは讃岐の国。
「鉄の鳥が来たぞお!」
「あんなのに勝てるわけないが!逃げろ!」
「待て!逃げるな、持ち場を守れ!」
髙橋紹運および鍋島直茂の軍勢の攻勢には抵抗していた在地の小領主の勢力は、海自のSH-60KやAW-101が城の上空に姿を現すとたちまち腰砕けとなった。
今まで頑強に抵抗していた兵たちも、戦意を失って逃げていく。
ヘリが現れた時点で敗北は決しているのがわかっているからだ。
田舎の小領主の首など取る価値もないとばかりに、城の本丸にヘルファイア対戦車ミサイルや、50口径重機関銃の攻撃が浴びせられる。
指揮系統を喪失した軍団は烏合の衆に成り下がる。
AW-101からヘリボーンによって海自の隊員たちが降下してくると、もはや戦いは決していた。
無駄死にはごめんだと、在地の兵たちは我先に降伏したのだった。
「降伏した兵たちは一カ所に集めろ。
写真を撮っておけよ。今回だけは許してやる手はずだからな。
そのあとは直茂殿にお任せしよう」
ヘリボーン部隊の指揮官を務める霧島は無線に呼びかける。
インド洋で海賊対策に従事した経験があるとはいえ、海自の隊員たちはしょせんカッパだ。陸に上がってできることは限られている。
捕虜の扱いなどは、こちらの優秀な武将に丸投げしてしまうのが最善の策だった。
「やっぱり我々にはしんどいですね。小銃を長時間持って行動するのはきついです」
「ま、いい運動にはなるでしょ。艦内にいてもやることがないしね」
ナルゲンボトルから水分を補給しながらぼやく分隊長の一曹に、霧島が相手をする。
陸自の主力が中国地方の制圧に出張っているため、優先度の低い戦線である四国は毛利勢の別働隊と海自が担当せざるを得なかったのだ。
瀬戸内海の水軍は、海自の艦艇が姿を現すと我先に降伏した。
船の規模からしてかなわない。強者にしっぽをふりながら生きることになったとしても、命あっての物種だと分別を働かせたのだ。
ついでに、海に生きるものにとっては情報が命だ。船戦をするにしても商売や漁業をするにしても、情報戦に勝利せずに成功は覚束ない。
自衛隊の九州での戦いの噂はとっくに耳に入っていた。
早々に勝てないと悟っていたのだ。
「その点、田舎侍は始末に負えんな。
今回は早めに降伏してきたから良かったが…」
問題だったのが、田舎者で情弱な土豪や在地領主たちだった。
もともと村社会であり、うち向きな考え方しかしないものだから、毛利勢と自衛隊がどんなものか知らないし知ろうともしない。
「自分たちの土地をよそ者に荒らさせるわけにはいかない」
「よそ者に媚びへつらって生きるのはごめんだ」
という安易な精神論や根性論、そして敵に対する無知から、彼我の戦力差も考えずに抵抗する者が後を絶たないのだ。
戦闘が始まれば、勝てないのを悟って降伏する者もいたが、しつこく抵抗する者もいる。
最初の段階で降伏しなかった勢力は、見せしめも兼ねて皆殺しにするのがこの時代のルールだ。
ずるずると抵抗した挙げ句、「勝てないのがわかったので降伏します」は通らない。
他に示しがつかないからだ。
ともあれ、自衛隊員たちにとっては、自業自得だろうと皆殺しというのはできれば避けたい事態だった。
「助けてくれ」「降伏する」
と平伏する者たちに銃弾を浴びせなければならないのは気持ちのいいものではない。
命を助けられるならそれに越したことはないのだ。
「治部卿殿」
「おお、宮内少どのか」
霧島は声をかけられて振り向く。
そこにいたのは、はっとするような美貌を持つ少年だった。
土佐大名長宗我部家当主、長宗我部元親だ。宮内少は彼の官名である。
黒く絹のような長い髪も、白くきめ細かい肌も、整った顔立ちも、男にしておくにはもったいない。
その容姿と雰囲気から、ついたあだ名が“姫若子”。
誰しもが納得する二つ名だった。
「申し訳ありません。また戦闘が始まる前の降伏勧告に失敗してしまいました」
「いや、元親殿の責任ではない。
四国の独立勢力は頑迷なやつが多いですからね」
自衛隊は、長宗我部家が土佐を統一するための支援を行う見返りに、四国の各勢力への降伏勧告を依頼したのだ。
よそ者に対しては頑なになっても、同じ四国の住人のいうことなら聞く可能性があると読んでのことだった。
「いえ、これでは土佐一国を安堵して頂いたことに報いていることになりません。
さらに励みますので、ご指導ご鞭撻のほどを」
「承知しました」
生真面目で一生懸命な人物だな。と霧島は思う。
元親は長宗我部家では家臣たちにたいそう慕われているというのもむべなるかな。
霧島は、ぜひ元親を応援してやりたいと思うのだった。
きっとそれも才能なのだろう。他人に応援してやりたいと思ってもらう。それは何者にも代えがたい素晴らしいもの。元親の美点なのだ。
「あー生き返る」
陸自から借用した野外入浴施設の中。
霧島は大きな浴槽の中で思いきり手足を伸ばしていた。
野戦でも風呂には入れるのは、高温多湿な環境で生きている日本人にはとてもありがたい。
「自衛隊は労力と技術をつぎ込むところがおかしい」
などと揶揄されるが、そういう人間は、日本で風呂に入れないのがどれだけ辛いか知らないのだろう。
一日働いた後は、風呂は正に命の洗濯だ。
風呂に入ったかどうかで、よく眠れるか、体力がどの程度回復しているかが全く違うのだ。
「あの…失礼します…」
「!?」
霧島は、風呂場に入ってきた色白であまりに色っぽい人物に絶句する。
「ああ…元親殿か…」
あまりに白く美しい裸は一瞬女かと思ったが、良く見れば肩幅はそれなりに広いし、胸の膨らみはない。
(しかし、ほんとうにきれいなんだよな)
身体を洗い始める元親を見て、霧島は本気でそう思う。
ここまで美しいと、男か女かなど些末な問題に思えてしまう。
(そっちの趣味はないと思ってたが…。
この時代では男色はとくに禁忌ではないわけだしな…。
…て俺は何を考えてるんだ?)
危うく思考が不思議な小道に入りそうになるのを踏みとどまる。
「どうかしましたか?」
「い…いや、なんでもない…」
身体を洗ってこちらに向き直り、湯船に入った元親にはやっぱり“ついている”。
だが、これだけ美しい容姿をしていると、そんなことも気にならなくなるから不思議だった。
「しかし、じえいたいって本当にすごいですね。
屋外で湯が使える移動式の施設を作るなんて」
「気に入ってもらえたかな?
垢だらけになった元親殿なんて誰も見たくないだろうからね。
せっかくきれいなんだし」
霧島の冗談交じりの返答に、元親が顔を赤くする。
「もう…おだてても何も出ませんよ」
「俺はお世辞は言わんよ」
そんなやりとりをしながら、二人はまったりと過ごす。が…。
「は…?
あの…お先に失礼します!」
「あれ、もう上がるの?」
元親は慌てたように風呂場から出て行く。
正に烏の行水というところか。
が、霧島にはその慌て方が気になった。
「あれ?」
ついでに、霧島はもう一つ違和感を覚える。
(元親の尻、あんなに丸かったか?)
先ほど見た元親の後ろ姿は、柔和そうではあるものの、男特有の引き締まった尻をしていたはずだった。
が、今の更衣室に向かう元親の尻は丸く、女の尻のように見えた。
「どういうことなの?」
霧島は頭に?マークを浮かべ続けた。
結局、そんな違和感は霧島はすぐに忘れてしまう。
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