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02 勢力伸長編

厳島沖に消ゆ あと、隆元が変な性癖に目覚めた件

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07

 陶がたによる厳島侵攻は予定通り開始される。
 500隻の船に2万の兵を乗せて、意気揚々と周防を出発したのである。
 
 が、その様子をはるか上空から伺う者がいた。
 海自の早期警戒機、EV-22である。
 外見としては、V-22の背部に三角形のレドームを取り付けたというところか。
 テイルトローターに干渉しないように配慮された配置だが、E-2などありふれたデザインの早期警戒機を見慣れているといささか奇異に映る。
 イギリス海軍が開発を進めたものを輸入。艦載機として運用可能な早期警戒機として護衛艦に搭載される。
 これにより、艦隊防空やミサイル防衛をさらに円滑に効率よく行うことが期待されている。
 もちろん、対陸上、対水上索敵能力も折り紙付きだ。
 「こちらスタービュー。陶軍の海上兵力が周防を出撃しました。
 数は500以上。情報通りです」
 『了解だ。引き続き監視を続行されたし』
 無線に報告した通信士の言葉に、“ながと”船務長の松島が応じる。
 EV-22を駆る機長以下乗員たちは意気軒昂だった。
 これはこのEV-22にしかできない任務だ。
 索敵と監視だけなら対潜ヘリであるSH-60Kでも可能だが、ヘリは高度を高く取ることができない。音や目視で気づかれ、警戒されてしまう可能性があるのだ。
 その点このEV-22は、水平飛行ならば7000メートル以上上昇が可能だ。
 陶がたが罠の中に足を踏み入れるのを、気づかれることなく監視し続けることができるのだ。
 「よし、いいぞ。そのまま進め」
 レーダー員席に座る二尉は、罠が張られているとも知らずに進撃してくる陶勢の船団の様子を見てほくそ笑んだ。

 「予定通りだな。厳島の戦いは起こらない。
 厳島に着く前にことごとく沈めてやるまでだ」
 “ながと”のCIC。明かりが暗く抑えられ、スクリーンの光に照らされた中でそううそぶいた霧島の表情は、漫画の悪役のようだった。
 「しかし、元就様が不機嫌になるのが目に浮かびますなあ」
 かたわらにいる船務長の松島が渋面を浮かべて言う。
 史実通り厳島に陶の軍勢を誘い込み、大軍が身動きを取れない状態とする。しかる後に低気圧に紛れて夜襲をかけ、殲滅する。
 当初はその予定だったのだ。
 「今回はじえいたいの方々は、偵察と後方支援だけ受け持って頂ければけっこうです」
 元就はその作戦に相当に自信を持っていた。
 が、霧島ら“ながと”の幹部たちのごり押しで、急遽作戦は変更。
 陶勢の船団を“ながと”の砲撃で厳島に着く前に撃沈する作戦に切り替えられたのだ。
 「ま、仕方なかろうさ。
 陶尾張の守晴賢をできれば捕虜にして欲しいという、隆元様たってのお願いってやつだしな」
 いよいよ陶勢の船団が岩国を出発するという段階になって、隆元が晴賢の生け捕りを主張し始めたのだ。
 曰く、いまだ混乱の渦中にある大内家にあって、晴賢まで死亡してしまったら、長防は完全に無政府状態となる危険がある。
 また、北九州の大友や少弐といった勢力も今は大人しいが、大内家の実権を握る晴賢が死ねばどうなるかわからない。
 できれば晴賢を捕虜として、大内家の傀儡の当主を廃立させるべき。その上で長防と博多周辺の支配権を毛利に禅譲すると一筆書かせる。
 これなら大きな混乱や戦いを避けつつ、毛利が長防と博多を手にすることも可能。
 それが隆元の見解だった。
 (それだけではないな)
 霧島は、隆元の私情が絡んでいることを察していた。
 隆元は、晴賢を処刑するにしても、義隆にきちんと謝罪させてからとしたいとも言っていた。
 だが、それも本音とはいえないだろう。
 隆元は大内に人質に出されていた折、晴賢とも親しかった。
 吉田郡山城が尼子の大軍に包囲されたとき、元就が尼子に降伏する障害とならないよう、一時は隆元は自害を考えた。
 が、それを止めたのが当時の隆房、つまり晴賢だったのだ。
 「あなたの母は私が必ず助ける」
 そう言って安芸に出陣した隆房は、見事尼子勢を撃退した。
 その時の恩義を、隆元は忘れていない。
 それに、きっと今でも晴賢のことが好きなのだ。
 (ツンデレなんてキャラじゃないだろう)
 そんなことを思って、霧島はおかしくなる。
 ともあれ、隆元の言い分は建前としては間違っていない。
 艦長である梅沢とも相談して作戦を練り上げた。そして、元就に談判したのだった。
 自衛隊におんぶせず、毛利の力を示したい元就は渋っていた。が、前述の長防や北九州の情勢に関して、隆元が熱弁を振るったことで、最終的に作戦変更を裁可したのだった。

 「陶軍の船団、主砲の有効射程内に入ります」
 レーダー員が報告する。スクリーンには、海に浮かぶ大軍が映っていた。
 500隻という情報ははったりではなかったらしい。字義通り、船が海上を埋め尽くしている。
 「わかった。対水上戦闘用意」
 「対水上戦闘よーい!」
 霧島の号令に応じて砲術長の米村二尉が復唱し、主砲の発射準備が行われていく。
 「わかっているな。陶晴賢が座乗する船は沈めるなよ」
 「わかっていますとも。ヘリと早期警戒機からの情報で、大将旗を掲げている船は判別できています」
 米村は自信たっぷりだった。
 船戦というのは、ある意味で陸戦よりも大将がどこにいるのか判別しやすいのだ。
 軍船など、遠くから見ればどれがどれなのか判別は不可能だ。
 組織だった行動を取るためには、大将がどこにいるのか一目でわかるようにしておく必要がある。
 実際、SH-60Kから送られて来た光学画像では、船団の中央に位置する船がでかでかと大将を示す大内菱の旗を掲げている。
 これこそが、厳島ではなく海上で陶勢を殲滅する作戦が決定された理由だった。
 これだけ大将の位置がはっきりわかっていれば、うっかり晴賢を死なせてしまう危険もない。
 「主砲、攻撃始め」
 「距離3000。照準よし」
 「主砲、撃ちーかた始め-」
 主砲を担当する一曹がトリガーを引くと同時に、砲音がCICにも聞こえてくる。
 「だーん、着、着、着、着」
 砲撃はいずれも初弾命中だった。
 陶軍の船団を示すアイコンが、スクリーンから次々と消失していく。
 「船団が変針します。一度南へ離脱する模様です」
 (さすがに敵も馬鹿ではないか)
 船団が変針することは霧島の予測通りだったが、思ったよりも早かった。
 さすがに、30キロも先から正確に砲撃を浴びせてくる相手とまともに戦う気はないらしい。
 「からめ手のアパッチはどうした?」
 「向かっています。船団を射程に捕らえるまで三分というところです」
 これが、陶軍に向けて放つ二の矢だった。
 2キロほど距離を置いて続行する“あかぎ”から飛び立った2機のAH-64D攻撃ヘリが、変針する船団をチェーンガンとロケット弾で攻撃する手はずなのだ。
 つまり、どこに舵を切ろうが陶勢に逃げ場はないことになる。
 『こちらジガバチ。船団を射程に捕らえた。
 攻撃を開始する』
 コールサイン“ジガバチ”こと、攻撃ヘリ一番機の機長の声が無線から聞こえる。
 陸自攻撃ヘリ部隊でも猛者と名高い芦名一尉だった。
 「頼むぞジガバチ。戦力を温存したまま周防に逃げ帰られたら困るんだ」
 『了解だ』
 言わずもがなとは思いながらも、霧島は無線で激励する。
 晴賢は今回の戦いにあたり、長防はもちろん、北九州の勢力圏からも兵をかき集めている。総動員体勢だ。
 逆に言えば、ここで船団が殲滅されれば晴賢はもう兵力を調達する先がない。大内の毛利に対する優位は完全に消滅するはずだった。
 船団が変針する間にも、“ながと”の砲撃は容赦なく続く。
 すでに陶勢は二割の戦力を失い、さらに被害は増え続けていた。

 「御大将、じえいたいの鉄の鳥です!我らは待ち伏せされたのです!」
 「わかっている!
 ええい!鉄砲を撃ちかけよ!近づけさせるな!」
 陶晴賢は、なんとか空から攻撃をかけてくる敵を追い払おうと銃撃の指示を出す。
 “ながと”のCICではスクリーンに映るアイコンしてしか認識できない戦況だが、実際に攻撃を受けている陶勢は阿鼻叫喚だった。
 一里近くも遠くから、怖ろしく正確に砲撃を加えてくる戦船から逃れようと変針したが、その先には鉄の鳥が網を張っていた。
 砲撃を受けた船は船体に大穴が開き、乗員が離船する暇もなく沈んでいく。
 鉄の鳥の容赦のない攻撃は、船をたちまち粉々のおがくずに変えていく。
 「なんと…。
 じえいたいの力、ここまでとは…」
 晴賢は、自分の見通しの甘さを今さら自覚していた。
 出雲で自衛隊とともに戦って、その強さはわかっていたはずだ。
 それを、彼らは少数精鋭、数で押せば勝てると、なんの根拠もなく信じていたのだ。
 
 海の上では船が炎上しようが浸水が始まろうが逃げ場はない。
 そして、陶勢に“ながと”と攻撃ヘリに対抗する術はない。
 陶勢は今や射的の的も同然。殲滅されるのを座して待つだけだった。

 ところ変わってこちらは“ながと”の仕官居住区にある女子トイレ。
 オブザーバーとして乗り込んでいる毛利隆元は、手入れの行き届いたトイレで用を足していた。
 洋式便器は最初こそ勝手が違ってとまどったが、なれると実に快適だ。ついでに、水洗便所というのは体の力を抜いて用を足すことができる。
 実家にあるくみ取り式の便所とは大違いだ。
 「ああ…どうしよう…我慢できない…」
 黄色い飛沫を出し終えた隆元は、腸がぐるぐると動いて、汚いものが降りてくる感覚に戦慄する。
 便秘がちな隆元にしてみれば、快便なのは嬉しいことのはずだった。
 だが、隆元は便秘とは全く別の問題に直面していたのだ。
 「だめだめ…で…出る!」
 太く温かいものが尻の穴を通り抜けた瞬間、隆元は爆発的な快感と幸福感に襲われ、便座の上でぐっとのけぞって硬直する。
 それこそ、一瞬で絶頂に達してしまったのだ。
 (だめだめ…ウ○チでイっちゃう!続けて来ちゃう…)
 今の隆元には、便通が快調なのがむしろ恐怖だった。
 汚いものが尻の穴を押し広げて便器に落ちていく度に、何度も絶頂に押し上げられてしまうのだ。
 むりむりと塊を産み落とす度に、子宮が勝手にキュンと収縮し、全身に雷が落ちたような快感が拡がっていくのだ。
 「ああ…あああ…!」
 大きな声をあげそうになるのを、口を手で押さえてなんとかこらえる。
 その間にも排便は続き、隆元は絶頂を迎え続ける。
 誰も触れていない女の部分からは、ふしだらな汁がつーっと糸を引いて便器に滴って行く。
 (こんな…続けて来るなんて…しかもウ○チを漏らしながら…)
 「ああ…早くウ○チ終わって…。ああんっ…!」
 隆元にできたのは、少しでも早く排便と、この絶頂地獄とでもいうべき快感の波が終わることを祈ることだけだった。

 「はあ…はあ…はあ…」
 ようやく排便が終わった時には、完全に隆元は放心状態だった。屈辱的で恥ずかしい絶頂の連続の余韻で、体に力が入らないのだ。
 「これってやっぱり…不浄吸に襲われたのが原因だよね…」
 隆元は備中の毛利館の管理人である老婆の言葉を思い出していた。
 その土地に生息する不浄吸と言う妖怪は、便秘をした若い女を狙う。女の尻に触手を挿入し、特殊な分泌物を注入して、溜まった汚いものを吸い出すのだ。
 そして老婆に寄れば、分泌物は下剤と同時に媚薬のような効果を持つ。
 獲物に苦痛を与えず、むしろ快感をもたらすことで抵抗を封じ、ゆっくりと溜まった汚いものをすするためではないかと推測された。
 そしてその効果は、腸から吸収されてからしばらく持続するらしい。
 隆元はそれを身をもって感じていた。
 不浄吸に襲われて以来、排便をする度に体が勝手に高まって、何度も絶頂に達してしまうのだ。
 最初は困惑した。用を足すのが怖いとさえ思った。
 だが、隆元が排便して絶頂を迎える快感を受け入れるのに時間は掛からなかった。
 不浄吸いに襲われて以来、信じられないほど便通が快調なのだ。便秘をして苦しい状態のまま生活するよりは、排便で絶頂してしまう方がましだと思えるのだ。
 「ああ…体に力が入らない…」
 隆元は排便のあとの虚脱感と、絶頂の連続の余韻にうっとりとしてしまい、立ち上がることができなかった。
 『総員、第一警戒態勢!繰り返す。総員、第一警戒態勢!
 対空戦闘用意!』
 隆元の恍惚を断ち切ったのは、不意に全艦放送で流れたアナウンスだった。
 どうせ陶勢に“ながと”に対抗する力はないからと、第二警戒態勢のまま戦闘が続けられていた。クルーを意味もなく疲労させないという意味では合理的だった。
 だが、ここに来て突然第一警戒態勢が発令され、艦内がにわかに慌ただしくなりはじめたのだ。
 「こんなことしてる場合じゃない」
 隆元は排便の後始末をして、ブリッジに戻っていく。
 驚くほど軽くなったお腹と、まだじんじんとして熱を持ったままの尻の穴を意識しないようにするのが大変だった。

 「こいつらは一体なんだ?」
 「ちっ!阿多田島の影でレーダーが見逃していたようです!」
 CICは騒然となっていた。
 前方にある阿多田島の影から、突然無数の飛行物体が現れたのを対空レーダーが捉えたのだ。
 「ジガバチ聞こえるか?
 そちらから目視で確認できないか?」
 『見えている。どうやら“邪気”のようだ。
 陶の御座船から、鳥だかグライダーだかわからないものが飛び立っているんだ。
 待ってくれ…そちらに向かうぞ!』
 AH-64Dからの通信で霧島は悟る。月山富田城の戦いに続いて、自分たちはまたもや人ならざるものと化した者と戦わなければならないのだと。
 「レーダー員、所属不明機の数は?」
 「120、いえ、もっといます。さらに増え続けています」
 霧島は戦慄した。
 イージスシステムの同時追尾可能目標は12。全く足りない。
 「ESSM攻撃準備!諸元入力」
 「しかし副長、撃墜するんですか?」
 松島が口を挟む。こちらに接近しているとは言え、攻撃の意思があるかどうか、またどのような攻撃を仕掛けてくるかもわからないのだ。
 「敵の出方を見ている余裕はない!
 120以上いるんだ。接近を許してから対処しても遅いんだぞ!」
 「了解です」
 そう言われては松島に言葉はなかった。
 もしレーダーに映る120以上の反応が全て敵で、この“ながと”を脅かす攻撃手段を持っているとしたら。機先を制さなければ極めて危険なことになる。

 “ながと”のクルーたちに緊張が走る。
 航空機の猛攻を浴びて海の藻屑と消えた、プリンスオブウェールズや大和のことを想起せずにはいられなかったのだ。
 “ながと”の防空システムは強力無比だが、120機以上の敵が相手では?
 クルーたちの誰もが、そこに関しては絶対の自信を持てなかった。
 
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