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第四章 いくつもの謎
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「あ……これって……」
誠は通話記録の一つを見て、危うく吹き出しそうになる。
「どうした? なにか気づいたのか?」
「事件とは関係なさそうですけどね……。みんなには内緒、俺たちだけの秘密ですよ……? この番号……」
誠がゲスな笑みを浮かべて、スマホを操作する。
「ああ、なるほどね……」
「まあ……問題はないだろう……。違法なところではないし……彼は独身なんだから」
速水は苦笑い、沖田は呆れ顔になる。
これは、さすがに意外だった。かの人物に、こういう趣味があるとは。
「他にはと……」
誠は気を取り直して、捜査記録を調べることを再開する。
「あれ……? これはなんでしょう?」
「ああこれか? 受信機だよ。盗聴器を見つけてクリーニングするために使う。ラバンスキーと山瀬が一つずつ持っていた」
誠が指さした、不格好なトランシーバーの出来損ないのような物。ラバンスキーと山瀬の荷物から見つかったらしい。それを速水が解説する。
「盗聴器か……」
「それが妙なんだ。二人は実際にクリーニングをして、盗聴器を発見したらしい。二人の鞄の中から見つかった」
沖田がタブレット端末を操作する。
押収物の写真の一つだ。豆粒かボタンかのようなプラスチックの物体。細かい穴が無数に開いているのは、恐らくマイクだろう。
(盗聴器か……。仕掛ける理由のある人物なら……一人いるんだが……。こんな下手くそなやり方するかな……?)
誠の中で、糸がどうにもつながりそうでつながらない。
盗聴器はあったのは事実。だが、六年前の戦争を戦い抜いたプロには通用しなかった。しかも、仕掛けた人物は彼らの手の内を知り尽くしているはずだ。
(その上で……あえて仕掛けた……? なんのために……?)
もう一つの可能性に思い当たる。
最初から見つけられる前提で仕掛けた。それは考えられないだろうか。
「沖田警視、速水警部、盗聴器はあなた方の部屋にもあったんですか?」
気になって聞いてみる。自分の推測通りだとすると、盗聴器の犯人は客全員の部屋に仕掛けている可能性が高い。
「よくわかったな。実は、ここに来た初日に我々もクリーニングをした。その結果みつけたよ。二つほどね」
沖田が答えてくれる。
「他の人の部屋には?」
「あいにく見つからなかった」
速水の答えに、誠は新たな疑問を抱く。
(なぜ……四人の部屋だけに……? 俺たちと綾音さんの部屋にはなぜなかった……?)
六年前の戦犯である二人と、それを捜査しに来た警察官二人。彼らだけを監視していたという可能性はあるが……。
「もうひとつ。その盗聴器、電池で動作するタイプでしたか? それとも他の電源から盗電するやつですか?」
「全部同じだったよ。リチウム電池を使うタイプだ。外部電源なしで二週間は持つ」
沖田の答えに、誠の中で少しだけ推理が前に進む。
電池で動作するタイプと、外部電源が必要なタイプ。どちらも一長一短だ。
前者は隠しやすく場所を選ばない。回収するときも、テープをはがす程度ですんでしまう。一方、電池切れの問題がつきまとう。
後者は電源こそ無限だが、仕掛けられる場所がコンセントや家電などに限られて見つかりやすい。また、回収が面倒だというデメリットもある。
(犯人は、既に他の盗聴器を回収してしまっていたとしたらどうだ? なぜ回収したか? もう必要ないから……? だとしたら……なおさら盗聴器をしかけた目的が問題だ……)
依然として事件は深い霧に包まれている。だが、風が出てきている。少年は感じる。霧は、確実に晴れる方向に向かっている。
「沖田さん、速水さん、ありがとうございました。もう一度おかしいところがないかどうか、現場を調べて来ます」
「私も行く」
「じゃあ僕も」
メインロッジを後にする誠に、七美と篤志も続く。
「付き合いますか?」
「そうだな」
速水と沖田も、同行することに決めたらしい。
誠は通話記録の一つを見て、危うく吹き出しそうになる。
「どうした? なにか気づいたのか?」
「事件とは関係なさそうですけどね……。みんなには内緒、俺たちだけの秘密ですよ……? この番号……」
誠がゲスな笑みを浮かべて、スマホを操作する。
「ああ、なるほどね……」
「まあ……問題はないだろう……。違法なところではないし……彼は独身なんだから」
速水は苦笑い、沖田は呆れ顔になる。
これは、さすがに意外だった。かの人物に、こういう趣味があるとは。
「他にはと……」
誠は気を取り直して、捜査記録を調べることを再開する。
「あれ……? これはなんでしょう?」
「ああこれか? 受信機だよ。盗聴器を見つけてクリーニングするために使う。ラバンスキーと山瀬が一つずつ持っていた」
誠が指さした、不格好なトランシーバーの出来損ないのような物。ラバンスキーと山瀬の荷物から見つかったらしい。それを速水が解説する。
「盗聴器か……」
「それが妙なんだ。二人は実際にクリーニングをして、盗聴器を発見したらしい。二人の鞄の中から見つかった」
沖田がタブレット端末を操作する。
押収物の写真の一つだ。豆粒かボタンかのようなプラスチックの物体。細かい穴が無数に開いているのは、恐らくマイクだろう。
(盗聴器か……。仕掛ける理由のある人物なら……一人いるんだが……。こんな下手くそなやり方するかな……?)
誠の中で、糸がどうにもつながりそうでつながらない。
盗聴器はあったのは事実。だが、六年前の戦争を戦い抜いたプロには通用しなかった。しかも、仕掛けた人物は彼らの手の内を知り尽くしているはずだ。
(その上で……あえて仕掛けた……? なんのために……?)
もう一つの可能性に思い当たる。
最初から見つけられる前提で仕掛けた。それは考えられないだろうか。
「沖田警視、速水警部、盗聴器はあなた方の部屋にもあったんですか?」
気になって聞いてみる。自分の推測通りだとすると、盗聴器の犯人は客全員の部屋に仕掛けている可能性が高い。
「よくわかったな。実は、ここに来た初日に我々もクリーニングをした。その結果みつけたよ。二つほどね」
沖田が答えてくれる。
「他の人の部屋には?」
「あいにく見つからなかった」
速水の答えに、誠は新たな疑問を抱く。
(なぜ……四人の部屋だけに……? 俺たちと綾音さんの部屋にはなぜなかった……?)
六年前の戦犯である二人と、それを捜査しに来た警察官二人。彼らだけを監視していたという可能性はあるが……。
「もうひとつ。その盗聴器、電池で動作するタイプでしたか? それとも他の電源から盗電するやつですか?」
「全部同じだったよ。リチウム電池を使うタイプだ。外部電源なしで二週間は持つ」
沖田の答えに、誠の中で少しだけ推理が前に進む。
電池で動作するタイプと、外部電源が必要なタイプ。どちらも一長一短だ。
前者は隠しやすく場所を選ばない。回収するときも、テープをはがす程度ですんでしまう。一方、電池切れの問題がつきまとう。
後者は電源こそ無限だが、仕掛けられる場所がコンセントや家電などに限られて見つかりやすい。また、回収が面倒だというデメリットもある。
(犯人は、既に他の盗聴器を回収してしまっていたとしたらどうだ? なぜ回収したか? もう必要ないから……? だとしたら……なおさら盗聴器をしかけた目的が問題だ……)
依然として事件は深い霧に包まれている。だが、風が出てきている。少年は感じる。霧は、確実に晴れる方向に向かっている。
「沖田さん、速水さん、ありがとうございました。もう一度おかしいところがないかどうか、現場を調べて来ます」
「私も行く」
「じゃあ僕も」
メインロッジを後にする誠に、七美と篤志も続く。
「付き合いますか?」
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