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第三章 6年前の戦争
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全員がメインロッジに集められている。警察による捜索の邪魔にならないように。任意の事情聴取ということで、一人一人速水と沖田の質問に答えている。
「七美、ちょっと頼まれてくれるか?」
聴取を終えてロビーに戻った誠は、七美に声をかける。彼女は、同じく先に聴取を受けて既に解放されていた。
「どしたの? 私でできることならいいけど」
幼なじみは乗り気のようだ。ミステリー研究会の意地が騒ぐというところか。
「えーとあれだ……。ストリップがどうたらをやってみてくれないか?」
ボゴッ、鈍い音がして、顔に衝撃が走る。七美の鉄拳が直撃したのだと悟る。
「こんのスケベ……。スケベだとは思ってたけど……ここまでスケベだとは思わなかった!」
七美の美貌に鬼の形相が浮かぶ。
「いでで……。スケベスケベ言わないでよ……悪い悪い。そうじゃないって、誤解するな。ほら……銃を分解するあれ……なんだっけ……?」
「フィールドストリッピング?」
「そう、それをお願いしたいのよ。こいつで」
そう言って、誠はシャツの下から拳銃を取り出す。SIGP226。エアガンのようだ。
「ちょっと……これ……。どこから持って来たわけ……?」
周りを軽快しながら、小声で話しかけてくる。顔が微妙に誓い。
「オーナーのコレクションを一丁拝借したんだよ。こっそりね」
「こっそりって……」
七美があきれ顔になる。今のところ倉木は、ラバンスキーと山瀬殺しの最重要参考人ということになる。彼のロッジはまだ捜索が続いているはずだ。
夕べ二人に突きつけた拳銃がエアガンだと真に受けるほど、警察もお人好しではない。あろうことか、鑑識と立ち番の警察官の目を盗んでエアガンを持ち出してきたらしい。
「ま、いいからいいから。とにかくフィールドストリッピングをやってみせてくれ」
「はあ……。知らないよ、後で怒られても」
嘆息しながらも、幼なじみはエアガンを手に取る。マガジンを抜いたと思うと、猛烈な速さで分解していく。映画で学習でもしたのか、手慣れている。たちまちスライドが外され、銃身とリコイルスプリングが取り出される。
(なるほど……俺のカンが正しければ……。犯人はここまでは偽装できていないはず)
ラバンスキーたちは殺された。その決定的な証拠が見つかるかも知れない。誠の頭が閃いた瞬間だった。倉木と速水が全員の聴取を終えるのを待って、声をかける。無理を言って人払いしてもらい、メインロッジの裏に三人で移動する。
「あの二人の荷物にあった銃の写真が見たい?」
速水がまた嫌そうな顔になる。素人が捜査に口を挟んでくるのは、彼には耐えがたいらしい。
「俺とラリサで、夕べ見たのと同じ銃か確認したいんだ」
「なるほど……。確かにそれは必要だな」
沖田は誠の案に食いつく。誠とラリサによれば、二人の死体が握りしめていた銃は夕べのものとは違った。万一他にも銃があってそれが見つからない、という事態は警察として避けたい。
「彼らの銃はこれだ。ラバンスキーは枕の下。山瀬はホルスターで身につけていた」
渋々だが、速水は銃の写真を見せてくれる。
「間違いありません。夕べ見た銃と同じです」
確認のために呼ばれたラリサが断じる。
「やっぱりだ……。山瀬さんの銃は左利きに無調整で対応するやつじゃないか」
写真を見て、誠は二人が第三者に殺された確信を強める。山瀬が持っていた銃は、HKUSP。押すのではなく下げることでマガジンをリリースする構造だ。どちらの手でも操作できる。
「いよいよ、無調整のグロックを持っていたのはおかしいことになるか……」
堅物の速水も、そこには同意せざるを得ない。そもそも、戦友同士だった二人が急に殺し合う理由がない。そこは彼も最初からおかしいと思っていた。
「それと、これは応えられる範囲でいいんですが……」
少年は言葉を選びつつ切り出す。
「あなた方が捜査してるのって、もしかしてこの動画の件じゃありませんか?」
そう言ってスマホを見せる。非戦闘員である慰問団ごと、モスカレル軍が爆撃されるむごたらしい映像を。
「ふむ、なぜそう思うんだね?」
沖田が問い返す。無下にする気はないが、根拠は示して欲しい。そういうことだ。
「この動画を、音声だけ何度も聞いたんです。みんな英語で話してるけど、一人だけ妙に訛りの強い人がいた。ええと……。この中で『シャドウ2』と呼ばれてる人です」
動画を巻き戻し、再生する。
「発音が妙に日本語っぽい。もしかしてこの人日本人、それも、オーナーじゃないかってね」
速水と沖田が、図星を突かれた顔になる。日本語は、世界の言語の中でも特殊な部類に入る。外語を話していても、訛りが出やすいのだ。
「もし、この非戦闘員を巻き込んだ攻撃を実行したのが当時ラバンスキーさんに率いられていた部隊で、国際司法裁判所が六年前の戦争犯罪を裁判するために動いているんだとしたら……」
スマホでネットの画面を呼び出し、ひとつの記事を刑事二人に見せる。そこには、キーロア共和国軍人の内部告発によって今まで隠されていた事実が明るみに出たこと。国際司法裁判所が、戦争犯罪として各国に捜査を要請していることが書かれていた。
「考えていたんです。なぜ、ラバンスキーさんたちが死んだこの場所にあなた方が居合わせたのか」
誠の長広舌は続く。
「まさか殺人が起こることを事前に知っていてここに来たわけじゃない。あなたたちが捜査する対象は、夕べロッジに集まっていた五人。つまり、ラバンスキーさん、山瀬さん、ブラウバウムさん、相馬さん、そしてオーナーだったんでしょう?」
確信を持って問う。
(そうでないと速水警部はともかく、沖田警視がかかわっている説明がつかない)
警察庁の外事は、国際テロやスパイを取り締まる機関だ。
建前として、戦争犯罪は外国で外国人が犯したことでも罪に問うことはできる。日本の警察が捜査することも。だが、事態が事態、相手が相手だけに、県警だけでは荷が重かった。だから、霞ヶ関からわざわざ国際犯罪のプロを呼ぶ必要もあった。そういうことだろう。
全員がメインロッジに集められている。警察による捜索の邪魔にならないように。任意の事情聴取ということで、一人一人速水と沖田の質問に答えている。
「七美、ちょっと頼まれてくれるか?」
聴取を終えてロビーに戻った誠は、七美に声をかける。彼女は、同じく先に聴取を受けて既に解放されていた。
「どしたの? 私でできることならいいけど」
幼なじみは乗り気のようだ。ミステリー研究会の意地が騒ぐというところか。
「えーとあれだ……。ストリップがどうたらをやってみてくれないか?」
ボゴッ、鈍い音がして、顔に衝撃が走る。七美の鉄拳が直撃したのだと悟る。
「こんのスケベ……。スケベだとは思ってたけど……ここまでスケベだとは思わなかった!」
七美の美貌に鬼の形相が浮かぶ。
「いでで……。スケベスケベ言わないでよ……悪い悪い。そうじゃないって、誤解するな。ほら……銃を分解するあれ……なんだっけ……?」
「フィールドストリッピング?」
「そう、それをお願いしたいのよ。こいつで」
そう言って、誠はシャツの下から拳銃を取り出す。SIGP226。エアガンのようだ。
「ちょっと……これ……。どこから持って来たわけ……?」
周りを軽快しながら、小声で話しかけてくる。顔が微妙に誓い。
「オーナーのコレクションを一丁拝借したんだよ。こっそりね」
「こっそりって……」
七美があきれ顔になる。今のところ倉木は、ラバンスキーと山瀬殺しの最重要参考人ということになる。彼のロッジはまだ捜索が続いているはずだ。
夕べ二人に突きつけた拳銃がエアガンだと真に受けるほど、警察もお人好しではない。あろうことか、鑑識と立ち番の警察官の目を盗んでエアガンを持ち出してきたらしい。
「ま、いいからいいから。とにかくフィールドストリッピングをやってみせてくれ」
「はあ……。知らないよ、後で怒られても」
嘆息しながらも、幼なじみはエアガンを手に取る。マガジンを抜いたと思うと、猛烈な速さで分解していく。映画で学習でもしたのか、手慣れている。たちまちスライドが外され、銃身とリコイルスプリングが取り出される。
(なるほど……俺のカンが正しければ……。犯人はここまでは偽装できていないはず)
ラバンスキーたちは殺された。その決定的な証拠が見つかるかも知れない。誠の頭が閃いた瞬間だった。倉木と速水が全員の聴取を終えるのを待って、声をかける。無理を言って人払いしてもらい、メインロッジの裏に三人で移動する。
「あの二人の荷物にあった銃の写真が見たい?」
速水がまた嫌そうな顔になる。素人が捜査に口を挟んでくるのは、彼には耐えがたいらしい。
「俺とラリサで、夕べ見たのと同じ銃か確認したいんだ」
「なるほど……。確かにそれは必要だな」
沖田は誠の案に食いつく。誠とラリサによれば、二人の死体が握りしめていた銃は夕べのものとは違った。万一他にも銃があってそれが見つからない、という事態は警察として避けたい。
「彼らの銃はこれだ。ラバンスキーは枕の下。山瀬はホルスターで身につけていた」
渋々だが、速水は銃の写真を見せてくれる。
「間違いありません。夕べ見た銃と同じです」
確認のために呼ばれたラリサが断じる。
「やっぱりだ……。山瀬さんの銃は左利きに無調整で対応するやつじゃないか」
写真を見て、誠は二人が第三者に殺された確信を強める。山瀬が持っていた銃は、HKUSP。押すのではなく下げることでマガジンをリリースする構造だ。どちらの手でも操作できる。
「いよいよ、無調整のグロックを持っていたのはおかしいことになるか……」
堅物の速水も、そこには同意せざるを得ない。そもそも、戦友同士だった二人が急に殺し合う理由がない。そこは彼も最初からおかしいと思っていた。
「それと、これは応えられる範囲でいいんですが……」
少年は言葉を選びつつ切り出す。
「あなた方が捜査してるのって、もしかしてこの動画の件じゃありませんか?」
そう言ってスマホを見せる。非戦闘員である慰問団ごと、モスカレル軍が爆撃されるむごたらしい映像を。
「ふむ、なぜそう思うんだね?」
沖田が問い返す。無下にする気はないが、根拠は示して欲しい。そういうことだ。
「この動画を、音声だけ何度も聞いたんです。みんな英語で話してるけど、一人だけ妙に訛りの強い人がいた。ええと……。この中で『シャドウ2』と呼ばれてる人です」
動画を巻き戻し、再生する。
「発音が妙に日本語っぽい。もしかしてこの人日本人、それも、オーナーじゃないかってね」
速水と沖田が、図星を突かれた顔になる。日本語は、世界の言語の中でも特殊な部類に入る。外語を話していても、訛りが出やすいのだ。
「もし、この非戦闘員を巻き込んだ攻撃を実行したのが当時ラバンスキーさんに率いられていた部隊で、国際司法裁判所が六年前の戦争犯罪を裁判するために動いているんだとしたら……」
スマホでネットの画面を呼び出し、ひとつの記事を刑事二人に見せる。そこには、キーロア共和国軍人の内部告発によって今まで隠されていた事実が明るみに出たこと。国際司法裁判所が、戦争犯罪として各国に捜査を要請していることが書かれていた。
「考えていたんです。なぜ、ラバンスキーさんたちが死んだこの場所にあなた方が居合わせたのか」
誠の長広舌は続く。
「まさか殺人が起こることを事前に知っていてここに来たわけじゃない。あなたたちが捜査する対象は、夕べロッジに集まっていた五人。つまり、ラバンスキーさん、山瀬さん、ブラウバウムさん、相馬さん、そしてオーナーだったんでしょう?」
確信を持って問う。
(そうでないと速水警部はともかく、沖田警視がかかわっている説明がつかない)
警察庁の外事は、国際テロやスパイを取り締まる機関だ。
建前として、戦争犯罪は外国で外国人が犯したことでも罪に問うことはできる。日本の警察が捜査することも。だが、事態が事態、相手が相手だけに、県警だけでは荷が重かった。だから、霞ヶ関からわざわざ国際犯罪のプロを呼ぶ必要もあった。そういうことだろう。
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