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第四章 クールなノンケ豪商もホモの悦びに目覚めて

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 時間は、エドワード・バーミンガムが初めて男妾館を利用した日に戻る。
 彼の第一印象は、清潔感のあるイケメン。そして上品な紳士。
 そんなところだった。すらりとした体格で脚が長い。面持ちはクールだが、客商売をしているだけに決して無愛想ではない。派手さこそないが、シンプルな美しさのある服もよく似合っていた。
 仕事や家庭の噂も聞いている。王国では5指に入る大商人で、毎月莫大な利益を上げている。主な商品は繊維や金属だが、商売のチャンネルは多い。あちらの世界でいえばコングロマリット企業というところか。
 プライベートでは山の手に豪邸を構え、美しく若い奥様もいる。最近ひとり目の子どもが生まれ、幸せいっぱいだと聞いている。
 あまり男妾街に似つかわしい人物像ではない。
「その……。わたしは慣れていないのでよろしく頼む……」
 ペントハウスに入ると、少し緊張した様子で言った。
(これは……。ホモは初めてとみた。がっつかずゆっくり行かないと……)
 ホモ暦が長いだけに、里実の嗅覚は鋭敏にできている。熟練した男色家とノンケを区別できることはもちろん。男同士の経験がどの程度あるかも、言葉や仕草からだいたいわかる。目の前のイケメンは、処女とみてよさそうだった。
「まあ、おかけください。何か飲みますか?いいウイスキーあるんですよ」
「いや……。生憎下戸でね……。お茶か果実水をもらえるかい?」
 里実は少しがっかりした。今までの客は例外なく酒好きで、ワインやウイスキー、日本酒(里実がこちらで再現した)を飲むことで打ち解けてきた。だが、彼には上等の酒というサービスは意味を成さない。
 だが、ここは客であるエドワードの望通りにすべき。それは理解できた。
「承知しました。喜んで」
 台所で茶を煎れる。落ち着くように薄くしておく。
「少し立ち入ったお話しをしても?だめならそこまででいいので」
 茶を楽しみ、軽く琴を演奏しながら切り出す。
「ああ。かまわない。なんだい?」
「まあその……ここに来る人は訳ありさんも多いんですが……。エドワード様も仕事か家庭でなにかあったご様子に見えて……」
「ほう……。鋭いな……」
 エドワードが驚いた様子になる。どうやら、仕事か家庭でなにかあったのは図星だったようだ。来た時からずっと物憂げな様子だった。気になっていたのだ。
(せっかくだ。少しでも彼の力になろう)
 里実は決意する。男妾など褒められた仕事ではない。だが、せめて客の助けや癒やしになればといつも思っている。
「もし、僕でよければ話してみませんか?仕事のグチでも誰かの悪口でも、言ってしまえばすっきりすることもありますから」
 いつも練習している極上の笑顔で持ちかける。人の心に土足で入らず(こちらでは下足の文化はないが)、かといって無関心にならず気さくに。それも高級男妾に必要なさじ加減と心得ている。
「そう……だな……。聞いてもらえるか?」
「もちろんです」
 笑顔で応答した里実に、イケメンの豪商はポツリポツリと語り始める。
「子どもが一番優先なのは百も承知だ。でも……妊娠する以前はあんなに愛し合っていたのにと思うと……。どうにもやるせなくてな……」
 おかわりしたお茶を口に含みながら、エドワードが寂しそうになる。
 彼と嫁は、貴族と豪商という立場のある家には珍しい恋愛結婚だった。特に嫁の方には親同士が決めた婚約者がいたが、ふたりで両親を説得した。向かい風も吹いたが、最終的には皆に祝福されて夫婦となった。貴族の称号欲しさの結婚という陰口も叩かれたが、愛し合うふたりにはどこ吹く風だった。
「子どもが生まれると、女は構造そのものが変わるって話もありますしね……」
 里実は冷静に聞き手に徹しつつも、穏やかに反応する。ただ黙って聞いているだけでは、相談に乗っていることにならない。
「本当にそう思うよ……。同じなのは見た目だけ、中身は入れ替わってしまったんじゃないか……。そんな気までしてな……」
 夫への愛情深くいつも甘々だった嫁は、子どもが生まれたのを境に女から母になった。
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