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幸せはまだこれから
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02
その日は、女王イレーヌの誕生日であった。
王都の住民たちはお祭り好きであるため、王都のあちこちで出店が開かれ、宴会が行われている。
といっても、公式な行事はない。
誕生会は、身内や友人を集めて行われる。
まあ、一国の君主の誕生会。
それなりに豪奢なものにはなるのだが。
「あら、ごきげんよう国父殿下。本日はお招き頂きありがとうございます」
「ああ、ご無沙汰しているね、男爵夫人。
君はわが妻の古くからの友人だ。
彼女も君に会いたがっていてね」
リュックがイレーヌの旧友であるエリザと言葉を交わす。
エリザが地方の貴族に嫁いで以来会うことが少なくなっていたが、手紙のやりとりは続いていたのだ。
ちなみに、イレーヌとつきあい始める前、リュックの花嫁候補でもあった。まあ、本人たちは互いに他に好きな人がいたのだが。
「司法卿閣下、ご無沙汰しております。
お元気そうでなによりです」
「ああ、ジュリアン。久しぶりだね。
君は相変わらずたくましそうだ」
ヴァンサンに声をかけた長身で体格のいい女は、警察局幹部のジュリアンだ。
ヴァンサンの部下であるとともに、イレーヌが即位前から制定に関わってきた法律の執行の指揮を執ってきた。
いまやイレーヌの覚えもめでたく、女性初の警察局長候補とまで言われる。
「その…アレクサンダー卿。
またお会いできて光栄です」
「ジェイド、久しぶりだ。きれいになったね」
アレクサンダーと、伯爵夫人のジェイドはやや気まずげに言葉を交わす。
ジェイドはもともとアレクサンダーに思いを寄せていた。
アレクサンダーがイレーヌと結婚すると聞いて、いてもたってもいられず思いを伝えた。
そして、彼女の思いは報われることはなかった。
だが、今では悲恋も大切な思い出だったと言っている。
財務卿補佐時代のイレーヌの秘書官として働き、イレーヌを尊敬し好きになっていた。
イレーヌとアレクサンダーが幸せになれるなら満足だったのだ。
「労働大臣閣下、お久しぶりです。
商売仲間であったころが懐かしく思えます」
「やあ、君は商売が繁盛しすぎている顔をしているね」
フリードリヒは、かつて商業貴族だったころの商売仲間、宝石商のザックと談笑していた。
ザックの宝石調達に関する情報網はすごいものがあった。
イレーヌとの結婚式に必要だったものや、誕生日や出産記念に贈る宝石などは、全てザックが調達していたほどだ。
多少強引にだが、誕生会に参加している。
おそらく、他の参加者であるご婦人への営業が目的だろうが。
「エクレール議長、本日はお招きに預かり光栄ですわ。
「もう、アリシア、ここで議長はやめて下さいよ。
私とイレーヌ様の共通の友人としてご招待したんだもの」
エクレールは、株仲間の組合長のひとりであるアリシアと苦笑しつつ話していた。
アリシアは穀物商人の娘で、イレーヌが株仲間奨励政策を開始したときいち早く時流に乗り、穀物座の結成に尽力した。
株仲間の組合会議では、非公式だがエクレールに次いでナンバー2とみなされている。
穀物座結成の功績を認められて叙爵され、貴族の仲間入りを果たしている。
エクレール、イレーヌとも良き友人だ。
「ところで、本日の主役のイレーヌ陛下はどちらに?」
「ああ…あちらです」
エクレールが苦笑しながら、ホールの中央を指さす。
「母様-」
「かあさま遊んでー」
「お誕生日おめでとう」
「この絵、僕たちで描いたんだ」
イレーヌの周りには、子供たちが群がっていた。
なんとその数は、メイドに抱かれている赤ん坊も入れると16名。
リュックの子であるカレンとガブリエル。
アレクサンダーの子であるハーフエルフのロビン、ジョナサン、ジャック。
ヴァンサンの子であるヨゼフ、マリー、サラ、サマンサ。
フリードリヒの子であるカールとライナ、エレナ。
エクレールが産んだ子で、イレーヌの猶子でもあるタウンゼントとニコラス、そして、イレーヌとエクレールの子であるアナスタシアとディオナ。
みんな、なんだかんだで母性に溢れる母、イレーヌが大好きなのだ。
「みんな、嬉しいけどひとりずつ、ひとりずつね?」
イレーヌはそう言うが、誕生会の雰囲気で興奮している子供たちは全く大人しくならない。
「ほらほら、騒いではだめよ。お母様が困っているでしょう」
「ほら、順番、順番だってば」
年長者のカレンとヨゼフが必死でちびたちを押しとどめようとするが、子供のパワーには押され気味だった。
「きゃっ!ちょっと、今お尻触ったの誰!」
イレーヌ本人も、子供たちに悪気はないのがわかっているから強く言うことができない。
「お母様は大人気だな」
「いいお母さんだものね」
「お母さんが好きすぎて、他の女に興味が持てなくなったりして」
「愛に溢れてるって感じだね」
「うーん。なんか複雑。実母の私よりイレーヌ様の方が好きみたいで…」
イレーヌの配偶者たちが、生暖かい視線を向けながら勝手なことを口々に言う。
「あの、生暖かい目で見てないで何とかしてくれないかしら…?」
イレーヌは困り顔で懇願する。まあ、本当に嫌がっているわけではないのだが。
そこに、かつて悪役令嬢であった彼女の面影はなかった。
イレーヌの周りには、いつも笑顔が溢れていたのだった。
イレーヌとその家族たちの物語は、まだまだ続くのだった。
了
その日は、女王イレーヌの誕生日であった。
王都の住民たちはお祭り好きであるため、王都のあちこちで出店が開かれ、宴会が行われている。
といっても、公式な行事はない。
誕生会は、身内や友人を集めて行われる。
まあ、一国の君主の誕生会。
それなりに豪奢なものにはなるのだが。
「あら、ごきげんよう国父殿下。本日はお招き頂きありがとうございます」
「ああ、ご無沙汰しているね、男爵夫人。
君はわが妻の古くからの友人だ。
彼女も君に会いたがっていてね」
リュックがイレーヌの旧友であるエリザと言葉を交わす。
エリザが地方の貴族に嫁いで以来会うことが少なくなっていたが、手紙のやりとりは続いていたのだ。
ちなみに、イレーヌとつきあい始める前、リュックの花嫁候補でもあった。まあ、本人たちは互いに他に好きな人がいたのだが。
「司法卿閣下、ご無沙汰しております。
お元気そうでなによりです」
「ああ、ジュリアン。久しぶりだね。
君は相変わらずたくましそうだ」
ヴァンサンに声をかけた長身で体格のいい女は、警察局幹部のジュリアンだ。
ヴァンサンの部下であるとともに、イレーヌが即位前から制定に関わってきた法律の執行の指揮を執ってきた。
いまやイレーヌの覚えもめでたく、女性初の警察局長候補とまで言われる。
「その…アレクサンダー卿。
またお会いできて光栄です」
「ジェイド、久しぶりだ。きれいになったね」
アレクサンダーと、伯爵夫人のジェイドはやや気まずげに言葉を交わす。
ジェイドはもともとアレクサンダーに思いを寄せていた。
アレクサンダーがイレーヌと結婚すると聞いて、いてもたってもいられず思いを伝えた。
そして、彼女の思いは報われることはなかった。
だが、今では悲恋も大切な思い出だったと言っている。
財務卿補佐時代のイレーヌの秘書官として働き、イレーヌを尊敬し好きになっていた。
イレーヌとアレクサンダーが幸せになれるなら満足だったのだ。
「労働大臣閣下、お久しぶりです。
商売仲間であったころが懐かしく思えます」
「やあ、君は商売が繁盛しすぎている顔をしているね」
フリードリヒは、かつて商業貴族だったころの商売仲間、宝石商のザックと談笑していた。
ザックの宝石調達に関する情報網はすごいものがあった。
イレーヌとの結婚式に必要だったものや、誕生日や出産記念に贈る宝石などは、全てザックが調達していたほどだ。
多少強引にだが、誕生会に参加している。
おそらく、他の参加者であるご婦人への営業が目的だろうが。
「エクレール議長、本日はお招きに預かり光栄ですわ。
「もう、アリシア、ここで議長はやめて下さいよ。
私とイレーヌ様の共通の友人としてご招待したんだもの」
エクレールは、株仲間の組合長のひとりであるアリシアと苦笑しつつ話していた。
アリシアは穀物商人の娘で、イレーヌが株仲間奨励政策を開始したときいち早く時流に乗り、穀物座の結成に尽力した。
株仲間の組合会議では、非公式だがエクレールに次いでナンバー2とみなされている。
穀物座結成の功績を認められて叙爵され、貴族の仲間入りを果たしている。
エクレール、イレーヌとも良き友人だ。
「ところで、本日の主役のイレーヌ陛下はどちらに?」
「ああ…あちらです」
エクレールが苦笑しながら、ホールの中央を指さす。
「母様-」
「かあさま遊んでー」
「お誕生日おめでとう」
「この絵、僕たちで描いたんだ」
イレーヌの周りには、子供たちが群がっていた。
なんとその数は、メイドに抱かれている赤ん坊も入れると16名。
リュックの子であるカレンとガブリエル。
アレクサンダーの子であるハーフエルフのロビン、ジョナサン、ジャック。
ヴァンサンの子であるヨゼフ、マリー、サラ、サマンサ。
フリードリヒの子であるカールとライナ、エレナ。
エクレールが産んだ子で、イレーヌの猶子でもあるタウンゼントとニコラス、そして、イレーヌとエクレールの子であるアナスタシアとディオナ。
みんな、なんだかんだで母性に溢れる母、イレーヌが大好きなのだ。
「みんな、嬉しいけどひとりずつ、ひとりずつね?」
イレーヌはそう言うが、誕生会の雰囲気で興奮している子供たちは全く大人しくならない。
「ほらほら、騒いではだめよ。お母様が困っているでしょう」
「ほら、順番、順番だってば」
年長者のカレンとヨゼフが必死でちびたちを押しとどめようとするが、子供のパワーには押され気味だった。
「きゃっ!ちょっと、今お尻触ったの誰!」
イレーヌ本人も、子供たちに悪気はないのがわかっているから強く言うことができない。
「お母様は大人気だな」
「いいお母さんだものね」
「お母さんが好きすぎて、他の女に興味が持てなくなったりして」
「愛に溢れてるって感じだね」
「うーん。なんか複雑。実母の私よりイレーヌ様の方が好きみたいで…」
イレーヌの配偶者たちが、生暖かい視線を向けながら勝手なことを口々に言う。
「あの、生暖かい目で見てないで何とかしてくれないかしら…?」
イレーヌは困り顔で懇願する。まあ、本当に嫌がっているわけではないのだが。
そこに、かつて悪役令嬢であった彼女の面影はなかった。
イレーヌの周りには、いつも笑顔が溢れていたのだった。
イレーヌとその家族たちの物語は、まだまだ続くのだった。
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